129.桃源郷13
ウッディ族妖精のエントリーと友好の握手を交わしたアイリーンは相手のペースにはまってしまってるのではないかという猜疑心を持ちながら質問に答える。
「そうね、桃源郷名物の桃は食べられなかったけどあなた達が用意したおもてなし料理を食べさせてもらったわ、だから親交の証として話をしないといけないのよね。だとしたらまずうち達がここに来た目的からね・・・」
芽生えた疑惑を胸の内に秘めながら淡々と話を続けていく。
「ガルメニ艦隊が地球防衛基地を襲ってきた時によ、大勢の妖精さん達を従えてシュー・ウォッシュナビをしてきたってことなんだけどその割には地球人が一人も乗っていなかったってオビスのおっ、さん……いえオビス司令官から聞いたのよ」
「オビス司令官は機密漏洩違反ですね。
横で黙って聞いていたシュタイン統括支配人の冷たく言い放った顔が笑っていた。
「うちも同じことをおっさんに……」
横から昴くんが突っついてくる。
「ちゃんとオビス司令官って言わないとダメだよ」
アイリーンは軽く睨み返す。
「オビス司令官に言ったわ、そしたら何て言ったと思う『ここの太陽系を含めた辺境宇宙域で私を罰することが出来るのは誰一人として居ないから大丈夫さ』だって、もう本物の悪代官になっちゃうんじゃないかって心配したわよ」
シュタインさんとエントリーさんが声を出して笑いだす。
「いや本当にその通りだよ、だからヘンナ副司令官が地球防衛基地の司令官になったって聞いた時は天地がひっくり返る程の大騒ぎになってね大変だった、君には感謝の言葉だけでは足りないけど私たちがそのことを知ってることも極秘なんだから……分かってくれるよね」
「わかったわ、大人の世界がこの宇宙と同じ位に真っ暗なんだってことがね」
「言ってくれるじゃないか」
シュタインが受けてくれた。
今まで無表情で黙って聞いていた九論がニヤニヤしている。
(そういえば九論が声を出して笑った姿って見た覚えがないわね、もう一押ししてみようかしら)
アイリーンは思うだけにした。
「それでねその妖精さん達に生気を与えた地球人が今はどこに居るのかしらって考えたときに何かしらのヒントがここにあるんじゃないかと思ったのよ、それを探すためにここへ来たわけ、九論も同じことを考えてここに来てるのでしょう」
「まあそんなもんだな」
九論は曖昧に返事をする。
(お前を冷やかしに来たとはとても言えないな)
喩え心の中でも本音は言わない。
「しかしアイリーンは出発前に別のことを言ってなかったか」
「そうね、九論に言った覚えはないけどいわゆるさっきの情報網ってやつかしらね本当に恐ろしいわ、もしかしたらうちのパンツの色まで知ってるんじゃないかしら」
九論はどういう時に声を上げて笑うのだろうと想像しながら喋っていたのでついとんでもない言葉が口から出てしまう。
「そんなどうでもいいことは聞かないほうがいいぞ、ただお前は白と黒しか持ってなかっだだろう確率は2分の1だな、それより最初の目的ってやつが別にあっただろうそれをシュタインにしっかりと説明したほうがいいと思うぞ」
九論が淡々と言うとアイリーンの顔が赤くなって青くなって元に戻った。
(いつものことながら見ていて飽きないや、でももう少しポーカーフェイスってものを教えてやったほうがいいのかも知れないと思うよ)
昴くんは心の中でそう思った。
「そうよね、そんなどうでもいいことを引き合いに出す必要はなかったわ、丁寧にしっかりキッパリと謝るわだから全部忘れてね、特に昴くんこれはお願いではなくて命令だからそこのところ宜しく。そうそれでもう一つの目的ってやつのことよねガルメニの艦船に乗せられて連れて来られた妖精さん達をこれからどうしようかって話になった時、ここで生活してもらうのがいいんじゃないかってなったのよね、なんでも色々な人の噂話を聞いたところでは移民星に行った地球人は『飲んで食べて寝るだけ』って生活をしてると言うじゃないだから生気も溢れているだろうって思ったのよ。ただ本当のところは誰も知らなかったわだからうち達が調べに来たの、でもそれって動物園で生活してるのと一緒じゃない、もしかしなくてもうちはそんな生活は絶対嫌よ」
アイリーンが一気に喋る。
『だからよ、もし移民星で生活している皆が外に出たがってるならうちが何とかしてあげようと思ってるの』と続けたかったのだけど言葉にしなかった。
「それで自分の目で確かめた結果はどうだったですか」
エントリーが聞く。
「そうね答えから言うと生気なんて感じなかったわ、ここの皆は『食べて寝て、散歩して食べて、飲んで寝る』桃源郷みたいな……(桃源郷で合ってるわよねなんだか喋っていて監獄の中にでも居る様な気分になってきたわ)生活をしてたわそれに何も考えずただ生きているだけって感じしか受けなかった。 全員が無気力なのよ空気成分の影響だけじゃないと思うの。それでも妖精さん達を見たら意識が変わるかも知れないけど難しいかも知れないわね」
