140.反乱1
アイリーンと昴くんがレヴィを伴って東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地のオビス司令官に会いに行くため冥王星を出発してからおおよそ6時間が経過していた。
それまで大人しくしていたスターキッドAIがコクピットで始まったアイリーンと昴くんのいちゃつきぶりに堪忍袋の緒を切らして(AIなのに?)文句を言っている。
〈知らない人が居る前で喋ってはいけないだろうと思ってだんまりを決めてましたけどもう限界です〉
「わかったからご免なさいねそんなに怒らないでよ、気にしなければ良いことじゃないの」
アイリーンは弁解してみた。
〈今の状況と場所を考えて下さいよ、レヴィさんが呆れてるでしょう〉
そう言われ改めてレヴィを見てみるけど表情に変化は見られない。
(レヴィ呆れてるのかなあ今はそんな風に見えないし漫才やったら笑ってもらえるかもって少しは思ったりしたのよね)
「そうねレヴィは笑ってくれなかったし、もっと笑いのネタを仕入れてから出直すわ」
「愛鈴は漫才のために僕のお尻を二度もつねったの」
昴くんがお尻を手の平で防御しながら言う。
「えっ、私を励まそうとして昴くんのお尻をつねられたのですか」
レヴィは呆れ顔をしてアイリーンと昴くんを交互に見返した。
〈もうその話はやめにしませんか、もっとそう……建設的な話をしましょうよ〉
スターキッドAIが話題の転換を求めてくる。
(そうなんだよ、こんな小学生もしないような話ばかりしていたらレヴィさんが不安になってしまうかも知れないよ)
昴くんは心の中で賛成した。
「僕が思うにさ光速宇宙艇スターキッドで最高速度を出せば6時間足らずで地球防衛基地に到着するんだよね」
〈その通りです。ただし地球防衛基地には『宇宙人のための』って言う但し書きを入れて下さいね、誤解を生じる元になりますから〉
「わかったよできるだけそうする、でも何だか少し悲しい響きがあるね」
「どういう意味よ人類が破壊し続けている地球を守るために宇宙人が造った防衛基地なのよちっともおかしくなんてない……違ったわね昴くんは悲しいって言ったのよね」
アイリーンが話に割り込む。
「そうなんだよ宇宙人が地球防衛基地を造る前に何で僕たち人類が地球のための防衛基地を作らなかったのかが残念で仕方がないんだ」
「そうよね、たとえダメ元だったとしても地球は自分達で守るんだって意思表示をわかりやすくしていたらドライアイスメテオ作戦はなかったかも知れないわね」
「ハント・ザ・ETなんて逆の組織を作ったもんだから宇宙人を怒らせて人類排除の時期を早めたんじゃないかと僕は思うんだよ」
「人類が生まれつき持っている宿命みたいなものなのかしらね」
「宿命だとか運命ですからとかは思いたくないなあ」
アイリーンと昴くんの二人が最初は声高く明るい表情で話していたのがだんだんと低い声になりしんみりと落ち込んで行く姿を見ていたレヴィは何とも言えない。
(お二人がされてます会話そのものが地球人類の性を表現されているのではないかと私は思いましてよ)
これから短い命を駆け抜けて行かなけらばならないまだ幼いと言ってもいいような二人の子供を間近に見ていて可哀想に思う。
「お二人ともそのように暗い顔をされてましては未来に悪影響しましてよ、あなた方の取り柄である希望を持って明るい顔をされてるほうが良いですわ」
「そうねありがとう、それにしてもだいぶん違う話になってしまったわね」
「え~っと何だったっけ」
昴くんが少し狼狽え始める。
「そうよ、キッドが全力で飛ぶと目的地まで6時間なのにって言ってたのよ」
「そ、そうだよ全速力じゃないにしてもさ、僕が加速Gで潰れないように速度を落としたとしても12時間もあれば十分余裕を持って到着すると思うよ、なんで50時間も掛けてゆっくり飛んでいるのか理由が知りたいと思ったんだよ教えてもらえますか」
(話が元に戻ってよかったよ、これでゆっくり飛んでる理由を教えてもらえるよね)
昴くんは副操縦席のシートに深く沈んで脱力する。
〈太陽系外なら準光速航行も可能ですよ、でも惑星圏内でそんなことするのは自殺行為ですね、前方に障害物を検知しても躱せませんから〉
スターキッドAIが話を続けてくれた。
「昔うちが冥王星から初めて飛び出した時に光速を超えそうになったじゃない、もしかしてあの時はそうとうヤバかったの?」
〈あの時はまだ右も左も何も分かってなかった小さいアイリーンが全てを手動に切り換えた上で太陽に向けて最高速度のコマンドだけ入力したのを覚えてませんか。当然覚えてないですよね僕はあの時……無に還る覚悟をしましたよ〉
スピーカーから流れ出す音声が震えている。
「その割には『死にたくない! 』って叫んでなかったかしら『死を恐れるAI伝説』の始まりだったとうちは記憶してるのだけど違ったかしら、それにしても今思い出すと何だか懐かしいわね」
