#17 赤と紫の鳴る夜に②
「“BOOST”?・・・カエデ、何の事?」
その言葉に。まるで初耳のような、不思議そうな表情を見せるくれは。一方で
「嘘、でしょ・・・?」「嘘、だろ・・?」
その言葉に、明確に驚愕を表情に見せる楓と當真。
そして三人の反応を見つめながら、手にした小さなケースから、錠剤のようなものを一掴み、不敵かつ軽やかな表情を見せながら双葉カエデは応える。
「へえ?そっちの二人は、反応見るからに知ってそうだね?まあ、“いい子”ちゃんのくれはは“こういう”のは興味なさそうだしね、知らなくて当然か、」
カリッ・・・・・バヂ、バヂヂヂヂ、
一口、途端に双葉カエデの周囲を再び“赤い雷光”が漂い始める。
「“麻薬”だよ、くれは?『ゼロ』でも“特別”を手にする事が出来る、“魔法”の薬だよ?」
バヂヂヂヂヂヂリッッッ、バリッッッッッ!!!!!!
その手を振るう双葉カエデ。“赤い雷光”が一閃、楓たちに向かって放たれる。
ガッ、キィィィィィィィン!!!!!!!
咄嗟に、一歩早く踏み出し、その“右手”で薙ぎ払う様に“赤の雷撃”を上空へと“嫌う”當真。
「痛ッ・・・・・!?」
自身の“右手”に残る、その衝撃と痛みに、思わず視線を向け顔を歪める當真。
(なんだ?ちゃんと“嫌えて”るはずなのに、すげえ痛え・・・・・こんなの『ゼロ』どころか、ほんとに『レベル・2』なんじゃねえか?!)
自身の“不可思議”な“魔法”に対して、それに出会えてからの数か月の“濃い時間”を過ごしてきた中で、當真自身もある程度の“理解”は進んでいた。
『魔法に“嫌われる”魔法』。
當真の“魔法”は、“とある状況下”を除いて、基本的にどんな“魔法”にも“嫌われる”、謂わば“魔法の拒絶”に近い力を発揮するのだが、如何せん“レベル差”のある“魔法”に関しては“嫌い切れない”のだ。
當真自身、“レベル差”が何を基準にされているかなどは明確には理解していないが、少なくとも『レベル・2』相当の“魔法”に対しては、“基本的に”は“嫌い切れてない”現実を、“実体験”で蓄積された情報が、その“事実”を本能的に當真に知らし示していた。
それゆえに。双葉カエデの口にした“BOOST”の言葉にも、実際の“脅威”としても、當真は鮮明にその身に感じ取っていた。
その身を挺し、双葉カエデの不意打ちの一撃を払った當真の背を受け、くれはの表情にもこれまで以上の“熱”が籠る。
纏う“紫電”を戦慄かせながら、叫ぶように双葉カエデに向かって言葉を放つ。
「カエデ!!いい加減にして!!ワケの分からない『麻薬』なんかに手出して、それでかえでっちも狙うなんて。あんた、自分がどれだけ“バカ”な事やってんのか分かってんの!?」
「・・・・・・」
くれはの言葉に対し、一瞬、双葉カエデの表情が“曇った”のを、當真は見逃さなかった。が、すぐさま口角を上げ、不敵な笑みを浮かべながら双葉カエデは言葉を謳う様に返す。
「“バカ”な事ねえ・・・アンタには一生分かんないよ、くれは?・・・・・あと、そこの“緋色 楓”にもね、最初から“持ってる”人たちにはさ?」
「は?あんた、本当にー」
ザザッ、ヒュュュュ・・・ビュウゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!
くれはの“熱”を遮るように。どこからともなく“不可思議”に吹き寄せられ始めた“風”を、その“右手”に纏いながら、くれはの前に仁王立つ楓。
その表情には、もう“揺るがない”意志が目に見える様で。ゆっくりと口を開く。
「くれは、“理由”が何であれ、今は“全力”で“止めに行く”けど・・・いい?」
「かえでっち・・・」
“右手”に収束しだした“風”を、全身に纏う様に展開させながら言葉を紡ぐ楓。
“理由”はまだ分からない。だが、始まりの邂逅で、自身の中で揺らぐほどの困惑を与え、踏み出す事さえ出来なかった状況とは違い、少なくとも“今”、自分にとって“大切な人”が“大切にしている人”が、目の前で“間違った事”をしていて、それが原因で“傷つくかもしれない”のだ。
その“魔法”を手にして“止める”事に、“迷う”理由など、楓の中にはなかった。
そして、楓の“決意”に倣う様に、その隣に一歩を踏み出し、“紫電”を纏いながら横並ぶ、くれは。
「・・・うん。じゃあ“一緒に”あの子を止めて、かえでっち。・・・あっ、これって、もしかして・・・“夫婦の初めての共同作業”ってー」
「違うッ!!!!!いくわよ!!!!!!!!」
瞬間、當真の目の前に並び立つ、“二人の『レベル・2』の景色が様変わりする、
”“風”と“紫電”が、一気に“爆ぜる”。
ビュッッッッッッッ!!!!!!!バヂリッッッッッッッ!!!!!!!
