#20 迅雷風烈 ③
ザッ、バヂッ、ザザザザザザザザバヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂ
その両腕から伸びる“赤雷の両剣”の切っ先が触れる地面を“焦げ切り”ながら、一歩ずつ距離を詰めていく、“赤”に染まった双葉カエデ。その表情は煌々と、だが愉悦にも満ちた不敵な笑みを浮かべながら、その“タイミング”を伺っている。
ヴゥワァッッッッッッッゴッッッッッオオオオオオオオオオオオオオオオ
一方で。その姿を目視する事が難しい程に、自身を中心に天空へと伸びる竜巻のような“嵐の塊”、いや“暴風の鎧”を身に纏った楓は、動くことなく、ただその“タイミング”における自身の“選択”を思考していた。
対峙してから“数秒”足らずの硬直の狭間。
當真は吹き荒れる“暴風”の余波と、時折無作為に放たれる“赤雷”の波動の余波に注視しつつも、目の前の超常現象の景色に息を呑む。
どれだけ自身の“魔法”で“嫌おう”とも、現状そこには“入り込む余地”など『ゼロ』だという事を、全身に駆け巡る“イヤな感覚”と共に、本能的に當真自身も“理解はしていた”。
ゆえに
(だったら・・・俺に出来る事は・・・)
超常の現象の景色を掻い潜るように、“その場所”に視線を向ける。
そこはくれはとパレットが座り込んでいた場所。
少し距離があるとはいえ、これだけ“不可思議”な超常現象が起きているのだ。意図せずして、“巻き込まれる”可能性は『ゼロ』ではない。
だが、周囲が荒天の渦中に在る中で、二人のいるその一角だけ“不可思議”に“変わり映えがない”、まるで“透明な空気”で周囲の猛威から隔離されているような・・・
「もしかして・・・」
“気がつく”。當真は視線を凝らし、その正体が“暴風の鎧”から延びた“風の層”で、二人が“守られている”ことを本能的に理解した。いや、“むしろ”ー
バッッッッヂヂヂヂヂッッッッ!!ガギギギギギギギンンンンンン!!ガギギギンンッッッッ!!!!!ガギギギギギギンンンンンッッッッッッ!!!!!!
破裂するような衝撃音と、刃物がぶつかり合うような音が響き渡り、當真が視線を戻すと、その“赤雷の両剣”を無尽に殴りつける様に“暴風の鎧”に振りかざす双葉カエデの姿が目に入る。
双葉カエデの“赤雷の両剣”が触れる度に、“暴風の鎧”がその“状態”を僅かに歪めながらも、空気を割るような金切り音を放ちながら、その攻勢を防いではいる。
だが、双葉カエデの連続する猛攻に、反抗するでもないままに“防戦一方”の膠着状態が続く。まるで、その“リソース”を攻撃に回す余裕がないかのようで・・・・・
「ははは。硬ったいなあ!!!!でも“受けっぱなし”でさ、果たして“いつまで”もつのかねえ!!?」
ガッギギギン!!ガッギギギギン!!!ガッギギギギンンンンン!!!!!
双葉カエデの叫びと、雷光の爆ぜる音に金属音が重なり合う不協和音が止まる事を知らない連鎖を響かせる中、徐々にだが確実に、楓を護る“暴風の鎧”が削られていく。
(・・・“やっぱり”、くれはやパレットたちを“守ってるから”、なのか!?)
あくまでも、それは當真の“推測”だ。
双葉カエデが“赤雷の両剣”を振るうたびに、その余波で“赤い雷閃”が無作為に四方八方へと飛び交い、触れる全てを“焦がし壊す”、そしてそれに抗う様に吹き荒れる“暴風”の影響で、この一帯においては“ただ”立ち竦む事さえもはや困難になりつつあるこの超常“異常”現象が蔓延る現状において。
その“全て”を掻い潜って、くれはやパレットの側まで駆け寄る事は“到底無理難題”といっても過言ではないだろう。
だが。“だからといって”、その“可能性”が『ゼロ』でないのであれば、“迷う”理由はない。
「ふうっ・・・行け!よッ!!何の為にここまで来たんだよ、當真夜!!!」
拳を握りしめ、一呼吸。自身を鼓舞しながら、當真は不規則に“吹き荒れる”暴風の中に“降り散る”赤雷の群青を突っ切るように、とにかく”最短距離”を一直線に、くれはとパレットの元へと勢いよく駆け出す。
「・・・・・」
周辺視野の端っこで、だが確実にその姿を“捉えた”双葉カエデは、“一瞬の思考”の先、口角を少し上げながら、駆け出していく當真に向けて右の“赤雷の剣”を振り払い、剣先から“赤の雷閃”を弾丸のように撃ち放つ。
バヂヂヂッッッッッッ!!!!ドッッッッッッッ!!!
