#10 ボーイ・ミーツ・バイオレット③
空気と大地を震わせる、その轟音と振動に。
當真たちだけでなく、周辺を通り過ぎる人達全ての視線は自ずと発生源の方へと向けられる。
一間、その一瞬の静けさの後に、空気を騒めきが支配していく。
「何だ、今の?・・・爆発?」
當真は疑問を口にすると同時に、視線の向けた先の上空に、黒煙が浮かび上がっている事に気がつく。思ってた以上に、距離は近い。
黒煙の発生源の方から、徐々に人の小さな波が押し寄せてくる。ひとりひとりが、やはり緊張感や困惑を浮かべている事からも、良からぬ“何か”が起きたのは間違いない。
「おい、なんか、ヤバいんじゃー」
ダッッ
當真のすぐ側から、小さな風が離れていく。視線を落とすと、そこに映るのは、黒煙と轟音の発生源の方へと向かって駆け出していく、双葉の小さな背中だった。
「おい!?双葉!?ちょっと待ー」
「ーないと。なんか、“イヤ”な“声”が聞こえるんだよ。」
「え?」
双葉への制止の声を振り払うように、當真のすぐ隣、目を閉じ耳を澄ませるパレットが並び立つ。
「“イヤ”な・・・“声”って、お前、」
「ないと!わたしも!気になる!!行かなくちゃ!!!」
パパッッ
身軽に跳ねるように、その好奇心に“素直”なままに、パレットも双葉を追うように駆け出していく。
「ええっ!?パレットもかよ!?くそっ」
“良からぬ何か”がそこに在ると確信していたとしても、目の前の“二人”がそこに向かってしまったのだ、見過ごす事など到底できない當真は、二人の後を追うように駆け出す。
その足を進める度に、すれ違う人の波も大きくなっていく、と同時に、騒めきも徐々に大きくなっていく。
角を曲がって、数十メートル。黒煙のその発生源を断定出来るほどの距離まで辿り着く頃、當真の視界が捉えたのは野次馬で集まった大多数の人の壁と、そして肌にヒシヒシと伝わってくる“緊張の波”。
人の壁の中に、進み切れず右往左往ピョンピョンしながら様子見をしているパレットを、すぐに見つけ出し駆け寄る當真。
「うー。見えない!見えないんだよー!」
「おい、パレット。危ないから、あんまウロウロすんなよ!」
「ねえねえ。ないと!かたぐるま!かたぐるまして!!見えないから!!」
追いついてきた當真に気づくや否や、両手を広げ、まるで子供が駄々を捏ねるように距離を詰めてこようとするパレットに対し、すかさずその頭を押さえ込み、距離をゼロにならないように抵抗する當真。
「やらねえよ!?てか何があったんだろ、ほんと?」
當真の口から零れた疑問に、二人のすぐ側にいた大学生らしき青年が応える。
「そこの『医療器具』の会社、急に爆発したらしい」
「『医療器具』?」
青年の言葉に、もう一度人の壁の隙間を縫うように視線を向ける、だが、黒煙の立ち上るビルに対し、それがどういったビルだったか、一切記憶に残るような印象も特になく・・・本当に、街の、景色の一角としか思えないような場所。
「結構大きい会社だったみたいだなぁ・・・へえ、国立病院の取引先だったり、『魔術規格検査』の検査で使う器具のシェアも全国でトップクラスなんだ、知らなかった」
(へえ。あれかな、俺が今日受けた“血中魔法検査”のタブレットみたいな?やつの事かな)
自身のスマートフォンで調べながら呟く青年の言葉を、立ち位置の関係から自然と“シェア”する形となった當真も、青年と同様に、この街にそこまで大きな会社がある事は知らなかった為に、思わず驚嘆の反応を示すに至っていた。
「というか、これ、消防車とか連絡いってんのかな?早くしないと流石に・・・」
ドッッッバッッッッッッ!!!!!パリッッッッッイイイインンンンン!!!!!!!
