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そんな魔法ならいらない  作者: door
Chapter 3 : Anti-Fake Strength
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#-21.5 the Origin of “Magenta” (Burgundy)

“力”。


その言葉で表現出来うる、自分には持っていない“全て”を、目の前にいる、自身と同じ顔を持つ“姉”は生まれながらに持っていた。


自身が母親に似て生まれ持った体の“弱さ”、それとは正反対でどんなことでもすぐに出来てしまう身体の“強さ”や学習能力の高さを生まれ持ち、どんな場所でもどんなに大勢の見知らぬ人が周りにいても物怖じしない精神的な“強さ”も持っていて。


幼いながらに、言葉の意味を理解は出来ないなかで、ただ、その全てが自分には到底持ちえないし“届かない”ものだという事を、生まれて記憶が芽生える頃にはすでに本能的に“理解していた”。


“同じ”に見えるけど、自分とは全く違う“写し鏡”のような存在。


“それでも”。そこに対する羨望や妬み、そんな引け目みたいなものは『ゼロ』だった。


慣れ親しんでしまった病室が、いまや自分にとっても“居場所”になりつつあり、同じ年頃の“友達”など作れる環境でもない中で


いつだって自分の“名前”を呼んでくれて、天真爛漫な笑顔でその日あった事を話してくれたり、自分の行けない場所での出来事を“冒険譚”のように話してくれたり、“世界”へと視界も心も繋いでくれて。どんな時でもいちばんに側にいてくれて。


自分にできない“弱さ”の、そんな全てから“守ってくれる”のが、同じ年同じ日(正確には“ほんのひと足”早くだが)、この世界に一緒に生まれた“相棒”であり“特別”な存在、“姉”の『双葉 くれは』だった。


母親がこの世界から旅立って以降、それを受け継ぐように入退院を繰り返す日々を送るようになった自分にとっての、生きる意味も理由も。その“力”の糧であり根源で在ったのは、いつだってその“全部”を自分に“向けてくれてる”くれはの存在だった。


『ヒーロー』。くれははまさに、自分にとってのたったひとりの『特別(ヒーロー)』だった。



とある日。いつも通り、朝から見舞いに来てくれたくれはと一緒に、病室のベットから眺め見ていたテレビのニュース番組に、思わず視線が釘付けになった。


『ホワイトタイガー』。割と近くの動物園で今日お披露目されるその動物の特集を組んだニュースだった。


別に、“特別”動物が好きであるといった事もなかったが、テレビの中のその動物の“白”さは、これまで見たこともない様な“美しさ”で、それでいてその生来の獰猛さも気高さのようなオーラの、相反する感情が入り混じるその姿に。“非日常”を感じるほどに、惹かれてしまっていた。まるで


『“魔法”がかけられたみたいに!!』


なんて、言葉と感情が、自分でも驚くほどに口から零れ落ちていく。


“魔法”。自身にも、そしていまだ目の前の“姉”でさえ持ち得てない、“非日常”の象徴。その言葉を口にする事で、改めて『ホワイトタイガー』に対しても、その“熱”は加速していく。


そして高まっていく熱と同時に、目の前の、自分が置かれている小さな病室の、その現実の景色に、


すぐに“追いつく”、心が。


願っても、その場所に行くことは出来ない。この熱も、高揚感も消化することを出来ない事が、自分にとっての現実だ。


流れ続ける映像、楽しそうな音楽に合わせ、商業的な側面でもある記念グッズの宣伝もしている。直接見る事は叶わないかもしれない、でも


『いいなあ、“写真”でもいいから“見てみたい”なあ、』


それは、小さな“願い”だった。直接目にする事は出来なくとも、その手に願う、感情を押し殺した先に零れ落ちる、“ひとりごと”。でも


『よーし!じゃあ!お姉ちゃんがカエデの為に動物園に行って、この“写真”買ってきてあげる!!あと直接見て、どんなだったかも教えてあげるね!!任せて!!!』


伝えなくても“伝わる”のが、くれはが自分にとっての、いちばんの“特別”であるという、存在証明。


満面の笑顔でそう言い残し、写し鏡のようにそっくりな見た目の中で“唯一”異なる、自身の赤とは違う紫のメッシュが入った黒髪を煌びやかに靡かせながら、勢いよく病室を駆け出していくくれはの、その後ろ姿に。


