#16 赤と紫の鳴る夜に①
「双葉、『カエデ』・・・?待って、くれは・・・双子・・・って事、なの?」
目の前の光景に、戸惑いを隠せない楓。だが、その表情には、直前まで見えなかった色が灯り始めていた。
二人の双葉が邂逅する光景。
安堵と困惑の入り混じった感情は、もちろん楓だけでなく、その場に居合わせた當真やパレットにも同様に生まれていた。
「あれ?かえでっち、“覚えてない”の?初めて会った時に、私、ちゃんと話したと思うんだけど?かえでっちと同じ“名前”の“家族”がいるんだーってさ?ひどいなー、私とかえでっちの運命の出会いの瞬間の事を憶えてくれてないなんて・・・シクシク」
動揺する楓に向かって、あっけらかんとした様子で話し始める双葉くれは。そんなあまりにも“日常”めいたくれはの様子に、楓も思わず声を荒げる様に返す。
「そ、そんなの!!何年も前の話だって思ってんのよ!?覚えてるわけないし、しかもそれが“双子”だったなんて、知るわけないじゃなー」
ゴッッ!!ロロロロロロロロロロッ!!!ガッッッッッ、ダッアアアアアアアアンンンンン!!!!!!
鳴り響く“雷鳴”、同時に放たれるのは、赤の“轟音”を纏いし“雷撃”。“日常”を“非日常”に引き戻す、一閃が楓たちに向かって放たれる。
だが
ガッッ!!キィィィィィィィン!!!!!
楓たちに放たれた“赤い雷撃”は、そこに届く前に、瞬時に立ち塞がった當真の“右手”が、今度はしっかりと“届き”、上空へと“嫌い”、いなす。
「おいおいッ!?とりあえずそんな悠長に話してる状況じゃねえんじゃんねえの!?」
息を少し上げながらも、楓やくれはの前に立ち、しっかりと相対する『もうひとりの双葉』を警戒する當真に対し、くれはは思い出したように
「あれ?確か・・・そうだ!“駅”で親切にしてくれた人じゃん!!“また”助けてくれるなんて、ほんと“君”っていい人なんだね!かえでっちが惚ー」
「なあにおおおおおお言おうとしてんのよおおおおおお!!!!????」
ビュッッッッ!!!!!!!!!!!!
「(モゴモゴモゴ)?!!」
「ああ?何してんだ、お前!?」
零れ出す言葉を遮るように、目にも止まらぬ速さで、くれはの口元を“風”で塞ぎこむ楓。そして口元を“不可思議”な“風の層”によって塞がれバタつくくれはと、『もう一人の双葉』を警戒しつつ視線を向ける當真。
一呼吸、もう一度視線を前方へと向け直した當真は、状況を整理するように言葉を続ける。
「・・・とりあえず、その言い草だと、お前が“駅”で一緒だった『双葉』で、嵐ガールが探してた方で間違いないんだよな?それで、“向こう”にいる『もう一人』がー」
「ねえ?“君”、名前は?」
「・・・は?」
「だから名前だってば!“君”だと呼びづらいじゃん?」
「いやいや、今それどころじゃ・・・」
この状況の中で、まるで慌てる様子もなく當真に“自然”と問いかけるくれはに対し、戸惑いを見せ始める當真、だが、その後ろから“さらに”空気の読めない“金色の少女”が割り込み、當真の腕を掴みながら
「こっちは『ないと』で、わたしは『パレット』。よろしくなんだよ、双子のお姉さん?」
「何を急に挨拶し始めてんの?!パレットさん!?空気読んで!!?あと他己紹介をあだ名でするんじゃねえですよ!?」
「へえ?じゃあ“ないとっち”と“ぱれっとっち”かな?よろしくね!!私は『双葉 くれは』。くれはって呼んでね?そしてー」
ゴッッッッッロ!!!ガッッッッッッバリッッッッ・・・・・・バヂッッバヂヂヂヂヂリリリ!!!!!
