#17.5 Road to Magenta
「・・・事情は、分かった。ほんとに君達は無茶を・・・でも、ひとまずは二人が無事であったことが何よりだし、こうやって“ちゃんと話す”判断をしてくれて良かったよ」
街外れ、見慣れないファミレス。
人けの少ない小さなフロアの奥の席に座る陣内正蔵は、諦めと安堵の入り混じった表情を見せた後、自身の向かいに座る、悔しさと儚さや無力感の入り混じった表情を見せる當真と楓に声をかける。
二人の双葉の邂逅、そして一連の騒動の結末の先。
行く宛のない憤りに襲われる中で、當真は“それでも自ら動き出そうとする”楓の行動を諫め、真っ先に“頼るべき大人”である陣内へと連絡を繋げたのが、今から数十分前。
見慣れぬ街外れのファミレスへと促され、當真と楓がそこに辿り着くと、そこにはすでに陣内が“着崩れたスーツ姿”で二人の到着を待っていた。
そこからファミレスへと入り、これまでの経緯を當真が説明し今に至るのだが、當真が陣内へと説明をする時間も“不気味なほど”に楓は一言も喋らず、何か、一点を見つめる様に一心不乱に思考を走らせている様子だった。
「双葉カエデ・・・やっぱり情報はない、か。しかし、“BOOST”案件がこんな形で顕現するなんて・・・」
自身のスマートフォン(おそらく警察仕様の特殊なものであろう)を操作し、“情報”を集めようと試みる陣内。
だが、くれはでさえ日本の“データベース”に“いまだ”登録されていない状況なのだ、“双葉カエデ”は言うまでもなく、その情報は皆無で在り、焦燥感が陣内の表情にも見て取れる。
「“BOOST”に関しては、その出所の“目ぼし”はあっても、“確たる”情報がない状況だからな。双葉カエデの言葉を受けるわけではないが、正直、“警察”が表立って動くには、この状況、手掛かりの無さを考えると、余りにもリスクがありすぎる・・・そもそも今日の“魔法省”で出来事も、“また”情報規制がかけられる可能性もあるしな・・・」
状況を整理するように、言葉を呟き思考す陣内の様子に焦りを覚えつつも、ゆっくりと隣に座る楓へと視線を向ける當真。
表情は変わらず、ずっと“自身の過去”から“情報”を思いだそうと必死に思考を巡らせている楓の様子に、ただ“何も出来ない”當真は奥歯を噛み締め、ゆっくりと両の拳を握りしめる事しか出来ないでいた。
(俺に、何か出来る事はねえのかよ、くそ・・・)
「・・・あっ、」
と。その“小さな声”に気づけたのは、必死にここからの道筋を考える陣内ではなく、思考する事も出来ないまま“ただ漠然”としていた當真だったからこそかもしれない。
ゆっくりと視線を隣に向けると、俯きつつも楓の表情が、その“小さな声”の直後、何かを“見つけたような”・・・
「楓ちゃん。その、“始まりの場所”っていうのに思い当たる場所とかはないのかい?警察が本格的に動けない以上、今はどんな些細な“情報”でもあるとありがたいんだが?」
陣内の言葉に対し、俯いた顔をゆっくりと上げる楓。そして
「・・・“分からない”です、陣内さん。ごめんなさい」
「嵐ガール・・・」
「・・・そうか。いや、大丈夫だ。気にする事はないよ、楓ちゃん」
楓の、その“答”に。陣内、そして當真は視線を向け、互いに“思うところ”を言葉にせず、呑みこむ。
流れていく、一瞬の静寂の間。
陣内は腕時計に目を向け、咳ばらいをひとつ、状況を“切り上げる”。
「・・・もう時間も遅い。二人とも、家まで送るよ。楓ちゃんは寮だったかな、寮の方には俺から事情を一緒に話すよ。夜君も心配は尽きないだろうが、今日はひとまず家に帰ってゆっくり休むんだ」
テーブルに置かれたレシートを手に取り、先陣を切って席を立つ陣内。その背中が語るのは、當真たちと同様に、“自身の足らなさ”を嘆いているようで・・・
だが、ふいに。改めて、當真と楓に“釘を刺す”ように、そして“自分自身”に言い聞かせるように、振り返った陣内は告げる。
「・・・言っておくが、間違っても、二人とも。“自分たちでなんとかしよう”とは思わないでくれよな?この状況、そして友達の事を思えば、“君達”が“どう思っているか”は痛い程分かるんだが・・・俺が必ずなんとかするから。警察もきっと動かしてみせるし、俺の出来る全力を尽くして、友達のことも見つけ出す・・・だから、どうかこれ以上“無茶だけはしない”と、約束してくれるかい?」
