133.リバイヤさん2
「ごめんね早く仲良しになりたかったからついからかってみたくなっただけなの、ねえリバイヤさんも早く仲良しになりたいわよね」
「その通りですよアイリーンさんの仰る通りです。私も早く仲良しになりたいです。それに高さのあるイスとかは本当に怖いんです。ほら私たち下半身が鱗でしょう、気を付けていても滑り落ちるのですよ」
「プッ」
昴くんが我慢しきれず吹き出す。
「あっ昴くんの方が酷いんじゃない」
アイリーンがハアハアと笑いを堪えて口で息をしながら言う。
昴くんが仕返しにと変顔してアイリーンの我慢を解き放つ。
「アハハハ、はあ、昴くんったら酷いよでもスッキリしたわ、ごめんねリバイヤさんあなたのことで笑ったんじゃないわよ昴くんが理由もなく面白い顔をして笑わせたのよ」
「わかってます。あなたたち二人は息がピッタリ合って羨ましいです」
掘りごたつ形式のテーブルにリバイヤさんと九論が並んで座ったので2人の正面になるようにアイリーンと昴くんが座った。
(あっ、わかった人魚さんの足には膝の間接がないんだ、だから椅子には座れないのかもしれない)
コタツの機能はしてないので上掛けと練炭火鉢は取り付けられていない。
リバイヤさんが後ろを向いて小さな扉の中から料理が乗った皿を取り出し始める。
「うちも手伝うわ」
アイリーンが座っていた所を抜け出し九論と入れ替わって料理をテーブルに揃えていく。
テーブルに飲み物のボトル瓶が4本用意された。
その内の1本は赤ワインで九論専用だろう。
「僕も手伝うよ」
昴くんが半分立ち上がりかける。
「男どもはそこに座ってなさいな」
アイリーンがテキパキと綺麗に食器を並べながら言う。
(愛鈴の隠された一面を見た気がするよ)
昴くんは感心した。
丸いテーブルの上が料理と食器で埋め尽くされてリバイヤさんとアイリーンも座り直して正面を向く。
「じゃあ始めましょうか」
九論の前に置かれていたボトルワインを目にも止まらぬ早さで自分のコップに注ぎ、昴くんのコップとそしてリバイヤさんのコップにも注いでいく。
「乾杯の音頭は年長者の九論ね」
アイリーンが高々と宣言する。
「愛鈴ダメだからねこの前言ったばかりでしょ今日は誤魔化しが効かないよ」
昴くんが『一歩も譲らないからね』ってみたいな口調で言う。
「チッ、勢いに流されなかったか残念無念」
昴くんは赤ワインが入ったコップを全て九論の前へと移動していく。
アイリーンがうらめしそうにガラスコップに入った赤ワインを見つめてると横からリバイヤさんの手が伸びてきてコップを一つ引き取った。
「これは私が頂きます。イノマン先生に渡したら飲み過ぎです」
「え~っ、リバイヤさんったら成人してるの」
「アイリーンさんのお国でお酒は20歳を過ぎてからでしたね、私は実年齢で65才なんです。だから飲んでも大丈夫です」
(まあ、海王族の成人年齢が80才なのは言わなくても大丈夫てしょう。社会の仕組みが違いますし飲酒制限なんてのもありませんからね)
「う~ん、見た目よりかなり年上だったのね、でもこのままの喋り方で許してもらえるよね」
「あたりまえです、アイリーンさんから敬語で話されでもしたらこの世が終わってしまう様な気分になります」
「敬語使わなくていいのねありがとう。でもそれは言い過ぎってものよ、うちも敬語ぐらい使う時があるわよ……たぶんね」
(うっ、オビスのおっちゃん……いや司令官には今度から気を付けてものを言わないといけないかも知れないわね)
「そうね、楽しくなって言い過ぎてしまったですごめんなさい、さあ乾杯にしましょう」
リバイヤさんがワインを手に取ろうとするのを昴くんが制した。
「ちょっと待ってリバイヤさん、リバイヤさんは海王族だったよね、海王族の平均寿命って何歳ですか」
昴くんが九論に詰めよって聞く。
「フハハハ昴くんは頭が固いな、いいじゃないかリバイヤさんには何回か晩酌の相手をしてもらってたからな、既成事実は出来上がってるぞ、でもまあ、あえて言うならば海王族の平均寿命は350才だなアハハハ」
九論が飲む前から酔っ払ったみたいに昴くんの頭を撫でながら言う。
「頭を撫で撫でしないで下さいよ~もう、そんな子供じゃないですからそれじゃあいいですか平均寿命350才の中で65才なら僕たちの年齢に換算すると……16才ですよ、僕たちと同い年になります。お酒飲んじゃあダメじゃないですか」
「リバイヤさんと地球人は上半身が似ている以外の部分は大きく違っている。彼女にとってアルコール分は貴重な栄養源にもなっているんだ、何でも自分たちのスケールで測ろうとすると大きな間違いを起こすことにもなりかねんからな気を付けることだ」
九論がワイングラスを手に取ってウインクする。
アイリーンと昴くんは再び九論の長い説教が始まるのかとびくびくしたけど案外直ぐに終わってくれたのでホットした。
