#21.5 the Origin of “Magenta” (Violet)
『くれは。あなたは“お姉ちゃん”なんだから、カエデの事を“守って”あげてね?何でも“出来ちゃう”あなたが、カエデの・・・“ヒーロー”になって、あげてね?』
それが、身体の弱い母親との、一番古い“記憶”であり、“約束”であり、最後に見た“笑顔”だった。
生まれた時から、いやこの世界に生まれる前からずっと一緒にいる、見た目は自分に瓜二つな家族である“相棒”は、その“約束”を交わした後に亡くなった母親に似て身体が少し弱く、それこそ幼少期は入退院を繰り返す日々であり、くれはがカエデと共に過ごせる場所のほとんどが、生まれ育った家ではなく、母親がその人生の晩年をすごした病院と同じ病室の中であった。
朧気ながらも鮮明なその“記憶”、“約束”が、小さいながらもくれはの心には大きな“原動力”となっており、その当時は“そんな言葉”であることも、その“意味”も決して理解などしてはいなかったが、くれはは“本能”的に、“その為”の“選択”を一番に行動する日々を送っていた。
海外出張をしている父親と、今はもうこの世界にいない母親に代わって、もちろん身の回りの世話の大半は執事が成り代わって行っていたのだが、どんな時でもくれはの行動理由の“一番”には、カエデの側にいることが在った。
子どもながらにも、それが一番の“支え”になることも知っていたし、だからこそ“自分の事”以上に、一番に“カエデの為の姉”で在ることを日々体現していた。それが、自分の“存在証明”とさえ感じる程に、だ。
とある日の朝。病室に備え付けられたテレビから流れてくるニュース番組。
そこに映し出されたのは、病院から二駅先にある、この街でも有数の動物園で、『ホワイトタイガー』がお披露目されるという、日常の他愛もないニュースのひとつ。
『ホワイトタイガー』自体も世界中を見渡しても“群を抜いて”珍しい、といったワケでは決してなかったのだが、今回この国の動物園でお披露目される個体の“毛並み”の“美しさ”は、世界でもトップクラスの“白さ”を謳っており、まるでー
『“魔法”がかけられたみたいに!!ほんとに“まっしろ”だねえ!!すごいねえ!!かっこいいいねえ!!くれは姉ちゃん!!・・・あっ、動物園で“写真”も売ってるんだ!!』
テレビから流れるそのシーン。それは、そのお披露目を記念した動物園のグッズのひとつ、ホワイトタイガーの“生写真”の販売も宣伝している場面だった。
物珍しそうに食いつくカエデ、だが
『いいなあ、“写真”でもいいから“見てみたい”なあ、』
“笑顔”と、そのすぐ後に“押し殺した”感情。その“全て”を、言葉にしなくても手に取るように“分かる”くれはは、間髪入れずに明るい声でカエデに告げるのであった。
『よーし!じゃあ!お姉ちゃんがカエデの為に動物園に行って、この“写真”買ってきてあげる!!あと直接見て、どんなだったかも教えてあげるね!!任せて!!!』
目の前の“笑顔”を守る、それが“ヒーロー”で在るという事を、くれはの“存在証明”が叫んだのだ。
“迷うことなく”病室を駆け出していくくれはの背を、その行動の早さに呆気に取られながらも、嬉しそうに見送るカエデ。
執事の目を掻い潜り、病院を抜け出すくれは。その手に握りしめた“お小遣い”は、何かあった時の為にずっと“使わず”に溜め込んでいたものだ、それを“今”使う事に“迷い”などなかった。
ひとりで行動する、ましてや双葉家の身の回りの“責任”を受け持っている執事に黙ってなど“以ての外”、くれははこの状況に、自身の心臓の鼓動がどんどん加速し続けるのも実感していたし、だが、そんな“非日常”にどこか心躍る、自身のその感情に従い、くれはは駅への道を軽やかに駆けていった。
“人見知りしない”性格が功を奏し、そこに至るまでの道中も、目につく人たちに片っ端ら声をかけ続け、その行動力で難なく動物園まで辿り着いたくれは。
だが、今朝のニュースの影響もあってか、いつにも増して人の波、いや聳え立つ人の壁に、終始圧倒されながらも、なんとか入場にまで漕ぎつける。
そこから先、向かうべき道筋は“迷いようがない”程に、全ての人の足取りや、零れる会話の隅々から、その先が“目的地”であることはくれはにも容易に理解する事が出来た。
(この先に、きっと・・・)
逸る鼓動、加速しようと試みる足音。だが、現実として、自身の目の前に広がり続ける“人の壁”は、小さな子供心にとっては大きすぎる壁だった。
一向に辿り着ける気配がない中で、それでもその足を止める理由を、少女は持っていなかった。
『ここまで、来たんだ。一目でもちゃんと見て、“写真”と一緒にカエデに話すんだ!!あの子の笑顔は!!お姉ちゃんの私が守るんだ!!!』
想いを言葉にする事で、心を奮い立たせるくれは。と、次の瞬間、
“バヂリッ”・・・・・・ガッッッ!!!!!シャアンンンンンンンンン!!!!!!!!!!!!!
