136.レヴィ1
冥王星の地下に隠されていたイノマン研究所では九論とアイリーン、昴くんが食卓を囲んでリバイヤさんの話に聞き入っていた。
「私の話はここまでです。氷漬けにされてからここで目を覚ますまでの間何が起きていたのかは分からないし本当に千年も時が経っていたなんてまだ信じられないです」
「凄い事に巻き込まれてたのね、それでリバイヤさんって本当の名前はレヴィって言うんだ。そっちのほうが断然可愛いと思うわよ」
アイリーンが言う。
昴くんはアイリーンが長い話の間コクリともせずに起きていた事のほうが凄いと思った。
「それでだ、諸悪の根元のアドウェルとラケルタなんだが二人とも千年前を生きた人間なんだからとっくに寿命が尽きて死んでいる。更に事件を堀り返して無実を晴らそうにも事件そのものが時効になっている。ただ1万2千年前にリバイヤサンがアトランティスとムー大陸を海に沈めたと言うおとぎ話だけが残ってるだけだ」
九論が話しながら神妙な面持ちになっていく。
「九論さん何を言いたいのか分からないよ、僕に分かるように言い直してもらえますか」
「やはり……だな。まあそうだなオビス司令官とも話したのだが、今リバイヤサンが公の場に出て来ても改めて罪に問われることはないということを確認してる。これはリバイヤサンの名前が一子相伝、子供に引き継がれていくことにも依るものだがたとえ本人が真犯人として現れても既に贖罪は娘のリバイヤサンで終わっていると解釈するらしい。冤罪であった事実は公表するがおとぎ話がまことしやかに語り継がれているのでこれを訂正することは難しいだろうから甘んじて受け入れて欲しいとなった。あと賠償金の支払いは直接本人と話し合いをして決めると言っているのでオビス司令官の元へ連れて行かないといけなくなったんだな」
九論が言い直したのだけど今度は奥歯に物が挟まったような言い方をしている。
「冤罪がおとぎ話になってるってのは程度こそは全然違うけど『小原庄助さん』と一緒よね、それで九論あなたはどうしたいのようちはあなたの考えを聞きたいわ」
今度はアイリーンが九論に問い掛けた。
(愛鈴は小原庄助さんが実在が不確かな人物だってことを知って言ってるんだよね、朝寝朝湯に朝酒が大好きでってだけで身上潰すわけがないからね。愛鈴が未来の自分を擁護するための布石として言ってる様に聞こえるのは僕の妄想だと信じて良いんだよね)
昴くんがまたぞろ不安な気持ちになってゆく。
「私の考えていることはまずリバイヤさんはアイリーンと行動を共にしたほうが良いだろうという事だ。そうして南極に眠っているお父さんを見舞って欲しい。私も一緒に行きたいのだがイノマンは実験中の爆発事故で死んだことにしたいのだがな……さてはてどうしたものか」
「ここを爆破なんかせずに残せばいいんじゃないの」
「ここでリバイヤさんに一人で生活しろとはとても言えんなお前から言うか?」
九論はアイリーンの横で沈んだ表情をしているリバイヤさんに目配せしながら言う。
「そ、そうねリバイヤさんごめんなさい軽々しく言ってしまったわ、うち達と一緒に行くで良いのかなあ、九論の言い方だとまずは地球へお父さんのお墓参りに行くことになるのだけど……」
(うん? お父さんは亡くなってるでいいのよね)
アイリーンは首を傾げた。
「あのねリバイヤさん、お父さんは本当に死んだの?」
その表情を読み取って昴くんが聞く。
(昴くん聞き方、直球過ぎない!)