「わかりました九論さん、リバイヤさんにも迂闊なことを言ってごめんなさい」
「別に気にしてませんからいいです。ごめんなさい、自分だけ頂くようになってしまってはアイリーンさんに悪いです。だから今日は飲むの止めときます」
リバイヤさんが九論の前に赤ワインを戻す。
九論の前に赤ワイン入りコップが3つ揃う。
「あら、さっき九論は飲み過ぎだからって言わなかったかしら、そうだいいことを思いついたわ、仕方がないからうちが今だけ海王族になる。それなら一緒に飲んでも大丈夫でしょう」
「大丈夫なわけないでしょう」
昴くんが頭を抱えながら言う。
「ちぇっ、つまんないの!」
「しかしそうだなアイリーンの年はいま幾つだったかね」
九論が改まって聞く。
「実年齢のことよねだったら16のはずよ……17歳かもしれないけどね」
(今さら何よ)
「日記を付けてたかな」
「そんな、まどろっこしいもの書いてないわ」
「だったらどこかで数え間違いがあっても分からないな」
アイリーンが大きく口を開けて頷く。
「そうよ、うち20歳越えてるのよ! なんで今まで気付かなかったんでしょう」
簡単に自分の歳を加算した。
「愛鈴、ウソの数だけ顔のシワが1本づつ増えていくよ、だから本当のことを言おうね」
昴くんの目は笑ってる。
「本当の事よ! だってうち宇宙で何年も一人暮らしをしてたのよ、一晩寝てたつもりでも本当は3日も4日も……もしかしたら1年くらい寝てたかも知れないわ、だから二十歳過ぎていると思うの」
昴くんはテーブルに突っ伏す。
(もう、お手上げだ九論のあのポーズをしてみようかな、せめてもの嫌がらせにならないかな)
「まああれだアイリーンはアルコールに耐性があるようだからな、それにそれ以上成長も望んでないのだろう」
九論はあえて『私の遺伝子を持つのだから』とは口にしない。
(成長……嫌な所を突いてくるわね、この幼児体型のままってのは絶対に避けたいわ)
アイリーンは頭の中で葛藤する。
「そ……そうね、にっ、日記付けてないから本当は16歳かもねうちが自分の年齢を数え間違えるはずないわ」
(良かったよロボちゃん置いてきて、こんなデタラメな答弁してたら何て罵られるか分かったもんじゃないわ)
「耐性はあるのかもしれないことは認めるよ、何たって僕に隠れてブランデー入りケーキを作って食べてたらしいけど僕は全く気付かなかったからね」
「そ、そうよ過去の経験からアルコール耐性は十分立証されてるわ」
(だから、胸が成長しないのかしらこれは一大事だわね)
「アイリーンさんはオレンジジュースでいいですか」
リバイヤさんが付き合いきれないと言いたげに聞くいてくる。
「ここ最近と言うよりか何か宇宙に出てからオレンジジュースしか飲んでない気がするのよね~」
アイリーンは話の流れが変わってホッとした。
「そうですか、じゃあとっておきの珍しいジュースにします」
リバイヤが後ろを向いて扉に付属している端末を操作する。
しばらくすると下からコップがせり上がってくるのが見えた。
「それは、オートレンジではなかったんだね」
昴くんが聞いてくる。
「ダムウエルターって言うのです。料理専用のエレベーターです。オートレンジはこの下にあってオートメーション化されてるのです」
リバイヤさんが赤色と白色のジュースを取り出しながら言う。
(本当はアンバ隊長の所からお手伝いさんをアルバイトで雇っているのだけど言うと会わせろって言ってくるのでしょうね)
「はいどうぞ、アイリーンさんには白ブドウジュースです。一般的なのは透明ですけどこれはエキス分を濃縮してるので真っ白になっていてここだけのオリジナルなのです。昴くんには赤ブドウジュースにしました。こちらもオリジナルになっていて赤ブドウとは思えない爽やかな味をしています。どちらもバイオハウスで栽培された特別なブドウから作られています」
リバイヤさんが自慢気に説明してる間アイリーンはじっと昴くんの赤ブドウジュースを見つめている。
「そっちのがいいせめて赤ブドウジュースで雰囲気だけでも味わいたいわ、昴くんは別にいいわよね……お願い取り換えてよ」
赤ブドウジュースと白ブドウジュースを入れ換えようとした時に手が届かなかったので昴くんに頼ってしまう。
「それじゃあ改めて乾杯!」
みんなが乾杯と唱和する。
「それで何に乾杯なのですかあ~、ヒック」
リバイヤさんが聞いてきた。
昴くんはいま気付いた。
「あっ、結局リバイヤさんさっきの赤ワインを飲んでる」
なんだかんだと言ってる内にリバイヤサンは自分のコップにジュースを注いでいない。
横目でアイリーンが怒ってないか盗み見る。
「うへへ~、美味しい~」
冥王星の地下にあるイノマン研究所で修羅場が始まろうとしていた。




