#22 レイン,レイン,ゴーアウェイ ①
黒を染める赤雷の眩さは、降り立ち響く雷鳴と共に當真の視界を、“瞬間”で支配していた。
咄嗟に閉じた瞼を貫くような“赤”の雷光と、大地を穿つ轟音の衝撃波は、距離が離れているとはいえ、その威力の強大さを伝播させると同時に、當真の本能が“そこ”にいた楓の安否に、最大限の警報を打ち鳴らす。
「緋色ッッッッ!!!!!!!!!?」
叫ぶと同時に視線を“そこ”に向けるも、すでにそこには粉塵の壁が空へ高々と昇りあがり、とてもじゃないが“そこ”にいて“無事でいられる”とは思えないと確信させるような危機感と緊張感が、一気に當真の全身を駆け巡っていく。
(そん、な・・・まさか・・・)
抗いようのない絶望感に襲われる當真、が、次の瞬間、
ボッッッッッフッッッッ!!!ビュウッッッッッッッッ!!!!!
粉塵の壁を“裂き割り”、その中から飛び出でる“影”。
そして、當真がその“影”を認識する瞬間には、それは吹き荒れる“風”と共に當真のすぐ側に“降り立っていた”。
「緋色ッ!!くれはも!!!!!!良かった!!!大丈夫か!!?」
當真の隣に飛び降り立ったのは、満身創痍を全身から滲ませながら、意識を失い抜け殻のように項垂れたくれはを、しっかりとその手に抱え込んだ楓の姿だった。
「・・・・“なんとか”、ね・・・痛ッ」
「ッ!!あぶねえ!!!!」
すでにその両脚で自身を支えきる事も出来ないのか、楓が膝から崩れ落ちそうになるのを、當真は寸前で両腕を伸ばし支えきる。
その手に触れ、伝わる尋常ではない“熱”と、楓の荒い呼吸、そして意識のないくれはの“重さ”を一気に感じ取り、當真は今この瞬間が“圧倒的窮地”である事を改めて感じ取る。
ゆっくりと楓をその場に座らせ、くれはも横に寝かせつつも、現状の“把握”を試みる當真、
「何が、どうなったんだ?くれはが双葉の一撃からお前の事を庇ったとこまでは“見えた”けど・・・次の瞬間には“赤い”雷がお前たちの所にも落ちてきて、それでー」
「わかん、ないわよ、私も必死だったから・・・でも、きっと、」
そして“理解”する、楓が息も絶え絶えに指を差し向けた先に待つ、
「“アレ”が、その疑問に対する“答”の“全貌”よ、きっとね?」
その“非日常”の先の“不可思議”たる“存在”によって。
バギギギギギギギギギギギギギギギギリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ
空気が“裂け割れる”ような、不快すぎる“不協和音”。
そして、巻き上がる粉塵の壁を割り、その上空に忽然と現れたのは、“異形の存在”。そう、言うなれば、
“赤黒雷の怪物”。
全身を覆い尽くす“赤雷の鎧”は、常時雷鳴を戦慄き、“赤く透明な電磁の球体の膜”のようなもので囲われたまま上空に“不可思議”に浮遊し続ける、“非日常”の“ナニカ”。
顔、と認識すべきであろうその部分は、赤黒の雷波が“表情”を形どっているようで、人間の持つ感情に“当てはめる”とすれば、それは“狂乱”としか言い表せないであろう。
“魔法”がこの世界に生まれたあの日から積み重ねてきた、“魔法”が在る世界においても、SFやゲームなどの想像の世界にしか存在し得ないような、“非日常”の“不可思議”たる、その存在の顕現。
「・・・・・カッ、エ・・・・セ・・・キ・・・エ・・・・」
それは言葉、などではない。
その口元を形どった赤い雷波が蠢き、発せられる“音”。
そして、空中で姿勢を維持したまま、“怪物”はその“両手”を大きく広げる。
次の瞬間、
ゴッロロロロロロロロロロ!!!!!バッッッッッッッッッッッッッッッッギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ!!!!!バリリリリリリリリリリリッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!