二人が“魔法”を纏い飛び出すその勢いで巻き起こる風圧に、思わず身構えながらその背を見送る當真。
“緋色”と“紫”の“風雷”が流々と、双葉カエデに向かって飛び出していくその様は、まさに“非日常”の結晶の景色そのもの。
対する双葉カエデは、両腕を広げ、“赤の雷光”をこれまで以上に“呼び寄せ始める”。
「そうそう!!分かりやすくいこうよ!!どっちが“特別”かって証明するにはさあ!!ぶつかるのが一番分かりやすいってねえ!!!!!!」
バヂヂヂヂヂヂッッッッッ!!!!!!バッッッッッッギャッッッッッッ!!!!!!
空気が歪に割れるような、裂けるような“不穏な異音”。
そして、降りしきる“雷雨”の如く、幾星霜に分かれた“赤の雷閃”の波が、まるで自らの意志を持ったかのように、楓とくれはに一直線に向かって放たれる。
バッッッ!!!リリリッッッッ!!!!
その場に立ち止まり、両腕を突き出すくれは。楓の一歩前に飛び出し、“紫電の防護壁”を即座に展開し“赤の雷閃”を防ぎ切る、と、すかさずその背後から、自身の両脚に“風”を収束し、“紫電の防護壁”を宙を舞い上がり乗り越え、勢いそのままに双葉カエデに向かっていく楓。
空中でそのまま“右手”を突き向ける、どこからともなく吹き荒れる“風”が、ひとつの塊となって、双葉カエデに向かって放たれる。
ビュッッッ!!!バヒュッッッッ!!!!
“風塊”はその道中で四つへと分離、それぞれが意志を持って四方向から双葉カエデの四肢へとうねりを上げながら突き進んでいく。“吹き飛ばす”でなく、まるで、双葉カエデ自体を“拘束”する“鎖”のように・・・
バヂッッッ!!!ドッッッンンン!!!
楓の“風鎖”が届くよりも早く、双葉カエデの両脚に“赤の雷光”が瞬く、次の瞬間、大地を割る“轟音”と共に、その場から“消える”双葉カエデ
バヂッッッリ!!!ドッッッ!!!!!
の姿を追うように、その先へと追随するのは、“紫電”を両脚に纏ったくれはだった。
後方数十メートル先へと高速で移動した双葉カエデを、後追いかつ楓よりも離れた位置から、一気にその距離を“跳び越える”くれは。
そのあまりの速さゆえに、くれはの移動した軌跡の残像には、彼女の纏う“紫電”が余韻で空間に残る程で
「理由なら後で聞いたげるから!!今は!!そのバカな頭をリセットしな!!カエデ!!!!」
ほぼゼロ距離、くれはの“右手”に収束された“紫電”の小さな塊が、双葉カエデの胸元へと伸び・・・
バッッッ!!!ヂリッッッッッ!!!!!ドバアアアアアアンンンンンン!!!!!!
爆音と共に吹き上がる粉塵の壁。當真は思わず息を呑む、その轟音と破壊音は直前に當真が受けたゼロ距離での“赤の雷爆”と同様、いや、それ以上の破壊力を持った一撃だった。
しかし、互いに“雷光”の如く、高速での移動が可能な『“魔法”と“特別”』を持つ双葉だ。
立ち込める粉塵の砂煙の中から、雷鳴を響かせながら“赤と紫”を纏う少女たちの姿が空中へと飛び出してくる。
「そんな攻撃が私に“届く”わけ・・・」
「当然“知ってる”。だから、“先”を用意してるに決まってんでしょ!!!」
「ッ!?」
双葉カエデが“左手”を振るう、そこに“赤の雷光”は漂っていない。
だが、空間が歪むような、ノイズを可視化したような現象を纏ったその“左手”に“吸い寄せられる”ように、空中で僅かに無防備な体勢となったくれはに向かって放たれたのは、これまでの破壊の残滓によって生まれた石片や鉄片が合わさった“異塊の弾丸”。
ゴッッッッ!!!!バッッッッッッッ!!!!!!!