當真の不安の言葉が的を射るかのようなタイミング。大きな爆発音と、ガラスが激しく割れる音が周囲に反響し、一瞬の間も空けることなく野次馬立ち含め周囲から悲鳴が同時に沸き起こった。
ビル周辺に群がっていた人の壁も、流石に散り散りに距離を取りだし、當真の視界は明確に黒煙の発生源の現状を把握する事が出来た。
ビルの二階部分、先程爆風で割れた窓から黒煙は立ち上り、オレンジの火も時折その姿を見せている。
現状は目に見えてビルの外観まで火が包み込むような状況ではないが、それも時間の問題だろう。
隣接する建物からも、一目散に人が逃げ出しており、周囲の喧騒から流れ込む情報から“逃げ遅れた人”はどうやらいなさそうではあるが・・・と、遠くから消防車のサイレンの音が、近づいてくる。
「おい。パレット、俺たちも危ないから離れるぞ?というか、双葉の奴はどこに・・・」
パレットのローブを掴み、周囲を見渡しながら、ビルから距離を取ろうとする當真。
だが。掴んだローブに“動く気配”を感じ取れず、思わずその場に足止めされるような形になる。
視線をすぐパレットに向け直すと、開けた視界の先、その場で耳をジッと澄ませながら炎が燃え広がりつつあるビルを眺めるパレットの姿がそこには在った。
「おい!?パレット!!何してんだよ!?」
「ないと!やっぱり、聞こえるんだよ!あの“炎”から“声”が!!」
「“声”って・・・じゃあ“魔力”、つまり、あの“炎”は・・・“魔法”って事、か?」
パレットの“魔法”、『ワールド・ディコーダー』は【“魔力”に触れることで、その“魔法”がどんな“魔法”であっても“識る”ことが出来る】“魔法”。
そして、“とある闘い”を経て、パレットは“魔力”の“声”を聞き取れるようになっていたのだが。
「煙とか、炎から滲み出て伝わってくる“魔力”、だからかな?“声”の範囲自体はすごく“広く”から聞こえるんだけど、ひとつひとつが“小さく”て、ぜんっぜん正確に“識れない”・・・なんか、こう、“ざらついてる”?すごく変な感じなんだよ?」
パレットの表情が、いつになく不穏と不可思議で困惑に包まれていく中、當真自身も再び炎の勢いを加速させつつあるビルへと視線を向ける。
(パレットが言うんだ、“間違いなく”この炎は“魔法”によるもの・・・なんだろうけど、って事はだ、この火事って、もしかして)
ドッッッバアアアアアアアンンンンンンンン!!!!!!!!
再び爆発音、だがこれまでよりもずっと“ダイレクト”に音と振動が伝播したのは、その発生源がビルの入り口付近だったからだろう。
周囲の悲鳴もこれまでよりも大きく感じ取れ、その場にいた全員の視線がビルの入り口へと向けられる。
ビルの入り口から明確に燃え広がる“炎の渦”、飛び火するようにビルの外観も燃やしていく勢いだが、その事以上に、この場にいた全ての人間の視線を釘付けにしたのは“それ”ではなかった、
“炎の渦”の中心に、聳え立つ“黒い人影”。
目を凝らす當真。“黒い人影”は、コツコツと、少しずつ入口からこちらの方へと向かって歩み出している。
“黒い人影”は、ひとりの男だった。
もちろん、當真は知る由もない“他人”、そして、この場にいる人でその男が“どこの誰か”判断できる者は一人もいなかったのであろう、誰もが固唾を呑んでその男の動向を見守っている。
消防車のサイレンが間近に近づき、周囲の人たちも散り散りになる中で、男は再びその場に立ち留まる。
白のポロシャツに黒のジーンズ、伸び切った髪にやせ細った体つき、年齢は大分若そうな印象の男。
だが、その光景は“不可思議”を象徴とするような景色そのものだった、
男の体躯に“纏わりつく”ように、“炎の渦”が浮遊していたのだ。
ゾワワワワワワッッッッ
當真の全身に駆け巡る“イヤ”な感覚、そして、同時に隣にいたパレットが當真の手をギュッと掴みながら呟く、
「あの人から・・・“聞こえる”んだよ!!でも!!こんなにはっきり近づいてるのに、なんで?“分かんない”の?ちゃんと“識れ”ないんだよ?!」
パレットの表情が困惑から不穏な表情に映り変わっていく様をその目にし、當真の中の“イヤ”な感覚と緊張感が、より濃く入り混じっていく。
と、次の瞬間
「カッ・・・・カハハハッッ!!!サイコヲだなあ!!!“マホウ”が“ココマデ”ツカエルようになッテよヲ!!!カハハハハハッッッ!!!“アト”はもう!!!!オレのヲ!スキなよう二してもイイよなア!!!!?????」
突如として叫び上げる男。その声質、言葉の“跳ね方”が、どう考えても常人のそれとは“違う”、その“異質さ”が、周囲の空気を悍ましく狂気じみた空気へと一変させる。
そして、男が両腕を広げた瞬間、男に纏わりついていた“炎の渦”が、“不可思議”に蠢きながら浮遊し、そして男の両腕の掌の上に別れると、その形状が“大きな炎の球体”へと様変わりしていく。
誰しもが疑念を抱く、だがそれを上回る早さで、男は現実を“叩きつける”。
「カハハハハ!!!!モエろよヲ!!ゼンぶーッッッ!!!!!」
男が両腕を大きく振り回し、その“炎の球体”を、直前に自身が出てきたビルへ向かって乱暴に“解き放つ”。
ドッッッッッッ!!!!ガバッッッ!!!バアアアアアアアアンンンンンン!!!!!!!