言葉が追いつくよりも早く、ただただその背に微笑みを向けていた。どんな状況でも、一瞬にして、自分の胸の真ん中を、あったかい気持ちでいっぱいにしてくれる。そんな少女の“大きな”後ろ姿を胸を躍らせるような、誇らしいような、そんな気持ちと晴れやかな表情で見送っていた。


そして、数時間後。


夕陽はまだ沈まない頃合いに。くれはが病室に意気揚々と舞い戻って来た、ただし、その感情の理由は、想定していたものとは違っていて・・・


『その女の子!!すっごいのよ!!カエデと同じ名前なの!!それでね!!めちゃくちゃ格好良くて!!ほんとに“ヒーロー”みたいでさ!!!!』


『・・・へえ、そうなんだ、』


『しかもね!近所の子みたいでさ!知らなかったー!!あんな子がウチの近くに住んでたなんて!!これってさ、運命の出会いなのかなー?!あっ、あとさ!それでねー』


正直。そこから先の記憶は、“曖昧”だった。


お土産に買ってきてくれたその『写真』にも、心はどこか動かない。土産話のほとんどを占める、自分と同じ“名前”の女の子の話にノイズがかかっていく。


目の前のくれはの心が、ずっとずっと掴まされっぱなしになっている事を、“誰よりも”その心の在り方の居場所を理解出来るからこそ、くれはの話はまるで頭に入って来なかった。


ずっと一緒に“いる”のに、今この瞬間、くれはの世界に自分は“いない”。そんな、初めての感覚に、この時はまだ、それに見合う“言葉”も“意味”も知らなかった。


ただ、くれはが自分以外の事で、こんな“表情”を見せている事に対し、どこか納得しようと心の中で自答していた。


(きっと今日だけ、だよね?くれはだって、“たまたま”出会った子が近所の子だったから、こうやって今は夢中になってるだけで、時間が経てばきっと・・・)


“もちろん”。見ようとしなかっただけで、心の奥底に隠していた、“想像出来たその先の未来”は、そんな“強がり”さえもすぐに掻き消していく。



『聞いて!!今日初めてウチの近くで“かえでっち”に会ったんだよ!!明日は公園に行くんだー!!』



『“かえでっち”が“魔法”使えるようになったのって、私の事“救けて”くれた、あの瞬間(トキ)が“初めて”だったんだって!!すごくない!?』



『“かえでっち”、あんなに大人っぽくて格好良いのにさ!!“変な味”のジュースが好きなんだって!!面白いよねー!!“じーじ”に聞いたら、”ぎゃっぷ”って言って、カワイイ一面なんだって!!』



『昨日ね!!夜に、“かえでっち”の家に泊めてもらったの!!“かえでっち”のおかあさんって、“かえでっち”にそっくりなんだけどさ、なんか“面白い”人だったよ!!あとさ、一緒にお風呂にもはいってさあー』



心が、すごく“窮屈”だった。



くれはの“笑顔”と、そしてくれは自身もきっと、自身の楽しかった“想い”を共有する相手に、自分を選んでいるのだという事も、その意味も、全部子どもながらに理解はしていた。でも、それでも、


向けられてる“笑顔”の先が、自分“だけ”じゃなくなった事も。自分にとっての“ヒーロー”の、その“特別”になってる“同じ名前の女の子”の存在が、日に日に、重りのように、絡みついて解けなくなるように、自分の中に圧し掛かってきて。


とても、それが、その“時間”が、“窮屈”になっていった。



“あの始まりの日”から、ひと月もしない頃。



これまでよりもずっと体調は思わしくない状況に陥り、そしてそのタイミングで、父親の海外赴任先近くの病院で、この国よりも積極的に“魔法”を使った治療を行っている米国(アメリカ)へ家族みんなで向かう事が“突然”決まった時、


(“やっと”、“日常”を取り戻せる)


