#-17.5 Road to Magenta (Reverse)
“黒”。
意識が追い付く、真っ黒な世界。いや、単純に目を閉じているからだという事に気がつく。ゆえに、ゆっくりと目を開けると
「ここ、どこ・・・?」
切れかけた照明がまばらに点灯している、小さな暗い部屋。そして、その“電気”の流れを感じ取り、その照明が正規ではなく“無理矢理”点いている事も、その“魔法”ゆえに“すぐに”理解した、双葉くれは。
「やっと目ェ覚めた?くれは?」
その声に反応するように、ゆっくりと視線を上げ、そちらの方に向けるくれは。
視線の先、部屋の入口近く。野ざらしの机に片膝を立てて腰をかけ、気怠そうにスマートフォンを片手に操作しながら応える、“自身と同じ顔”の人物。
「・・・カエデ、あんたっー!?」
ガチリッ
咄嗟に、届くでもないが反射的に手を伸ばそうとするくれはだったが、“気がつく”。
自身の両手は、後ろ手で“何か”に拘束されて“不自由”であるということも、そして
(・・・・・“魔法”が、使えない?!なんで!?)
防衛本能が無意識なままに“発揮”しようとした意志が、“不可思議”に抑制されるような、かつてない“感覚”が、拘束された両腕を中心に全身に広がっていき、瞬間的に“魔法”が使えないという“非日常”を感じ取るくれは。
「すごいよね、“ソレ”?“魔法”使えないでしょ?警察とかで“魔法犯罪者”を拘束する為の“特殊手錠”なんだって。こんなものまで“持ってる”なんて“アイツら”ってなんなんだろうね、まあ興味ないけどさ?」
淡々と、だが言葉に温度のないままに説明を告げる双葉カエデ。一方で、疑念と焦燥感、そして不確かな怒りにも似た感情が沸き立ち、声を荒げるくれは。
「“アイツら”って誰!?というかここ、“どこ”よ!?それにアンタ、“麻薬”なんかに手出してー」
カリッ、バヂヂリッ、バッ!ドッッッッッッッンン!!
瞬間の“赤い閃光”、そして小さな轟音と共に、くれはの顔をギリギリ掠めるように通り過ぎた“雷撃”が、くれはのもたれかかっている壁を“撃ち抜く”。
「落ち着きなって、くれは?“時間”はまだあるんだし、ギャーギャー騒いで体力使うのバカらしいよ?」
「・・・ッ」
無慈悲にくれはへと差し向けた右の指先を、そのまま自身の髪へ絡ませながら呟く双葉カエデに対し、何も出来ない状況を“理解”し、視線を動かし“状況整理”へと切り替えるくれは。
見渡してみる限り、何もない小さな部屋だ。と言うよりも、“生活感”や“リアルさ”に欠ける印象、まるで“全く使われてなかったであろう”印象しかない程に、質素で音も色も“何もない部屋”だ。
そして
(あの子!!え、大丈夫ー)
視線の行きつく先。ぐったりとした様子で座り込み、両腕を前で“ロープ”のようなもので縛られた、白いローブを身に纏う金髪の少女を見つけたくれはの鼓動が一気に緊張と不安で高まー
「むにゃむにゃ。ねえ、ないと、ごはんがたりないんだよ?むにゃむにゃ」
ーらない、一気に冷静さを取り戻す程に、呑気な寝言を繰り出しながら口をモゴモゴさせている“金色の少女”ことパレット=セブンデイズの様子をくれはは捉えた。
「呑気なもんだよね?まあ、こっちの事情で連れてきちゃったからさ、とやかく言うつもりもないんだけどさ、もうちょっと“人質”っぽく慌てふためいてくれてもいいのにさ、」
くれはの視線がパレットに向いた事に“気がついた”双葉カエデは、おもむろに立ち上がり、パレットのすぐ側まで歩み寄る。
「くれはより先に起きてさ、慌てたり怖がったりするかと思ったら、この子、何て言ったと思う?『ないとがきっと助けに来てくれるから心配なんかないんだよ?それよりもお腹空いたから、何かちょうだい?』だよ?もう呆気に取られて、おもわずコンビニまでご飯買いに行ってあげたくらいだからね?(ははん)」
その瞬間を思い返し、一瞬、ごく“自然”と微笑み返した双葉カエデだったが、視線をくれはに向ける時にはすでに感情のない表情に様変わりしていた。
「・・・トーマのどこに期待してんだろうねえ?まぁアイツが助けに来ようが来なかろうが“どっちでもいい”けどさ、“緋色 楓”ちゃんは、ちゃんと“ここ”まで来てくれるかねえ?」
「・・・カエデ、もう一回聞くよ?“ここ”はどこで、そして、なんでアンタはかえでっちを狙うの?」
視線を合わせる二人の双葉。自身が身内に捉えられ“人質”とまでされている状況に置いて、今はもう動じる様子もなく“強い意志”を持って相対するくれはに対し、その眼差しからも“感じ取れない”現状に、双葉カエデは視線をくれはから外し背を向け、どこか“哀しい”表情を浮かべる。そして
「安心しなよ?|“ここ”はただの『控室』だよ。くれはと“ヒーロー”、そして私にとっても“始まりの場所”にある、ね?」
「“始まりの場所”・・・私とかえでっちの・・・もしかして・・・」
『控室』と謳われた、この小さな部屋に関しては見当がつかない中で、ただ冷静に思考を掘り起こしていく中で“とある場所”が脳内にフラッシュバックするように思い浮かぶくれは。
それは、“楓と初めて会った場所”。そしてー
「・・・・その様子じゃ、だいたい“検討”はついたのかな?」
「でも!!この場所・・・“あの時”もカエデはいなかったし、ここが“双葉との始まりの場所”って言ったって、かえでっちには・・・」
バヂヂヂヂヂヂリッッッッッッ!!!!!!
