131.桃源郷15
宇宙人による地球観光が最も盛んになったのは中生代白亜紀で恐竜が一番多様化した時期。
地上での行動は限定的なものに限られていたけど観光に訪れるほとんどの宇宙人は品行方正で規則違反者が居なかったので観光客に対する取り締まりは行われていなかった。
平和な日々が続いていたけど北方星域よりカフ星人がやって来たことでおしまいになる。
彼らは地球観光パンフレットには目もくれずやりたい放題な行動をして他の異星人とトラブルを起こし野蛮人のレッテルを貼られて帰っていく。
カフ星人が地球観光に訪れる様になってから監視人を配置したけど焼け石に水、それどころか監視人が襲われる事態まで発生した。
違反者を取り締まるために地球観光組合ができてカフ星人は地球への渡航が禁止される。
その時は既に幾人ものカフ星人が太古の地球で行方を眩まし地球上で原始生活を送っていた。
これが遠い将来に向けて進化し続ける地球人の祖先となっている。
その地球観光が盛んになり始めて無防備な宇宙観光船が遠くの星系から何年も掛けてやって来るようになるとそれを狙った宇宙海賊が頻繁に出没するようになる。
カフ星人は北方星域開拓時代に独自開発した特殊な探知装置と移動手段を用いて神出鬼没に現れる海賊をことごとく退治して他の異星人たちから高く評価されていく。
海賊たちはガルメニ人を名乗っていたが裁判に掛けられることなくその場で直ぐに処刑されていたから詳細はカフ星人しか知らない。
処刑の理由は彼らが生きた肉しか食べなかったからだと言う。
これが人喰いガルメニ人の謂われになる。
ただ不思議なことは他の異星人たちが観光船にカムフラージュした討伐隊を編成して迎え撃とうとしても出会うことは一度もなかった。
カフ星人の功績が認められるようになると彼らの働き掛けにより東域宇宙連盟が結成され、地球の自然を地球人から守る目的で人工惑星がアステロイドベルトに建造され東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地と命名される。
この間恐ろしい手腕によりカフ星人は理想論だけで人心を惑わし全ての費用を他星人に出させていた。
地球上で人々が文明と呼べるものを築き始めた頃カフ星人は地球人こそが我々の子孫であると主張したかったのだけど、地球人の行いが想像以上に酷かったため逆に損害賠償請求されるのでないかと不安になり地球人の口封じ、つまり地球人を皆殺しにすることで過去の過ちを消し去ろうと計画して行動を起こす。
しかしその計画に気付き反対する勢力が現れカフ星人の思惑通りには事が進まなくなる。
それからは地球人の処遇について排斥派、擁護派、保護派の三竦み状態が長い年月続いた。
近年になり一部の地球人が地上で生活している宇宙人狩りを始めそれが日増しにエスカレートしていく。
そうなると今まで押さえ付けられていた排斥派が勢いを増し強行手段が取られると思われたが、三者が話し合って歩み寄った結果、地球人の文明を地球上から消し去ることで落ち着き全ての命までは奪わない方向でドライアイスメテオ作戦が実行される。
アイリーン達はその計画を知り妨害しようと行動をしたけど完全に阻止することはできなかった。
その時になって神話時代より世界各地に隠されていたノアの移民船を含めた9隻の宇宙船で合計8万人程の地球人が保護派の手引きで地球から脱出している。
その内の2万5千人が太陽系外宇宙に新たな移民先を求めて中央連邦があるいて座方面へと向かって行った。
アイリーンとしてはとても気になる存在だったけどスターキッドに一度は受け入れた妖精さんたちの落ち着き先を見にケンタウルス座アルファ星へ来てたのだった。
〈アイリーン、アイリーン起きて下さい。もうすぐ到着します〉
スターキッドAIの声が遠くから聞こえてくる。
声が少し震えてなんだか恐ろしい存在に声を掛けている様子。
「何なの朝なの? いつ寝たのかしら身体中が痛いわ、また床で眠ってしまったのかなあ……って」
「おはよう愛鈴、お互いぐっすり寝たね」
直ぐ横から昴くんが声を掛けてきた。
(どうしたのかしら少し照れるわね)
顔を赤らめながらアイリーンが昴くんを見詰める。
「ねえ、何で昴くんはコールドスリープカプセルに入ってるの? 今から寝るの」
(何時の間にキッドへ戻ったのかしら記憶がないわ……)
「だから『おはよう』って言ったよ僕も君も今目覚めたところさ」
そう言いながら昴くんは視線を後ろへ逸らす。
アイリーンが昴くんの視線を追い掛けて扉の横に立って居る九論を見つけた。
「やあ久し振り私にとっては1年振りかな」
アイリーンは頭を振る。
「ああ、頭が混乱する。何がどうなってるの聞きたいことが1つや2つじゃ」
「3つや4つでも足りないよ」
昴くんが横からあいの手をいれた。
「まあ説明は後からでもいいだろう納得するようにしかならないからな」
「ここまで来たら納得はしたくないけど、諦めたくもないから妥協するしかないですね愛鈴もいいよね」
昴くんの目が『あはは仕方ないよ』と言っている。