それが、一番に思い浮かんだ“感情”だった。


この“場所”から遠く離れる事で、全て“リセット”出来ると思っていた。


突然の出来事(わかれ)に泣きじゃくるくれはの顔は、今でも忘れる事はないけれど、それでも“リスタート”出来ると思っていた。


米国での生活は、全てが“新鮮”だった。“魔法”に対する価値観や“生活観”も全てが違っていて、それゆえの“弊害”が少なからず生じる部分もあったが“恩恵”も多く、“世界”を知るきっかけにもなった。


米国での入院生活も、生まれ育った国とはまるで違っていたのだが、日々時間を積み重ねていく中で、数年の時を経て、“もう一度”くれはが隣に“いつも”いる生活が“戻って”来る頃には、入院生活も次第に通院生活になるレベルまでになっていた。



だが、とある日。“それ”が再び訪れる。



きっかけは、くれはの“魔法”の“発現”。くれはは、突然“発現”した、その“電気”を操る“魔法”を、嬉しそうに報告してきた。


『見て見て!!これで私も“かえでっち”と同じ魔法使役者(マジックホルダー)になれたの!!日本(あっち)のニュースでも時々報道されてた“かえでっち”みたいに、私もこの“魔法(ちから)”でいろんな人を“助けて”さ、私も“かえでっち”みたいな“ヒーロー”になるの!!』


“ヒーロー”。その言葉の本意が、かつて“自分の為”だけのものだと思っていた“それ”とは、全く違う意味合いで在る事も、瞬間的に理解した。そして



『それでね、今度は私が“かえでっち”の事を“救けて”あげるんだー!!』



喜々爛々と。そして、その瞬間に、“全て”を知った、


くれはの心からは、何一つ“リセット”などされていなかったのだという事を。


生来の体の弱さをようやく克服しつつあったのだ、“魔法”が使えない『ゼロ』で在る事“なんか”に引け目を感じてる余裕など一ミリもない日々さえも“幸せ”と捉えて過ごしていく中で、


くれはの、その言葉が、想いが、“それ”を痛烈に実感させた。


(なんで・・・なんで、“ソイツ”の名前ばっかり呼ぶの・・・なんで“ソイツ”の事ばっかり見てるの・・・なんで、“選ぶ”の・・・なんで・・・)


明確に、芽生える“感情”の“矛先”。自身と同じ名前の少女が、くれはとは違うベクトルで、自身の中で“特別”になっていた。


そして、その数週間後。生まれ育った国から『レベル・2』の魔法使役者が生まれたというニュースは、遠く離れたこの米国にまで“もちろん”届いてきた。


『見て見て!!“かえでっち”、『レベル・2』に認定されたんだって!!『緋色の暴風《スカーレット・ストーム》』だって!!凄いよね!!流石、私の“ヒーロー”だし運命の人だわ!!』


拳を、握りしめていた、



『私ももっともっと頑張ってさ!!同じ『レベル・2』に絶対なるんだ!!それで“かえでっち”の隣に並び立つ“ヒーロー”になるの!!この“魔法(ちから)”できっと!!!』



バチリリリリリリッッッッ!!!!!



高揚する感情に呼応するように“紫電”を靡かせながら、“幸せそう”に“誰か”を思い浮かべるくれはを目の前に。


(“魔法”・・・ちから・・・チカラが、“在る”から“選んだ”の?・・・あ、そうか、“わかった”、)


ずっと鳴り響くようにかかっていた“ノイズ”が、晴れていく。


(“チカラ”がないから、『ゼロ』だから“選ばれなかった”んだ、)


それが、“持たざる者”ゆえの“答(アンサー)”だった。そして、その“答”の先に、辿り着く。



(“じゃあ”、『ゼロ』になればいいんだ、そんな“魔法(ちから)”も“緋色 楓(ヒーロー)”も。そうなればきっと“また選んでくれる”、よね?)



“ノイズ”がクリアになり、明瞭な“根源”が生まれる。あとはもう、“そこ”に向かって突き進むだけだった。


どんな手段でも方法だって構わない、例えそれが“世界”に反する“嘘”のような“特別(チカラ)”だったとしても、だ。


『ゼロ』だからこそ、なにも失うものはない、


この先はもう、“手にしていくだけ”、



生まれながらにずっと一緒の、唯一の『特別』を手に取り戻す。この“想い”に抗う理由など、なにひとつ『ゼロ』なのだから。




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