#10.5 “BOOST”
「フンフン?それで、急にドカーンって爆発音がしたと思ったら、そこのビルがメラメラ燃えてて?中から“あの男の人”が出てきて?ヒノタマをブンブン放っていて?そして・・・“ビリビリ”して倒れたってこと?」
「あぁ、はい、間違ってはないんだけど・・・なんだろ?なんか、緊張感に欠けて聞こえるんだけど?」
「ムム?どういう意味です?プンプン!!」
大人の割には童顔で子供っぽい顔つき、そして目の前でリスのように頬を膨らませ、幼稚な擬音を言葉の節々に散りばめながら手帳を片手に聞き取りをしてくる“くるくるパーマ”の女性警察官を目の前にして、少し戸惑いながらも聞き取りに協力する當真。
ビルを包み込んでいた炎の渦も鎮火し、周囲の野次馬の壁も散り散りになり、漂っていた緊張感の空気も和らぎ始めていた頃。
現着した警察によって連れて行かれる、気を失った“炎の男”を見送りながらも、その後駆けつけた女性警察官による聞き取りが始まって数分。
こんな状況でもお腹を空かせて駄々を捏ねだしたパレットに、なけなしの小遣いを渡し近くのカフェへと向かわせ、自身は警察への協力を惜しまない當真の元へと、近寄る足音。
「夜君!“やっぱり”いたのか!!君は、本当に・・・“毎度毎度”こういうのに首を突っ込むというか・・・はあ、まったく」
「あ、正蔵さん」
オールバックが似合い過ぎるガタイのいい警察官、陣内正蔵が溜息まじりに當真の背後から声をかけてくる。
「着信を入れてきたから“もしや”とは思ってたけど・・・この短期間で、“何度”君はこういうの巻き込まれてるんだい?というよりも、“どうせ”君の事だ、自ら首を突っ込んでるんだろ?」
「いやぁ、まぁ、首を突っ込むと言いますか、“見過ごせない”と言いますか、へへへ」
「言い訳をするんじゃない!!!!!ほんっとに“父親”の悪いところばかり似て・・・“無茶”ばっかりするんじゃないよ!!!!」
“いつも”のように“平謝り”を見せる當真に対し、こちらも幾度となく繰り返して来た“同期”の残像を照らし合わせながら“当人”に代わって説教を叫ぶ陣内。
そんな様子を眺めていた“くるくるパーマ”の女性警察官は、自身の右手で『OK』ポーズを取りながら、作り出した輪から陣内を覗き込むようにしながら、ふたりの会話に割り込んでくる。
「“無茶”をしてるのは先輩もですけどね?私の“魔法”で見れば、入院必須レベルまで“生命力”レベルがババーンって、ここ“最近”で落ちてるのに、ずっと働きっぱなしですし?その子にズケズケと言えた義理じゃないですよ?」
「“魔法”?“生命力”?」
女性警察官の擬音以上に気になるワードの連続に、思わず疑問を投げかける當真に対し、女性警察官は陣内同様に『OK』ポーズの輪から當真を覗き込みながら応える。
「そうです!私の“魔法”は『“生命力”が“数値”になって見える』んです!だいたい60~80前後がフンフーンって感じで普通、それ以上ならドカーンと元気いっぱい、それ以下なら病院にガシーンと行きなさいって感じですかねー!!」
(・・・いや、説明聞いてもよく分かんねえし、擬音が気になるんだが?)
