#19 迅雷風烈 ②
その声と、赤の雷光が静かに戦慄く空間。
いくつかの街灯照明が、“不可思議”な照らし方で、その広大なスペースに光を届けている中で、楓は一旦“その周囲”に目配せをする。
(くれはやあの子は・・・どこに・・・?)
一方で。當真は“確信”を得たこの状況に置いて、双葉カエデの視界に入らないであろう自身の立ち位置から、なるべく“悟られない”ように、自身のスマートフォンのメッセージアプリを起動し、事前に準備していた“メッセージ”をすぐさま送信する。いわずもがな、その送り先は“信頼に足る陣内正蔵”にである。
メッセージの送信を確認した後、距離はある程度離れているとはいえ、當真はなるべく声を潜めたまま楓に言葉を投げかける。
「おい、“手筈”通り正蔵さんには“連絡”したからな?あくまでくれはとパレットを“救ける”のが最優先だし、無茶だけはー」
「ねえ?いつまでそこで見下ろしてんの?早く“ここまで”降りてきなよ?」
當真の言葉を遮るようなタイミングで、双葉カエデは自身の立つ敷地内を指さしながら叫ぶ、
ガシッ
そして、それと同時、勢いよく當真の首元を掴む楓、
「え?おい、待て、お前、まさかー!?」
「言われなくても分かってるわよ?“いくよ”?」
ビュッッッ、ブワッッッッッッッッッ!!!!!!!
“不可思議”に吹き集まる“風”が、楓と、そして無抵抗に首元を掴まれ慌てふためく當真を“包み込む”、直後、重力を感じる暇もないままに、“浮かび上がる”楓と當真。そして、勢いそのままに、敷地を覆い囲う手すりを越え、双葉カエデの待つ敷地内へと“跳び降りる”。
「ひいいいいいッ!?落ちるううううううううッッッッ!!!!?」
“正確”には。楓の“魔法”によって“飛んでいる”状態ではあるのだが、楓に首元を掴まれ為す術のないままに浮遊し、落ちていく重力を無抵抗に受け取るだけの當真にとっては、“非日常”に突如として味わう“ジェットコースターのハイライト”のようで、思わず声を上げる。
フワッ、ザッ。ザザザッ、ドタンッ。
華麗に着地する楓と、“風”のクッションがあるとはいえ、不格好に着地しその場に転倒する當真。
カリッ
対峙する二人を目の前にし、だが双葉カエデは“変わらず”、少し気怠そうな様子のままで白い小さなケースから錠剤を一口。
そして、“赤い雷光”を漂わせながら、その“右手”を楓にまっすぐと差し向ける。
「空から跳んでくるなんて、さすが“ヒーロー”の登場はかっこいいねえ?さて、それじゃあ早速ー」
「くれはとあの子はどこ?無事なんでしょうね!?」
対する楓は“右手”に“風”を纏いつつも、視線だけをまっすぐと双葉カエデに差し向け、声をあげる。
「・・・“ヒーロー”ってのは“そういうの”を確認しないと“やり合えない”て決まってるんですかねえ、まったく?・・・ほら、あそこ?」
その表情に苛立ちを少し見せながら、楓に差し向けた“右手”はそのままに、左手の親指を突き立てるような形で、自身の後方に楓と當真の視線を誘導させる素振りをみせる双葉カエデ。
双葉カエデの後方に目をこらすと、十数メートル後方、スペース内に点在する針葉樹の一角に寄り添う様に座り込み頭を垂れるくれはとパレットの姿がそこに在った。
「“運ぶ”のにも“特別”使わないといけないからさあ、“眠らせた”のミスったかなぁって思ったけどさ。でも“水分補給の体”で、与えられた眠剤入りの水を疑いもせず飲んじゃうなんて、あの子もくれはも警戒心とかないのかねえ?ほんと“バカ”だよね?(ははん)」
静かに、だが嘲笑うかのような言い分で言葉を続ける双葉カエデ。
だが
「“バカ”なんかじゃないわよ、そんなの、あなたのことを“信じた”からでしょ?特にくれはは“家族”なんだから、たとえどんな状況でも“信じたい”心が在るに決まってるじゃない!!そんなことも分かんないの!?」
楓の言葉に、明確な“苛立ち”を表情に見せる双葉カエデ。赤のメッシュが入った黒髪が、自身の周囲を漂う赤の雷光と“その感情”に呼応するように靡き始める。
「ねえ?あなたが私を敵視する“理由”って、何?こんな“バカ”なことする前に、まずちゃんとお互いに話してみて・・」
「・・っさいな、ほんと」
バヂ、バヂヂヂヂヂ・・・・・ドッッッッッ!!バリッッッッッ!!!!!!
