119.桃源郷3
アイリーンと昴くんが対峙する形になった。
「あっ、そんなこと言うんだ昴くんにもキスしてあげようと思ってたけどやめたわ」
(昴くんで口直ししようとしたんだけどな)
アイリーンは悲しみを込めて言う。
「キスってそんなに軽々しくできるものなの?」
昴くんも悲しみの表情をして聞く。
「知らないっ!」
(この前も同じようなやり取りをしたばっかりだってのにもう返事してやらないんだから、でもうちは何だか身体が重くなった気がするわキスで生気を失ったからかしら)
アイリーンは少し不安な気持ちになる。
「ロースさんは元気になったみたいだけど大丈夫かしら、頭がふらふらするとかはしてないわよね、うちは体が重くなった気がするのだけどね」
(うちがだるくなった分、ロースさんが元気になってくれたのなら構わないのだけど)
「ありがとう、アイリーンは相変わらず凄い量の生気をお持ちです」
ロースさんは元気になったけど、今まで二人がやり取りしていた会話についてよく理解していないようだ。
〈いや、それは生気ではなくて酔気だから、只の酔っ払いの気ですよ〉
スターキッドAIがロースさんの発言に対して茶化すように言う。
「飲んだ……じゃなくて食べたのはお酒じゃないよね」
昴くんが確認の意味でスターキッドAIに聞く。
(でも、さっきまでの愛鈴は酔っ払ってると言ってもおかしくない状態だったよなあ~)
「う~頭が痛ーい。酔いが覚めると二日酔いになるって話は聞いたことがあるけどこんなに我慢が出来ないほど痛いとは思ってもみなかったわ、それに酔気が消えたら眠気が襲ってきたーもう眠い……もう限界だわ~」
アイリーンはそのまま浮いていた風船がしぼんでいくように床へとへたり込んでしまう。
「ちょっと起きてよ愛鈴、床で寝たらダメだからね」
〈アイリーンは昔からよく床で寝てましたから大丈夫ですよ〉
スターキッドAIは気にしてない。
(いやダメだろう、ロースさんはもう大丈夫だよね今度は愛鈴がダメになっちゃったよ)
「ちょっとベッドに寝かせてくるね、ロースさんはここで待っててもらえますか」
「私はこれからは常に我が精霊獣フレアホースと共に居る」
(何か面倒な事にならなければいいんだけど)
昴くんは床に大の字になって寝そべっているアイリーンを抱えて倉庫へ行く。
〈寝かせると言ってもカプセルベッドの代わりにコールドスリープカプセルを積みましたからね、いっそこのままコールドスリープさせちゃいましょうか〉
スターキッドAIが非人道的なことをすらりと言ってくる。
「本当に出来るものならそうしたいよでも愛鈴が目覚めた時の事を考えると、とてもそんな勇気は持てないね」
〈それではリラックス音楽でも流して少しでも長い眠りに入ることを祈りますか〉
「そうだね、スターキッドAIもロースさんのために祈ってみたら結構いけるかもしれないよ」
〈ハハハ、本当にそんなことができたら無茶苦茶アシュラに自慢できますよ〉
「休憩室に戻って愛鈴が散らかした物の片付けをしないといけないな、ロースさんは本当に大丈夫? 辛いとかだるいとかはないのかなあ」
ロースさんはさっきの言葉通り昴くんの後を黙って付いて回っていた。
昴くんは気配のない小柄なロースさんにぶつかってしまわないか心配で動き方に注意している。
ガルメニ人の甲殻を着ていないロースさんはパッと見だけではか弱い地球人の少女が裸で歩き回っている様にしか見えないのであまりじろじろ見ないようにしていた。
(よく見ると人とは色々違っていることに気付くんだけど指摘するのは失礼だよな、それより何か服を着させないといけないな)
「大丈夫だ、ただ力が溢れそう迷惑を掛けないからフレアホースに力を分け与えても良いだろうか」
「僕に迷惑が掛からなくてスターキッドにも影響がなければいいんじゃないかなあ……スターキッドAIもいいよね」
〈実際を見てみないことには何とも返事できませんからロースさんやってみて下さい〉
「◇◇☆ー○□☆ーゝ♡♡◎ー」
ロースさんが言葉に表せない声で歌い出す。
すると薄桃色をしていた体が青白い炎に包まれていく。
その歌声に誘われたかのように昴くんの左肩に現れたフレアホースに向かって一筋の淡い光が流れ込んでいった。
(この光は映画で見たことがある何だったかな、たしか白鯨だったような……セントエルモの火?)