これまで不揃いかつ無作為に周囲に降り散っていた“赤雷”が、明確な意図を持って駆け出す當真に向かって放たれる。
だが、當真は自身の中に駆け巡る“イヤ”な感覚に従って、それが“届く”瞬間、大きく“右手”を振り上げる。
ガッッッッ!!キィィィィィン!!!!バッッヂッッッザザンンンッッッ!!!!
「くっ!?」
走る當真の“右手”に伝わる衝撃と熱、そして“嫌いきれない”ほどの“一瞬の痛み”。だが、“赤雷”の“全容”は、當真に直撃しきる前にその“右手”に払われ、大地へと突き刺さる。
ゆえに、當真は表情を一瞬濁らせながらも、その足を止めることなく猛然と突き進む。
「あぁ、そっかそっかー。トーマは“特別”は防ぐんだったよねえ?じゃあー」
これ見よがしに“聞こえる様に”、言葉と同時にその“右手”を掲げる双葉カエデ。その周辺が、“不可思議な空気”で“歪む”。
ジリジリジリジリジリ、と。空気が微振動し、何かを“吸い寄せていく”双葉カエデの“右手”。
そして瞬く間に、その手に吸い付くように“鉄片や砂鉄を含んだ大地の塊”が“不可思議”に浮遊しながら集まり、ひとつの大きな“異塊”となる。
「邪魔されてもなんだからさ、トーマは“物量”で“潰す”しかー」
「“させるわけ”!!ないでしょ!!!!」
ヴゥワァァァァァァァッッッッ!!!ドッッッッッッッ!!!!!!!ガッッッッッッ!!!!!!
叫び、と同時に、僅かながらにその中心の楓の姿が見える程に“暴風の鎧”が変容し、楓の姿が見える程に削られた“暴風の鎧”の“一端”が、弾丸の如く真っ直ぐと、双葉カエデの“右手”に集った“大地の異塊”に放たれ、貫通し破壊する。
双葉カエデの“右手”上空で、無残に砕け散り、塵となって四散する“岩石の塊”。
だが、双葉カエデは不敵な笑みを浮かべながら、“それがまるで予定調和”であるかのように、一切動じることなく、その“右手”を“小銃”のように構えると
「“隙”見ーつけ、ってねえ!!?」
左手に掲げる“赤雷の剣”が瞬く間に変容し、その“右手”の指先の“銃口”に、渦巻くように“赤い雷閃”となって“収束”されていく、まるで電磁の弾がその手に装填されたかのように。
當真への攻撃を防ぐ為に“暴風の鎧”の一部をその破壊へと向けたことで生まれた、楓と双葉カエデの間を遮る障壁の消失。
双葉カエデは直前までの乱暴なまでの“雷剣”での猛攻とは打って変わったように、照準を狙い定め、楓に向かって“赤雷の弾丸”を撃ち放つ。
バヂッッッ!!!!バリリリリリッッッッッッ!!!!!!!!!!!!
空気を割る、切り裂く“雷鳴”。赤の残滓が残る程の高速の“雷撃”が、無防備なままの楓に撃ち放たれる。
双葉カエデの放った“赤雷の弾丸”の、瞬間の着弾”。その衝撃と赤雷の余波を、丸ごと全て楓はその身に受ける。
ドッッッッッッ!!!!ンンンンンンンンンッッッッッッ!!!!!!!!
