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そんな魔法ならいらない  作者: door
Chapter 3 : Anti-Fake Strength
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#8 ボーイ・ミーツ・バイオレット①

「“N”、ですね」


「・・・・・・・“えぬ”?」


伸ばした右腕の注射跡を止血する小さなテープを左手で押えながら、少し若めの女性看護師の言葉を呆然と繰り返す當真。


女性看護師は、當真から採血した血液の入っている、幾つかの採血管をセッティングした“見慣れぬ装置”、そしてそれに繋がれたタブレットの画面を眺めながら、淡々と説明を始める。


「はい。“N”、つまりね、“未魔法使役者”の方の“CLASS”になるんですけど・・・」


「え・・・えっ、あの、ちょっと、ちょっと待ってくくださいね、それって、つまり・・・・・・・『ゼロ』って意味、ですか?!」


當真の言葉に表情を“少し”曇らせ、咳ばらいをひとつ、女性看護師は説明を続ける。


「・・・コホンッ。“その言葉”が“何”を示しているのかは判断できませんが、一応、手順に則って説明しますけど、」


女性看護師は、“見慣れぬ装置”に繋がったタブレットを當真にも見えるように差し出してくる。もちろん、画面に映るいくつかのグラフや数値や文言、そのどれに対して當真の理解は追い付いていないが。


「あなたもこれまで“魔法規格検査”は受けてきたと思いますので理解していると思いますが。通常、“魔法規格検査”の“初回”及び、前回の“検査”において“未魔法使役者”と“判断”された方は、まず、この“血中魔法検査”を受ける手筈になっています」


目の前の若い女性看護師でさえ、“魔法規格検査”が始まって二日目であるにも関わらず、何十、何百と同じ説明をしてきたのであろう。もはや、一縷も淀みなく言葉を続けていく。


「魔法先進国の科学の発展のおかげで、今、“魔法”を持つ人間の血液には、“魔血晶”という因子が“必ず”確認出来るようになっています。その数値が、この一番下の数値ですね。“魔法使役者”のほとんどの方は、この数値が『1~10』前後になってます。この国では数少ないですが、『レベル・2』相当の“魔法使役者”はこの数値が『50』を越えてくるんですが。つまり、“魔血晶”の数値で、ざっくりと“魔法”の『有無』と、『レベル』の選定をおこなっていて、」


女性看護師がゆっくりと画面の一点を指し示す。そこに映し出されている数値は


「『0』。これがあなたの“魔血晶”の数値で、“未魔法使役者”である“証明”の数値です。今回の“魔法規格検査”から“CLASS”も設定されますのでね、あなたの“CLASS”は“N”となります」


「まじ、か・・・?」


その感情を言葉で言い表すとすれば、“落胆”が最も近いであろう。當真の心情はそれに尽きるものであった。


“魔法”がこの世界に生まれてから四半世紀。當真自身、いまだ両手で数えるほどの回数しか“魔法規格検査”は受けてはいないのだが、“未魔法使役者”、所謂『ゼロ』の記憶の在る景色では毎回、この病院での“血中魔法検査”の段階で“魔法規格検査”を終えていた。


だが、今回の“魔法規格検査”に関しては、ようやく“一般的”な“魔法規格検査”を自分自身も受ける時を迎えたと、国立病院の受付に至るまでの道すがら、胸を少しばかり“躍らせながら”来たのだ。


言葉にせずとも幼少期より心の片隅に在った、“憧れ”、そして“羨望”していた“『ゼロ』ではない日常”の始まり、このひと月余りの数奇な“巡り合わせ”から手にした、自分自身の“魔法ちから”。


それが、ようやく、世界に正式な形として認められると、當真は今日この日この瞬間まで疑っていなかった。


だが、


「では。當真 夜様。“未魔法使役者”である事が確認されましたので、今回の“魔法規格検査”は本日にて終了となります。お疲れさ・・・」


「ちょ、ちょ、ちょっと待って!そんな流暢に終わらせないで!?あの、俺、“魔法”使えるんです!!」


「・・・・・・・」


無情にも淡々と業務をこなし、タブレットを操作しながら検査の終わりを告げる女性看護師に対し、慌てて両手を挙げながら訴えかける當真に対し、女性看護師は、不思議そうな表情のまま視線を向ける。


「先程も説明しました通り、“魔法”が使える方は、この“血中魔法検査”で“必ず”、“魔血晶”の数値が『1』以上示されます。當真様の数値はこの通り『0』ですので・・・」


「いや、でもほんとに!つい最近使えるようになってて!!だから、もしかしたら、その機械の“エラー”だったりという可能性も・・・?」


まるで子供が駄々を捏ねているような様子だと、自分自身でも少し気まずさを覚えながらも、ただし、當真自身、この“ひと月余り”の“非日常”の中で幾度となく“その瞬間”をその手にしてきた現実を否定するわけにもいかず、熱を上げるように“必死”に言葉を返していた。


「・・・どのような、“魔法”を?」


「え?」


そんな當真の真剣な表情や態度に、女性看護師は少し身を乗り出し、声を少し潜めながら質問を投げかける。


「“エラー”の可能性は限りなくゼロかと思いますが、そこまで仰るのであれば、まずはどんな“魔法”か見せて頂くことは出来ますか?」


それは女性看護師による救済のような一手。當真は立ち上がり“右手”を掲げ、勢いよく


「もちろんです!!俺の“魔法”は・・・あ、」


掲げた“右手”を下ろすと同時に、ゆっくりと“巻き戻る”ように着席していく當真に、女性看護師は怪訝な表情を浮かべ、再度確認する。


「“魔法”、は?」


「・・・・・・・【魔法に“嫌われる”魔法】、です」(小声)


囁くような声で伝えながら、當真自身、この“いたたまれない状況”も、女性看護師の呆れたような表情も冷たい視線の意味も、全てを理解していた。


(ええ、そうですよ、簡単に見せれるものでもないし、そもそも俺自身も曖昧だし、見せろと言われて見せられるものでもないですしね、うん、だからやめて、その冷たい視線、言葉にしながら俺も冷静になってきてますからね、だから許して?)