放たれた二つの“炎の球体”は勢いそのままに黒煙を上げるビルへと向かっていき、触れた瞬間、“爆ぜる”。
空気を震わせる轟音と、伝播する振動、そして勢いよく燃え広がっていくビル。
多くの人間が悲鳴をあげ混乱しながら逃げ出していく、無理もない、目の前で起きたのは火災現場が“魔法犯罪”へと映り変わった瞬間そのものなのだから。
「おい、やばいって、警察に誰かー」「きゃああああああああ」「おい動画撮れよ!バズるぜこれ!!」「それどころじゃねえよ」「すげえ、映画じゃん、こんなの」
怒号、驚愕、不穏、不謹慎、現実・・・・・多種多様の反応に、混乱が加速していく景色の中で、すぐ側に消防車を停め、消火活動を行おうとしていた消防隊員の動きさえも止めてしまうほどに、男の起こした行動は、“魔法犯罪”という“非日常”の始まりを謳っていた。
「カハハハ!!モエろモエロヲッッ!!!もっトモットだああアアア!!!!」
逃げ惑う人々を見る事もなく、男は再び両腕を広げると、燃え盛るビルを包み込む“炎”が、その声に反応するように男の両腕に向かって“渦巻いて”いき、そして再び男の両腕の掌に炎の塊がー
パンッッ
男が両手を勢いよく合わせるように叩く、次の瞬間、その動きに呼応するように、二つの“炎の球体”が男の上空でぶつかり合い、そして、一気に“爆ぜる”。
バッッッ!!!ババババッ!!!!ババババババッ!!!!!!!!
ぶつかり合って“爆ぜた”結果、四方八方に飛び散っていく“火の粉”、と言ってもだ、そのひとつひとつの規模は、まるで噴火して飛び交う溶岩の如く、まさに言葉通りの“火の弾”となって四散していく。
燃え盛るビルへと再び向かうもの、隣接する建物へと被弾するもの、道路へ無情に着弾するもの・・・無作為に放たれた散弾銃のように、男を中心に“火の弾”が四方八方へと飛散していく。
そして、その中のひとつが、不運にもまっすぐと、その場に佇むパレット目掛けて飛んできた。
「きゃあ!!!!!?」
防衛本能そのままに、両手を前に出し身構えるパレット。もちろん、その場を離れる猶予など微塵もないし、迫りくる“火の弾”を防げる手立てなどまるでない、
だが
ガッ!!キイィィィィィィィン!!!!!
“火の弾”がパレットに届くよりも早く、“迷わず”パレットの前に立ち、當真はその“右手”を大きく振り払う。
伝わる“衝撃”と“一瞬の高温”、だが、當真の“右手”に触れた瞬間、その“右手”に沿うように“火の弾”は上空へと薙ぎ払われ、瞬く間に“消失”していった。
「ないと!!!!」
「ッつ、危ねえ・・・パレット、少し離れてろ」
パレットを庇う様に身を乗り出しながら、その左手に持つスマートフォンで《緊急連絡先》へと繋ぐ當真。
(着信をいれるだけでいい、正蔵さんならそれですぐ“異変”に気づくだろうし、流石に誰か警察に連絡してんだろ・・・とにかく、俺は、)
スマートフォンをズボンのポケットへとそのまましまい、拳を握りしめ、一歩を駆け出す當真。
「ないと!?どうすつもりなんだよ?!」
「“アイツ”の気を引き付けるッ!!このまま“暴発”され続けたら、街中が大火事になっちまう!!」
「っ!?そ、そんなの!!ないとが危ないんー」
「こんなもん!!“見過ごせねえ”だろっ!!!!!」
制止を叫ぶパレットの言葉を振り払うように、一気に駆け出す當真。“そこ”を“迷う”理由など、彼の中には微塵も存在しないのだから。
周囲の反応とは真逆、駆け出していく當真に対し、男は気がついていない・・・と言うよりも、そもそも男の“焦点”がまるで定まっていない事に當真は気がつく。
(なんだ・・・なんか、そもそも様子がおかしくないか!?)