昴くんが神秘を見る目でうっとりしてる。
〈セントエルモの火かも知れませんねロースさんは炎属性の精霊なのに放電も使えるみたいです。これ位なら電子機器に対して何の問題もないでしょう〉
セントエルモの火はフレアホースさんを完全に包み込んでから消滅していきロースさんとフレアホースさんの色合いがほぼ同じになった。
(スーちゃんの気配が強くなったのが分かる今までの3倍いやもっとかな、もう僕の中には戻れないんじゃないのだろうか、そういえばスーちゃんが元気を取り戻したら自分で飛び回れる様になるって九論さんが言ってたような気が……)
昴くんの考え事はスターキッドAIの新たな提案によって中断する。
〈ロースさん完全回復したのならシュー・ウォッシュナビって出来ませんですか? 一人しか居ませんけどフレアホースさんも元気100倍になったみたいだし、ちょこっと跳ねる程度でもいいのでやってもらえませんか緊急時にどれくらい跳べるのか事前に知っておく必要があると思うのですよ〉
スターキッドAIは半強制的にお願いした。
「わかった。やる」
ロースさんが簡潔に返事する。
〈流石のAちゃん!〉
スターキッドAIは自画自賛した。
(思わず愛鈴口調になってしまったよ、起きてたら良かったのに)
「ねえスターキッドAI、あの小瓶の中身って結局のところ妖精さんが集めた人間の生気の結晶だったって事でいいんだよね小瓶はどこから紛れ込んで来たのだろうね」
〈あんなものを持ってるのはイノマンくらいしかいないでしょう、おそらくですけど以前に行った冥王星研究所から持ち込んだ荷物の中に紛れ込んでたんだと思いますよ〉
「じゃあ、あの小瓶はアンバ隊長から貰ったお酒じゃなくてイノマン研究施設から紛れ込んできたものなんだよね、そんな物を食べて愛鈴本当に大丈夫なのかなあ」
昴くんはアイリーンが心配になり倉庫の方へ歩き出す。
「今は大丈夫。だいたい全部私が吸い取ったからあれは私たちの命の根源となるもの、初めての事だから良くは分からないが人に危害はないと思う。お陰で私は元気になったそしてフレアホースも元気になった。これから恩返しでシューウォッシュ・ナビを行う。昴くんの準備はいいか?」
(思うでは不安しか残らないのですけど……人間の生気の結晶を食べてしまった人間って尊い聖人にでもなるんじゃないかなあ、僕としてはまともな成人になって欲しいんだけどね)
「お願いします」
〈チョット待って僕の準備がぁ~〉
スターキッドAIが待ったを申告してきたけど昴くんは目の前に立っている小柄なロースさんと子馬のフレアホースさんを進行方向に向かって縦に並ばせ合言葉を言う。
「進行方向へ向けてぇー、シューウォッシュ!」
昴くんには自分が発した言霊が具現化して見えたような気がした。
言霊がロースさんの身体に吸い込まれて行きそれに合わせてロースさんが膨らみ元に戻る。
それを受け継ぐ様にフレアホースの身体が膨らみ発光してゆく。
そして元に戻っていくのだけどその時は既にスターキッド全体を光が包み込んでいる。
昴くんは自己防衛本能が働き目を閉じてしまう。
(さっきのスターキッドAIは何をそんなに慌ててたのだろう。ちょこっとジャンプするだけだって言ってたよね、まあ何も無い宇宙空間でちょこっと跳ぶにしたら100万Kmくらいの瞬間移動になるかも知れないけど、なんにもない外の風景はそんなに変わらないと思うよ)
昴くんはスターキッドAIの小心ぶりを改めて感じる。
「着きました」
ロースさんの自慢げな声が聞こえてきた。
瞬きよりちょっと長い時間が経過して目を開けた時に見えた外部ディスプレイには星星の煌めきがあった。
「えっ?え~~っ! うそ~!」
昴くんは目前で大きく輝く赤色恒星に驚きを隠せない。
(さっきまでと景色が全然違ってるよ)
スターキッドは太陽系を離れた何もない星間宙域を飛行していたのだけど今はケンタウルス座アルファ星系の惑星間宙域を飛んでいた。
〈ちょっと待ってって言ってるのにぃ~、ジャイロがコンパスがマップがあ~、あっ、間違いなくプロキシマ・ケンタウリの軌道上ですね後は惑星Cにある移民星を見付ければいいだけですけど、本当に42兆5千億Kmを一瞬で移動したのですね〉
スターキッドAIも驚いている。
「愛鈴は時々6光年、56兆7648億Kmを一瞬でテレポートしたと自慢してたから2人とも凄いんだね」
〈アイリーンは身一つそれも裸になりながらの危険なテレポートをしたんだと聞いてます。ロースさんは今スターキッドごと瞬間移動したんですよこっちのほうが凄いです。でもアイリーンに言ってはダメですよ、絶対に張り合ってしまいますからね〉
スターキッドAIは余計なことを言ってしまったかなと少し後悔した。
「裸のテレポートってのは聞いてなかったなあ、もしアイリーンとテレポートするような事がある時は十分気を付けないといけないね」
〈その後イノマンに厳しく注意されてもう大丈夫みたいなことを言ってましたけどね〉
昴くんにしては珍しくスターキッドAIと長話をしていたらアイリーンが後ろの扉を開けて入って来た。
大粒の涙を流しながら言う。
「昴くんなんか大嫌い!」