アテがあるわけでもない、だが、“友人の子ども”を前にして、そして自身の使命を懸けてでも、そう言い切る事が、“未来”を守るべき“大人”としての在り方であると信じているからこそ。
陣内正蔵は、當真と楓に告げたのだ。自分の中の揺るがない“正義”に誓って。
「・・・分かったよ、正蔵さん」
その表情に、言葉に。當真は握りしめた拳を解くことは出来ないが、“今”は頷く事しか出来ないでいた。言葉を受けた陣内は、ゆっくりとファミレスの出口へと向かっていく。
そして、當真と同様に、言葉を発することなく“黙ったまま”、當真より先に席を立ち、陣内の後に続く楓。
だが。垣間見えた、楓の、“”決意“にも似たその表情に。當真の中に過るのは、とある“感覚”、
(・・・・・アイツ、まさか・・・)
ゆえに。當真が“その行動”を起こすことに、“迷う”理由などはなかった。
翌日。
時刻は、午後一時三十分を過ぎた頃。場所は私立王凛女学院の正門前。
“魔法規格検査”が今日も“何事もなかった”ように実施されている最中、周囲を見渡し“警戒”しながらも、学院の外へと踏み出す楓の姿が、そこには在った。
“ゆえに”。“迷うことなく”、その背後から声をかける
「お前ってさ、ほんっとに“分かりやすい”よな?」
「きゃっ!!?」
背後から突然の“見知った声”に。思わず“か弱い女の子”のような、愛らしい驚愕の声を上げる楓。
恐る恐る振り返ると、“もちろん”そこにいたのは當真の姿で。鼓動が一気に高まる最中、必死に平静を装うように楓は応える。
「な、なんで、アンタが王凛にいるのよ!?それに、分かりやすいってー」
楓の言葉に対し、寝ぐせのようなボサボサの黒髪を掻きながらも、當真は昨夜に過った“感覚”に間違いがなかった事に対し、安堵と呆れの表情を見せながら言葉を返す。
「お前さ、本当は“始まりの場所”に思い当たるとこがあんだろ?それで双葉の言う様に、“自分一人”でなんとかしようとかって考えてんじゃねえか?」
「!!」
楓の鼓動が早まっていく。“言い当てられた”事以上に、まるで心の底も、自身の行動も、その全てを見透かされている事に対してだ。
「・・・なんで?」
「はあ?なんでってそんなもん、お前の考えそうな事もさ、短い付き合いでもないんだ。それくらいお前の顔“見てりゃ分かる”に決まってんだろ?」
「・・・・・」
“当たり前”のように。呆れた様子で“ごく自然と”言い放つ當真。
実際の所、“短い”付き合いではないが決して“長い”わけではないというのが実情、だからこそ、その言葉を投げかけられた楓は、自身の体内が熱くなっていくことをヒシヒシと感じ取っていた。その“感情”の名を、まだ言葉にする事は出来ないままで。
だが、しかし。目の前の少年に知られたとしても、楓の中の考えが揺らぐことはなかった。むしろ、反発するように、声を大きく上げる楓。
「・・・でも!!誰かに話してそれが気付かれて、くれはやあの子にもし何かあったら・・・私は絶対後悔するし自分を許せない!!双葉カエデの狙いは私なんだから、だから、私がひとりでー」
コツン
加速する緋色の少女の熱を抑え込むように、優しくその頭を打つ當真。そして
「全部ひとりで背負い込むんじゃねえよ?俺もいるだろうが?」
顔を上げる楓、視線が目の前の當真とゆっくりと重なり、その“当たり前”を謳う表情に。
楓の胸の鼓動が一瞬で熱を急加速させる。全身を駆け巡る、言葉と想いの熱。
「あの時、双葉は“誰にも話すな”って言ってたけどさ、“ひとりで来い”とは言ってない・・・俺だって昨日、“あの場”にいて双葉とお前の話を聞いてんだ。だから、その俺が、自分の意志で“助けに行った”って、双葉の言葉を破った事にはならないだろ?」
言葉尻を取るような、強引な當真のその“理屈”に、楓は思わず反発するも
「っ!?そ、そんなの、屁理屈って言われたらー」
「それに、アイツは俺の事なんてきっと眼中にないさ。昨日もそうだった、『ゼロ』の俺一人が“増えた”ところで、さして気にしないよ。『レベル・2』のお前やくれはの二人を相手にしても一歩も退かずに対等に渡り合っていたんだからさ?」
告げるその言葉、その“事実”を口にしていく中で、當真の表情が一瞬“悔しさに滲む”のを、楓も見過ごす事はなかった。
だが、當真はすぐに切り替える。