聞こえてくる“それ”は。くれはの周囲だけでなく、この動物園にいる人たちの賑わう空気を、一瞬にして静寂の世界に変えるほどの、巨大な“破壊音”。
そして、一瞬の静寂の先、一気に湧きだつ“悲鳴”の“嵐”。そして、“人の壁”が洪水の如く、その進行方向を“逆転”し、逆流し始めた。
『え?なに、なにが・・・!?』
混乱必死なのは言うまでもない。
くれはの視界には、ただただ“その破壊音”の元から逃げ惑う“人の壁”が絶え間なく映り続けるしかなかったのだ、今が“どういう状況”であるかなど、くれはが理解する時間など『ゼロ』に近かった。
過ぎ去っていく人の波に溺れる様に、くれはは戸惑いながらその足を止めてしまう。が、もちろんそれは“悪手”だ。
混乱渦巻く状況、逃げ惑う大人たちの視界にとって、その場に留まっているくれはは“小さすぎ”た。
ドンッ
『きゃあ!?』
人の壁の一端が、くれはの小さな肩にぶつかったまま流れていき、くれははその場に座り込むように倒れてしまう。
一瞬にして視界が彷徨う、耳に届くのはたくさんの足音と大人たちの叫び声、大地に触れたその小さな手に伝わる振動も、徐々に遠く小さくなっていくのが分かる。そして
『“逃げて”!!!!“危ない”っ!!!!!』
誰とも分からない“その声”が、自分に向けられている事は直感的に、そして直後に訪れた“圧倒的威圧感”と、“獣の息吹”に。くれはは恐る恐る、視線を上げる。そこには
グルルルルルルルルルルルルルッ
『あ・・・』
“白の獣”、いや、もはや“恐怖”という名の“ナニカ”としか、くれはの脳裏には言葉が浮かばなかった。その正体は、このような形で見つけるとは想定していなかった『ホワイトタイガー』そのものであった。
(どういう事?なんで目の前にいるの?というか、これって、どう考えても“まずい”よね?!)
戸惑う思考の先、鼓動が高まる一方で、背筋が比喩ではなく現実として“氷”が触れているような寒気と、そして鳥肌が侵食していく感覚がくれはの感情を支配していく。もちろん、立ち上がって逃げ出そうとすることなど到底出来ない。
視界がスローモーションに動く。その毛並みの“白”はとても美しく、だが、唸り声を上げ、垣間見えるその鋭利な牙、興奮したような目つきは間違いなくくれはを捉えている。
ジリジリと、その爪先を近づける様に距離を詰めてくる『ホワイトタイガー』。
“その瞬間”、くれはは唐突にその言葉を脳内で“受け入れた”。
(“ごめん”、カエデ。きっと、もう・・・)
目を閉じるくれは。同時に、両前脚を高々と掲げる『ホワイトタイガー』。唸る獣の声、そして
ビュウッッッッッッ!!!!!!
瞬間。目の前に降り立ち、吹き荒れる“風の音”。
そして、“困惑した唸り声”を上げながら、迫りつつあった『ホワイトタイガー』の“圧迫感”が“遠のいていく”感覚が、その“風”に乗ってくれはにまで伝播してくる。
『え?・・・“誰”?』
恐る恐る閉じていた目を開けたくれは。その目の前に在ったのは、自身と同じくらいの“子ども”の“後ろ姿”だった。
“不可思議”に、その周囲を渦巻く“風”に靡く“赤い髪”の“女の子”。
『大丈夫!?』
振り向き様に、早口で怒鳴り散らす叫び声と、“子どもながらにも”分かる程の“可憐な”顔立ちに。くれはは思わず、鼓動が再び“熱”を持って加速していくのを感じ取っていた。
『あ、あの・・・』
グルルルルルルルルルルルルッッ、ガウワァッッッッッ!!!!!!!
