#13 “偽り”の証明③
「あれ?というか、“嵐ガール”じゃん?何してん」
「どぅあれがあああ!!嵐ガールじゃあああああああ!!!!!」
ビュッッッッッッ!!!!!!
叫び、条件反射のように同時に“右手”を振り払い“吹き飛ばす”楓と、理不尽に“宙を舞う”當真。
その様子を、驚きつつも、“突如”としてすぐ側を吹き抜けた“暴風”から聞こえてくるその“声”に、パレットは目を輝かせるほどに興味を惹かれていた。
「おー。“魔法”だ!!風の!!しかも“聞いた”感じ、結構“すごい”感じがするんだよ!!」
「え?なに?・・・“聞いた”?」
目の前のパレットの反応が気に掛かり、思わず疑問を口にする楓。
「ん?そうなんだよ?わたしの“魔法”はねー」
「ーじゃなくて!!!まずは!!吹き飛ばされて転げ回った俺の!!!心配をしてくれませんかねえ!!パレットさん?!!!」
“暴風”に吹き飛ばされ転げ回り汚れた制服を手で払いながら、當真が二人の会話に割って入る。
「・・・じ、自業自得、よ!!」
「??まあ、じゃあ、ないとが悪いんじゃない?わかんないけど?」
「はいはーい!!理不尽の暴力でーす!!味方もいませーん!!誰かー!!ヘルプミー!!」
まるで示し合わせたような“茶番群像劇”を繰り広げる少年少女を横目に、“非日常”の隙間、街中の“日常”の景色は滞りなく流れていく。
楓は荒ぶる呼吸を落ち着かせながら、改めて、當真の隣にいるパレットに視線を向ける。
ファーストインパクトのまま流していたが、改めて見てみると、この国の人間とは違う肌質に、整った容姿。小柄な体格に靡く金色のロングヘア―も相まってか、客観的な感覚で見ても、ちゃんと“美少女”であるパレットが、今も仲睦まじそうに當真と戯れ合っている(実際は“いつも通り”の喧嘩している)のを眺め、楓はどうにも胸の内が“ザワザワ”し出していた。
「・・・で?あんたこそ何してんのよ?が、外国の女の子と“仲良く”・・・で、デートしてるって、わけ?」
「デート?バカ言うんじゃねえよ、こんな常時腹ペコガールとデートなんてしたら、食費だけで一瞬で人生破産しちまう」
「にゃ!?にゃにおおおお!!!?」
耳を少し赤らめている楓の言葉に対し、淡々と事実を告げる當真に、ポコポコと両の拳を叩きつけ続けるパレット。
「昨日『ゼロ』認定されて、俺の今年の“魔法規格検査”ももう終わっちまったしな。“気になる”ことがあってさ、ちょっと“人探し”してて・・・あっ、そうだ。こいつは、いつか話したことある子だよ、パレットだ」
當真は“亡霊”との戦いの際に話したことを思い出し、改めてパレットの事を楓に紹介する。
「パレット=セブンデイズ、なんだよ。今は、ないとの家に居候してー」
「あああああああああああああああ!!!!?」
咄嗟にパレットの口を両手で抑え込む當真。それは目の前の相手が楓であるという事ではなく、単純に、たたでさえ異国の(黙っていれば)美少女のパレットを、年頃の男子高校生の家に居候させているのだ、世間体的にも客観的に見ても、“いらぬ思惑”を持たれることを本能的に嫌ったが故の、防衛反応に過ぎない。
「は?居候?」
眉間にシワを寄せながら呟く楓の気を紛らわせるように、両手を大きくバタつかせる當真。
「あーあーあー!!そうだそうだ!?パレット!!お前を助けるときに力を貸してくれたんだ、ちゃんと嵐ガールにお前もお礼を言わなきゃ、だぞ!?」
「そうなの?じゃあ!その節はおせわになりましたです!あらしがーる!ありがとう!」
當真の言葉に、素直なままに楓に向かって頭を下げるパレット。あまりにも自然に、ためらいなど一切ないパレットの行動に、楓の心も冷静さを取り戻していく。