そして、強く、その“右手”の拳を握りしめる。
「俺なんかじゃどうやったって双葉に敵いっこねえよ・・・だけどな、“だからって”、それが“見過ごす”理由にはなんねえ」
握った拳を少し掲げ、自身の胸を打つような仕草を見せながら、“迷わない”意志を持った強い眼差しで見つめ、當真は謳う。
「目の前でパレットやくれはが連れてかれたんだ、理屈も屁理屈も関係ねえ!俺が、俺の意志で選んだんだ!助けに行かない理由なんて、ここにはゼロなんだよ!!」
「アンタって・・・ほんと・・・“いつも”・・・」
言葉が、零れ落ちていくのを、口をつぐむ事で當真に“悟られない”ように。そして、楓は頬が紅潮している事も見られないように本能的に視線を少しだけ當真から外す。
(・・・“分かってた”じゃない、こいつが“こういう”ヤツだってことはさ、)
思考するまでもなく、前の前の少年が自分と“同じ”で在る事を、他でもない楓自身が一番分かっていた。
だから、“きっと”ー
「それにな!!お前がどのタイミングで出てくるかも分かんないからさ、息巻いて悪友に頼み込んで嘘ついてまで学校もズル休みまでしてんのよ、こっちは!?もうね、後に引けねえっつーの!!ただでさえ、今年入ってからすでに出席日数も怪しくて・・・いや、待って、まじでやばくねえか、俺?大丈夫、だよな?・・・(ブツブツ)」
一転。独り言を呟きつつ、冷静に自己立場の分析をし始め、その表情に焦りを醸し出し始めた當真を見つめ返しながら、楓は思わず、口元が緩んでいった。
同時に感じるのは、張りつめいていた緊張感が、ほんの少し解けていく感覚と、背中が少しだけ“軽くなっていく”感覚。
楓は一呼吸。そして背筋を伸ばし、出席日数の欠如に怯える目の前の當真に向かって、言葉を切り出す。“いつも通り”の、凛と真っ直ぐな感情そのままで。
「分かったわよ。でも、“いつもみたい”に無茶な事はしないでよね?アンタの世話してる余裕なんてないんだからさ?」
その“挑発”のような、だが、“熱”の込められた言葉と楓の表情に。當真も自然と口角を少しだけ上げて、応える。
「はっ、どの口が言ってんだか?どちらかと言えば俺は“ストッパー”だからな?危なくなったら陣内さんにも連絡できるようにしとくし、お目付け役でもあるんだからな?“無茶”と“暴走”は、俺なんかよりもよっぽどお前の方が得意分野だろ?嵐ガー・・・」
「だあれえがあああ嵐ガールよおおおおおお!!!!!!!!」
ビュッッッッッッッ!!!!!!!!
「ぎゃあああああああ!!!!!!!」
放たれる“いつも通り”の楓の“暴風”を受け、宙を煌びやかに舞う當真。當真の着地(転倒)と同時に、楓は自身のスマートフォンを取り出し、そして、ゆっくりと立ち上がる當真に向かって、ある画面を見せる。
「昨日、ずっと思い返してて。双葉カエデの言う『双葉との始まりの場所』って言うのがどこか分かんなかったんだけど・・・でも、可能性が在るとしたら、“ここ”しか思い出せなくて、」
楓に差し出されたスマートフォンの画面に視線を向ける當真。
そして、瞬間に。その画面の“場所”と、呼び起こされるように脳内に映し出される景色が、當真の中で“重なっていく”。
“それ”は確か、双葉カエデと“初めて会った”あの日・・・・・
「私も“絶対”の確信は正直なくて・・・記憶を遡って、“ここ”は『私とくれは』が“初めて”会った場所だとは思うんだけど・・・双葉カエデは確か、いなかったような気がしてて・・・・・」
ガシッッッ!!!!!
「ひゃっ!!?え!!ちょ、ちょっと!!!!?」
思わず。差し出されたスマートフォンを、楓の“右手”ごと力強く握り締める當真。
その表情は“確信”に満ちている、一方で、その手を握りしめられたことで、一気に熱が高揚し頬を赤らめ慌てだす楓。
動揺を隠しきれない楓を前にして、當真は“そんなこと”など気がつくはずもないままに、そして“確信”を“答”にして、楓に向かって謳うのであった。
「ここで“間違いない”ぜ!!だって“俺も見た”からな!!!!!」
「え!?は!?“見た”って、ど、どういう事よ!?ちょっと!??」
赤らむ表情の最中で疑念を叫ぶ楓と、進むべき場所へと“迷いがない”當真。
パレットとくれは、そして双葉カエデのいる場所への道が、ここでようやく繋がっていくのであった。