アイリーンが遠くを見る時の目をしている。
〈あ~だから昴くん、今は普通に急いでる速度なんですよ〉
スターキッドAIは誤魔化した。
「そうなんだ、スターキッドの最高速度って言ったら秒速30万Kmだよね地球から月まで1秒ちょっとだもんねだいたい分かったよ、だったらさ天王星まで行った所から『洗濯機』を使えばいいんじゃないかなあ『回数券』をまだ持ってるって言ってたよね」
昴くんが『洗濯機』だったんじゃなかったかも知れないと思いながら言う。
「何が『洗濯機』ってあっ、もしかして〖うずしお〗のことかしら? そうよね今からレッド隊長に連絡すれば用意してもらえるかも知れないわね。そっちのほうが早いわーやっぱり昴くんは賢いわ~ 」
アイリーンが昴くんの頭を撫でようと手を伸ばしたがスルッと躱されてしまった。
〈僕もそのほうが楽できるので賛成ですね、直ぐにレッド隊長へ連絡します〉
「そしたらあと何時間くらいで着くのですか」
昴くんは何事もなかったかのように振る舞う
〈都合良く行けば24時間短縮になりますから20時間後には基地に到着ですね〉
「それでもあと1日は掛るのかぁ~」
(もっと短縮できると思ったのになあ……少し残念だよ)
「レッド隊長にリバイヤサンのこととか説明しないといけないわね、昴くんにお願いしようかしら」
アイリーンは昴くんが落胆してる様に見えたので励ますように言葉を掛けた。
「うん、やってみるよ愛鈴はそばに居てよね」
「わかってるわよ、うちは投げっぱなしにはしないからね、え~っと、天王星までの距離が18億Kmだとして……う~んAちゃんあと何時間で到着するのかしら? 」
アイリーンがスターキッドAIに助けを求める。
〈あと17時間です。もう少しなら速度を上げられますけどどうしますか〉
「う~んそうね、無茶しない範囲で12時間後に到着するってのはできるかな」
(なんか微妙だなあ~この5時間の差って一体何だろう)
昴くんは疑問に思う。
〈天王星までなら障害物が無いことを確認してますので余裕ですね、それ以上時間短縮しようとすれば加速と減速のGが大きくなりますけどね〉
「それで決まりね」
アイリーンは一件落着とばかりに宇宙服の上から両手で腰をぬぐいだ。
「それじゃあ昴くん晩ご飯の準備をしようじゃないかしら」
アイリーンがウキウキと言う。
「晩ご飯と仰るのですね」
レヴィが聞き返す。
「仰る?」
アイリーンはレヴィに疑問符を投げつけた。
「ねえレヴィあなたはお客様なんだからさ、うち達に尊敬語を使わなくていいと思うのよ」
「そうでしょうか、私は無理難題を抱えたままお二人にご迷惑をお掛けしていますので感謝の気持ちだけでも最大限にお伝えしたいのです」
「迷惑だなんて思ってないし、それに私たち三人って言わないとAちゃんが怒り出すわよ」
「そうでした、目の前にいらっしゃらないからつい忘れてしまいます」
〈昴くん僕の外部端末ロボットをレヴィさんの目の前に置いててよ〉
「わかったよ、でも外部端末ロボットと言う割には歩けないよね、見る聞く喋るしかできない端末機器をロボットって呼んでいいのかなあ?」
昴くんが疑問符付きの返事をスターキッドAIに投げてみた。
「さっき昴くんがしてきた質問なんだけどさぁ、ご飯を食べて休憩したら寝るのよだから晩ご飯になるんじゃないかしら」
アイリーンが12時間後に拘った理由が判明する。
「そうかわかったよ食事で1時間、休憩で3時間、睡眠で8時間だから12時間後なんだね」
「はい良くできました。それじゃあ晩ご飯のメニューを決めましょーっと」
アイリーンが手を打つ。
(丁度お昼に出発したからなあ、バタバタしてて僕は簡単に飲用ゼリーしか摂ってないけど愛鈴とレヴィさんはちゃんと食事したのかなあ)
昴くんは気になった。
「お昼ごはんはしっかり取ったからさ晩ご飯は何か軽い物にしましょうね」
アイリーンがレヴィに提案している。
(やっぱりお昼ご飯は僕に声を掛けずに女の子二人で食べたんだ。別にいいけどさこれから先が思いやられるよ)
昴くんはこれから先も自分に声を掛けられることがなく物事が進んでいくんじゃないかと不安な気持ちになる。
晩ご飯は休憩室のテーブルを三人で囲みながら楽しく取ることができた。
「愛鈴、ちょっと確認なんだけどさレヴィさん用のベッドって積んだかなあ」
(今頃になって気付くなんて僕も気が緩んでるのかなあ)
「それね、コールドスリープ装置は場所を取りすぎるから下ろしたわその代わりにカプセルベッドを3台積み込んだのよ、だけど九論が『おまえ達なら何処ででも寝れるだろう』とか言って3台共下ろそうとしたの、だけどうちが2台だけ確保したわ」
「ああ、あの後だろうな、九論がクローン培養槽を通路に置こうとしたんだ、ここはもう一杯だからどこか安全な場所に埋めるか他の何かと入れ換えて下さいって言ったんだ。かなり憮然としてたよなー」
昴くんが遠い目をして言った。