アイリーンと九論は呆れ顔をした。
「戦闘姿に変身したまま亡くなった人を見たことがないのよそれに父が『もう長くは持たないから見つかる前に埋めてくれ』と言ったの、従うしかないでしょう」
「じゃあさぁー、生きてるかも知れないのよね」
アイリーンが言う。
(リバイヤさん、もしかしなくても……お父さんを生き埋めにしたんだ)
3人は心の中で思うことだけにした。
「もう千年も前の事よ、たとえ生きていたとしても今はミイラになってしまってると思う」
リバイヤさんも改めて思い起こすととんでもない事をしたんじゃないかと話している最中で涙目になっていく。
「それでも会いに行くべきよ、永久凍土の中でしょう……解凍したら元に戻るかも知れないわよ」
(アイリーン言い方変えようよ)
今度は昴くんと九論が呆れ顔をした。
「そうね、皆と一緒になら行くことにする。でもアイリーンの言う通りだとしたらお医者様が必要だから本当に凄い怪我で瀕死の状態だった。もしそのまま元に戻したら今度は本当に死んでしまう」
「お医者様ね……海王族の人に会えば紹介してくれるかしら」
「今もまだ海王族は海王星ごと鎖国中だから下手に近づく事すらできないな」
九論が腕組をして言っている。
(いつものジェスチャーを封じる手段かしら)
今、あのジェスチャーをするにはちょっと不謹慎かもねとアイリーンは思う。
「じゃあ、上手に近づけば良いのよね」
「言うのは簡単だが具体的にはどうする気だ」
「簡単なことよ、お土産を持って行けば良いのよ、その昔ペリーの黒船は大砲で脅して鎖国を解いたって聞いたことがあるわ、うち達はお土産を持って親交を深めに来ましたって言えばいいのよ、なんてったってうちは親善大使の称号を持っているんだからね」
アイリーン以外の3人は頭を抱え込む。
「無茶だよ愛鈴、話し出す前に攻撃を受けるかも知れない、ねえスターキッドAIもそう思うだろう」
昴くんは着ていた宇宙服の襟元を広げて喋っている。
スーちゃんが居なくなったので昴くんはロボちゃんことスターキッドAIの外部端末を目立たないように連れて来ていた。
「現在の海王族による攻撃手段はレーザービーム砲に限られるとデータにはあります」
宇宙服の中からスターキッドAIが答える。
「海王族は海王星の大気より外側へは出て来ない。だからレザービームによる遠距離攻撃に頼っているんだが海王族のレザービームは他のものとは一味違って速射連射が可能な上に軌道が縦横無尽に曲げられると噂されてる。まあ、まだ誰も標的になった者が居ないから噂だけなんだがな、アイリーンが晴れある一人目になるか? 海王星は希少資源の宝庫だから行ってみる価値は確かにあるぞ、それにリバイヤさんと一緒なら攻撃されないかも知れない」
横から九論が割り込んで話し出す。
「レーザービームが当たらない所から通信出来ないかなあ、海王星の衛星で一番内側を回ってるのはナイアドだったよね、まずはそこまで行くのはどうだろう」
「昴くんはよく勉強してるな感心したぞ」
九論から誉められて昴くんは嬉しそうに微笑む。
「うちだって同じことを考えてたわ、一番内側を回ってる星の名前までは知らなかったけど」
(星じゃなくてさ衛星なんだけどな、まあいいか)
昴くんはアイリーンを気遣ってあえて訂正を入れない。
「それじゃ出発は明朝でいいな」
(さっき縦横無尽に軌道が曲げられる連続攻撃が可能な遠距離レーザービームと言ったのだが意味が通じなかったみたいだな、考え直す時間が必要になるかも知れないな)
九論が腕組のまま頷く。
「今からでも行けるわよ」
アイリーンが九論の頷くのをGOサインだと思って言う。
「愛鈴はさっき話の最中に赤ワインをくすねて少し飲んでたよね。ちゃんと見てたんだからね、飲酒運転は絶対にダメだよ、何にもない宇宙を飛ぶにしてもだからね」
(そうか、それが目的でずーっと起きていたんだ……とは思いたくないよ~)
「わかってるわよ、Aちゃんに全部お任せしようと思ったんだけどやめておくわ」
「リバイヤさんもそれでいいよね」
昴くんが宥めるように言う。
「お父さんを助けられるかも知れないと思うと居ても立っても居られない気持ちになります。だけど私はアイリーンさんたちに付いて行かせてもらう身ですから好意を持って従います」
「そ、そんなことはないわよ気にしないで、言いたいことがあればきちんと言ってよね。リバイヤさんはいま複雑な気持ちよね、うちも昔似たような経験をしたから分かるわ、でも焦ったらいけないと思うのよね」
(今は思い出したくないの……だからごめんねお兄ちゃん)
アイリーンが5歳の誕生日を前にして児童養護施設の前に置き去りにされそうになっていたところを助けて宇宙へと連れ出してくれたのが光一お兄ちゃん。
何事もなければそのままアステロイドベルトにある宇宙人のための地球防衛基地へと連れられて他の少年少女達と共に立派な宇宙人となるべく教育を受けトップリーダーになっていただろうアイリーン。
だが現実はそうならなかった。
イノマンを執拗に探し求めていた宇宙解放組織レッドフラックスリーダーのサロメに追いかけ回され、ついに拉致されて冥王星にある閉鎖されたイノマン研究所へ連れ去られてしまう。
アイリーンがお兄ちゃんと慕う石井光一は初期の冥王星探査で事故に遭い死にかけていたところをイノマンのクローンに記憶と魂を移され生き延びていた。
サロメは石井光一の体内にこそイノマンが隠れていると考え電気鞭で痛め付けて顕現させようとする。
イノマンが自分の中に居ることを知ったアイリーンは彼と交渉して電気ショックを受けることにより二人の幽体つまり記憶と魂を入れ換えた。
石井光一の幽体を体内に宿したアイリーンは地球防衛基地で眠るイノマンのクローンにその幽体を移して生き返らせようとするけどその願いは叶わない。
最後の手段として地球で生まれた新生児の体内に移すことを教えられるが躊躇していた。
それから地球防衛基地で訓練の日々を送っていたけどある日、事故を起こして地球へ跳んでしまう。
スターキッドと共に日本支部へ行き、その翌日にアイリーンだけが車の運転手を伴って故郷を訪ねた。




