#12 “偽り”の証明②
「お断りします」
その言葉は。楓、の“目の前”で、凛と姿勢を正した市ノ瀬の口から切り出されたものであった。
自身の思考をまるで先読みされたかのような、そのタイミングに。乗り出しかけていた身を一旦引き、視線を思わず市ノ瀬に向ける楓。そして、思わぬ場所からの返答に、驚きを隠せない黒スーツの女性を尻目に、市ノ瀬は言葉を続ける。
「“事情”をお聞きした上で、様々な可能性を考慮し、“話”を聞くことは了承いたしましたが、我が校の生徒を“捜索”に巻き込む事など看過する事は出来ません」
「・・・しかし、彼女は『レベル・2』の“魔法使役者”であり、今回“同じ”レベルの魔法使役者が重要参考人である以上ー」
「ーそれは、“大人”の勝手な事情でしょう?“魔法”のレベルがどうとか以前に、未成年である彼女を巻き込むことは、そこにどんな理由があれど、“大人”のすべき凛とした佇まいからは遠く離れたものと考えます」
「それは・・・」
市ノ瀬の揺るがない意志と毅然とした態度に対し、言葉を失う黒スーツの女性。そして同時に、楓の胸の内はかつてない程に“熱く”、振るわされていた。
“母親”譲りの性格や、生来持っている楓の気質を考えれば、“巻き込まれる”事に対しては躊躇もしないし、むしろ楓自ら突っ込んでいってるまでの状況は、過去見返しても何度も在った。
そして、どういった状況であれど、その“魔法”を目の前にして、それを“特別”として見なさない人間など“ほとんど”いなかった、『ゼロ』に近いといっても過言ではないだろう。
それだけ、特にこの国に置いて、『レベル・2』で在るという事は、“魔法”の在る世界においても“非日常”に近い存在を意味するのだ。
だが。楓の持つ、そんな“魔法”を、一切特別視しないで。未成年であることも、それを守るべきが“大人”である事も。それら全てを踏まえ、楓をひとりの人間として見定め、言葉と行動を示す市ノ瀬に対し、間違いなく楓の中では“ただの担任”ではなく、“恩師”に近しい感情が芽生えたのは言うまでもないだろう。
「双葉、に関してもです。あくまで状況証拠による“可能性”や“推測”に過ぎない段階で、“重要参考人”として捉えるのはいかがなものかと?現時点ではむしろ、連絡が繋がらない失踪者として捜索すべきであって、その安否も分からない状況で、いち“クラスメイト”でしかない緋色へ、“捜索”の助力の依頼をするなど言語道断。ゆえに、お断りさせていただきます」
立ちあがり、深々と頭を下げる市ノ瀬に対し、黒スーツの女性もこれ以上“出来る”事もなく、スーツの内ポケットから名刺を取り出し、机に置きながら、
「・・・では、何か双葉さんの情報がありましたら、ご連絡頂けると幸いです。もちろん、こちらも情報の共有はさせて頂きますので・・・では、一旦これで失礼しますね、」
楓にも軽く会釈をした後、ゆっくりと応接室を出ていく黒スーツの女性。
ここまでの一連の“大人”のやり取りに介入する事も出来ず、ただただ傍観する出しかなかった楓は、再び訪れた緊張感と静寂に包まれた時間に、視線をただ泳がす事しか出来ずにいた。
そして
「・・・緋色、すまなかったな。時間を取らせるだけでなく、“いらぬ”心配をかけてしまって」
「え?あっ、全然です、でも、くれはの事は心配・・・」
「ーなのは分かるが、お前の事だ。自分で探そうなんて“思っている”だろうが、いいか?お前は我が王凛女学院のひとりの生徒で、中学生で、未成年なんだ?いいか?決して今回の件で“何かしてやろう”とか、“無茶”なことをしようと思うんじゃないぞ?」
まるで楓の未来の行動を見透かすように、言葉で釘を刺しにかかる市ノ瀬。その威圧感に思わず目を逸らしつつ、返答を“曖昧”にしつつも、市ノ瀬に先導され、楓も応接室から教室への帰路を辿った。
だが。楓は自身の取るべき行動に“迷い”などなかったし、それが市ノ瀬の忠告に反する形になったのは言うまでもない。
午前の授業を終え、“魔法規格検査”の三日目が実施される、午後の始まり。楓は、いつも以上に足早に王凛女学院から街へと駆け出していく、
理由はもちろん、『双葉 くれはを探す』為に、だ。
学院の門を抜け出すと同時に、スマートフォンに手に取り、日中に双葉に向けて送ったメッセージへと目を向ける。
「既読ナシ、か。ったく、ほんとくれは、何してんのよ!?」
胸騒ぎの加速と同時に、楓の独り言の語気も自然と強くなっていく中で、行く宛も定まらないままに街へと駆け出していく楓。
逸る心情とは裏腹に、思考は冷静に楓の脳内を駆け巡っていく。
(市ノ瀬先生は私の事をちゃんと見て、心配してくれてたのも分かる・・・“でも”、例え嘘に違いないと思いたくても、くれはが巻き込まれているかもしれないのを知ってしまって、それを黙って待つなんて出来ない!!)