その体躯を中心に、纏った“赤雷”が四方八方、縦横無尽に轟音を響かせながら四散し、炸裂し始める。
バッ!!!!ドガッッッンンンンンンンンンンンン!!!バリリリリリリリッッッバギリリリリリッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!
「なっ!?」
咄嗟に身構えつつ“防衛反応”で“右手”を差し出す當真と、辛うじてその“右手”を振り上げ、“風”の壁を正面に展開する楓。
ガッ!!キィィィィィィィィィンンン!!!!!ビュッ!!!ブウワァッッッッッッッッ!!!!
“たまたま”、2人に向かって来る“赤雷”の規模が、あくまで“余波”程度にすぎなかったが故に、當真や楓たちは一難を逃れるに至ったが、周囲の環境はこの一連の狭間で、瞬く間にその“世界”を変容させていた。
無尽に四散した赤雷は周囲の至る場所へと触れ、降り落ちた大地や周囲を囲う壁面、その全てが瞬時にして“焦げ割れ”、その形を粉々に崩壊させていく。
立ち込める粉塵、大地と空気を“焦がす”匂いが一気に充満し、そして空中に浮かび上がる“赤黒雷の怪物”の纏う赤黒の“鎧”は、より一層に雷鳴を響かせながら拡張していく。夜闇を紅蓮に染め上げ照らし出すほどに、その“雷光”の“赤”は加速し続ける。
「くっ・・・なんなんだよ、これ?!」
その圧倒的な“暴災”の拡がり続けていく状況に。強張り、感情を露わに疑問を叫ぶ當真に対し、楓は冷静に、その“結論”を見出し、言葉を続ける。
「あの時、あの瞬間、“赤雷”が“あの子”に降り落ちるって言うよりも・・・雷の全部が吸収されるって言うか・・・まるであの子の中に“吸い寄せられてる”みたいに、全身を“包み込んでいた”のが見えたから、きっとー」
「待て待て!?じゃあ“アレ”が双葉だって言うのかよ?!アイツの面影なんてどこにも見えねえぞ?!」
視線を改めて“赤黒雷の怪物”に向け、戸惑う當真に対し、楓はふらつきながら、一呼吸、そしてゆっくりと立ち上がる。
「・・・とにかく、“なんにしたって”、止めないと!!このままじゃ、ここだけじゃなくて!!危険がどんどん広がっていっちゃう!!!!」
周囲の破壊し尽くされていく環境を見渡し、その“右手”をまっすぐと、双葉カエデ“であろう”その“赤黒雷の怪物”へと向け、照準を合わせる楓。
その“右手”に、弱々しくも“風”が集まりだした、
その瞬間だった。
“赤黒雷の怪物”が、まるで“何かの”気配を察知したように、視線を動かす事なく、その腕をふいに振り上げ、楓の方に向かって差し向ける。
ドッ!!ンンン!!!バヂリリッッッ!!!!!!!!!!!!
放たれる赤黒の雷閃。楓に一直線に向かってくる雷撃に対し、咄嗟に楓もその手に集めた“風”を振り払おうと試みるも、腕を振るった瞬間に上体から力が抜け落ち、バランスを保てず体勢を崩してしまう。
(しまっー!?)
ガッッッッ!!!キィィィィィィィンンン!!!!