触れるものを潰し切る程の“異塊”は、磁石のプラスマイナスのように、双葉カエデの“左手”に吸い寄せられていく、その道中にいるくれは諸共巻き込むように・・・・・・
「『十秒呼風』」
ビュウウウウウウウッッッッッッ!!!!!!ヴゥゥゥゥザッッ!!!!!!!バギャッッザザザザザザザンンンンンンンンンンンンンン!!!!!!!!!
吹き荒れる“暴風”、竜の如き巨大な“風の一閃”が、くれはに向かっていく“異塊”の真横から突き刺さり、幾重の風切り音を叫びながら、“異塊”を言葉通り“粉々に切り刻んでいく”。
“異塊”を切り刻んだ“暴風”は瞬時に“風の壁”へと変容し、空中で無防備になっていたくれはを包み込むように纏わり、そのままゆっくりと楓の元まで“引き寄せ”、着地させる。
一連の双葉同士の闘いの最中、時間にすれば十秒ほどか。
ただ、その時間を、視線をその動向に送るでなく、“右手”に“風”を収束し、先を見据え動いた楓の“魔法”によって、くれはは間一髪を免れる形となった。
「大丈夫?くれは?」
「ありがと!かえでっち!!危なかったわ!!さっすが私の愛しのハニー!!ラーブ!!!!!」
「こらっ!?どさくさに紛れて抱きつこうとするんじゃないわよ!?」
一瞬の余暇で、息を上げつつも戯れ合いを見せるくれはと、冷静にそれを押し返そうとする楓。
そして、ここまでの“超常現象”の交差する一連の、数十秒足らずの“非日常”の景色に対し、踏み込める隙間も見いだせなかった當真は、息を呑み、感情を思考で言語化するに留まっていた。
(なんだよ、これ?この一瞬の間に、どんだけの“非日常”が繰り広げられてんだよ、映画でも見てんのか?!入り込む“余地”なんて、まるで『ゼロ』じゃねえか?・・・でも、)
拳を握りしめる、力は込めている。だが、當真がそこに入り込む隙間など微塵もない程に、瞬く間に映り変わる“超常”の“連鎖”。
悔しさとは違う、ただ、そこに辿り着くことも、そこで何か出来る姿も想像する事さえ難い事を、當真は本能で感じ取っていた。
そして、同時に感じ取っていたのは、胸を騒めくような、“イヤ”な感覚。
(『レベル・2』が二人もいて、どんだけ双葉が凄くても、何とかなりそうなのに・・・なんだ、この胸騒ぎは・・・・・)
カリッ
「“イライラする”なあ・・・でも、流石に『レベル・2』二人相手だとキツイけどさぁ、」
楓とくれはに視線を向け、一瞬表情を“曇らせ”たあと、すぐさま白のケースから一掴みを口にし、“右手”を空へと掲げる双葉カエデ。
バヂヂヂヂリリリリッッッ、バヂヂヂヂヂヂ、ヂヂヂヂヂヂ、バヂヂヂヂヂヂヂヂ・・・・・・・
その手の上空に、“赤の雷光”が、“球体”の様な形で集まり始める。徐々に拡大していく“球体”、その中に収束された“赤い雷撃”の何十もの束は、不協和音を鳴らしながら今にも爆ぜて飛び出しそうなままを維持されており、
バヂヂリッッ
“右手”に“紫電”を纏わせながら、くれはが双葉カエデに向かって叫ぶ。
「どれだけの“雷”を撃ったとしても、私やかえでっちにはー」
「そんなの、“知ってる”よ?(ははん)」
不敵な笑みを浮かべる双葉カエデ、そのまま体を半歩ほど振り返ると、“左手”を楓やくれはたちとは正反対の方へと突き出す。そして、再び顔だけを楓やくれはたちに向け直し、告げる。
「でも、アンタたちには届かなくても、“あの人”たちはどうだろうねえ?」
「!!?」
當真がいち早く、その言葉の真意を“見つける”、と同時、双葉カエデの上空に漂う“赤の球体”が不吉な音をたてながら割れ始め、
ザッ、ダッッッッッ
「そっからああああ!!!離れろおおおおおおおお!!!!!!!!」
大声で叫び、誰よりも早く駆け出す當真の背中、そしてその向かうべき先に視線を伸ばし、楓やくれはも“気がつく”。
双葉カエデの奥、十数メートル先。
その“左手”を差し向ける先にいたのは、刻一刻と変わり果てていく“非日常”の景色に目を向ける、十数人の人だかり。そして、変わりゆく景色に奪われた視線は、その“元凶”が自分たちに“手を向けている”事など、まるで気づく様子もない、まして當真の叫びなど届く事もなく・・・・・
(当然、だ!!短時間とはいえ、こんな“超常現象”が巻き起こってんだ、様子を見に、野次馬が出来るのだって当たり前だろ!!!!!!)