「いいよねって……ここはどこよ生きてるのよねうち達」
「それではコクピットへ行くとするか」
九論が手を貸して昴くんとアイリーンをコールドスリープカプセルから掬い出す。
二人はカプセルの上に掛けられていたバスローブを羽織ってからその横に用意されている宇宙服の中に潜り込んだ。
「僕のは新品だね」
昴くんが愛用してた宇宙服はロースさんに譲ったので新品があてがわれている。
ただロースさんは着ていた宇宙服をスターキッドから降りる時に戻してるのだけど誰も気付いてなかった。
「九論、ロースさんとスーちゃんが見当たらないけどまさか一緒じゃないとか言わないよね」
「一緒じゃないなC2へ置いてきた」
九論の返事はカラリとしたものだった。
「あなたを置き去りにしたことに対する仕返しかしら」
さっきまでハイジの様に頬を赤く染めて可愛らしく見えてたアイリーンが一瞬にして赤鬼の様な怖い表情に変貌していく。
「愛鈴、怒り出す前に理由を聞こうよ」
昴くんがアイリーンの手を取り落ち着かせようとする。
(よかった静まっていくよ、このままこのまま)
〈このまま冥王星のコミニュケーションエリアに入ってもいいですか、進入許可コードは持ってますけど誰が呼び掛けします。僕でいいですかアイリーンがしますかそれともイノ……じゃなくて九論のほうがい~のかなあ、なんちゃって〉
(空気が重いよ~)
スターキッドAIは鬱な気分を晴らそうと頑張った。
「キャプテンはうちでイ~ノよね」
コクピットへ向かって歩きながらアイリーンは九論を横目で睨む。
「勿論だとも」
九論が明るく言う。
「当たり前だよ」
昴くんは最近までいつも纏わり付いていたフレアホースとロースさんがいなくなって少し寂しそうにしている。
「じゃあ決まりねAちゃんがうちの名前で通信してよ、着陸地点はイノマン研究所でいいのよね、く~ろんさん」
「ああ私は構わないが直ぐに呼び出しがあると思うぞ」
九論がコクピットの扉を開けながら言う。
「そうかアンバ隊長ね、久しぶりにアイン星郷土料理が食べられるかもしれないわ、桃源郷で思い知らされてからずっと食べたくなってたのよね~」
アイリーンの表情が一瞬にして晴れた。
(愛鈴ってほんと食べ物の話題になると機嫌が良くなるよなあ)
「愛鈴、まだ食べられると決まった訳ではないからあまり浮かれない方がいいと思うよ」
聞いてはくれないと思いながらも取りあえず忠告を出す。
〈ああこの感じ久しぶりですね。アイリーンの機嫌が良くなってよかったですよ。それにこれから以前のように楽しい会話が聞けるかと思うと幸せな気分になりますね二人ともコールドスリープ中は全く喋ってくれませんでしたから、その間は九論さんが相手してくれましたけど九論さんは全然ボケてくれないから詰まらなかったです〉
「失礼なことを言うAIだな、私がボケたことなんか言ったらお前が心配するだろうから言わなかっただけだ」
「そこのところの経緯を後でゆっくり聞かせてもらうから今の内にまとめといてね」
アイリーンがいつの間にか怒り顔に戻っている。
(お腹が空いているんだね早く何か食べさせないといけないな)
昴くんはそう思った。
「愛鈴、ここまで来てしまったんだから水に流してあげようよ、九論のやったことなんだから僕たちが説明を聞いても理解に苦しむ難しい理由しか聞けないと思うよ」
「いや私の話を聞きながらあまりにも気持ち良さそうに寝たから起こさずそのままコールドスリープさせただけだのだがな」
九論が語尾を誤魔化すようにして言う。
「九論、僕が折角上手く理由付けしたんだから話を合わせてよ」
昴くんが憤っている。
「そのことはもう後回しよ、無事に着いたことだしお腹も空いたしだから先に何か食べましょうよ」
アイリーンは何よりも食事を優先したいらしい。
「もう少しだけ待てないか下で用意させているんだ」
「えっ、イノマン研究所で誰かがお食事の用意してるの? それはとても嬉しいのだけど食べられる物よね、あっそれとこれも聞こうと思ってたんだけど妖精さんが人の生気を集めた小瓶ってまだあるのかしら」
(イノマン研究所って誰かに貸してるのかしら)
「どうしてそのことを知ってるのだ、ああそうか酒蔵が盗賊に荒らされてると思っていたがお前だったんだな安心した。あれは1本しかない貴重な品物なんだ返してくれないか」
「あはは、もう無いよ!」
「どうした割ったのか?」
(愛鈴どうしよう本当のことを言ったりしたら)
昴くんが心配している。
「飲んじゃった、と言うか食べちゃったすっごく美味しかったから安心して食リポが欲しければ書いてあげてもいいわよ」
「食べた? もう中身は一滴も残ってないのか」
「Aちゃんあの時の瓶はもう処分しちゃったよね」
〈たとえ空ビンでもカシオペア座アシード星人の古代記号文字ですよ、高く売れると判断しましたのでそのままの状態でこそっと保管してますって〉
「抜け目ないのね、良かったわ九論の中に居るイノマンならたとえ空ビンでも中身が分析できるよね」
「ああ、後でやってみよう」
九論は涙を滲ませている。
嬉しいのか悲しいのかは本人にも分からない。