「カハッ、カハハハ!!タのシーナ!!セカイがカワッたみたいダ!!ゼンブこのままモエちまえばイインダよ!!カハハハッ!!」
ユラユラと上体を揺らしながら、両腕を広げ、リズムの合わないタップダンスを披露するようにその場でステップを踏む男。その両腕に、再び“炎の渦”が収束されていく。
「おい!!アンタ!!馬鹿な事はやめろ!!」
當真の叫びに対し、焦点の合わない視線を合わせる為に、男は顔ごと當真の方へとグルリと向け直す。
「・・・・・ガキ、が。ウルっせえなあ。ヒーローごっこ、カよ・・・」
顔の向きを変えず、だがそのまま後方の燃え盛るビルに向かって左手を投げ振る男。
その左の掌の収束されていた“炎の球体”が、勢いよくビルに向かって放たれ、包み込む炎の壁の侵食を、より加速させていく。
「ちっ、聞く耳持たねえよなそりゃ!!」
“右手”を強く握り締め、當真が一歩を踏み込んだ瞬間、胸に騒めく“イヤ”な感覚。
次の瞬間、男は、無造作ではなく、明確な意志を持って當真の方に向かって、その右腕を振るう。
ドッ!!バアアアアアンンンンンッッ!!
放たれた“火の弾”は、まっすぐと當真に向かってくる。
だが、當真も躊躇することなく“右手”を真っ直ぐと突き出し、
ガッ!!キィィィンンン!!
触れて“熱”を感じ取った瞬間に、當真は“右手”をそのまま上空へと薙ぎ払い“火の弾”を逸らせると、何もない上空で“火の弾”を“消失”させ、被害の拡大を防ぎきる。
(よし!このまま、“嫌い”ながら近づければ・・・)
ドッッ!!バババアアアアアン!!!!!
「なっ!!?」
當真が踏み出そうとした瞬間、その轟音、そして視界に映り込んできたのは、“追撃の炎”。
當真がその“右手”で向かい来る“炎の球体”をいなしたタイミングで、眼前の男は再び“炎の弾”を當真に向かって放っていたのだ。
ガッ!!キイイインンン!!!
咄嗟に無作法に“右手”を振り上げる當真、追撃の“炎の弾”は振り払われるも、その向かう先はすぐ近くの商店の店外の看板へと向かい、“消失”するよりも早く、その“炎熱”が看板へと“着火”してしまう。
幸い、炎が燃え上がり切る前に、周辺の人間と、駆け付けた消防隊員によって“二次被害”が喰い止められはしたものの、その景色を後追いする當真の胸の内に、より一層の緊張感と圧迫感が詰め寄る。
「くっ、そ!!早く止めー」
ドッッ!!ババ!!ドッッ!!!!ババババッッ!!ドッバアアアアンンン!!!!
當真の焦燥感、その一瞬の膠着状態すらも吹き飛ばしように、唸りをあげ迫りくる“追撃の炎連弾”。
両手を掲げた男の上空に、ビルの炎から伸び切った“炎の渦”が、まるで“炎”を男に供給し続ける放火線となって繋がり、そして男の上空に漂う“巨大な炎の球体”から、まるでマシンガンのように連射される“炎の弾”が、勢いよく當真に向かって放たれ続けていた。
「もエろモエろモえろもえロ!!オマエみたいナヤつが!!イチバンきライなんだよヲヲヲヲヲヲ?!」
「くっ、そ!!!?」
ガッ!キイィィン!!ガガッッ!!キンンンッッ!!・・・ガッ、キンッッッ!!!!