拳を握り、双葉カエデの元へと駆け寄る當真。距離を考えれば、双葉カエデのその先に佇む人たちの元へなど、到底“間に合うはずがない”。それゆえに、當真はその元凶を“叩き”に、駆け出しているのだ。
だが。“それすら”も、もはや“後手”である。
バッッッッ!!!!!!!バババババババ!!!!ヂヂヂヂヂヂヂヂヂ!!!!!!!!!
“割れる”音、同時に縦横無尽に“球体”から飛び出す“赤の雷撃”、数十にも割れたその“雷撃”の矛先は、當真と双葉カエデの距離がほぼゼロに到達する頃合いに、双葉カエデの左手の差し向ける先へと放たれていく。
そして
「ちょうどいいや、トーマも“利用”させてもらうよ?」
「!?」
双葉カエデが、掲げた“右手”を振り回すように払うと、その動きに連動するように数本の“赤い雷撃”が、當真の元に向かって放たれる。
バヂヂヂヂ!!!!バヂヂヂヂヂ!!!!!
ガッ、キインンンンンンン!!!!!!!
咄嗟に“右手”で“初撃”を払う當真だが、連鎖するように続く“赤の雷追撃”が、すぐ目の前に差し迫っていた、
「くっ!!?」
もはや、“嫌い”ようも“躱しようも”ない状況下、
そして、當真に迫る“雷撃”同様、数十の“赤の雷撃”も、群がる野次馬の元へと無慈悲に届きー
バヂッ!!!ドッッッ!!!!!!!!バヂリリリリリリリリ!!!!!!!!
ビュッッッ!!!!!!!ガシッッッ!!!ブウォォォォォォォ!!!!!!!
當真と双葉カエデの側を、目にも止まらぬ速さで駆け抜ける“紫電”、そして“赤の雷雨”の波状を、野次馬たちに届くその直前に、“紫電の防護壁”で全て受けきるくれは。
一方、その直後、タイムラグ“コンマ数秒”のタイミングで、當真の周囲に吹き荒れる“暴風”、そして迫りくる“赤の雷追撃”を、首元を掴まれ上空へと回避する當真、そう、もちろん當真の首元を掴んだのは言うまでもなく“暴風”をその身に纏った楓だ。
一瞬にも満たない、危機的状況からの同時回避劇。
それを為せたのは、楓とくれはが『レベル・2』ゆえの“奇跡”といっても過言ではないだろう、そして互いの持つ“魔法”への自負、責任感や信条が、その行動に現れたのは言うまでもない、
だが、しかし。“だからこそ”、
「“アンタたち”ならそうするよね、“目の前”の人たちを助けるって。“知ってた”よ?だから、こんな風に“隙”が出来るんだよ?」
双葉カエデが、“左手”を大きく振るう、瞬間、周辺の至る所から突如現れる“異塊”の小さな弾丸。
その数、数十にも及ぶ塊の弾は、マシンガンの如く轟音と共に、野次馬の前で両腕を掲げ“紫電の防護壁”で“赤の雷雨”を防ぐ、無防備なくれに向かって放たれる。
ドッッッッ!!!ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッッッッ!!!!!!!!!
“ソレ”に気がつくも、“間に合う”道理もなく、くれはの腹部を含む全身へと、“電磁の壁”を突き破り炸裂する“異塊の弾”。
「あああああっ!!!!」
その凶弾全てを全身に受け、叫び、そのままその場に倒れ込むくれは、
「くれはっ!!!!!?」
を心配し、當真を掴み浮遊しつつ叫ぶ楓、の視線がくれはに向かった矢先、
バヂリッッッ!!!!!!!ドッッッッ!!!!!!!!!!!!
