#7 ガール・ミーツ・バイオレット③
小柄な“美少女”の背を追いかけるように、楓と、その腕にしがみつくような格好で後に続く光。
その道すがら、徐々に人の気配や賑わいも“日常”の風景に戻っていくように、学院の敷地内を包み込んでいた“緊張感”も和らいでいっていた。
“魔法規格検査”二日目も、学科・実技問わず、この時間帯にはほとんどの生徒が実地を終え、帰路に着き始めていたからだ。
そんな中、小柄な“美少女”こと双葉の向かう先は、食堂から中等部の下駄箱を抜けたすぐ先、運動場であった。
“身体操作・運動系統”の実技検査は主に運動場にてエリアを細分化して、各個人に見合った検査を受けているのだが、双葉がその歩みを進めた場所は、楓や光にとっても“見慣れた”エリアであった。
運動場の中心のエリア。そう、光が昨日“魔術規格検査”を受けた、他のエリアよりも広く設定された検査エリアだった。
体操着を身に纏った女生徒たちも、今はまばらになりつつあり、各エリアでの検査を終えた黒のスーツの検査員十数人が、今日の“検査結果”の集計を話しているのだろうか、エリアの中心地に集まり、手元のタブレットを互いに見せ合わせていた。
「ちょっと、くれは?一体どこまで・・・」
検査員の輪に向かってどんどんと歩みを進めていく双葉に対し、流石に制止を促そうと、(うっとうしく)纏わりつく光の腕をゆっくりと払い、双葉の近くまで駆け寄る楓。
と、その時だった。その少し先、検査員のひとりと視線が合う。そして、“気がつく”。
「あれ?“昨日”の・・・?!」
「あっ!“緋色 楓”様!!」
それは“昨日”の検査にて楓の“担当”となっていた黒スーツの女性であった。
もちろん、検査員と被検者という関係でしかなく、楓“側”が検査員の名前を知る術も理由もないのだが、流石に昨日の今日での再会とあって、楓も“妙な親近感”や“縁”を感じずにはいられず、言葉を続けた。
「お疲れ様です、昨日ぶりですね・・・でも、“なんで”王凛に?今日は“こっち”で“検査”だったんですか?」
「んー・・・」
黒スーツの女性は、検査員の輪を離れ、楓の元に歩み寄り、声を潜めこっそりと耳打ちし始める。
「実は、まだ“公”にはなってないんですけど。昨晩、“魔研”で“ちょっと”ありまして・・・それで、今日は“急遽”こっちの“一般検査”のお手伝いに来てるんです、」
「へー・・・ん?待って?“公”になってない事、私にそんな簡単に話していいんですか?」
「あっ!!?」
“中学生”の楓の“正論”に、思わず表情を曇らせ、瞬く間に一歩引きさがる黒スーツの女性。
そして、みるみると顔を赤らめ、動揺を画に描いたようにシドロモドロになりながら答え始める。
「“昨日”の・・・“あんなの”見せられて、私、“緋色 楓”様には、こう、心を掴まれたというか、なんか、なんでも話しちゃうというか・・・やだ、私、自分でもびっくりしてます!!!!!」
(・・・大丈夫かしら?この人?でも、“ちょっと”って、何だろ?“気になる”・・・)
目の前の黒スーツの女性の失態、そしてその“言葉”が妙な“胸騒ぎ”に繋がり始めた楓だったが、そんな杞憂を一気に吹き飛ばすような状況が、すぐ“目の前”で起こり始めていた。
「ねえねえ!今から私!!“検査”してもらってもいい?」
「はあ!?ちょっと!?くれは?!」
耳に届いた双葉の軽妙な調子の提案に、思わず楓は双葉に詰め寄る。
「あんた、何言ってんのよ?いきなりここまで来て、検査したいなんて・・・」
「だって!“その方”が分かりやすく“私”のことも知ってもらえるかなあって!」
「楓さま?!やっぱりこの方、常識もないおかしな方では!?」
「常識?なんで?“思ったまま”言ってるだけだけど?」
楓や、そこに続く光の反応、そして検査員の戸惑いの表情を眺めながらもキョトンとした反応を示す双葉。諭すように、楓は言葉を返す。
「常識というか・・・“魔法規格検査”なんだからさ、検査員の人たちも段取りとか手筈とかあるし、“世界国民義務”なんだから、そんなコンビニ行くみたいな気軽に受けれるものでもないでしょ?というか、くれは、米国で受けてるんだから、そもそも日本では“受けれない”じゃないの?」
「んー?でもさ、私の“レベル”を考えれば、日本としても早めに“把握”しといた方が、いろいろと“都合”いいんじゃない?私、米国では『レベル・2』だったし?」
