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そんな魔法ならいらない  作者: door
Chapter 3 : Anti-Fake Strength
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#5 ガール・ミーツ・バイオレット①

私立王凛女学院。中等部三年C組。


五つある三年生のクラスのひとつ、その教室に朝礼開始の五分前になって、ようやく楓は辿り着く。


学園の敷地内にある学生寮の自室からは、時間にして十分もかからない程の距離であることをいい事に、楓は朝のギリギリまで布団の中にくるまり、年頃の他の女生徒が身だしなみなどを気にかけている時間も睡眠へと注力し、そしてギリギリの登校を送る日々を送っていた。


日本では数少ない『レベル・2(セカンド)』の“魔法とくべつ”をその“右手”に持ち、“母親”譲りの正義感から、事あるごとに“目に見える範囲”全ての“問題事”を解決するその性格も災いとなっているのか、“魔法”を行使した次の日の午前中(とくに朝)は、“体力”の回復が追いつかず、楓のスイッチはほぼ“オフ”の状態になっている。


加えて、“とある趣味”によって、度々“夜更かし”をする事も多い為、まあ、簡単に言うと、とにかく楓は“朝がめっぽう弱い”のだ。


眠気眼に大きな欠伸をしながら、教室に辿り着き、教室後方の自身の席へと着席するやいなや、机にうつ伏せになり、少しの時間でも睡眠に充てようと試みる楓の元に、近づく足音。そして


ガタンッ


「・・・ん?」


思わず、顔を上げ、音の鳴る右方へと視線を向ける楓。


そこには、どこから持ってきたのか、“新しい”机と椅子一式を持ち運んできた、ひとりの少女の姿が。


「“委員長”?どうしたの、それ?」


黒髪のポニーテールを靡かせながら、周囲のクラスメイトへの指示を行い、その華奢な体格からは想像も出来ないくらい“不可思議”な程に、“軽々”と机と椅子を持ち上げ移動させ、楓の隣に“新たな座席”を作っている、少し垂れ目の愛らしい顔つきの“委員長”と呼ばれた少女、東雲しののめ 杏子きょうこは、いまだ眠そうな楓とは相反するようにハツラツとしたテンションで楓の疑問に答える。


「おっはよー!!緋色さん!!今日も眠そうだね!!この席はね!!さっき市ノ瀬先生から頼まれてね!!今日から来る『転校生』の席をね!!作ってるんだよ!!」


「『転校生』?・・・こんな時期に?えっ、というか、なんで“私の隣(ここ)”に?」


「さあ??市ノ瀬先生が“その方が都合がいい”って言ってたけど??あっ!!朝礼始まるから!!私も席に戻るね!!」


「都合が、いい・・・?」


疑問が解決されなかった事で、楓の眠気も少しばかり覚め始め、新たな“空席”を作り終えた東雲が軽快に自身の座席へと駆け戻ると同時に、朝礼の開始を告げるチャイムが教室内に鳴り響く。


ほぼ、同時。教室の前方の扉を開け、いつも通り“凛”とした姿勢の市ノ瀬がコツコツと足音を響かせながら教壇の前に立つ。


「はい、みんなおはよう。昨日から始まった“魔法規格検査”で疲れが残っている者もいるだろうが、午前中は変わらず授業はあるからな?学生の本分を忘れずに、気を引き締めて・・・・・緋色みたいに“大きな欠伸”を堂々と授業中にする事のないように、な?」


「ッ!?はい!!す、すみません!!」


決して視線を“しっかり”向けているわけでもないが、教室後方で“欠伸”をして油断していた楓に、声と圧で牽制をいれる市ノ瀬。楓の反応に、クラスメイト達も微笑みつつも、“王女様”のその矛先が自身に向かわぬように改めて緊張感を保ち始めた。


一呼吸のあと、市ノ瀬は改めて姿勢を正し、言葉を続け始める。


「さて。授業を始める前に、もうひとつ。東雲に手伝ってもらい、もうみんなも気づいていると思うが。本日よりこのC組に“新しい”クラスメイトが加わる・・・まあ、つまり『転校生』だ。早速だが、入って来てもらおう」