くれはが“右手”を掲げ、無慈悲にも再び迫りくる“赤い雷撃”に対し、その掲げた“右手”から“瞬間”で解き放つ“紫電”によって、それを完全に相殺する。
「あの子、『双葉 カエデ』の双子の姉だから、ここに“止めに来た”の」
くれはの言葉から“軽さ”が消える、そこに向ける眼差しにも、これまでとは打って変わって力が込められる。
一方で。
ここまで、冷酷なまでに二連の“雷撃”を放ってきた『双葉カエデ』は、ゆっくりと目深に被っていた黒のパーカーのフードに手をかけ、ゆっくりと脱ぎ始めその“顔”を露わにする。
整った小さな顔立ちは、くれはとまさに瓜二つ。顔の半分を占める程の大きな瞳が、くれはよりも僅かに黒みを帯びているが、遠目に見る分に違いを見出す事は難しいだろう。
黒髪のショートヘアーも、そのフォルムや長さ含めて、ほぼ“一緒”。だが、これまで被っていたフードを脱いだ事で、“赤色”のメッシュが入ってる点が、くれはとの違いを“明確”に見分ける唯一の“異点”である事が分かる。
総じて、見比べても“二人の双葉”がそこにいるとしか思えない状況だが、放つ“威圧感”と、その“表情”は明確に違う。少なくとも、『双葉カエデ』が示すものは、“敵意”のみしかない。
「“止めに来た”、ねえ?相変わらず“いい子”ちゃんだね、くれははさ?・・・・・でも、邪魔しないで欲しいからさ、帰ってくんないかな?」
冷酷に、淡々と呟きながら、両手を広げる『双葉カエデ』。その手の周辺に“赤い雷閃”が漂い始める。
「そんなわけにはいかないでしょ?そもそもカエデがいなくなったから日本まで探しに来たんだし、アンタの狙いが“かえでっち”なのが『確定』した今、姉である私がアンタを止めない理由なんてないでしょ!!」
双葉カエデに向かって、右手を突き出すくれは。その右手周辺に、言葉尻に合わせて“紫の雷閃”が漂い始める。
バヂヂヂヂ、バヂヂヂヂヂ、バヂヂヂヂヂヂヂリリリリリリリ
互いの雷の波動が反発しあう様に、鳴り響きだす。周辺の空気感が、不穏一色で染め尽くされていく最中、當真は楓に一度視線を向けた後、囁くように疑問を零す。
「なあ、お前さ、あの子となんかあったのか?」
「・・・知らない、というかくれはが双子だったことさえ今知ったんだし、私だって何でこんな状況になってるのかー」
「・・・あれか?“いつもみたく、”気がつかない内に“暴風”で吹き飛ばしたとか?」
「バカ言わないで!!“アンタ”以外“に、吹っ飛ばす”ような“魔法”、むやみやたらと使うわけないでしょ?!」
(いや、俺には使ってる“自覚”あんのかい?!)
胸中でツッコミを入れる當真を尻目に、くれはが二人の会話に割り込んでいく。
「正直言うとね、私も“知らない”んだよね、あの子がかえでっちを狙う理由が・・・それに、それ以上に、私も“知らない”のがー」
バヂヂヂヂヂヂヂ、リリリリッッッッッッ、
唸りだす、不穏な“赤の雷鳴”。そして、続くくれはの“疑念”の言葉が、“始まりの火種”となる、
「なんで『ゼロ』のカエデが“魔法”を使えてるか、ってこと」
「・・・え!?」「は?ゼロ?嘘だろ?」
バヂヂヂヂヂッッッッ、ゴッッッッッッロッッッッ!!!!!!!!!!!
収束された“赤の雷塊”が大砲のように楓たちに向かって放たれる。
地面を割り削るように迫りくる雷撃に対し、くれはの言葉に動揺を見せる楓と當真は、一瞬反応が遅れる。
だが、くれはが突き出した右手を一気に開くと、その“右手”の周辺に漂っていた“紫の雷”が、まるで花開くように大きく“電磁の盾”となって正面に展開されていく。そして、迫りくる“赤の雷塊”を一手に受け止める。
ババババババヂヂヂヂヂヂヂヂヂリリリリリリッッッ!!!!バッッッッギンンンンンン!!!!!!
