135.リバイヤさん4
決勝戦開始時のリバイヤサンはヘラクレスより一回り体格が小さかったのだが善戦していた。
しかし試合が白熱し長引くにつれリバイヤサンが劣性に追い込まれていくと観客は『ああやはりヘラクレスが強かったか』と納得し始めていく。
そんな中リバイヤサンの体が閃光して目眩まし状態になり次に見えた姿は巨大な海竜の姿をしていた。
「蛇だ巨大な蛇に変身したぞ!」
観客の一人が叫ぶ。
「バカかお前、蛇だなんて言ってるのが海王族の耳にでも入ってみろ殺されるぞ」
他の観客が叫ぶ。
違う観客も叫んでいて『巨大化するのは反則だぞ』とか言っている。
戦闘で変身する種族はいるので全部が反則扱いにはなっていない。
獣人族なんかはその代表的種族で戦いの度に『トランスフォーム』とか叫んで変形してるけど身長50メートルの巨人になったりはしない。
リバイヤサンは反則技だと言われても仕方がない全長50メートルの巨大な姿に変身している。
そして一瞬の隙を突いてヘラクレスを締め上げギブアップさせた。
《白熱した決勝戦の優勝者は海王族のリバイヤサンに決定いたしました》
イタリアのコロッセオに似せて造られた南アメリカ大陸ナスカの試合会場でアナウンスが響き渡る。
競技会場ではすり鉢状の観覧席に一万人の宇宙人が押すな押すなの状態でひしめき合い優勝者が決まった瞬間怒号が飛び交った。
《おや、どうしたことでしょうか負けたヘラクレス選手が引き上げて試合会場には優勝した海王族のリバイヤサンが戦闘士姿のまま、あれは横たわっていると表現して良いのでしょうか、あっ、今女性が近づいて行きます。大丈夫なのでしょうか。手元にあります資料ではリバイヤサンは娘さんを同行しているとなってますが娘さんでしょうか》
闘技場の観客席から溢れるいろいろな感情によるどよめきの中を一人の女性が巨大な海竜に変身したリバイヤサンに駆け寄って行く。
「お父さん大丈夫! 返事して!」
ここでホログラフィー化された審判の1人がフィールド内に現れてクレームを言い出す。
《ただ今のクレームにつきまして説明いたします。勝者はリバイヤサンでしたがリバイヤサンは失神して動けなくなっている様子です。それに対してヘラクレスは立っているので優勝者はヘラクレスではないのかと物言いがありましたが、ヘラクレスはその前にギブアップしているため行司軍配通りリバイヤサンの優勝といたします》
いきなり場内アナウンスが流れた。
「今のは何だ?」
観客が更に騒ぎ出す。
巨大竜に駆け寄った女性が頭を揺さぶったり頬を叩いたりしてみたけど意識が戻る気配を見せない。
そこへ大会主催者のアドウェルがやって来て声を掛ける。
今のアドウェルは顔を隠すための仮面を被っていた。
異種族間において無意識で嫌悪されてしまう傾向にある種族が人前に出る時、嫌悪される部位を人目に晒さないようにすることは普通なのでアドウェルが仮面を被っている事に不信感を抱く者は誰もいない。
《優勝景品は過去の地球へのタイムトラベルになっています》
アドウェルが観客に向かって両手を広げ仰々しく喋り出すとその声は場内スピーカーからの音声となって流れ出す。
「それがどうしたって言うの! お父さんが目を覚まさないのよ」
女性が抗議の声を上げるけどアドウェルは意に介さない。
そして女性に向かって小声で言う。
「さあレヴィ、今から時間旅行を始めますよ」
「なぜ私の名前を……そんなことより今からこのままの状態で過去へ飛ばす気なの、正気の沙汰とは思えないわ」
「それではここへお医者様を呼びますか、この巨大竜に変身したまま気を失っている患者を視てくれる医者がこの近くに居ればいいのですけど、それに他種族の医者に診てもらってもいいのですか、それより古代地球のエネルギー溢れる海水に浸かった方が回復も早いと思いますよ、この症状は海王族が長時間陸に上がっている時に起きる症状と似てませんか」
(この男は何故私たちが秘密にしている体質のことを知っているの、こんな所で公けになんかできるものですか)
「分かりましたあなたの提案に乗りましょう。それでどうすれば良いのです」
仮面を被ったままのアドウェルが頭上で両手を広げて大きく立ちはだかった。
《会場にお集まりの皆様どうかご静粛に……今大会の優勝者はリバイヤサンとなりました。ですがご覧の通り彼は今意識がはっきりしていません。本来であれば優勝インタビューや優勝景品の贈呈式等を予定していましたが叶いません。それよりも逸早く医者に診せたいのですがこの巨体を動かすのも不可能です。寄って今回の優勝景品の一つであるタイムトラベルで太古の地球へ行ってもらいましょう。生気溢れる太古の地球で静養して回復するのを待つのが一番いい方法だと考えます。今から私がリバイヤサン父娘を過去へとナビゲーションしてその時代にしか存在しない品物を皆様へのお土産として持ち帰ってきましょう。時間は取らせません今暫くそのままお待ち下さい》