くれはの言葉よりも“早く”、『ホワイトタイガー』が再び両前脚を掲げ、勢いよく飛びかかって来る。くれはだけではない、その前に立つ小さな“赤髪の女の子”諸共、潰しかねない勢いのままー
『ぶっ!!!飛べえええ!!!!』
“赤髪の女の子”が叫ぶと同時に、その“右手”を突き出す。次の瞬間、どこからともなく“不可思議”に、その“右手”に向かって吹き寄せられた“突風”が収束し、弾ける様に“右手”から解き放たれる。
ビュッッッウワァッッッッッ!!!!!!
文字通り、“風の壁”となった“不可思議”が、“赤髪の女の子”に届く直前の『ホワイトタイガー』を“いとも簡単に”吹き飛ばす。
頬をすり抜けていく“風の余韻”と、目の前の“恐怖”を“吹き飛ばす”、その“赤髪の女の子”の後ろ姿、目に映るその景色全部に。
くれはは生まれて初めて、自分が“守られている”という感覚を強く感じ取っていた。そう、それはまさに
(すごい・・・わたしの、“ヒーロー”だ!!!!!!!)
ずっと、カエデの為の“姉”であり、“ヒーロー”でありたいと願い、その為の“存在証明”を生き続けていたくれはにとって、その光景は“自分自身”に向けられた“光”だった。世界の見え方が“変わる”瞬間が、そこに確かに在った。
と、くれはの感情が高ぶる矢先。吹き飛ばされた『ホワイトタイガー』が体勢を立て直し、再び迫りつつあった。
『なら!もう一回・・・』
“赤髪の女の子”が、再びその“右手”を掲げる。
だがしかし、
『・・・だ、“出せないッ”!?』
『えっ!?』
その言葉と“戸惑いと焦り”の反応に。くれはの防衛本能が再び危険信号を鳴らし始める。
刻一刻と迫りくる“白の恐怖”に怯えるくれはに対し、“赤髪の女の子”は振り返り、その小さな両腕を目一杯に広げ、まるで“盾”になるかのように身構える。
だが、とてもじゃないが、“不可思議”なき、ただの小さな女の子が白き猛獣の狂爪を防ぎきれるような未来は、訪れなー
『よいしょおおおおおおおお!!!!!!!!』
ゴッッッッッッッ!!!!!ドッッッッッッ!!!バアアアアアアアンンンンンン!!!!!!!
くれはの視界に映り込んだのは、“緋色の残像”。
そして、突如としてこの場に横入りして来た、その“誰か”の華奢な右腕から繰り出された“ラリアット”を、為す術もなく受け、いとも簡単に数メートル先まで“吹き飛ばされていく”、『ホワイトタイガー』。
まさにそれは、“不可思議”なき、だが余りにも唐突な“非日常”の光景だった。
『!?????』
混乱するくれはに対し、その“誰か”は“赤髪の女の子”の前に仁王立ち、“屈託のない笑顔”を振りまきながら、“叫ぶ”ように力強く声を“放つ”。
『“楓”!!よくやった!!“誰も傷つけない”為に誰よりも早く飛び出すなんて!!流石“私の娘”だよ!!それに“魔法”も使える様になってんじゃん!!凄いぞ!!偉いぞ!!よしよしよーし!!!!!!!』
ワシャワシャワシャと、力強く“赤髪の女の子”の頭を“撫でまわす”その女性は、本人の発するその言葉通り、目の前の小さな“赤髪の女の子”をそのまま“大人”に成長させ、さらにより“美人”に仕立て上げ、まさにその“赤髪の女の子”の“母親”なのであろうと、初対面のくれはが確信持てる程の風貌の女性だった。
『ちょっと!!わしゃわしゃしないでよ!!!!もう!!!!!』
その手を“うっとうしそうに”薙ぎ払う“楓”と呼ばれた“赤髪の女の子”に対し、“赤髪の母親”は、なおも明るく笑いながら、腕をグルグル回し、その華奢な腕でラリアットをかまし吹き飛ばした『ホワイトタイガー』に向き合いながら、言葉を続ける。
『あはは!!母さんが褒めてんだから素直に受け取ればいいのに、楓ったら!!・・・でもまあ、とりあえず、あとは私が“なんとかする”からさ!!アンタはその子を連れて離れといで!!』
そう言い残すと、何も持たず身ひとつながらも“圧倒的強者感”を纏い、『ホワイトタイガー』の元へと嬉々悠々と駆け出していく“赤髪の母親”。
その様子を見送ると、“楓”と呼ばれた“赤髪の女の子”は溜息まじりに、だが、“もう安心しきった”様子で、くれはに向かって手を差し伸べると、
『はぁぁ・・・それで、あなたは大丈夫?立てる?』