これまでの“非日常”の連続の中で昂っていた、ある種の“熱”を、“日常”のこの状況に置いて“冷静”に思い直し、縮こまる當真。


女性看護師は、一呼吸を置き、言葉を切り出す。


「・・・まあ、私も“魔法”を手にしたのは大人になってからですし、そういう“気持ち”も分からなくはないですけど。でも、そんなに気にする必要ないですよ?言ってもこの国では三人に一人は“魔法”が使えないですし。それに、ほら、」


女性看護師は、當真の前に右手を差し出す。その手には、事務作業で使っているであろうボールペンが一本。


「私の“魔法”なんて、これですよ?」



キュッ、スポンッッ



女性看護師の言葉と同時に、音をたて、“触れもせず”ボールペンのキャップが“不可思議に”、しかも“ほんの少しだけ”開け放たれる。


「“キャップが少しだけ開けられる魔法”・・・“物体操作”系の“魔法”と言えば聞こえはいいですけど、所詮“この程度”ですし?どうです?こんな“魔法”でも欲しいですか?私、全然いらないんですけどね?」


溜息交じりに、外れたキャップを“自力”で元に戻しながら、女性看護師は言葉を當真に向けて返す。


(・・・うん、まあ、確かに、そんな“魔法”ならいらない、かもですが・・・)


「だから今“魔法”が使えない事ももちろん、今後“使える”ようになったしても、過度な期待とかしない方がいいですし、“魔法”があってもなくても、大多数の人はそれだけで劇的に世界が変わるわけでもないですから。あなたも、大丈夫ですよ」


それは。優しさや少年を気遣ったフォローでもなんでもなく、よくある“受け入れた現実”を淡々と説明しているにすぎないという事を、當真は目の前の女性看護師の言葉や表情から汲み取った。


「さ。そんなわけで、そろそろ終わっても大丈夫ですかね?『魔法規格証』はまた後日送りますのでー」


「『魔法規格証』?」


聞き慣れない言葉に、思わず女性看護師に聞き返す當真。


「・・・今回の“魔法規格検査”より“CLASS”制度も導入される為に、各々の“魔法レベル”と“CLASS”を記載したカードが検査後、全国民に配布されます。魔法先進国のようにゆくゆくは免許証や学生証の類と同様の“身分証”に近いモノになってくるかと思いますので、厳重な保管をお願いします・・・と、『魔法規格検査』の通達書にも記載があったかと思いますが?」


女性看護師の冷たい視線の再演に、書類に“しっかり”と目を通していない事を見透かされている事を悟り、身を引くように席を立ちあがると


「へ、へえ?そ、そうなんですねー、あっ、じゃあ俺、そろそろ行きますね?ありがとうございましたー、失礼しまーす」


當真はそのまま逃げるように病室、そして国立病院の出入り口へと足早に抜け出した。



病院を後にし商店街を目指す道すがら、初夏の日差しの陽気と薫風を感じた矢先、不意に當真の制服のポケットから鳴り響く、メッセージアプリの通知音。


當真は歩みを止めることなくスマートフォンを取り出し、メッセージアプリを起動する。送信者は、“つい最近”スマートフォンを手に入れた、とある“金色の少女”からであった。



『ないと!!どこにいるんだよ?さんじのおやつが!!まだなんだけど!!!!』



立ち止まり視線を向ける。そして、メッセージが脳内で再生される、金色の少女の声と表情で鮮明に。


當真は、悶々としていた病院での出来事が“どうでもいい”と思えるほどに、その“日常”に思わずクスっと笑ってしまった。


自身の“右手”に、ゆっくりと視線を向ける。



望んでいた“未来”とは違ったかもしれない、でも、出会った“過去”も、今ある“現実”も。その手にした全部は“嘘”でもなんでもない、正真正銘の當真にとっての“礎”なのだから。



「ったく。コイツはほんと食べる事に関しても“ブレ”ねえなあ・・・ふふっ。今月も食費削んねえと厳しいんだけど、なんかケーキでも買ってってやるかねえ」


立ち止まったままスマートフォンをしまい、クシャクシャの黒髪を掻きながら、當真が一歩を踏み出そうとした



その時だった。



ドンッ



と。當真の背中に、伝わってくる“小さな衝撃”。


「あっ、すみま・・・」


思わず謝りながら振り返る當真。だが、その視界には誰もいない・・・と、想定していた視界の遥か下方に“自然”と視線を向ける。


身の丈以上の大きめの黒のパーカーを身に纏い、被ったフードから覗かせる黒髪のショートヘアーに、そして何よりも“見覚えのある”整った顔立ち。


「えっ?お前・・・昨日の、嵐ガールの“友達”の・・・?!」


記憶を呼び起こし、不意に訪れたその邂逅に戸惑いを示す當真に対し、ジロジロと不思議そうに視線を向けるのは、



見覚えのある“ひとりの小柄な美少女”であった。



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