アドウェルが両手を上げたままの姿勢で会場全体が見渡せるようにその場でグルリと回り最後に大仰な一礼をするとフィールドに居た三人が唐突に消え失せた。
レヴィにとってタイムトラベルは初めての事で想像以上に苦しんでいる。
『ちょっと何よタイムトラベルって一瞬で目的地に着くのではなかったのですか。ぐるぐると目が回って気持ちが悪い……』
目的地に着いた時レヴィは意識を失い代わりにリバイヤサンが覚醒していた。
ここは紀元前11000年の大西洋上空。
二人は何もない空中にまるでそこに地面があるかの様に佇む。
レヴィは竜に変身したままのリバイヤサンに寄り添って気を失っている。
時刻は真夜中。
アドウェルが仮面を外す。
燦々と降り注ぐ月光に照らされたその表情は悦に浸っている美しい堕天使の様に見えた。
眼下に広がる黒々とした大海原では今まさにアトランティスの島々に大津波が襲いかかってきている。
「フハハハハ、これで私の復讐は終わりを告げる。これから始まるクライマックスが見物できないのは非常に残念だが仕方ない。では、さようならだ……」
アドウェルの姿が掻き消えた。
アドウェルが消えて直ぐにリバイヤサンの周囲でバチバチと空気のなる音がして12機のタイムパトロール艇が出現し有無を言わさず攻撃を仕掛けてくる。
リバイヤサンは意識を失ったままのレヴィを守るために体を丸めて攻撃が娘に当たらないようにするのが精一杯だった。
数瞬の間、夜空の一画がまるで連発花火を連続で打ち上げた様に弾ける。
閃光が落ち着いた空間にリバイヤサン父娘の姿は見当たらない。
「逃げられたのか?」
パトロール隊長が呟く。
「タイムスリップが起きてます」
索敵担当が言う。
「原因は後回しだリバイヤサンを探すぞ」
タイムパトロール12艇は出てきた時と同じように消え去った。
戦いの最中でさえ太古の大西洋で突如発生した巨大な津波はアトランティスの島々を深海へと引きずり込んでいっている。
リバイヤサン父娘は同じ場所への度重なるタイムトラベルのせいで脆くなった時の狭間へと落ちて行く。
再度の時間移動で目を覚ましたレヴィはなぜ自分がブリザードの中に居るのか理解できなかった。
「父さん! 父さん大丈夫?」
レヴィは自分を守るように丸くなったままでいる父親の様子を調べる。
「ひどい怪我をしてる」
体の内側に包まれていたので分からなかったのだろう。
硬い鱗がレーザービームで撃ち抜かれ血液が湯水みたいに流れ落ちていく。
「お父さん! しっかりして、目を開けて! お願いだから目を開けてよ~」
レヴィが必死になって叫び続ける。
「レヴィ、無事なのか……もう何も見えない……私を埋めてくれ……全てを隠しタイムパトロールから逃げろ……リバイヤサンの名はお前が継ぐんだ……すまない」
「なぜタイムパトロールなの、ねえどうしてお父さん! 返事して!」
動かなくなったリバイヤサンを抱きしめたままレヴィは、暫く動けない。
「お父さん……ここに埋めるね」
レヴィが父親を近くにある一番大きな氷山の中に閉じ込めて形を整えるとあたかも氷のピラミッドの様に見えた。
「居たぞ! 見付けた人の姿に戻ってるなこのタイミングを逃すな、全パトロール艇コールドビーム一斉照射」
タイムパトロール隊長が情容赦ない命令を下す。
「ちくしょー! 父の敵!」
レヴィは降り注ぐブリザードを固めて防御し攻撃もしたけど12機を相手に勝ち目はない。
3回目のパトロール艇による一斉攻撃をまともに受け氷漬けにされてしまう。
「手子摺らせやがって」
隊長が言う。
「連行しますか」
「いや、ここでは氷が溶けることもないだろう、もう少し固め永久氷結させて監獄にすれば枕を高くして寝れるってことだ。睡眠薬も多目に打っとけ」
「それもそうですね後は評議会に引き継ぐ形を取れば手間が省けるってもんですね」
「全パトロール艇帰還する。遅れるな!」
その後、評議会の決定では今回の不祥事を白日の下へ晒し海王星を支配している海王族に詳細報告と損害賠償を請求するで一致した。
具体的には南極大陸で氷漬けになっているリバイヤサンを正式にコールドスリープさせ海王族に引き渡すことで事実を突き付けて言い逃れができないようにする。
海王星までの移送手段としてC2へ地球人の移民が決まったことで選ばれた移民船に便乗させるように決定された。
南極大陸に穏やかな日差しが降り注ぐ頃リバイヤサンとレヴィが入れ替わってる事を知らない役人はそのままレヴィをリバイヤサンとしてコールドスリープカプセルに入れ移民船エム08の母港がある地球防衛基地へと向かう。
レヴィの父リバイヤサンは今もなお南極大陸の大氷山の中で安らかに眠っている。