『あ・・・うん、』
その手を握り返し、立ち上がるくれは。そして、周囲の野次馬たち、くれはたちの心配をするよりも“身体ひとつで獣を制圧する女性”に完全に気が向けられている状況を掻い潜り、近くのベンチまで二人は歩みを進め、ようやく落ち着いて腰をつく。
『あっ、もう倒してる・・・“相変わらず”、ほんとにデタラメな『強さ』・・・』
遠目に、自身の“母親”が『ホワイトタイガー』を素手で“制圧”し、周囲から歓声を浴びる様子を眺めながら、呟く“楓”。
一方で、その隣に座りつつ、そんな“楓”に熱い眼差しを送り続けるくれはの胸中は決して穏やかではない。
(同じ年くらいかしら?でも、すごく“大人”っぽい話し方だし、それに私と違ってもう“魔法”も使えてるみたいだし、“カッコイイ”!!!!でも、でも、“まずは”ー)
深呼吸ひとつ。逸る鼓動と思考を押さえつけ、くれはは言葉にのせる、その“伝えるべき”想い、そして、“いちばん気になっている”その“疑問”を。
『あ、あの!!“救けて”くれて!!ありがとう!!それと、お名前!!あなたのお名前って、もしかしてー!?』
『ん?私の名前?“緋色 楓”だけど?』
『!!“やっぱり”!!聞き間違いじゃなかったんだ!!私の大事な“家族”と同じ名前の“ヒーロー”だなんて!!!!すごいすごいすごい!!!!!!』
自身を“救けて”くれた“ヒーロー”が、自分の大事な“特別”と“同じ名前”であることに、くれはのテンションは一気に高まる。
まるで、“運命”のように導かれた、その“出会い”に。
『“ヒーロー”って・・・別に、私が“救けれた”んじゃないし?結局“おかあさん”が全部、あのトラもやっつけちゃったわけだし、さ?』
その小さな“右手”を見つめ、“悔しさ”を滲みだすような表情を見せながら応え“楓に対し、くれはは勢いよくその両手を強く握り締める。
『でも!!いちばん最初に“救け”に来てくれたのは“かえでっち”じゃない!!あの“風”でビューって吹き飛ばしたのも“魔法”?!ほんとに“ヒーロー”みたいだってー』
『ーちょっと待って待って。なに・・・“かえでっち”って?』
自身を勢いよく讃えようとするくれはの、その“言葉”に。思わず楓は首を傾げながら言葉を遮る。
『え?だって“かえでっち”じゃん?』
『いや、なに、その変な呼び方?名前で呼ぶんならさ、ちゃんと“楓”って呼んでくれない?』
『なんで?!“かえでっち”ってカワイイじゃん!!?』
『いや・・・めっちゃ、なんか“ダサい”』
『“ダサい”!?え!!ひどくない!!?』
と。急に“子供らしく”、ギャーギャーと互いの意見をぶつけ始める二人。
そんな二人の元に、“一騒動”を“無事”に終えた“楓の母親”が、軽いステップを踏みながら悠々と辿り着く。
『楓。お待たせ!とりあえず白い“ネコちゃん”はあっちで“おねんね”してもらったから、もう大丈夫よ!あー!“いい運動”になったわー!!』
(“白いネコちゃん”、“おねんね”、それに“いい運動”って・・・)
軽妙に謳われる言葉の節々に、くれはは大きな困惑と“少しばかりの脅威”を感じ取り、少し引きつった表情を見せる。
一方で楓は、まるでこの“非日常”さえも、慣れ親しんだ“日常”のように平然と“母親”を眺めていた。
『それで楓、アンタ、テレビにインタビューされるみたいだからさ、あっちに行くわよ?』
『え?イヤだけど?なんで?』
『なんでって、アンタ、あれよ?“ヒーローインタビュー”みたいなものじゃない!!周りの大人が動けない中で、その子を救けに飛び出すなんて、中々出来ない事なんだし!!とっても勇敢な事よ!!みんなに褒めてもらえるのよ!!』
『別に・・・わたしが“救けれた”訳じゃないじゃん・・・おかあさんが結局“やっつけた”んだしさ・・・』
『あらあら。厳しいわねえ、“自分”に?』
どこか“不貞腐れた”ような態度を見せる楓。
“その手でやり遂げられなかった”事を、子どもながらにその“使命感や責任感”を、この緋色の少女は“すでに”感じ取っている事を、“楓の母親”は少し微笑みながらも受け取っていた。
だが
『“ヒーローインタビュー”!?すごいよ!!“かえでっち”!!やっぱり私の“ヒーロー”じゃん!!!』