衝突の瞬間、割れるような“爆ぜる”衝撃音、そして瞬間に強烈な爆風が楓たちの方に向かって“駆け抜けていく”。
風圧に耐えるべく身構える楓たち、コンマ数秒で風圧は過ぎ去り視界も晴れていく。くれはの展開した“紫電の盾”によって、“赤い雷撃”によるダメージは『ゼロ』に近い。
だが、物理的なダメージよりも、その疑念と焦燥感に、くれはの表情にも焦りが見えてくる。
「・・・流石に“このまま”だと、ちょっと厳しいか、」
対する双葉カエデは、冷静に呟くと、パーカーのポケットから白い小さなケースを取り出し、『タブレット菓子』を二口、
カリッ、カリッ
次の瞬間、双葉カエデが左腕を真横へと掲げ、握りしめていた左の拳を大きく開くと同時に、停滞していた“非日常”の景色が、再びその景色を大きく歪めていく。
上空を暗雲が支配していき、先程までと打って変わって“悪天候”、だが“限定的”にだ。
双葉カエデの上空“のみ”、その暗雲は収束されていく。まるで、双葉カエデによって“引き寄せられている”ような・・・
「ッ!?みんな、伏せて!!!!!!!?」
くれはが叫び、両腕を上空へと上げると同時、“紫電の盾”は半球体のように拡張し、楓や當真、パレットを包み込む“防護壁”のように成る
と、ほぼ同時に
ゴッッッッッ!!!!!ロロロロロロロ!!!!ドッバアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!!
一瞬にして、當真たちの視界が“赤白い世界”へと変容する、眩さと痛さの入り混じるような感覚と、くれはの展開した“紫電の防護壁”に“落ちてきた”、強大な衝撃圧が、瞬く間に當真たちに襲い掛かる。
その正体は、『ゼロ』距離に落下した爆撃の如き、“赤き雷雨”。
直撃してないにも関わらず、その余波、衝撃圧よって、その場に屈服させられるように身体を強制的に平伏せさせられる當真たち。
咄嗟に“防護壁”を張ったくれはでさえ、その衝撃に片膝をつくまでに至っており、その衝撃の重さが徐々に當真や楓たちに不穏な“感情”を与え始めていく。
「おい、くれは!?“魔法”が使えないって、こんなすげえ事してて『ゼロ』なんて、なんかの間違いじゃねえのかよ!?」
思わず声を上げる當真に続くように、平伏しながらも耳を澄ませるような格好のパレットが、當真の疑念を“別ベクトル”で加速させていく一言を続ける。
「ないと、でも“間違い”じゃないよ、今のも“魔法”なんだよ?でも、でもね、なんか“変な音”なんだよ。こんな間近で“識いた”のに、ちゃんと“分かんない”感じがして・・・なんか、“魔力”が定まっていないというか、不安定と言うか・・・そこに“在る”はずなのに、“無い”みたいな・・・」
「パレット・・・?」
パレットの言葉、そしてその表情に。當真の胸の内の“イヤ”な感覚が、騒つき始める。
そして、自身の“右手”に“不可思議”に“疼く”感覚に、楓も言葉を零す。
「こんなの・・・『ゼロ』どころか、くれはと“同じ”、『レベル・2』なんじゃ・・・」
「ありえないよ、かえでっち。少なくとも米国にいる時に、あの子は間違いなく『ゼロ』だったからー」
カリッ
困惑の会話劇に鳴り響く、乾いた“割音”。當真たちの視線の全てが、その音の源である双葉カエデに向けられる。
「くれはの言う通りだよ?『ゼロ』なのは本当。でもね、この“特別”は現実で、決して“嘘”なんかじゃないんだよね、」
“赤い雷”が“不可思議”に、自身の周囲に蠢き始める中で、その右手に持つ白いケースを當真たちに見せびらかすように突き出す双葉カエデは、口角を少し上げ、冷たい笑顔で言葉を続ける。
「ねえ?君たち、“BOOST”って知ってる?」