「先輩は“白銀の亡霊”の事件の時に負った傷もほとんど治ってないのに、入院もせずにすぐにバシバシ働いてて、ずっと数値も安定しないまま“無茶”してるじゃないですかー?この少年の事言える立場にない・・・って、あれ、なんか、君の“数値”も、なんか“モヤ”がかかったみたいに“見えない”んだけど?んんん?なんで??」
「え?いや、待って!?そんな急に近寄って来られるとー!?」
自身の“魔法”の説明と陣内への“説教”を一通り終えた先、當真に向けたその“魔法”が突如として“不安定”になった事を“不可思議”に思ったのか、顔がくっつく勢いで距離を縮めてくる女性警察官に対しドギマギしだす思春期真っ只中の男子高校生、當真。
ボゴッ
「あいたー!!?」
「大の大人が急に距離を詰めるんじゃないよ、久利生?それよりも、まずは報告!!」
陣内から受けた脳天チョップのダメージを和らげるように頭を摩りながら當真から離れた女性警察官、久利生 忍は、手帳を片手にここまでの聞き取り状況などを含め、陣内への報告を始める。
「ではでは!ドカーンと報告します!!今回の被疑者である“今上 仁平”、あっ、本人は気を失ってましたので、ゴソゴソッとポケットの財布の中に在った学生証から名前はボカンと確認しました。国立大の理学部生みたいです。ビルの監視カメラの映像確認もまだ取れてないので、正確な時間は不明ですが、だいたい午後三時頃にこのビルに侵入。『医療器具』メーカーである『SAION』のオフィスを、“魔法”にて“爆破”及び“延焼”させた後、ビル前にて“暴走”していた模様です」
久利生の報告を受けながらも、警察専用のスマートフォンを取り出し、何やら検索をし始める陣内。
「しかし。キュピーンとひとつ。“気になる”点がございまして」
クルクルの髪を自身の指先で更に巻きながら、急に真面目な面持ちで視線を陣内に向ける久利生。そして、陣内も久利生の報告を聞きながら操作するスマートフォンの画面を眺めながら、久利生の言葉の“先”を予見したように呟く。
「なるほど・・・『未魔法使役者』なのか」
「え?」
陣内の言葉に、思わず驚嘆の声が漏れる當真。
『未魔法使役者』、つまり“魔法”を使う事が出来ない者、それはすなわち『ゼロ』を指し示す言葉なのだから。
「はい。その子や周囲の人の聞き込みにより、今上が今回の“火災”の主要因である“魔法”を使った事は“間違いない”のですが、データベースによると、今上は今年の“魔法規格検査”もすでにバシンと実施済み、結果は『未魔法使役者』で“CLASS”は“N”となっているんです」
その言葉に。當真は自身の“右手”に未だ残る“熱”と“衝撃”の残滓を眺めるように視線を落とし、その“不可思議”の意味を理解しようと思考を巡らせる。
(あの“炎”を使った男が、『ゼロ』?そんなはずは・・・だって俺の“魔法”にも・・・あっ、いや、まあ俺のも厳密には“魔法”って認定されてないけどさ、)
思考を走らせる中で、疑問と現実の自問自答に追われ、感情が混乱していく當真を尻目に、陣内と久利生の表情はそれ以上に“曇っていく”。
「先輩。ここ最近、連続で起きてた“ボヤ”騒ぎに、今上が関わっているかはまだバッチリとは分かんないですけど。どの件も『魔法犯罪』の可能性を考えた時に、この街の“火”を扱う“魔法使役者”のアリバイが尽く証明されてる点と、今回の案件、今上を止めた“電撃”を放つ少女に、昨日の“魔研”の件を考慮すると・・・先輩の『仮説』、バイーンと現実味帯びてきてません?これ?」
「・・・“BOOST”・・・まさか、ほんとに、この街にも・・・」
(“ブースト”?・・・って、なんかどっかで聞いたことあるような・・・なんだっけ)
擬音の量も最低限に、真面目に訴えかける久利生に対し、陣内は自身の思考をクリアにするように言葉を口にしていく。その表情、いつになく深刻な様子、そして発せられた“BOOST”という聞き覚えのあるような“不可思議”なワードに対し、思考を巡らせる當真。
