128.桃源郷12
エントリーの話を素直に聞いていた昴くんが突然何もかも聞かれてない事までペラペラと淀みなく喋り出したのでアイリーンはマインドコントロールが行われたのではないかと直感して彼女を問い詰める。
「他意があって喋ったのではないですよ誤解なさらないで欲しいです。普通に喋ると私たちの言葉には命が宿るのです。初対面の人と話す時は特に気を使ってるのですけど昴くんは私の言葉に引きずり込まれたみたいです」
「そうだなエントリーの言葉にアイリーンが共感するのかどうなるのか見てみたいと思って黙っていたが全く影響されなかったどころか反感さえ持っていたな」
九論はそう言いながら少し悲しい顔をした。
(私の娘は他人の言葉を否定しながら聞いているのではないのだろうか、否定が打ち消された時に肯定する自分以外の何者も信用しないのであればどこかで教育的指導が必要だったのかもしれないな)
九論はそのまま悲しみの淵に沈んでいく。
「僕は洗脳されてしまったの?」
昴くんがアイリーンの腕に縋ってくる。
「洗脳ではなく感化された程度だな刷り込みの一種だ。幼い子供は親の言うことを素直に聞き自分の行いを褒めてもらおうとするだろう、昴くんはエントリーから叱られたと思い自分の行いを正当化する言い訳をしたのだと考えられるな、それに昴くんの意識はまだはっきりしているはずだから直ぐに元に戻ると思う。安心したまえ」
九論がすぐ浮上して昴くんに慰めには程遠い言葉を掛けた。
(僕は一時的にとはいえ操り人形にされるところだったんじゃないのだろうか)
昴くんはそう感じている。
「そういうことにしといてもいいわよ、でも今までロースさんと話をしていてそんなことは全然なかったわ」
アイリーンが疑問を投げ付けた。
「そうね妖精族といっても多種多様居るのよ言葉に魂が宿るのは私たちウッディ族だけかしらね」
(本当は地球人が元々持っていた力なのですよ『言霊』と呼んでるのを知ってるはずなんですけど、それが妖精族と繋がりを持つことができる……地球人の言葉にするには難しいのだけど、まあ、手段の1つと思ってもらっていいでしょう)
エントリーは『面倒だな』と言いたげに喋っている。
「あなたが特殊なのはわかったわだからこれからはもっと気を付けて話すようにしてね、それから誤解を招くような喋り方はしないことね」
「十分気をつけます。だからこれから仲良くしましょう」
エントリーが握手の手を伸ばしてきた。
アイリーンがそれには応じようとせず腕組みしたまま考え込む。
「分かったわこれからは仲良くしましょう。だけどここに桃が出てないのは何故かしら『桃源郷』の名物なのよね」
昴くんと九論はこめかみを押さえ、シュタインとエントリーさんは『桃源郷』とは何のことだろうと顔を見合わせた。
「愛鈴は桃が食べたかったのだよね、でもここの名物ではないと思うよ」
昴くんが何とか誤魔化す。
「桃もだけど果物が一つも出てないのは何故かしら」
昴くんの努力を無駄にした。
「ここのドーム内で育っている自然物は空気成分の影響を受けているのです。と言えば理解してもらえるでしょうか」
エントリーが事実だけを言う。
それを聞いたアイリーンはオレンジジュースと同じ色をした液体をコップに注ぐ。
(自然のものでないのならこれが何だかは分からないけど、アイン星の郷土料理だったら精神力でオレンジジュースの味になるはずだわ)
コップをじっと見詰めて意識を集中し口に運ぶ。
「ぶっ、ダメ……不味い」
(やっぱり精神力だけではどうにもならないこともあるのよね)
コップを手放そうかとした時に視線を感じた。
(ヤバイわみんなが見てる)
アイリーンは別の方向に意識を集中してコップの中身を飲み干す。
(ウゲーッ)
心の中で吐き出す。
「少し独特の味だけど美味しかったわよ」
笑顔を交えた言葉にできた。
シュタインとエントリーが微笑み返しをしてくれる。
「中々見込みがある子供じゃないか」
その言葉を聞いて昴くんは全てを悟った。
(このテーブルの上にあるやつ全部美味しくないのを揃えてるんじゃないだろうか、だから果物が置いてないんだ)
感覚を澄ますとコントロールルームでお仕事をしている人たちも含めたみんながこっちに意識を集中している。
「みんなグルなんだ」
昴くんが言う。
「どこにでもあるテストだよ一般的のね、でもよく見破ったね偉いよ」
シュタインが褒めてくる。
アイリーンは『この人たち何を言ってるのかしら』と言いたげにキョトンとした顔をした。
それを見てエントリーがクスクスと笑いだす。
アイリーンが『桃源郷』と勝手に名付けた場所は地球に最も近いケンタウルス座アルファ星でリギルケンタウルスという別名も持っている恒星に地球人の移民先として造られた人工惑星C2のこと。