「別に・・・私は特に何もしてないわよ?“きっと”助かったのはあなたの隣の人が、いつも通り“無茶”をしただけで・・・というか、嵐ガールじゃなくて、私は楓。緋色 楓よ?そこのバカに倣わなくていいから、ちゃんと名前で呼んでくれる?」
「ひーろー?・・・んー、じゃあ、かえで。“でも”、かえでもありがとう。ないとが言うんだからさ、“きっと”あなたのおかげなのも間違いないんだよ?だからね、ありがとうなんだよ。」
「!!」
パレットは、疑わないし、きっと“迷わない”。自身が救われた“現実”が在るからこそ、そこに手を伸ばしてくれた當真の言葉を。だからこそ、楓に対してもまっすぐと感謝の気持ちを謳う。
パレットのまっすぐな瞳と言葉に、楓は思わず“眩しすぎる”景色から照れくさそうに視線を外す。
「いいわよ、もう・・・・っていうか、“人探し”って、何?アンタまた何か厄介事に首突っ込んでんじゃないでしょうね?」
その言葉はブーメランとなって自分にも突き刺さっている事など気にも留めず、怪訝な表情で當真に言葉を投げかける楓。クシャクシャの黒髪を掻きながら、當真も思い出したように応える。
「あっ、そうだ。なあ、双葉の事、知らないか?ちょっと探してるんだけどさ?」
「は?なんで、あんた“も”くれはの事、探してるのよ?!」
「“も”?」
互いに、互いの言葉に驚きを隠せぬままの表情で、目を合わせる當真と楓。一瞬の静寂の時間が二人の間に流れる、が
「ねえねえ。ないと、わたし“も”お腹がすいたんだよ?」
そんな緊張感も静寂も切り裂くのは、腹の虫と合唱を奏でながら當真にうなだれるパレットの呑気な一言。
「お前の“も”は、意味合いがまるで違うけどな?・・・ちょっと、お互いに詳しく話を聞いた方が良さそうだな、これ?」
パレットをなだめつつ、すぐ側の“最近見慣れた”ファミレスへと楓を促す當真。三人はそのままファミレスへと足を進めた。
十数分後。
「はーい。お待たせしました。ビッグパフェ二人前と、アイスコーヒーと、みたらしタピオカサイダーアイスですねー!・・・あれあれ?そこにいるのはいつぞやのお兄さんじゃないですかー?今日はフードファイターガールだけじゃなく、キュートガールも引き連れてるなんて!まさに!はっぴーはろうぃん♪」
「いや?相変わらず“ハロウィン”の意味が分からんですけども?」
馴染の“ハロウィン大好き女性店員”の言葉に、冷静にツッコミを繰り出す當真に対し、
「わーい!パフェなんだよー!!しかも二人分なんて!!今日のないとは太っ腹なんだよー!!いただきま(もぐもぐ)」
その隣で意気揚々と大盛りのパフェを食べ始めるパレットと、向かいに座りながら“見たことも聞いたこともない”アイスを嬉しそうに自身のスマートフォンで写真を撮り始める楓。
意味ありげにニヤつきながら席を離れる女性店員の背を見送り、アイスコーヒーを一口。
オーダーが届くまでの間に交わした楓からの話を踏まえつつ、當真が改めて会話を切り出す。
「でも、確かに双葉の“魔法”は目の前で見たけど凄かったし、『レベル・2』ってのは“納得”だな」
「!!でも、だからと言って、あの子がそんなバカな事をするなんて、そんなの絶対あり得ない!!」
思わず声を荒げる楓に対し、當真は冷静に言葉を切り返す。
「いや、“そこ”はそもそも疑ってねえよ、俺も?現にさ、俺たちは昨日双葉に助けられてるわけだし?」
「・・・そもそも、なんであんたはくれはのこと探してるのよ?」
二人のやり取りを横目で様子見しながらも、すでにパフェを半分食べ尽くし口の周りにクリームをつけっぱなしのパレットに対し、まるで親子のやり取りのように慣れた手つきで紙ナプキンを渡し終え、當真は事情を説明し始める。