直後、一切の躊躇のない“赤い雷閃”が双葉カエデの“右手”から楓の元へと撃ち放たれる、が
ガッッッ!!キィィィィィィィンンンン!!!!!
言葉を発する楓とは対照的に、その一挙手に視線を集中させていた當真がいち早く反応し、楓に届く直前に“赤の雷撃”を、自身の“右手”で打ち払う。
「ほんっとに“ムカつく”なぁ、どこまでもさ?こっちはさ、アンタに知ってもらいたい“理由”でもないんだよ?・・・でも、じゃあさ、アンタが“勝った”ら教えてあげるよ、理由。だから、とっとと始めようよ?」
苛立ちと敵意を向けながら両手を広げ、漂う“赤の雷光”をその両手に纏い始める双葉カエデ。
楓の隣に並び立ち、當真は声を視線を双葉カエデに向けながらも、改めて拳を握り直し、楓に告げる。
「おい、もう話もまともに聞いてもらえるような状況じゃー」
「ーあの子の相手は私が“ひとり”でする。“隙”を作るから、あんたは“見逃さず”、くれはとあの子を“救け”に行って」
「!!」
双葉カエデに悟られないように、視線はそのままに、當真にだけ届くように抑え込んだ小さな声で伝える楓。
「・・・少なくとも、昨日はお前とくれはの二人と同時に渡り合ってたんだぞ、あいつ?俺じゃ力になれないかもしれないけど、いくらなんでも無茶なんじゃー」
「最優先は“くれはとあの子を救ける”こと、あんたが言ったんでしょ?だったらきちんと役割分担してた方が可能性は高まるし、それにー」
楓が“右手”を強く握り締める、これまでゆっくりと収束つつあった“風”の鼓動が、一気に高まっていく
ブワッッッッッビュッッッッッッウウウウウウウウウ!!!!!!!
思わず、當真は気圧され、息を呑む。
楓の周辺に纏い始める“風”の圧が、その“右手”を中心に囂々とうねりを上げていく。
「昨日までとは“もう”状況も全く違うし、“揺れる”理由がないから。私の目の前で誰かが傷つくかもしれないのを見過ごすわけにはいかない!最初から“本気”でいくから!!」
吹き荒れる“暴風”、一方で、双葉カエデが両腕を高く掲げると、徐々にこの広い空間の真上、上空が一気に夜闇を“より黒く”染めていく。そこに在るのは、“不可思議”なまでに唐突に現れた“暗雲の塊”。
目の前の“非日常”の空間、それを加速させるように“超常”をその手に掲げる二人の少女に、當真も拳を握りしめ、その“瞬間”を見逃さないように気構える。
戦慄く雷光音と風切り音が、カウントを取るかのように、ゆっくりと、ゆっくりと鎮まっていく。
まさにそれは、“嵐”の前の静けさのようでー
ザワッッ、ゾゾゾゾゾゾゾククククッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!
(・・・“来る”!!!!!!!)
當真の胸に騒めく“イヤ”な感覚、目の前の二人の少女の間に“言葉”などない、だが、それは“紛うことなき開戦の合図”。
バヂヂッッッッ!!!!ドッッッッゴッッッロロロロロロ!!!!!!!!!!!