間一髪、雷撃が楓の元に届ききる直前に、當真は身を投げ捨てるように楓の前に乗りだし、“右手”を薙ぎ払うように振るう。
拳に触れた瞬間、伝わる“重さ”と“熱”、そして“嫌い”きれない程の“瞬間の激痛”に歯を食いしばりながらも、當真は赤黒の雷撃を上空へと受け流す。
「お前!!無茶すんじゃねえよ!?もう、まともに“魔法”使えるような状態じゃねえんだろ!?」
心配が“熱”となり感情を昂らせ、楓の前に仁王立ちしながらも荒ぶる呼吸と共に叫ぶ當真。
目の前で自身を庇った際に受けたダメージが、“どれだけのもの”だったかを、今の満身創痍の楓の状態を目にすれば、當真にも容易に想像できていた。
そして、その要因に対しての自責の念もあり、楓のこれ以上の無茶を“見過ごす”事など、當真には到底出来なかった。
“その一方で”。
楓自身にも“退けない理由”は在る。
視線を自身の後方で横たわる、くれはに向け、そして當真に向かって言葉を返す。
「“それでも”!!私がここで“退く”わけにはいかないのよ!!守ってくれたくれはの為にも!!私が“止めなきゃ”!!!!」
思い返される景色。
絶対絶命の危機を全身で感じ取った“あの瞬間”に、その小さな身を投げうって自身を庇ったくれはの姿。そして、それが“きっかけ”で、今目の前のこの状況が生まれている。
だからこそ、例え“魔法”がまともに使えないとしても、それが無茶だとしても、楓が“止まる理由”にはならなかった。
だが
ゴロッッ!!ゴロロロロロロロロ!!ドッッッッバンンンンンンンンンンンンン!!!!バヂヂヂヂヂヂヂヂヂリリリリリリ!!!!!!!!バリバリバリリリリリリリリリッッッッッッッッッ!!!!!!!
鳴り響き続ける雷鳴、連なるように響く轟音と降り立つ赤雷の雨。そして、連鎖する破壊音が周辺一体に反響し続ける。
“赤黒雷の怪物”と化した双葉カエデが、まるで“その意志など持たぬよう”に、その両腕を無作為に振り続けると、その動きに呼応するように上空の暗雲からは“赤雷”が降り落ち、そしてその身に纏う赤黒の雷波をも撒き散らすように周囲一体に放ち続けている。
止まらない“赤雷の雨”と、放ち撃たれ続ける“赤黒の雷撃”は、周囲の環境へと破壊の限りを尽くし続ける。それはまさに、地獄絵図をこの世界の現実に投影したような“非日常”の景色。
破壊され続ける環境を目の前にし、そして楓の意志の固さも“決して折れない”理由も十二分に理解しているからこそ、當真の脳内では感情を露わにした声が永遠と叫び続けられていた。
(どうする?この状況で!!何を、選択すべきだ?考えろ!考えろよ!!當真夜!!!)
焦り、拳を握りしめ、だが、ただただ自問自答を心に叫ぶ事しか出来ない當真。
彼の“一歩”をそこで止めているのは、彼の生来持つ信条や熱が、“最早”及ばない要因の為だ。
この危機的な“非日常”の状況、圧迫し続ける緊張感、そして目に見える“情報の少なさ”。
その全てが、この状況を膠着させ、思考を堂々巡りさせているのだ。當真の“一歩”を踏み留ませる要因は、まさにそこに尽きる。
何か、“情報”が、この膠着した状況に風穴を開けるような、そんな“情報”がひとつでもあればー
「“アレ”、“魔法”が“暴走”してるんだよ。“魔力”の流れが“ぐちゃぐちゃ”に“識る”からさ、きっと間違いないんだよ?」
“声”。
當真に届いた、その“聞き馴染みのある声”は。瞬間にして、少年の抱える焦燥感も、そしてこの緊張感の漂う空気をもいとも簡単に切り裂いていく。
それは、“非日常”が渦巻く赤に染まるこの夜闇を、一瞬にして照らすような、まさに“光”の如き“声”。
ゆっくりと振り返る當真と、それに連なるように視線を向ける楓。
“声”の主、當真と楓の二人がそこに見出したのは
荒れ狂う赤雷の雨と吹き付ける風の中で髪を靡かせながらも、その両手を添えながら耳を澄ませ“識る”『金色の少女』、
パレット=セブンデイズの姿であった。