「!!?」
『レベル・2』。
その言葉に、周囲の空気が一変する、そして“検査員”たちの視線の“全て”が双葉へと一斉に向けられていく。
“魔法”がこの世界に生まれてから、その文化形成において、先進国のなかでは“後れている”この国にとって、『レベル・2』相当の“魔法使役者”を“国として掌握しておく”ことは、非常に大きな意味合いを持つからだ。
「・・・あなた、お名前は?」
楓の目の前にいた黒スーツの女性が、タブレットを操作し、確認するように双葉に問いかける。
「『双葉 くれは』、だけど?」
スムーズにタブレットを操作し、確認を行う黒スーツの女性。だが、“もちろん”
「・・・“ない”ですね。今回の“検査リスト”にはもちろん、この国のデータベースにもその“名前”で『レベル・2』に該当する“魔法使役者”はいないですね、」
「まあ、それはそうでしょ?私がこの国に戻って来たの、昨日なんだし?国のデータ移行とかもまだだろうし・・・でも、“だからこそ”、今ここで“国”に先立って『レベル・2』を“把握”しとけば、“あなた達”の評価にも繋がるんじゃない?」
「・・・・・」
周囲の空気がざわつき始める、そして楓や光も、自身と同じ中学生の、目の前の小柄な“美少女”が、これまで抱いていたような印象を一気に覆す程に、まるで“駆け引き”するかのように理路整然と“大人たち”に堂々と言葉を紡ぐ様を見て、思わず息を呑んでいた。
「・・・・・分かりました。それでは“特別”に“検査”しましょう。あなた達、準備してください」
黒スーツの女性の“判断”に、残りの検査員たちは互いに目を合わせ、多少なりとも躊躇していたが、
「大丈夫です。責任は私が持ちます。この子の言葉が“真実”であれば、評価はどうなるであれ、“国”としては『レベル・2』の“魔法使役者”を把握しておく事に早いに越したことはないですから」
黒スーツの女性の言葉に、十数人の検査員は各々エリア内の指定の配置に向かい始める。
「楓さま、あの方、本当に何者なんです?」
「幼馴染・・・みたいなもんだけど、でも、私も会うのは“小さい頃”以来だから、何て言うか、ちょっと戸惑っているというか・・・」
「え!?楓さまの“小さい頃”・・・美少女?!お写真とかないんですか?グフフ・・・」
ゴンッッ
戸惑い疑問を投げ合う中でも、楓の幼少期を想像(妄想)し始め話の腰を折る光に、静かに制裁を加える楓。
そんな二人の元にスキップで舞い戻ってくる双葉、そしてゆっくりと後に続いてくる黒スーツの女性が口を開く。
「では。“特別検査”を実施します。あなたの言葉が事実であれば、本来この国では『レベル・2』に該当する方の検査は“国家指定期間施設”で行う決まりなのですが。今回は“特別”対応で、“それに見合った状況”を用意します・・・ちなみに、『身体操作』及び『身体行動分野』の“魔法”で、よろしいんですよね?」
「ん?『フィジカル』系って意味だよね、それ?そうだよ!というかさ!『メンタル』系の『レベル・2』だったら、この国に限らず世界で“ひとり”しかいないじゃん?それくらいは・・・流石に知ってるよね?それに“運動場”にこうして来てるんだからさ、当然“そっち”の“魔法”に決まってるじゃん?」
あまりに流暢に、かつ、“イヤミのない”笑顔で、かつ、純粋な双葉のその“正論”の切り返しゆえに、黒スーツの女性は感情を抑えるように一呼吸を置いて、インカムに手を添え、配置された検査員に指示を送る。
「・・・・・“全部”出してください」
一方で。
双葉は楓たちの前で全身をブラブラとさせ、全身の筋肉をほぐすような準備運動を少し行い、黒スーツの女性の隣に並び立つと、準備万端である事を表情で伝える双葉。
そして、黒スーツの女性が“特別検査”の内容について、説明を始める。
「では。今回は“どういった魔法”であっても判断できるように、検査対象を全てセッティングしています。まず一つ目。重さ10キロ相当の“鉄リング”を、ここから一番遠い検査員の場所に10個。こちらを制限時間内に“このスタート地点”まで“出来る限り”運んできてもらう“検査”です」
双葉が視線を向ける、スタート地点から約200M近く離れた場所に立つ検査員の側には、重量挙げの重りの形のような、見るからに重そうな灰色のリングが10個積み上げられている。
