134.リバイヤさん3
冥王星は西暦2006年に惑星の地位を剥奪され準惑星に格下げされている。
そこにあるイノマン地下研究所では九論(中身はイノマン)とアイリーン昴くんそれと海王族リバイヤさんの4人でお食事会を始めたのだけど最初から宴会の様相を呈していた。
「愛鈴、今飲んでるそれってもしかして赤ワインじゃないの?」
「グヘヘへ、さあ知らないわ、でも何だかとても楽しくなってきたあ~」
昴くんは自分が赤ブドウジュースと思って渡したのが間違えて九論の前にあった赤ワインだったらどうしようと不安になった。
(だいたいお酒とジュースを同じコップに注ぐのがいけないんだ、まあアイリーンがそこまで考えてやったことだとは思えないけどね)
「少し貰うよ」
いやいやするアイリーンの手から無理やりコップを引き剥がし中身を少しなめる。
「ワインとは少し違う様だけど……う~んもう少し」
中身を少し飲む。
(お酒じゃないみたいだけど)
中身をもっと飲み。
「う~ん、おいひい~、おかわり~」
昴くんの顔がみるみる赤くなり酔っ払いの表情を見せる。
「あらあら、地球のお子様たちには強かったみたいね」
リバイヤさんが他人事のように言う。
冥王星の地下でワイン製造用に培養されているブドウは出来上がり時の品質向上のため多少の酒精を含有していた。
「いったいどうしたと言うのだ、昴くんはともかくアイリーンがこんな状態になるとは思えないのだがな、確かウイスキーボンボン並みのアルコール分しかなかっただろうに」
アルコール度数と場所による酔い方の違いについて統計を取ってみたくなってきた九論だった。
可笑しそうに二人の子供たちを見ていると昴くんが腕に絡みつく。
「ウイスキーボンボンでも酔っぱらうんですよ~ダメじゃないですか」
少しだけ理性を取り戻した昴くんに酔っ払い口調で言われる。
アイリーンは赤ブドウジュースが空になったのでフンフンと言いながら昴くんの前にある白ブドウジュースを飲んで満足していた。
「二人ともナットウ食べてしじみ汁を飲むといいです。本物ではないけど本物以上の効能を持たせています」
リバイヤさんは少しだけ悪びれている。
「もっと飲みたい! おかわり頂戴!! 」
アイリーンがシュプレヒコールみたいにして言う。
「ほらほら飲んでばかりでは大人でも体に毒ですからねこれをお食べになりなさいな」
一口サイズに切り分けたステーキ肉をアイリーンの口へ運ぶ。
「もぐ、美味しいわー、空きっ腹にこたえるわねー」
「お腹が空いていたなら余計に酔いが回るでしょう、たくさん食べて早く酔いを醒ましましょうねー、昴くんも食べてますか」
リバイヤさんも少し酔ってきている。
『僕にもステーキ肉を切り分けて食べさせてくださいよ~』などと言う昴くんではなかった。
「食べてます。どれも美味しいですよお酒? も初めて飲んだけど美味しかったです。クセになりそうなくらい」
昴くんは結構早く酔いが醒めてきている様子だけどまだ安心はできない。
「ウイスキーボンボン程度のアルコールではお酒と言わないんじゃないか」
九論が指摘する。
「日本の酒税法では『飲み物』のアルコール分が1%あればお酒って定義してるんです。ヒック……他の国や星がどうなってるのかまでは知りませんけどね、ただ飲み物でない場合は適用除外になるらしいんです。愛鈴は何でかこの事を知ってですねーひっく、スポンジケーキにアルコール度数が強いお酒を滴して食べてるんですよ~、もうやりたい放題なんで困ってるんです」
昴くんが隣に座っている九論の肩をポンポン叩きながら管を巻く。
酔いが覚めてきていた訳ではないみたい。
「わかった、わかったから昴くんはこれから少しづつでいいからアルコール耐性をつけないといけないと思うぞ」
九論が寄り掛かってきてる昴くんを押し戻す。
「昴くん酒癖が悪いと嫌われるぞ~」
素面に戻りつつあるアイリーンが恨めしそうに言う。
「ごめんなさい、ちょっと酔った振りをしてみたかっただけですよ。九論さんも巻添えにしてすみませんでした」
(そんな風に謝るんだったら最初からしなければよかったんじゃないかしら)
そう思ったのはアイリーンだけではないようで九論は顳顬を片手で押さえリバイヤさんは憐れむような視線を向ける。
みんなの視線を受けて昴くんは申し訳なさそうにした。
「リバイヤさんはさあ……モグッ」
「アイリーン食べるか喋るかどちらかにしないか」
九論が父親らしいことを口にしたから今はイノマンなのだろう。
「わかったわよパ……もういいわ許してあげる」
(何を許すって言うんだ?)