鈍い衝撃音が響き渡る。空気が籠り、一気に爆ぜるような音。そして伝播していく衝撃波。
その勢いそのままに後方へと吹き飛ばされ、転がり込むように倒れる楓。そして、その場にうずくまる楓に呼応するように、“暴風の鎧”もゆっくりとその姿を消失していく。
「“速さ”に全振りするからさ、威力は落ちるけどさ。それでも“予想通り”トーマの為に“隙”だらけになったアンタを苦しませるには十分すぎる一撃だったでしょ?!(ははん)」
顔を上げる事も出来ずにゆっくりと片膝立ちをして息を整える楓に向かって、自分の“意図したとおり”に進む展開に愉悦の表情を浮かべながら、楓の元へと歩み寄る双葉カエデ。
だが。ゆっくりと立ち上がり、言葉を切り替えす楓の“表情”はー
「“こっちのセリフ”だっての・・・・・ちゃんと“隙”見逃さなかったわね、“アイツ”?」
「は?何言って・・・」
“余裕に満ちた”微笑みだった。そして、言葉の終わりと同時に、双葉カエデは“気がつく”。
息を荒げる楓が、その“右手”を自身の服の内側、腹部辺りに構えている事を。そして、その“視線の先”、“その場所”へとゆっくりと双葉カエデも視線を差し向ける。
“その場所”は、くれはとパレットの二人が座り込んでいた場所。
そして今、その二人の前に、“右手”をかざし立ち塞がっているのは、楓同様に呼吸を息巻くひとりの黒髪の少年の姿。
「アイツが動き出したら、あなたはきっとそれを“利用して、”私が“動くその先”で仕掛けてくるって思った・・・そして、一度向いたアイツへの意識を、もう一度“私”に向ければ、その瞬間に、あなたの思考からアイツへの意識は、完全に『ゼロ』になる・・・つまり、アイツが自由に動ける“隙”が出来る」
ゆえに。双葉カエデの“雷弾”が放たれる直前、楓は自身の“右手”を腹部辺りに添えていたのだ、“来る確信”の一撃の衝撃を緩和するために、自らの腹部周辺に“暴風の層”を構える為に。
「はっ?何、その表情?!勝ち誇ったつもり!?別に、トーマが二人の近くにいたって状況はなんも変わんないんだけど?・・・あぁ、同じ『レベル・2』のくれはに助けてもらう算段とか?それなら残念だね!くれはの手錠は“魔法を抑え込む魔法”がかかった“特殊手錠”だし、そもそもどうせまだ“目覚めない”し・・・」
キィィィィィィィン!!!!!!!・・・・・・・ガチャ、ゴトリッ。
双葉カエデの言葉が、止まる。そして、その表情を淀ませる、“不可思議な消失音”と“取り外され地面に落ちる鈍い音”。
視線を再び向け直す、双葉カエデ。
そこに映るのは、パレットのロープをほどき終え、そして、その“右手”でくれはの“特殊手錠”の“魔法”を“消失させ”、地面へと投げ捨てる當真の姿だった。
「はぁ・・・はぁ・・・うまく、出来て良かった・・・でも、これで!!こっちは“大丈夫”だ!!緋色!!!“だから”思いっきりやれ!!!!!」
“前例”を直近で体験していたとはいえ、半信半疑の最中のこの危機的状況で、自身の“魔法”の“真価”を遂げた當真は、いまだ目を覚まさないくれはとパレットの前に立ち、楓に向かってそう叫ぶ。
そして。その當真の言葉と想いに応える様に、楓は自身の“右手”に再び“風”を集めながら、双葉カエデに向かって告げる。
「別に、“くれはに助けてもらおう”とか思ってないわよ・・・でも、“これでようやく”、あなただけに“集中”出来る・・・私の“全力”をね」
再び吹き荒れる“暴風”をその“右手”に。楓はようやくその“魔法”の全てを、双葉カエデ“のみ”に向けられる。
カリッ
息を呑む双葉カエデ、取り出した白のケースから“一口”。そして、楓同様に、再びその身に“赤の雷閃”を蠢かせながら両手を広げ、不敵な笑みを浮かべながら眼前の猛威に視線を向ける。
唸る“暴風”と轟く“赤雷”が奏でる協奏曲。“非日常”における超常の景色が、まもなく謳われていく。