「次に。エリア内、五ヶ所に散った検査員たちの元に、ポールフラッグを各二本ずつ、計十本配置しています。こちらは、制限時間内に“フラッグ”部分の“破壊”を“出来る限り”行ってください」
四方八方散り散りに配置された五人の検査員、互いの距離は100M程だろうか。
無作為に配置された検査員の側には、二本ずつ、イメージで言えばビーチフラッグで使用すようなフラッグの“大きめ”のものが配置されており、先端のフラッグが初夏の風に靡くように揺らめいていた。
「そして。三つ目は“検査員”との“鬼ごっこ”。エリア中央にいる“五人”の検査員が、検査開始と同時にこのエリア内で“逃げ”るので、“出来る限り”タッチしてください。“触れるだけで大丈夫”です。もちろん、五人とも“身体強化“の“魔法”にて“走力”特化されていますが」
エリア中央には、スーツを脱ぎ捨て、“見るからに違う装い”となった五人の検査員が準備運動を終え堂々と佇んでいる。
「各検査の制限時間はそれぞれ“三十秒”。手段や方法は“問いません”、そして、今回の検査では“どの検査”を選択していただいても大丈夫です。ご自由に、あなたの“魔法”の真価を我々に見せてください。その結果を踏まえ、あなたの“魔法”の“レベル”と“CLASS”を判断させていただきます」
「んー!なるほど、ね!!」
トントン、と。軽くその場で二度ほど跳びながら、検査内容とエリア内の状況の“把握”を行うと、双葉は楓と光の方へと振り返り、ウインクをしながら二人に告げる。
「それじゃあ!ご覧にいれましょう!!『双葉 くれは』の“魔法”を、ね!!」
双葉が、ゆっくりと“右手”を握ったまま真横に右腕を掲げ上げる。
そして、“空気”が、“轟く”。
「では・・・“魔法規格検査”、“特別”・・・スタートッ!!!!!」
掛け声と同時、双葉が握った“右手”を大きく開く、瞬間
バヂ、バヂ、バッッッッヂヂヂヂヂヂヂヂリリリリリリリリッッッッッッ
双葉の周囲の空気が、“歪む”。そして、それは空気が“割れる”轟音。
同時に。双葉の周辺に渦巻くように“青白い”光・・・いや、“視覚化”された“波動”が、双葉の“右手”を中心に流れ始め、瞬時に双葉の全身を包み込むように纏い始める。
バヂヂヂヂヂッッッッッ!!!!バヂヂヂヂヂヂヂヂリリリリリリリッッッッッッ!!!!!
双葉が再び“右手”を強く握り締めた瞬間、“青白い波動”は、轟音と共に“紫の光”へと“変容する”。
「これは・・・“電気”を、操る“魔法”・・・?」
目の前で囂々と収束されていく“不可思議”な景色に、思わず言葉が零れる光。
対して、楓は自身の“右手”が“不可思議”に“疼く”感覚に包まれていく最中、冷静に光の言葉を“訂正”する。
「違うわ、光。その“レベル”じゃない・・・きっと、これは・・・」
ゴッッッ!!ロロロロロロロロロロッッッッッッッッッ!!!!!!!
晴天を切り裂くように、轟音と同時に、双葉の頭上に“光の柱”が“落ちる”。周囲の人間の視界は、一瞬“白”に“支配”され、思わずその場にいた全員が“その正体”を理解する。
「『“雷”を自在に操る“魔法”』」
“光の柱”が大地に降り注いだ“雷”。そして、全身で“雷”を受け止めた双葉が、収束された“紫の雷”の波の渦の中心で、“不可思議”にも“何事もなかったかのように”平然とその場に立っていた。
「さて!じゃあ!!始めるよッッと!!!」
双葉が、勢いよく“右手”を振るう。その瞬間、双葉の全身を包み込む“紫の雷の渦”が、その“右手”を中心に、蠢きながら解き放たれていく。
バヂヂヂヂヂヂヂヂヂ、バヂリッッッッッッ!!!!!!!!!ヴワッッッッッッッッッッ!!!
放たれた“紫雷”の波動は、検査エリアの四方に立てられた10本のポールフラッグに一斉に向かっていき、
刹那、“雷鳴”と同時に“十”のフラッグそれぞれの“中心”を貫通し、言葉そのままの通り、“瞬く間“にその全てを焼き切った”。
「え・・・うそ、一瞬で・・・“全部”!?」
思わず零れる感想、ポールフラッグの側に立つ検査員たちは、あまりの一瞬の出来事に“理解が追いつかない”、だが、現実として、その一瞬で全てのフラッグは“破壊”されていた。
そして
「“次”は!!“鉄”リングなら!!“コレ”でいけるっしょ!!」
バチンッ!!!!!!!