そう思ったのは九論だけではなかったはず。
「アイリーンさんは私に何か聞きたいことがありましたか」
「そうね、よかったら過去のいきさつを聞きたいなって思ったのよ、でも話したくないんじゃないのかしらって思い直したの」
「自分から進んで話したくはないです。でもアイリーンさんお二人には本当のことを知っておいて欲しいので話します」
「昴くん聞いたよね、うち達二人だけにだって何だかエースになった気分だわ」
「アイリーン茶化しちゃダメだよ真面目に聞かなくては悪いからね」
「エースと言えば『北斗と南』ですね私たちに取っての鬼門はカシオペアでした」
リバイヤさんが話しを軽いタッチにしたいらしく合わせてくる。
「ではお話します。私たちに取っての事の始まりは・・・」
長い話が始まりそうな気配が漂う。
眠気を飛ばすために昴くんは話に集中する心構えををした。
一方のアイリーンは座イスに深くもたれかかりいつでも寝れる体勢を整えている。
「今からおよそ千年前にカシオペア座イプシロン星人アドウェルが主催して行われた東域宇宙親善大会格闘技無差別部門で私の父が優勝したことから始まると思うのです。あの時のことは思い出したくありません。しかし忘れられないのです、だから話します。その前に一つ言っておかなければいけないことがあります。私のリバイヤと言う名前は殺された父のリバイヤサンから引き継いだものです。私の本当の名前はレヴィって言います。父が付けてくれたと聞いています。親善大会の決勝戦はヘラクレスさんとの激闘でした、父が海王族本来の姿に変身してしまう程にです。でもそれは全てカシオペア座イプシロン星人アドウェルによって仕組まれた罠だったのです・・・」
遥かな過去、太陽系の星星がやっと灼熱の地獄から冷めて黒々とした大地に大粒の雨が打ち付ける頃になると銀河宇宙連盟の調査隊が地球を訪れ生命の種を蒔いて帰っていく。
その後地球に生命が宿ると生物学者や地質学者が訪れた。
それから観光客が来るようになるのだけどそれはずっーと後になってからになる。
カシオペア座イプシロン星人アドウェルと隣接するとかげ座リザード星人ラケルタはそれぞれの星系で富豪の家系に生を受け幼い頃からお金に物をいわせ遣りたい放題の生活を行っていた。
やがて成人した二人は連絡を取り合っていたわけではないのだけどたまたま遊覧宇宙船での星系境界線に沿った観光旅行中に出会う。
その時、お互いが如何に贅沢の限りを尽くしてきたか言い争いの末、意気投合して地球観光に行くことになる。
地球人がある程度人間らしさを備えてくると悪い考えを持つ宇宙人は彼らの支配者になれないものかと考えてしまう。
この二人がその悪い宇宙人にきっちりと当てはまっていた。
アドウェルとラケルタはまだ人類未踏の地であった孤立大陸のムーとアトランティスそれぞれの王になってどちらが豊かで実りある生活を送れるか競い会うことにした。
二人は最初の競争として1日で世界各地を巡り自分好みの美女を集めてくる。
その結果集めた数が多いアドウェルがムー大陸を選びそこの王になった。
ラケルタが恐ろしい外見で脅して集めた50人の美女に対しアドウェルは自分が持つハンサムな容姿と優しい言葉をフルに活用して100人を超える美女を集めて来ている。
それぞれの大陸へ美女を伴い上陸して各々の実家から持ち出してきたお金持ちが無人星で快適キャンプを行う為のアイテム、簡易街並みセットとモブ型ロボットを展開して城下町を造り形だけでも小国の王に治まった。
アドウェルが行う治世で最初の20年は集めてきた女性達に子供を授けその育成に励んでいたが常に玉座の間に居たわけではなく殆んどの日々を国外で遊び回りながらその国の良い所を取り込んでいく。
子供達が大人になる頃には過去に培ってきた知識をフル活用して最新鋭の住宅街を整え夫婦で住まわせて更に人口を増やす。
快楽の日々は早送りのように過ぎて行きムー大陸の人々はバラ色の生活を営みながら人口も100万人に達しようとしていた。
一方のアトランティスを治めているラケルタはその外見に見合った恐怖政治により人々を虐げ十分な援助もしなかったので国は栄えず人口も増えては減りを繰り返し10万人の域を超えていない。
そんな状況の中で宇宙からの観光客が多く足を運んだのはアトランティスだった。
観光客たちはタダで高みの見物をして貧しい生活をする人々を眺め自分達が如何に裕福であるかを噛みしめる。
それに満足すると宿泊地であるムー大陸へ行きお土産を沢山買い求めムーの人々を豊かにして帰っていく。
ラケルタはその結果に苛立ち元々の土俵に間違いがあったんだとアドウェルに詰め寄った。
その言い掛かりを簡単に論破されてしまったラケルタは益々もって激昂し武力でケリを付けようとアトランティスで開発した地盤改良装置を悪用して観光客が引き上げた直後のムー大陸を一晩で海に沈めてしまう。
その時も国外に出て遊び回っていたアドウェルはかなりの日数が経ってからその事実を知ることとなりそれから復讐の計画を立てる。
それを実行するためAD1000年の地球ナスカ地方で宇宙人格闘技親善大会を催す事にした。