くれはの言葉を遮るように、双葉カエデの周囲に不穏な音を鳴らしながら漂う“赤い雷閃”。
表情に変わり映えのない双葉カエデの“苛立ち”を表しているかのように戦慄く赤の雷に、くれはも思わず口をつぐむ。
「分かって辿り着いてくれなきゃ困るよ?だって“ヒーロー”なんだからさ、その“魔法”に“自信”持って、当然助けに来るでしょ?“その上”で叩き潰すんだからさ?」
ゾゾゾゾゾゾクッッッッッッ
背筋を走る“感覚”と、これまで見たこともない“感情”、そして周囲を蠢く赤の雷光の不協和音。
生まれてからずっと、他の誰よりも“同じ時間”を過ごしてきたはずだと思っていた人物へ抱く、“嘘”のような見知らぬ“感情”に、くれはの中の困惑と混乱は加速していく。
何よりも、その“感情”に至るのは、“分からない”からだ、
(なんで・・・“ここまで”かえでっちに拘ってるの、カエデ・・・?!)
そもそも。双葉たちや楓がこの街で過ごした時間は“幼少期”の僅かな期間、そしてくれはは“まだしも”、記憶をどれだけ遡っても、“楓とカエデ”の二人が共に過ごした時間は、ほぼ『ゼロ』であることを、くれはは誰よりも“知っていた”。
それゆえに、“分からない”。この状況が、くれはにとってもあまりにも“非日常”過ぎるが故に、だ。
パチンッ
軽く手を叩く双葉カエデ。蠢く“赤の雷光”が、ゆっくりと自由意思を持ったかのように“不可思議”にくれはの周囲に向かってくる。
靡く“赤の雷光”が、くれはの黒髪の中の紫のメッシュを、より“映えさせる”中で。双葉カエデは不敵な笑みを浮かべながら、告げる。
「まぁ、でも。『レベル・2』が二人揃っても“あんな調子”だし、“ここ”に辿り着いても“ヒーロー”の結末なんて、もう分かりきってるようなもんだけどね?はー・・・あと数時間後が、ほんと楽しみだわぁ・・・」
カリッ・・・・・バヂヂヂヂ、バヂヂヂヂリ
「カエデ・・・・・」
白の小さなケースから、錠剤を・・・いや“BOOST”を一口。双葉カエデの周囲を再び漂い始めた“赤の雷鳴”が、その不協和音をゆっくりと奏で始める。
“紫電”を纏う少女漂う、“赤の雷鳴”が、小さな部屋の扉の先まで、ゆっくりと伝播し、続く暗がりの廊下中へと、反響していく。
そして、鳴り響く音は、開かれた空間から“外”へと抜け出し、夕闇近づく外の世界へと静かに木霊していく。
そこは。広大な、“だが”いまや廃れ切って人の気配さえゼロの場所。
視線を移せば、巨大な檻や大きな壁に覆われた場所がいくつも在り、“かつて”そこで“飼育されていた”であろう生命の残滓も、垣間見える。
そこら中に生い茂った木々も、従来の状態からは手入れなどされないままに“時を重ねたまま”放置されていて。ある意味“自然そのもの”を謳っているような、そんな空間が広がっていた。
旧『赤紫動物公園』跡地。
かつて、“魔法”が生まれる日以前に建てられた、この国でも有数の広さと飼育動物の種類の多さを謳い、娯楽性を突きつめた動物園のひとつであったが、“魔法”が生まれて以来、徐々にその人気や集客力は衰退し、一年前に閉園が決まり、以後広大な跡地を“どのようにするか”の閣議の結果、先日、今夏の国を挙げての『一大“魔法”プロジェクト』の誘致場所として決まった場所でもある。
つまり、この場所の行く末は、ものの数日もしない内に“一旦の更地”となるべく工事が進められている廃墟地帯でもあり、そして
緋色 楓と双葉くれはが“初めて出会った場所”、双葉カエデにとっての“始まりの場所”でもあった。
“非日常”の物語の舞台は、“全て”この場所へと繋がっていく。