市ノ瀬の想いを受け止めた上で、それでも楓の中で譲れない感情や想いが、彼女の足を進ませる理由だ。
だが、その一方で
(でも、くれはからの反応がないと、正直どこを探したらいいのか見当がつかないのよね・・・あの子がこの国に戻ってきて間もないし、子どもの時だって特に思い入れのある場所も・・・)
人の賑わう景色が広がっていき、街の中心に近づきはするものの、楓の思考はいまだ明確な結論を見出せないでいた。
行動する“理由”が在っても、向かうべき“指針”が定まらない。“目の前”で起こっている事であれば、例えどんな困難な状況であっても“迷わず”飛び込める楓であったが、その足取りもゆっくりとスピードを落としていき、
「うーん・・・どうしようかしら、闇雲に探しても見つからないし、一旦ちゃんと考えた方がいいわよね?くれはが行きそうなところ・・・そもそも、“もし”魔研の件がくれはだったと仮定して、でも一体“なんで”・・・何か、手掛かりとか“引っ掛かり”があれば・・・」
自分を落ち着かせるように呟きながら、楓がゆっくりとその場に立ち止まった
その瞬間だった
ぼふっ
と。楓の背中に伝わってくる“小さな柔らかい衝撃”。
楓が立ち止まった事で“誰か”がぶつかってしまったのであろう、楓は慌てて振り返り
「あっ!すみまー」
言葉が、思わず途切れてしまう。目を奪われたからだ、そこにいた“小柄”な少女、いや、
“異国の少女”に。
楓よりも少し小さい体格だが、腰元まで伸びた金色のロングヘア―。そして外国の修道院で見かけるような白いローブをその身に纏い、首元にはチェーンを通した家の鍵をアクセサリーのようにぶら下げている。
そして、初夏の日差しも全て透き通るような、雪肌のように透明感のある白い肌に、体格以上に小さく思える小顔の半分近くも満たしそうな程の大きな瞳は、宝石のように光り輝く青色で。
そう、まさに一言で形容するならば、“異国”の“美少女”、
「わ。こちらこそ。ぶつかってごめんなさいなんだよ。」
(え!?日本語?!外国の女の子じゃないの?!)
目の前の“金色の少女”が、あまりにも流暢にこの国の言葉を話す、その“ギャップ”に。楓は思わず、少女の頭の頂から足の先までジロジロと眺め直す。
「ん?どうしたんだよ?」
その視線が気になったのか、不思議そうに首を傾けながら楓を見上げてくる“金色の少女”。
「え、あっ、日本語上手だなあって思って、ちょっとびっくりしちゃって」
「ん?イマドキさ、母国語以外の外国語なんて話せて当たり前じゃない?」
「いや!?私、全然話せないんだけど!?」
“金色の少女”に、この国の言語で、思わぬグローバル化を謳われ、たじろぐ楓。
と、“ふいに”、目の前の“金色の少女”に対し、フラッシュバックするように情景と記憶が楓の脳内でリフレインしてくる。
(あれ・・・“金髪”の、“外国”の女の子って・・・そういえば、この子、どこかで・・・・)
思考を脳内に“景色化”するように、記憶を手繰り寄せていく楓。それは、春の始まりの、“とある戦い”の最中の・・・・・
「パレット、何やってんだ?・・・お前、“また”迷惑かけてんじゃねえだろうな!?」
背後からのその声に。楓の鼓動は“脳が認識する”よりも早く、少し加速する。
「ないと!!“また”って、なんなんだよ?いつもわたしが誰彼構わず迷惑かけてるみたいな言い方して?!ぷんぷん」
両手を腰にあて頬を膨らませながら睨みを聞かせるパレットの視線と同様に、振り返った楓の視線の先には
寝ぐせかどうか分からないクシャクシャの黒髪の少年、當真 夜の姿がそこに在った。




