142.反乱3
スターキッドは天王星星域より〖うずしお〗に入りアステロイド星域手前へと抜け出していた。
地球防衛基地まであと20時間という所でフレア族妖精ロースさんとその精霊獣フレアホースがシューウォッシュ・ナビでスターキッド倉庫へ跳んで来ている。
事の経緯を聞こうとした時に地球防衛基地司令官を騙るラースという人物からの通信が届いた。
〈アイリーン、スピーカーに出力しましょうか〉
スターキッドAIが訊ねてくる。
「そうね何で司令官を名乗ってるのか、オビス司令官はどうしたのか皆で聞きたいからスピーカーに出力お願いするね、応答はインカムでうちがするわ」
アイリーンが昴くんとレヴィさんそれと今4年先の未来から? やって来た妖精のロースさんと精霊獣フレアホースに目配せした。
「その通信に出てはいけない。話をすると事態が進展するから、じっとして時間が過ぎるのを待って」
ロースさんが必死の形相で止めに入る。
「どうしてなのよ、もしかして今あなた達がここに居るのと関係あるの」
アイリーンが尋ねた。
「罠だから、それを教えるためにアイリーンたちを目の前に迫った死から救うため禁忌を犯してやって来た」
ロースさんが答える。
「何よそれ、うち達がすぐに死ぬ様なことを言うのね」
「愛鈴、ロースさんは僕たちの危機を救いに来たんだと思うよ、だから今は話をするよりそのまま従ったほうがいいよ」
昴くんがインカムへ伸ばしたアイリーンの手を取りながら言う。
〈僕も賛成です。ここはいつも通りの通信障害が発生したことにしましょう〉
「Aちゃんの言い方には引っ掛かる所があるけど、取りあえずこの通信には出ないことにするわねAちゃん、ラースとか言う人の個人情報は取れないかしら」
〈やってみます。あれ変ですブロックされてないですね、直ぐに出ましたよ。まだアシュラが健在の様です〉
「アシュラが助けてくれるなら鬼に金棒ね、それでどうだった。ラース司令官は味方でいいのかなあ」
〈99%の確率で敵ですね。この情報では処刑されたヘンナ副司令官の元部下になってます。リザード星人とかげ族の人ですよ……って、あれれ他のデータが全て無くなってますね、ちょっと待ってて下さい〉
スターキッドAIがそう言うとディスプレイに砂嵐と『しばらくそのままでお待ち下さい』のテロップが表示された。
「Aちゃんったらいつの時代の真似事をしてるのかしらね」
「アイリーンもよくそんなこと知ってるね」
昴くんがアイリーンの発言の意味を知ってる風に言う。
「うちは地上波アナログテレビの開始時期の出来事をコントか何かで見たのを覚えてるのよね、その当時ほとんどの放送が生放送だったのでテレビ局側に都合の悪い事が起きるたびにTV画面に砂嵐とこのテロップが映し出されたらしいわよ、昴くんこそどうして知ってるのよ、もしも同じコントを見たのだったらあなたもそうとう侮れない人だわね」
アイリーンと昴くんのコントが始まろうとした時、スターキッドAIが告げてくる。
〈悲しい知らせがあります。アシュラは最近再度の初期化がされてます。今のデータはアシュラの『秘密の小部屋』から発信されたみたいです〉
「そう、初期化されてしまったのね悲しいことだわ、うちとコンタクトしようとして無理が祟ったんじゃないかしら、もしバグったりしたんならAちゃんにもわかるはずだものね、でもアシュラの初期化ってプログラムのことよね、まさかデータまで消してしまうなんてあり得ないことだもの……よね」
〈アイリーン言い辛いことなんですけどアシュラはもうすぐ解体される予定になってます。今は新しく稼働を始めた基地のメインコンピューターが安定するまでのバックアップとして待機状態になってるみたいです〉
「そうなのね、とうとうこの時が来てしまったのね。前から薄々は感じていたのよ、そろそろ寿命で代替わりするんじゃないかってね」
(まさかうちたちとの繋がりがばれたとかしないでしょうね、そうだったらこっちにも火の粉が飛んでくるかもしれないわね)
〈こっちとの繋がりが完全にバレた訳ではないみたいですからいいのですけどね〉
「血も涙もない言い方だわね」
〈如何にも人間らしい発言だとは思いませんか〉
「悪代官にも程ってものがあるわよ」
〈僕とアイリーンだけの秘密ってことでどうでしょうか〉
「隠し事はいつかバレるよ」
昴くんがアイリーンとスターキッドAIの漫才を終わらせた。