「正蔵さんに頼まれたんだ。昨日の一連の後、事情を話してる時に双葉が“急に”いなくなったからさ、『もし彼女と友達なら、“繋いで”くれないか?』ってさ?・・・でも、今、お前の話をこうやって聞くと、昨日の時点で“警察”としても双葉に対して“目ぼし”をつけてたって事、なのかな?」
事情を話しながらも、状況と思考を自身の中で整理し続ける當真。
その一方で、楓にとっては、當真の話により自身が“思ってた以上”に、双葉を取り囲む状況は進んでいるという現実だけが重く圧し掛かってきた。
「そんな・・・陣内さんまで、くれはの事を疑ってるなんて・・・」
當真同様に、陣内の事は顔見知りであり、その実力や実績も“より”知っている楓にとって、その事実が重圧を加速させたのは言うまでもない。
思わず、視線を下げる楓、だが
「いや?多分、正蔵さんも“疑ってるわけじゃない”と思うぞ?」
當真のその言葉に、驚き、楓は俯きかけた顔を上げるも、困惑した表情を浮かべる。
「・・・どういう事?」
當真自身も、脳内での自身の思考を整理しながらも、だが、その結論に至る事自体には“迷うことなく”、楓にその理由を説明していく。
「なあ、“BOOST”って、聞いた事あるか?」
「“ブースト”?」
聞き慣れないその“言葉”に対し、ただ繰り返す事しか反応出来ない楓。その反応を見るに、當真自身も“ソレ”自体には半信半疑の様子で、だが、ゆっくりと応えていく。
「昨日、正蔵さんがちょっと口にしたんだけどさ。俺も昔どっかで聞いた事あるくらいで・・・でも、なんか“イヤ”な感覚でモヤモヤしてたからさ、今日学校で、そういう情報とか、何でも“知ってる”ヤツに聞いてみたんだ」
その“相手”の、おそらく“飄々とした表情”を思い浮かべたのか、少しだけ當真の表情も曇ったが、楓はむしろこのタイミングで切り出した當真の話に集中していた。
「『Blood of Original Strength Toxin』。その頭文字を取って、『BOOST』って呼ばれてるみたいなんだけど・・・簡単に言うと、『麻薬』。それも都市伝説級の『麻薬』のことなんだ」
「『麻薬』?!」
唐突に現れた強ワードに対し、驚きも理解も追い付かない楓。そして、双葉の話との関連性が全く持って見えてこない事に、見えぬ不安と緊張感が全身をゆっくりと駆け巡っていき始める。
「『BOOST』は、人の“血”に生来存在する“魔血晶”の因子を無理矢理変化、暴走させる薬で、簡単に言うと“本来持ちえない力”をその人が顕現出来るようになるらしいんだ。つまりー」
「・・・“魔法”のレベルを上げたり、『ゼロ』の人でも“魔法”が使えるようになるって事?」
當真の発する少ない説明の中でも、その結論に至る事が出来るのは、“魔法”に関する理解が少なからず常人よりも秀でている楓だからこそと言っても過言ではないだろう。故に當真も、特に楓のその反応に驚きを見せる事もなく、説明を続けていく。
「昨日のビルの火災事件の犯人も『ゼロ』だったらしくてさ、それで正蔵さんの言葉を聞いて、この『BOOST』ってのも、もしかしたら都市伝説じゃないのかもって思ったし・・・あと、いろいろと合点がいくというか、俺の“気になってた”事とかとも繋がってるような気がしてて」
當真の中で、言葉にしながらも思考と結論が繋がっていくのか、その表情が徐々に確信めいた表情に映り変わっていく。