“楓の母親”の言葉に、楓よりも喰いつくように感嘆の感情を示すくれはの反応を受け、“楓の母親”はくれはに向き合い言葉を続ける。
『あなた、“双葉さん”の所のお嬢さん、なのよね?楓が“近所で見たことある子だ”って救けに飛び出した時はびっくりしたけど、大丈夫だった?怪我はしてない?』
『あっ、はい!“かえでっち”が守ってくれたので!!!』
くれはの純粋な眼差しと、その言葉を受け、“楓の母親”は再び楓に向き合い“満面の笑顔”で告げる。
『ほらね?どんな形であっても、楓のしたことは“ちゃんとある”し“届いてる”のよ?この子にとっても、アンタは立派な“ヒーロー”なんだから?ちゃんと胸張って“ヒーロー”インタビュー受けに行きましょ?』
“母親”のまっすぐな言葉と、そしてその言葉に力強く頷きながら見せる“くれはの眼差し”に。
楓は少し俯き、照れくさそうな表情を悟られないようにしながら、“精一杯の照れ隠し”を呟く。
『・・・どうせ、おかあさんがテレビに映りたいだけでしょ、ったく?』
『お!さっすが我が娘!!分かってるじゃん!!!“私の人生、目立ってナンボ”がモットーだからね!!じゃあ先に行っておくから、楓もすぐに来るのよー!!!』
そう言い残しながら颯爽と駆け出していく“楓の母親”の背を見送ると、楓も深呼吸ひとつ、
『じゃあ、わたしも行くから』
『うん!“かえでっち”もヒーローインタビュー頑張っー』
『ーだからさ、その“かえでっち”っていうのはやめてくんない?“楓”でいいってば!!』
『うーん・・・でも、やっぱり“かえでっち”かな?だってさ、』
くれはは“改めて”、理由を告げる。頑なに“譲れない”、その理由を。
『その名前は“いちばん特別”だから!私がその名前で呼ぶのは、“あの子”だけでいいの』
“存在証明”に至る、その“特別”を思い浮かべ、嬉しそうに呟くくれは。
その純粋な眼差しと、澄んだ表情で告げられた“理由”を受け取って。楓もそれ以上、突き詰めることなどしなかった。
『・・・じゃあ、もう“かえでっち”でいいわよ。・・・ダサいけどさ』
『ダサくないよ!!可愛いじゃん!!わたし、好きになった人には、みんな“こうやって”呼ぶって決めてるの!!』
『あっ、そ。はいはい、それじゃあね・・・えっと』
『わたし?わたしは“双葉 くれは”だよ!!くれはって呼んでね!!“かえでっち”!!』
『はぁ、自分のことは“名前”で呼ばせるのね・・・まあ、いいけどさ。それじゃあね、“くれは”』
呆れたようにため息ひとつ、楓はゆっくりと“母親”の元へと歩みを進め出す。
と、遠ざかっていく、その小さくも“大きな”後ろ姿に。
自身の胸の内側から溢れ出る、初めての“感情”の答を知る為に、くれはは、思わず声をかける。
『ねえ!!“かえでっち”!!なんで、なんでさ、ちゃんと話したこともないわたしの事を、“救けにきてくれたの”?』
立ち止まる、楓。ゆっくりと振り返ると、どこからともなく“不可思議”に“風”が吹き、その“赤髪”を靡かせながら、“緋色の少女”は謳い告げる。少女にとって、譲れない“理由”を。
『なんでって、別にあなたが“特別だから”、とかじゃないけど?『目の前で誰かが傷つくのを見たくない』、だから体が勝手に動いてた。ただ、それだけよ』
淡々と告げ、そのまま後ろ手にくれはに“右手”を振りながら、歩みを進めていく楓。
それは、生まれてから記憶の在るころからずっと、“母親”に教え込まれた、彼女にとって揺るがない“信念”だった。
そして
(なにそれ!!!!!!!!かっこよ!!!!!!?好きッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!)
“特別”の為だけの“ヒーロー”で在る事を“存在証明”としてきたくれはにとっての、譲れない“想い”。
そして。“誰か一人の為じゃない”、その純然たる楓の“信念”に出会い、世界が変わる程の憧れ、恋焦がれるように巡り合った、新たな“想い”。
吹き抜ける“風”が、少女の黒髪に交じる“紫”のメッシュを軽やかに靡かせ、その心臓を煌びやかに射止めたこの日こそ、
双葉 くれはの人生における、“想いの原点”の『全て』が在った日であった。