双葉カエデが手を振り下ろす、瞬間、その“特別”によって生み出された“赤い雷鳴”と同時に、空気を裂き割る不穏な轟音と共に、楓の元へと“降り落つ雷柱”。
「『十秒呼風』」
ブッワッッッッッッッッッッッッヴォォォッッッッッッザザンンンンンンン!!!!!!!!!
瞬間、楓の“右手”を中心に収束されていた“風”が爆ぜる様に膨張し、その“暴風”を纏った楓は、“雷光”の始まりを感じ取ったかのように同じタイミングで、双葉カエデの元へと“飛び向かう”。
吹き荒れる“暴風”の余波で、當真は数メートルほど吹き飛ぶ、いや、正確にはその“意図した暴風”によって、双葉カエデの放った“雷柱”が降り落ちたその場所から“緊急回避させられた”のだ、楓のその“魔法”によって。
バヂッッッ!!ドッッッッッ!!!!!バリリリリリリッッッッッ!!!!!!
雷光の速さの初撃を躱し、猛烈な勢いで飛び向かってくる楓に対し、双葉カエデは両腕を振りぬき即座に追撃を放つ。
撃ち放たれた“赤い雷連閃”、そのひとつひとつが触れる空気すらも“焼き焦がす”弾丸の如く、猛る轟音と共に真っ直ぐと楓に向かっていき直撃
ヴワッッッ!ヴゥゥゥゥゥザザザザザンンンンンンン!!!ドッッッッッ!!!!!!!!!!
する直前、楓の“右手”に纏う“暴風”が急速に廻転、“風切り音”はみるみると加速していく。
空気を“切り裂く風塊”をその手に纏った楓は、大地へとその“風塊”を叩きつける。瞬間、高廻転する“風塊の刃”は大地を“削り切り”、“大地の残礁”が楓の前に“防壁”としてせり上がる。
バッリッッッ!!!ドッッッッッッガッッッッッッッンンンン!!!!!!!!
大地の壁に突き刺さる“赤い雷閃”、触れた瞬間に“互い”に粉々に爆ぜ散り、衝撃音とその余波が瞬く間に空間に伝播していく。
巻き上がる砂塵が、楓と双葉カエデの互いの視界を遮っていく。だが、両者とも“すでに”動き出していた。
「だったらあ!!“防ぎようない”くらいの“ゼロ”距離で!!喰らわしてあげるよッ!!!!」
バヂヂリッ、ドッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!
“赤い雷光”を両脚に纏い、大地を蹴り“消える”ような速さで砂塵を突き進む双葉カエデ、まさにそれは大地を駆ける“雷獣”の如く。その手に“雷塊”を纏ったまま、楓の元へと一直線に“駆け出す”。
コンマ数秒足らず。砂塵を切り裂き双葉カエデが楓の目の前に現れるまでに要したその時間は、まるで“魔法”のような瞬間の出来事で。
當真の視線と思考が追いつく頃には、すでに双葉カエデの“赤の雷閃”を纏った右手が、楓の喉元に届く直前の光景であった。
「ッ!?あ、ぶなー」
条件反射のように、ただただ喉元から飛び出た當真の叫び、
「ッ!?チッ!?」
“よりも早く”、なぜか届く直前の右手を“一気に引き下げ状態を反転させる”双葉カエデ。その表情も、一瞬で“曇っている”。
その理由は明白。
双葉カエデは邂逅の間際に、強烈な防衛本能で感じ取ったのだ。“次の瞬間”に、そこで巻き起こる“非日常の超常”を。
ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッッッッッ!!!!!!!