空気を伝播するように緊張感がヒシヒシと周囲を包み込んでいくような・・・
「ねえねえ。ないと?今日の晩ご飯は何なんだよ?わたしはね、今日はカレーがいいと思うんだけど?」
そんな周囲の空気が、一瞬にして解けるように。呑気な様子で声をかけてきたのは、常時腹ペコガールことパレット=セブンデイズであった。
「いや・・・この“空気”見てよ?パレットさん?」
「くうき?ちがうよ?ないと?わたし、おなかが空いたんだよ?」
「会話が嚙み合ってないんですが?!というか、カフェで待ってろって言っただろ!?」
張りつめた空気を緩和する“子ども同士”の痴話喧嘩もどきに、陣内と久利生は視線を合わせ、互いに手帳とスマートフォンをスーツの内側にしまい直す。
「・・・夜君。もう一度だけ聞きたいんだけど、今上が“炎”の“魔法”を使ってたのは間違いないんだね?その時、なにか“様子”がおかしかったとか、気になる事とかなかったかい?」
久利生に目配せで指示を送り、この場から離れるのを見届けた後、陣内はいつになく真剣な表情で當真に質問を投げかけてくる。
“こういう”状況に置いて、これまで何度も出くわす度に、すぐに現場から離れるように説教をしてきた陣内の姿しか身に覚えのなかった當真にとって、こうした追加での聞き込み自体が珍しく、當真の腰元に纏わりつきながら空腹を訴えかけるパレットを制止し、當真も直前の景色を思い出しながら真摯に応える。
「アイツがその手で“火の弾”を使ってたのは間違いないけど、確かに様子は・・・言動ももちろん、焦点も合ってなかったし、ちょっと“普通”じゃないなあとは思ったけど・・・」
「たしかに“普通”じゃなかったよね?わたしもあんなに近くにいたのに、“魔法”の“声”が“ひとつも”ちゃんと聞けなかったからさ。へんだなーって思ってて!なんか、“魔法”がそこに“在る”けど“無い”みたいな?ウソっぽい感じ、っていうのかな?」
「“魔法”の、“声”・・・?」
「うん。そうだよ?わたしの“魔法”はねー」
「あわわわわわわ!!?パレットさんストップストップストップ!!!?」
「ーむぐぐっ!?」
當真の言葉に同意するように、“その瞬間”の景色を思い返しながら呟くパレットの言葉に、新たな疑問を感じ取った陣内の様子に対し、當真は慌ててパレットの口を両手で塞ぎ止める。
(ことパレットの“魔法”に関してもだけど、あんまり大々的に“魔法”を知られないに越したことがないのは、“アルマ”の時に学んだんだ!考えなしのパレットがヘマしないように、俺が気をつけねえと!!)
當真のそんな杞憂など知る由もないパレットは、喋る事を封じられたことに歯向かう様にバタバタと両腕を振り回していたが、事情を知らない陣内の目にも、ただの“じゃれ合い”にしか見えなかったのだろう、特に気にも留めず、一呼吸、再び當真に向かって“新たな”疑問を投げかける。
「それじゃ最後にもうひとつ。今上を最終的に止めたのはー」
(フガフガフガ!!!!!!!)
「おい!パレット!?話してるんだから暴れるなって!?えっと、何でしたっけ!?」
暴れ回るパレットを何とか抑え込みながら聞き返す當真に対し、陣内は言葉を続ける。
「・・・今上を最後止めてくれたのは、“電撃”を使う“女の子”って聞いたんだがー」
「あっ、そうですよ。双葉、アイツがあんなすごい“魔法”使えるなんて俺も知らなかったんでビックリしたんですけど・・・」
驚きの声をそのままに伝える當真に対し、陣内は冷静に言葉を切り返す。
「うん、それで、その子なんだけど・・・今、“どこ”に?」
思い出したように、周囲を見渡す當真。もちろん、どこを見渡してもその答えは『ゼロ』でしかなく
「あれ?・・・・双葉、“いなくなってる”・・・?」