双葉が、両手を大きく叩く。
同時に、十のフラッグを貫通した“紫の雷”が、それに合わせるように上空で収差され、大きな円を描くように漂いながら、双葉たちがいる場所から一番遠い場所、そう、“鉄リング”の置かれた場所の上空へと向かっていく。
“その後”に起きた事、それは最早、言葉では説明できない“不可思議”の“創造”。
理屈も原理も分からない、ただ上空を漂う“紫の雷”が生み出したのは、“磁力の流れ”、“磁場”。
そして、双葉の“右手”は、それさえも“自在”に操っていた。つまり、
ドッ、ゴゴゴゴッッ、ブワッッ!!!!!!!!!!
「・・・なに、これ・・・勝手に、“鉄リング”が、“浮いてる”・・・?!」
“不可思議”な景色を目の当たりにして、担当検査員は自身の髪の毛が“逆立っている”事も、そして全身を“不可思議”に包み込む“嫌悪感”も気にする“猶予”がない程に、言葉を失っていた。
ひとつ十キロにもなる“鉄リング”、積み上げられていた全てが“誰に触れられるでもなく”、勝手に“宙”に浮かび上がっていた。そして、重力を無視するように、まるで“ナニカ”に引っ張られるかのように、宙に舞う十の鉄リングは勢いよく放たれ、その全てが双葉の元へと飛んで行く。
「ほいほいっと!!!!!」
まるで指揮棒を振るう指揮者のように、双葉が軽やかに“右手”を振るい、すぐ側に差し向けると、その“右手”の指し示す場所に向かって、轟轟と弾丸のような勢いのまま、十の鉄リングたちが引き寄せられ、“着弾”する。
「最後は“鬼ごっこ”か!“疲れる”のヤだから、“全力”で“一瞬”・・・ね!!!!!!!」
“右手”を開き、“紫雷”で全身を覆い尽くしていく。小柄な体躯を沈め、陸上選手が見せる“クラウチングスタート”のような構えをとる双葉。そして
バヂリッッ・・・ドンッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!
轟音と同時に、砂埃が舞い上がる。そして、双葉の姿が“消える”。
エリアの中央にいた五人の検査員たちも、目の前と周囲で“瞬間”に起こり続ける“不可思議”の連続から目を逸らすことなく、ただ、その狭間に“いつ”自分たちの担当する“検査”を始めるべきなのか、そのタイミング“だけ”は見過ごすまいと気構えていた、
その矢先だった。
スタート地点で低く体勢を構えた小柄な少女が、雷鳴を纏い、そして轟音と同時に砂塵を巻き上げ、五人の視界から“消えた”のは。
ドッダダダダダ、バヂヂヂヂ・・・・『トン、トン、トン、トン、トン』
“理解”と“景色”に、その“異音”と背中に“触れられる感覚”が追いつくのにかかったのは、数秒にも満たないほどの僅かな“ラグ”。
五人の検査員が“魔法”を行使し駆け出すよりも“疾く”、その小柄な美少女は五人の背後に“駆け寄り”、その背に連続で“左手”で“触れ終えていた”。
触れられた感覚に連なり、そしてヂリリと小さく鳴る音の方へ、五人の検査員が視線を向けると、そこには制服に付いた巻き上げた砂塵を払う、双葉の姿が在った。
そして、砂埃を払い終えた双葉は、口元に両手を添え、スタート地点に向かって叫ぶ。
「ねえねえ!!おーい!!聞こえてるー!?」
理解も感情も追い付かままに、ただただ目の前で起きた“瞬間”の“超常”の連続を見届け、開いた口が塞がらない光、そして決して“見逃すことはなかった”が“その空気感”に呑まれかけていた楓、呆然と立ちすくむ黒スーツの女性の視線が双葉に向けられていく。
「“全部”終わったと思うけどー??もう“検査”終わりでいいー?」
双葉の言葉に、我に返ったように手元のストップウォッチに力を込め直す黒スーツの女性、そしておそるおそるその“結果”に目を向ける。
「・・・・・・“二十五秒”、ジャスト。検査・・・“オールクリア”・・・信じ、られない・・・」
黒スーツの女性の口から零れ出る“感情”。無理もない、二日続けて“頂上たる超常”を目の当たりにしたのだから。
腕を伸ばしながらゆっくりとこちらに歩みよってくる、その小柄な体躯が“大きく”見えてしまうほどに、圧巻で圧倒的な“魔法”を見せつけ、薄れゆく“紫電”の残滓を纏わせる少女は、楓たちの前で立ち止まると“何事もなかったかのうように”、満面の笑顔で謳う。
「どう?『レベル・2』の魔法使役者、魔法名は『鳴りやまぬ紫雷』。これが、双葉 くれはの“魔法”、だよ?」