“ソレ”は。唸る轟音と全てを切り裂くするかのように加速し続ける風切り音と共に、“不可思議”に突如として楓を中心としたその空間に現れた、仄暗い大気の壁、いや、巨大な“嵐の塊”。
それは、現実の世界に無理矢理“リアルすぎる”3D映像を組み込んだような、非現実の超常現象そのもの。
その瞬間。双葉カエデの防衛本能は、脳裏に直接叫び訴えかけたのだ、“距離を取れ”と。
突如として現れた“嵐の壁”は、自然法則などまるで無視したかのように不自然に蠢き、楓の周りを囲い込みながら、上空に浮かぶ“赤雷の雲”へと届く勢いで伸びていく。
加速し続ける、風切り音。双葉カエデが防衛本能に従い、咄嗟に距離を取るまでの数秒足らずの間に、その轟音は、より大きく鳴り響き渡りながら、その“暴風域”を広げていく。
そして。嵐の塊だったものは、その鋭さも同時に加速させていき、触れる大地を、いや“触れる全て”を切り刻んでいくかのように、さらに膨張していく。それはまさに、
“暴風の凶刃の結晶群”。
「・・・何だよ、コレ・・・」
想像や空想の何十倍もの“非日常の超常現象”に、當真は思わず感情そのままに言葉を零れ落しながら、ただただ茫然とその光景を見つめる事しか出来なかった。
その一方で
「っははは。触れるもの全部切り刻む、さしずめ“暴風の鎧”ってところ?流石“ヒーロー”ちゃん、つーか、もはや“化物”じゃん?・・・でも、“それくらいじゃなきゃ”物足りないよね、この“特別”でアンタを潰すにはさぁ!?」
カリッ、ガリッッ、ガリッッッ。
一口、二口、三口・・・
まるで楓の“魔法”の真髄を楽しむかのような表情を浮かべながら、“BOOST”を噛み呑みこむ双葉カエデ。
その昂る感情に呼応するかのように、上空に浮かぶ“赤の雷暗雲”から、大地を震えさせる程の戦慄く轟音と共に、“赤雷”が双葉カエデに向かって、降り落ちる。
ゴッッッ!!!!ロロロロロロロロロロッッッッッッッッッ!!!!!!!
降り落ちた“赤雷”を全身で浴び、受け止める双葉カエデ。
“当然”、何事もなかったようにその場に平然と佇んでいるのはもちろん、その“赤雷”全てをその身に纏い、目に見える“赤の膜”を全身で包み込んだように、髪や瞳、肌の色さえも、双葉カエデを構成する“全て”が“赤く”染まり、まるで“変容していく”双葉カエデ。
強大な電磁波によって前髪も逆立ち。その可憐な表情の全ても明確に見える様になる。
くれはと同じ“美少女”としての顔立ちはもちろんだが、紅潮する表情と不敵な笑みが、くれはのそれとは違う“異質さ”、さしずめ“不気味さ”をアクセントとしてその恍惚な表情に加味していた。
そして。全身を覆う様に流れる“赤い雷閃”の波状に加え、その華奢な両腕から“剣”のように型どった、鋭利に伸びる“赤い雷”。
それはまるで触れる全てを“焼き切る”、“赤雷を帯びた両剣”の具現化。
バヂヂヂヂリッッッッ!!!!!!!ヂリリリリリッッッッッッ!!!!!ザザッ!!ガギッッッンンン!!!!!!
双葉カエデの両腕から伸びた“赤の雷剣”の切っ先が大地に触れ、瞬間、その触れた場所が“焦げ切れ”ながら、“割れ切れる”。
「さぁさ!お互い“準備運動”はこれくらいにしてさー!!始めよっかああああ!!!?」
バヂリバリリリリリリリリリ!!!!!!ヴッォォォォォォゴォォォォォォォッッッッ!!!!!!!
響き渡る“赤き雷鳴”と、吹き荒れ狂う“暴風”の乱立する、“非日常”の世界に顕現された、連なり続ける“超常”の景色。
拳を握りしめるも、ただただ、ここまでは“傍観者”たる當真は、その景色を目の当たりにして、思わず息を呑みこみ、呟き“嘆く”事しか出来なかった。
「くそっ、あいつ無茶言いやがって・・・こんなもん、“見逃す”どころか、そもそも“隙”なんか全くの『ゼロ』なんじゃねえかよ・・・?!」