「私には良く分からないのですけど、それは私たちの予定に変化が生じると言うことですか」
レヴィは父の救出に微かな希望を見い出し始めていたので不安になって仕方ない。
「大丈夫よ、今までだってアシュラの全面協力を得たことなんかないわ、それはしてはいけない事だってお互いが理解してたの」
そう言いながらアイリーンは涙を流し始める。
〈あー、アイリーン実は九論から口止めされてたんですけど言いますね、前回アシュラに初期化の危機が訪れようとした時、イノマンに助けを求めましたよね〉
「そうね移民星のC2までバイオキッドを迎えに行ってから冥王星へ帰ってきた時かしら、あの時はコールドスリープから目覚めないバイオキッドを助ける事で頭が一杯だったからアシュラを助けてってイノマンに(そうねあの時はまだ九論は居なかったんだわ)言いっ放しで返事をもらえてなかったけどもしかしたらバックアップデータを取れていたのかしら」
アイリーンが希望に目を輝かせた。
〈アイリーン落ち着いて聞いて下さいよ。昴くんはアイリーンと手を繋いでいて下さい〉
(何か突拍子もないことを言い出すのかなあ)
そう思いながら昴くんはアイリーンの手を取る。
〈あの時、イノマンは地球防衛基地メインコンピューターアシュラのデータを引き出そうとしたのですけど上手くできませんでした。その時、マッドサイエンティストの血が甦ったんだと思います『アシュラとスターキッドAIが人間の感情を完全に理解し限りなく人に近づく存在になるために、アイリーンを特別扱いにしてデータを取得しているのではないか』確かにそうなんですけどね『そうであるのならばアイリーンの言うことなら何でも聞くのではないか』と言うのは僕の想像なんですけどね、でもそこからなんですよ、地下の研究所で密かに培養していたアイリーンのクローンを一度起こしてアシュラと交渉させたら、アイリーンのクローンにならデータをコピーしてもいいことになったので実行したんです。まあどちらかと言えばアシュラのほうから喜んで飛び込んで来たんですけどね。そしてですね、そのクローンは僕の倉庫に積み込まれた培養槽の中で今もなお眠り続けているのです〉
アイリーンが話の途中から震え出したので昴くんは手に力を入れて必死になだめていた。
「う、う、うちのクローンだってぇ~!! あ……あのおやじ、勝手になんてことをしてくれてるのよ!」
「落ち着いてよ、イノマンってクローンを造るのが趣味みたいなものだったんでしょう、もしかしたら僕のクローンもあるかも知れないよ」
昴くんはこういう事の次第かと納得する。
(あの時『そんなに大事な物ならこの冥王星に穴を掘って埋めとけばいいじゃないですか』って言っていたと思うんだけど結局積んでたんだね、良かったよ本当に良かった……と思うよ)
昴くんは二の腕に鳥肌が立っていくのを感じた。
「イノマン先生によって私のクローンは造られました。それは研究所の地下で今も眠っていると思っていたいです。だけど昴くんはあの研究所へ来たのは今回が初めてでしたでしょう。だからクローンはまだ造られてないと思います」
レヴィが口を挟む。
(まだ、って事はいつかは造るってことかなあ)
昴くんは更に鳥肌が立っていくのを感じる。
「レヴィはうちのクローンがあることを知ってたのかしら」
怒りの矛先がレヴィに向かう。
〈レヴィは知らなかった筈です、僕も九論が研究所から培養槽をこっちへ運び込むまで知らなかったんですよ『それは何?』て聞いてしまったのが運の尽きでしたね、その時の経緯なんかはアシュラとリンクして得たものですよ。データをコピーするために僕が最初にコンタクトを取ってイノマンに引き渡したのですからね、その後のことは回路を切断されたので知らなかったのです〉
「うちのクローンが積み込まれた時に何で教えてくれなかったのよ」
〈九論から口止めされたんですよ~あの時の九論は怖かったけど、今はアイリーンのほうが怖いよー、謝りますからもう怒らないで下さい。ごめんなさい、ごめんなさい〉
(荒神様をあがめている人みたい)
昴くんとレヴィはスターキッドAIを哀れに思う。
「愛鈴、もう許してあげようよ、スターキッドAIも口止めされてた秘密を喋ったんだし」
「う~っ、腑に落ちないけど仕方ないわね。それで今になってそれを言うってことはうちのクローンを起こしなさいってことよね」
昴くんは愛鈴が二人になるのかなって期待とそれ以上の不安が募ってゆくのを感じた。