“右手”を投げ出すように、迫りくる“炎の連弾”を上空へといなし続けるも、その場から一歩たりとも動くことが出来ない、それほどまでの圧倒的物量での連撃、その“唯一の標的”となった當真に対し、男は愉悦に浸るように両腕を振り回しながら叫び続けていた。
「キえろよガキが!!ジャマすンじゃねえよ?!オレと!!オレタチ、『エー・エム・オー』の!!ヒガンをさアッッッ!!!!!!!」
(エー、エムオー・・・?何を、言って・・・)
ドッッッッ!!ババババッアアアアアアンンンン!!・・・・ゴオオオオオオオオオオッッッ!!!
「ッ!!?」
放たれる“炎連撃”の最中によぎる『疑問』、だが、それさえも掻き消すように、當真の視界に映り込んだのは、放たれ続ける“炎の弾”の発生源である、男の上空に浮かぶ“炎の球体”が、これまで以上に肥大化していく様だった。
周辺の炎の熱全てが膨張し続け、“暴走”し、今にも“爆発”しそうな程に膨れ上がっていく“巨大な炎の球体”、それはまさに“小さな太陽”のようで
(おい!?待て待て待て!?あんなの、“捌き切れない”どころか、ここら辺一体が・・・ッ!?)
周辺の空気、温度を遥かに上昇させていくような、“不可思議な天変地異”の“凝縮”に。
當真の焦燥感も圧倒的に加速し、生命本能が危機的状況からの逃走を全身に“号令”し続けている。
だが、どう足掻いても、どこに向かっても、“間に合わない”のは明白。
(やっ、ばー)
「オレのサイキョウノおおおおお!!マホウでえええ!!ハゼロよヲオオオ!!ガキィィィィィ」
男が、その両腕を同時に振り下ろそうとした
その“瞬間”だった
「あんた、ひとりでゴチャゴチャ“喋りすぎ”?だから“見えてない”んでしょ?」
男の定まらない“焦点”が、確実に定まる程に、すぐ“隣”に佇むのは、“ひとりの小柄な美少女”。
バッ、ヂヂヂヂヂヂヂリリリリリ、バヂヂヂヂリリリリリリッッッッッ
炎熱の余波で猛暑を凝縮したようなその空間に、目深に黒のパーカーのフードを被った双葉が、響きわたる不穏な電気音と共に“忽然”と現れるやいなや、その小さな体躯の周辺を蠢くように纏い始めるのは、
周囲の炎のオレンジの色にも染まりつつあるように見える、“不可思議”な“紫電の流線”。
「ハアッ!!!?」
双葉が、その“左手”を“小銃”の様に構え、男の腰元にそのまま突きつけると
「オ・・・」
「五月蠅いからさ、いい加減“黙って”くんない?」
その“状況”に、明らかに戸惑う男の表情を尻目に、双葉の指先に収束されていく“雷の波線”。
そして突き付けた左手の指先から、一気に放たれるそれは、まるでゼロ距離から撃ち出された“雷の弾丸”。
バヂ、バヂヂ、バヂヂヂヂヂヂヂリ、バッッッッ!!!!!!ガッッッギャッッッッッッンンンンン!!!!!!
「ッッッッ!!!!!??????ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア????!!!!」
まるで一閃。空間に轟く雷鳴と衝撃波、そして、當真含めその周辺にいた全ての人間の視界を、“一瞬”フラッシュがかかったような“白”の景色が包み込む。
空気が焦げ付くような環境へと一瞬にして映り変わる中で、男はその場に崩れるように跪き、白目のまま上空を見上げ、そのまま気を失って前方に倒れ込んだ。
そして、男が気を失うと同時に、“不可思議”なほどに忽然と、宙に浮かぶ“小さな太陽”も消え去っていく。
一瞬の、空白の間。
まるで世界から音だけが消えていたかのような時間、そう思えるほどに圧倒的にこの場を支配していた、双葉の“チカラ”。
「あんな“一瞬”で・・・すげえ、」
“右手”をゆっくりと下ろし、目の前の光景に感情が言葉になって零れ落ちる當真。
その耳に、消防隊員の声や消火活動が再開されていく音、遠くから近づいてくる警察のサイレン、そして周囲の街中のあらゆる声、そんな喧騒の音がゆっくりと舞い戻ってくる最中、
目の前に佇む双葉は、“雷鳴の残滓”をその身に纏わせ、ポケットから取り出した小さな“白いケース”からタブレット菓子を一口、そして表情を少し微笑ませながらゆっくりと軽妙な調子で當真へと言葉を謳う。
「ちゃんと“見てた”、トーマ?どう?凄かったでしょ、この“特別”?」