教室が騒めく余韻など気にする事もなく、淡々と話を進めていく市ノ瀬の言葉に促され、『転校生』が教室の前方の扉を開け、教室へと入って来る。


クラスメイトの視線、そしてもちろん、楓の視線も自ずとそこに向けられ・・・・・・


「えっ!!?」


教壇に立つ市ノ瀬の隣に並び立つのは、楓もタイムリーに“見知った美少女”。


紫色のメッシュが入った黒髪のショートヘアーに、整った小さな顔立ちの半分を占めるのではないかと言ったくらいに、キラキラと輝く大きな茶色の瞳、そして、着こなす王凛女学院の白の制服が、一番小さいサイズであるにも関わらず、まるでサイズの在っていないメンズのシャツを着ているかのように袖を余らせてる事で、“小悪魔”的な“彼女”感を醸し出していた。


その小柄な“美少女”は、教室を一度見渡すと、満面の笑みで口を開く。


「はっじめまして!!『双葉ふたば くれは』です!!出身はこの街だけど、ちっさいころに米国アメリカに引っ越してて。この度こっちに帰ってきました。日本の事は正直分からない事だらけですが、大好きです!!あと、」


教室の後方で唖然とした表情を見せる楓に向かって、“右手”を伸ばし“指ハート”を作り送りつける“美少女”、双葉は声を高らかに続きを謳う。



「“かえでっち”の!!!“婚約者”ですっ!!!!」


「なっ!!!!!??」



周囲のクラスメイトの黄色の疑念の歓声と視線を一斉に浴び、思わず声を上げ立ち上がる楓。


と、同時に。“ゾクゾクゾクゾク”っと。


一学年下の教室の片隅で、得も知れない“唐突な悪寒”が全身を駆け巡り、神宮路 光が“身震い”をして、“楓さまセンサー”を働かせていた事など知る由もなく。


楓は、頬を少し紅潮させながら声を裏返しつつ叫び、満面の笑みで楓を見つめる双葉に向かって反論する。


「ち、ちっがいます!?ちょ、ちょっと、くれは!!いい加減なこと、言わない・・・」


「ええーっ?お互いの“ハダカ”まで見せあった仲なのにい?(ははん)」


「なっっ?????!!」


意味ありげかつ不敵な笑みを見せながら、わざとらしくモジモジしだす双葉に対し、キャーキャーと色めき騒めくクラスメイトたち。


「意味深な!!言い方するんじゃないわよ!!?小さい頃に一緒にお風呂入っただけの話でしょ!?」


「もう!かえでっちったら、そんな恥ずかしがっちゃって!かわいんだから?(ははん)」


「あんたッー!!?」


ビュンッッッッ!!


それは。思わず、“右手”をかかげ“臨戦態勢”となっていた楓の額に投げつけられた、“白の弾丸(チョーク)”が空気を切り裂く音。そして


ゴンッッッ!!!


それは。この騒動の一端を担っている(むしろ最大の原因である)双葉の脳天に、迷うことなく撃ち込まれた“拳骨一閃”の快音。


それらは、一連の騒動を表情を一切変えることなく両成敗を執行する市ノ瀬(クイーン)の“二撃”。


「ぐはっ!!?」「あいたあっ!!?」


両成敗される当人たちを見渡し、一気に静けさを取り戻すクラスメイト達。楓と双葉の呻き声を除き、教室が静寂に包まれるのを見計らい、咳ばらいをひとつ、市ノ瀬は口を開く。


「コホンッ。ようやく、静かになったな?双葉も『転校生』だろうと、今日からここ、王凛女学院の生徒になったんだ、“凛”とした学生生活を送るように。ほら、席は緋色の隣にしておいたから、さっさと向かえ」


「はあぃぃい・・・でも!やった!かえでっちのとなりーっ!!」


打たれた脳天を摩りながらも、楓の隣の席だと分かると“ルンルン”気分のまま鼻唄まじりにスキップで教室を縦断していく双葉。


「それと、緋色。お前は今日の午後から“魔法規格検査”はないだろう?ちょうどいい、双葉も“同じく”、“魔法規格検査”は“受けない”からな、校舎や学院の敷地内の案内などして学園生活の足掛かりのサポートをするように。いいな?」


「ぬあっっっ!!?」


自身に放たれたチョークを拾い上げ、額を摩りながら、告げられた“指令”に分かりやすく不満顔を見せる楓。その隣に意気揚々と着席した双葉は、可憐な表情を浮かべ、投げキッスの仕草を見せながら楓に話しかける。


「かえでっち、“放課後デート”だね?たのしみ!!ちゅ!!」


終始テンションの高い“隣人”に対し、楓は呆れたように大きな溜息ひとつ。そして、そんな事など気にも留めず、市ノ瀬は淡々と午前の授業を開始していく。


緋色の少女にとって、“非日常”な学園生活が、こうしてゆっくりと幕を開けていくのであった。


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