「それでどうします、連れてくるのを諦めますか」
「もうこっちに向かって来てるのよねー、あと4年は掛かるらしいんだけど途中でワームトンネルとか何か別の方法でショートカットができる航路が見つかればその分だけ到着が早くなるはずだけど……もしかして『もう、知ってました』なんて言うんじゃないでしょうね」
アイリーンの顔がまた赤くなる。
「そうですね大事なことです。誰かさんみたいに突然やって来て『お腹が空いたわ』なんて言われても困りますから」
エントリーは雲を掴むような話をして主旨を変えた。
「ちっ! うちはとんだ道化をやらされたって訳ね」
「自分の目で見ないと納得しなかったんじゃないか」
九論が念を押す。
「このドームは受け入れ場所になっていて落ち着いたら別の所へ行くって言ってたでしょう。そこを案内してよ」
アイリーンが核心を突こうと迫る。
「ふふふ、ここは地球防衛基地と大体同じ作りです。そしてみなさんも同じ様な仕事をしてるだけです。薬も抜けて普通に働いてる、そんなの見学しても時間だけを消費するだけで大して役に立たないと思いますよ、それよりこの表層に妖精さんのためだけのドームを作るってのはどうでしょうか? そうしてそこを地球人の祈りの場所として解放するのです。そっちのほうが実効性が高く妖精さん達にとっても良い環境になるのではないかと思いますよ」
エントリーが言う。
(妖精牧場?)
昴くんは何とはなしにそんなイメージが頭の中に沸き上がった。
エントリーが最高責任者であるシュタインの顔色をチラリとも伺ってないところを見ると最初からの決定事項のようにも思える。
「それが叶うなら一番いい方法かも知れないわね」
アイリーンはこれが最善の妥協点だろうと考えこれ以上の無理強いはしない。
「最初からそう決まってたのよね、段取りが良すぎるわ、うちは誰の手の平の上で……眠る? 」
小首を傾げて昴くんに目で訴え昴くんが答えた。
「踊る」
アイリーンは納得した表情をして言い直す。
「そう、うちは誰の手の平の上で踊るのかしら」
「踊らされていたのかしら」
昴くんが素早く訂正を入れた。
「お前たちに取ってはお互いがベストパートナーだよ、息がピッタリでとてもアドリブで喋ってるとは思えない」
シュタインが多分誉めているのだと思う。
その陰でイノマンが声を押し殺して笑っている。
それを見たアイリーンが薄く釣られ笑いをした。
「あなたは誰かに言われてここに来たのではないでしょう、ご自分の意思で来てるのですからその様なことは思わなくて宜しいのです」
エントリーさんが正しく諭す。
「そうよね、うちは踊らされたりしてないし踊ってもいない。い、いつも沈着冷静に行動してるわ」
昴くんは笑い出したくなるのを必死で堪えている。
アイリーンがそんな昴くんのお尻をつねった。
「痛いよ愛鈴、いきなりつねらないで言葉で言ってよ」
「もう笑いは収まったでしょう感謝しなさい、それと昴くんも何か言いなさいよね」
「それじゃあさ、こっちに向かっている妖精さん達はここに造られる新しいドーム内で生活をするってことで問題はないですね、そのことを妖精さん達が乗ってる船へ知らせておいたほうがいいんじゃないですか、完成前に着かないように時間調整するでしょうから」
「早めに着いたら、ここのドームで完成を待ってもらうさ、そうだこっちのドームのほうが妖精さんに取っては生活しやすいかも知れない、どちらが良いかは妖精さんに決めてもらおう」
シュタインがよく気付かせてくれたと昴くんの肩を叩いて誉めてくる。
話し合いが終わった後、イノマンがアイリーンを誘ってコントロールルームの見学に行く。
昴くんは一人で居残り(宇宙服のロースさんは気配を消して居る)広く感じるようになったミーティングルームの窓際でイスをリクライニングさせてボーッとして疲れた脳を休ませていた。
こんなに頭を使って話をしたのはいつぶりだろうと宙を仰ぐ。
「真っ赤に燃える太陽だから」
思わず口ずさむ。
(真っ赤に燃えてるから温度が低くてハビタルゾーンが近くなるんだったよな。確か……僕たちの太陽より随分近くにあるんだったっけ)
ゲストルームの窓ガラス越しに地球で見たことがある真夏の海に沈みゆく大きくて真っ赤な太陽に似た恒星、プロキシマ・ケンタウリの姿がある。
「真っ赤に燃える……太陽だから」
(うん、そこしか知らないんだった。あ~あ地球の太陽が見たくなっちゃったよ)
窓から射し込んで来る光を受けて昴くんは軽いホームシックにかかってしまう。