その星は太陽系外惑星の1つでスーパーアースとも言われているプロキシマ・ケンタウリCの伴星になっていた。
何にせよその惑星軌道上へアイン星人によって建造された人工惑星C2のコントロールルームに漂っていた殺伐とした空気は柔らかなものに変化しようとしている。
アイリーンの左肩の上でスターキッドAIの通信ロボットが明るい声で話し掛けてくる。
「本当にアイリーンには毎回毎回クマバチが飛び込んで来たみたいに驚かされますよ」
アイリーンと昴くんがスターキッドに戻ってきてバタバタと身仕度したかと思えば直ぐに飛び出して行ったのでスターキッドAIはその時に喋る暇も与えられなかったことを今にして愚痴り出す。
「Aちゃんはクマバチなんて知らないでしょう」
(AちゃんったらAIのくせにいい加減なことを言うようになったわね、育て方を間違えたかしら)
「例え話ですよ、もうアイリーンったら冗談も受け入れられないくらいに追い詰められているんですね」
アイリーン手作りのメキシカン風ポンチョを纏った人形型通信ロボットが肩の上で言う。
それを無視してロースさんに話し掛けた。
「ロースさんはえ~っと、エントリーさんとお友達だったの?」
「地球防衛基地へ跳んでフレアホースに会えたのもエントリーが教えてくれたおかげ」
ロースさんがエントリーさんを気にしながら返事している。
(友達という訳ではない……と言うことでいいのよね)
アイリーンはそう解釈した。
「エントリーさんって未来見もできるのかしら、言葉には洗脳する力があるしね」
アイリーンはエントリーさんの目を見ながら話す。
(そんな力を持っていたらうち達の行動ってかなり前から知られていたことになるわね)
「未来見はできません。手に入る全ての情報を元に予測を出して判断しているのです。でもそれはどんな未来見よりも高い確率を持ってます。アイリーンさん達は12年前に一度来られてますねそしていろんなことをやって……まあバイオロイドさんのことはお気の毒でした。前にも言いました通りフレア族の方とは相性があまり良くないのですけど、ロースさんとは指向性遠距離テレパシーが通じてフレアホースさんの居場所を教えることができました。つまりアイリーンさん達と無事に邂逅することができたのです」
(何だか良く分からないけど、まあいいわ)
「そう、すごい量の情報をお持ちなのねじゃあうちにも教えて頂けるかしらスターキッドはこれから何処へ向かって飛べば良いのかってのをね」
(うち達のことが全て筒抜けになってるのならここに居る意味がないじゃん、一度戻って出直した方がいいのかしらねぇー、答えだけ先に教えてくれないかしら)
アイリーンは自分であーだこーだと考えるよりましなんじやないかと期待する。
「あなた達のこれからの予定はここが分岐点になってます。あなたがどっちを向いて歩き出すかで未来が変わっていきます。私はワクワクしてるのです『情報は取れるところから取れるだけ取りなさい』が私の信条なのですが必ずフルイにはかけます。でも引っ掛かるものはありません。私の情報は信頼のおけるところから入手してますので精度が高いのです。だから私はそれに高い価値を付けて生きていくための糧としています。ウフフ……でもあなたが求めている情報を無償提供して差し上げても良いですよ」
(とても妖精とは思えない言動をするわね、何か『お主も悪よのおー』って声が聞こえてきそうだわ、もしかしたらこいつもアシュラと手を組んでるのかしらアシュラに取って妖精さんの生態ってもしかしなくてもうち以上に興味あるものね)
アイリーンはエントリーのことを危ない妖精だなと思った。
昴くんが珍しく軽い嫌悪感を表情に出してエントリーさんを見ている。
(この妖精さんスターキッドAIと同じかも知れない。本来の姿からは想像もできないようなことを平気で言ってるよ)
昴くんは本当に妖精なんだろうかと疑いだす。
「わかったわこれからは仲良くやりましょうね」
アイリーンは表向き大したことではない様に振る舞う。
「ウフフ、いいでしょうあなたも私と同じ種類ですね」
エントリーさんが再び握手を求める。
(同じ種類ってどう言う意味かしら、うちは妖精族じゃないんだけどね)
「うちは正義の味方だからね、そこのところは譲れないから宜しくね」
アイリーンは差し出された手を握り返しながら答えた。
(冷たい、エントリーさんってかなり体温が低いのねロースさんは高かったわよね)
熱いキスの事を思い出して体温が上昇する。
「ウフフ、お若いですことそれではこれからどうしたいのかを聞かせて頂けますか」
(どういう意味かしら……うちに教えてくれるんじゃあなかったのかなあ?)
アイリーンにはエントリーさんが別の事を探っている様に思えた。