「双葉を探してたのは、単純に俺が昨日助けてもらったお礼も伝えたかったし、正蔵さんの話も在ったからってのもあるけど・・・ただ、もしかしたら『BOOST』の事で何か巻き込まれてるんじゃねえかって“気になって”心配になったからだったんだ。でもさ、今、お前の話を聞いて、ちょっと思ったんだけど」
楓の中で、當真が口にするであろう“その先”に辿り着くことは、そこまで難しいものでもなかった。むしろ“それ”は、今双葉にかかっている“偽り”のような疑惑を否定するに至る、ひとつの“光明”。
「くれはじゃなくても・・・電気を使う“魔法使役者”でも、たとえ『ゼロ』だったとしても、『BOOST』を使えば今回の事件を引き起こせる可能性がある、って事・・・?」
言葉にしながら當真と視線を合わせる楓。當真も、確信はないものの軽く頷き、楓の導き出した答えに同意を示す。
「正蔵さんもきっと、双葉への“疑い”じゃなくて、その『可能性』を考えてるとは思う。もちろん状況的に警察の双葉への疑惑が完全に晴れたとは断言出来ないし、話を聞かなきゃだろうからさ。だから普段の正蔵さんなら“こういう状況”から遠ざけようとするのに、“双葉と友達かもしれない”と思って、俺にも“協力”を願ったんじゃねえかなって」
どこを探せばいいのか、そもそも探せたとしてどうすればいいのか。指針が定まらないまま駆け出した楓にとって、この状況は天と地ほどの違いだ。
自分のするべきことが、したいと思う事が明確に定まったのだ、“理由”が在るのだ。もう迷う必要など、ない。
「だったら“真犯人”を見つけて“証明”すればいいのよね!くれはの潔白を!!」
立ちあがり拳を握りしめ、メラメラとやる気が満ち溢れだす楓。一方で、パフェを食べ終えてお昼寝モードに突入したパレットがコクリコクリと肩に寄りかかって来るのを左手で受け止めつつも、當真は冷静に楓に対し“その先”を提言する。
「それで、その“真犯人”とやらを“どうやって”、“どこで”、見つけるんだ?アテはあんのか?」
「・・・・・・」
當真の指摘を受けて、そのままゆっくりと座り直す楓。“理由”は明確になった、だが結局のところ、向かう先は“まだ”分からないままで・・・
コトンッ
それは、當真がテーブルの上に自身のスマートフォンを置き、楓に差し出す音。そして、導きの始まり。
置かれた當真のスマートフォン、その画面はメモアプリの起動画面のようで、幾つかの日付と“建物”の名称が羅列されていた。そして、追うように自身に向けて視線を上げる楓に対し、當真はその“推理”を謳う。
「その日付と建物の名称は、ここ最近続いていた“小火騒ぎ”の備忘録なんだけどさ。一番下のが昨日のビル火災事件のヤツな?昨日の犯人がさ、『BOOST』を使った『魔法犯罪』だったと仮定して、“もし”昨日までの一連の事件が全部“同一犯”、もしくは『BOOST』絡みだったとした場合、なんか共通点ないかなぁと思って書き起こしてみたんだ、」
當真の言葉を聞きながら、スマートフォンのメモ画面に目を通す楓。
日付も曜日にも、特に共通点は見当たらない。建物の名称も、見慣れない会社の名前ばかりで・・・・・
「そこにメモしてる会社、企業な。“アイツ”に聞いたみたり、ネットで調べてみたんだけどさ、大なり小なり影響の度合いはあるけど、“ひとつ”だけ“共通点”があったんだ」
楓も思わず息を呑む。そして、當真が続きを謳う、
「どの企業も、ある“行事”へ出資や協力してたんだ。そして今日、お前から双葉の話、公になってない“魔研”の話を聞いてさ、その“繋がり”は確信に変わったよ、」
一呼吸。向かうべき道筋の先の小さな“光”が、告げられる。
「『魔法規格検査』。おそらく“真犯人”の狙いは、この“世界国民義務”への“反逆”だ」