大地が軋む轟音、瞬間に巻き上がる粉塵と共に、その場から“消える”双葉カエデの姿。
その“赤の残像”が向かう先に當真は視線を必死で向ける、くれはがいる場所と“正反対”の方向、そこにいるのは
「ごめん、あなた“は”保険だけどさ。“ヒーロー”を呼び出す為の、“人質”になってもらうよ?」
バヂリッッッッ
轟く、瞬間の“赤の雷閃”。その矛先は、佇むパレットに向けられた一撃だった。
「きゃああ!!!」
「パレットおおおおおおッ!!!?」
當真の視線の先、突如として現れた双葉カエデに為す術もなく、“赤の雷閃”をその身に撃たれ、叫び声とと同時にぐったりと気を失い、その場に倒れ込むパレット。
双葉カエデは、両腕を広げ、“不可思議”に歪む“特別”を纏わせる。パレットの体がひとりでにゆっくりと浮き上がり、双葉カエデの左手近くに“引き寄せられる”、と同時に
バヂリッッッ!!!!ドッッッッッ!!!!!!!!!
轟音と、再びの粉塵。當真の視線の先から、双葉カエデとパレットの姿が“消える”、
次の瞬間、倒れ込んだくれはのもとに突如として現れる双葉カエデと、気を失ったまま“不可思議”にその側に浮遊しているパレット。
「くれはっ!!!!!」「パレット!!!!!!」
その場に降り立つ當真と楓、着地と同時の叫び声を発端に、野次馬たちも我に返ったように一斉に叫びながら、その場にいる双葉カエデの元から散り散りに駆け離れていく、その身を挺し、守ってくれたくれはのことなど気に留める様子もないままに。
「ひどいよね、自分たちを守ってくれた“くれは”には目もくれず逃げ出すなんてさ?まぁでも、それが正しいよ。ヒーローなんて“バカ”のやる事なんだよ?くれは?」
倒れ込むくれはに向かって、“右手”を差し向ける双葉カエデ。その動きに連動するように、くれはの体が“不可思議”に浮き上がり、相対するパレット同様に、双葉カエデの右手近くに“吸い寄せられ”、ひとりで浮遊する。
その両腕近くに、パレットとくれはを“捕らえた”双葉カエデは、一呼吸、そして不敵な笑みを浮かべながら當真に一度視線を向け、その後改めて、楓に向かって告げる、明確な『宣戦布告』を。
「言ってもさ、そろそろ警察とかも来そうだからさ、今日はこの辺でお開きにしようか?“緋色 楓”ちゃん、明日の夜23時から日付が変わる0時までの間、“双葉”との“始まりの場所”で待ってるからさ?」
「始まりの、場所・・・?」
状況と言葉に戸惑いを見せる楓の表情を、楽しむように、双葉カエデは白いケースから一掴み、一口、言葉を続ける。
「あっ、くれはとこの子はさ、“人質”だからね?この言葉の意味、“ヒーロー”ちゃんなら分かるよね?くれぐれも誰にも言わずに来てね?待ってるからね?」
「ちょっと、待っー」「パレット!!くれは!!!!!!」
手を伸ばすように、踏み出し、叫ぶ楓と當真。だが、上空に立ち込めた“暗雲”が不穏を鳴らし、瞬間、
ゴッッッ!!!ロロロロロロロロロロ!!!!!!ガッッッッッバリリリリリッッッ!!!!!!!!
二人と双葉カエデの間に落ちる、“赤雷の柱”。
空気が割れる音、咄嗟に身構える楓と當真の視界が、一瞬にして“赤白く”染まり上げ、大地が割れる音と同時に吹き上げる粉塵の壁によって、完全に二人は双葉カエデの所在を“見失う”。
立ち込める粉塵の壁を薙ぎ払う様に、楓が“右手”で“風”を吹かせるも、その視界が明確になる頃には、そこに双葉カエデも、もちろんくれはやパレットの姿はゼロであった。
呆然と立ち竦む楓、そしてその隣で拳を握りしめる當真。
二人の上空に“不可思議”に浮かぶ雷雲の中で響く小さな雷鳴が、“偽りの証明”の先の“答え合わせ”の夜に、ゆっくりとピリオドを鳴らしていた。




