#4 プロローグ(スカーレット)④
アイマスクとヘッドフォンによって、束の間の“黒”の世界を歩き進め、ようやく。
「お疲れさまでした。アイマスクも外して頂いて大丈夫ですよ」
ヘッドフォンを外された瞬間に舞い戻る“音”と初夏の“熱”を感じ取りながら、楓はアイマスクをゆっくりと外す。
「通常の“魔法規格検査”は本日より五日間行われますが、『レベル・2』の緋色 楓様の検査は本日で終了となりますので、明日以降は学院からの指示に従って頂くようにお願いします。『魔法規格証』に関しては通常の“魔法規格検査”期間終了後に配布されますので」
「『魔法規格証』?」
聞き慣れない言葉に、思わず黒スーツの女性に聞き返す楓。
「・・・・・『魔法規格検査』の通達書にも記載があったかと思いますが、今回の“魔法規格検査”より“CLASS”制度も導入される為に、各々の“魔法レベル”と“CLASS”を記載したカードが配布されます。現時点で“この国”ではそこまでの“効力”はないのですが、魔法先進国のようにゆくゆくは免許証や学生証の類と同様の“身分証”に近いモノになってくるかと思いますので、厳重な保管をお願いします」
「・・・・・・へえ」
黒スーツの女性の言葉と視線は、“魔法規格検査”に対して“あまり前のめりでない”楓の心情を見透かしているかのようにグサグサと心に突き刺さって来る為、楓は国立魔法研究機関を急ぎ足早に後にした。
午後二時。
楓が現在住まう私立王凛女学院の敷地内の学生寮も、“魔法規格検査”が実施されているこの時間帯は検査の透明性の保持の観点から全生徒の入寮が禁止となっている為、“通常”よりも早い時間での“検査”終了となった楓は、時間を持て余す形となっていた。
「さて、どうしよっかなあ。カラオケでも行って時間でも潰そうかなあ・・・・・」
入寮が可能になるまでの時間潰しの場を求め、ゆっくりと駅方面へと歩みを進める楓。
“魔法”を行使し高速移動で駆け抜けた往路とは打って変わり、自身の歩みで進む復路は景色の見え方も時間の感じ方もまるで違う。
とは言え、平日のこの時間帯、そこまでやはり人通りも多くない為、駅前に着いた楓の視界に、“その少年”が容易く映り込み、そして楓がそれに“気がつく”のにも時間はさしてかからなかった。
「!!」
そして、“不可思議”に少しだけ“熱く”なる胸の内に“気づかないフリ”をするように、瞬時に思考を巡らせる楓の脳裏に過ったのは、ひとつ“疑問”、
「なんで、“魔法”が使えない“アイツ”が、ここに・・・?あっ、というか」
そして、過った疑問と同時に、思い起こされる、数週間前の“事後報告”の“ゼロ”に対する“怒り”。
(そういえば“まだ”全然“あの時”の話も聞いてなかったのよね!!よし!!ここはガツンと!!)
そうやって、“理由”を“作っている”事に“自覚”がないのが、この国でも数少ない『レベル・2』の“魔法使役者”と言えど、緋色 楓がどこにでもいるような女子中学生と変わらない“女の子”であると認識できる“理由”でもあるのだが。
楓は周りを見渡し、他の人を“巻き込まない”確信を得て、口角を少しだけ上げ“ワルい”表情のまま、自身の“右手”に力を込め、“風”を纏い、浮かび上がる。そして、風を“纏った”楓が、某○○ライダーキックの体勢のまま“風”に乗り、弾丸の如く向かっていく、その標的は、
寝グセかどうかも分からない、ボサボサの“黒髪”の少年。
「チェストオオオオ・・・・オオオオオッ!?」
ふいに。その“跳び蹴り”が届くであろう直前に、楓の視界に映り込んだのは、駅の柱の影から現れた、“小さな人影”。
(あっ、ぶな!!!?)
反射で体勢を変えると同時に“右手”に込めた“力”を解き、“纏う”風を解き放ち、駅の出入り口付近へと“舞い降りる”楓、だが、“高速移動”の“反動”までは“逃がす”事は出来ず、着地と同時に“勢いそのままに”前のめりで“少年”に向かっていってしまう。
(ああああああもう!いいや!いってしまえ!!!!!)
「よいしょおおおおお!!!!!!」
「ッ!!!?グヘエエエエエエエエエ!!!!!????」
右腕を伸ばし、勢いに乗るように零れ出した“掛け声”と共に、ラリアットを“少年”へとぶち込む楓。
そして、唐突に視界に飛び込んできた“嵐ガール”のラリアットを、為すがままに受け入れる(しかない)“少年”は、コミックシーンのように叫びながらゴロゴロと吹き飛ぶ。
予期せぬ“振り切った右腕”の“ラリアット”を喰らってうずくまる“少年”を見据え、少々の“申し訳なさ”と“反省”に少しだけ頬を赤らめつつも、“少年”の側に佇む、“小さな人影”に視線を向ける楓。
そこにいたのは、“ひとりの少女”だった。
小柄な体格に見合ってない程の、大きめの白いパーカーを身に纏い、そのフードを目深に被っているも、前髪の奥に垣間見えたのは少し明るめの”茶色”の瞳。そして、雰囲気だけでも伝わってくるその“美少女”感に楓は少し“ヤキモキ”しながらも、目が合う。
と、同時に。楓の心に“引っ掛かる”、いや、どこか“懐かしいような”、思いこされる“不可思議”な感覚ー
次の瞬間、楓の“右手”を通り過ぎるように、駅の出入り口に吹き込む初夏の悪戯な“突風”に。
靡く楓の赤髪、そして、目の前の少女が目深に被った白のフードが、その“突風”によって、ふわりと脱がされていき、その“素顔”を露わにする。
紫のメッシュが入った黒髪のショートヘアーの美少女のその表情が、楓に抱かせたのは“フラッシュバック”する“懐かしさ”。そして
「わあああああい!!“やっぱり”ここにいたああ!!“かえでっち”!!!!!!」
凛と畏まっていた表情が一変した、満面の笑みの“美少女”が、両手を広げ楓の元へと“ダイブ”する。
受け止めきれず、“美少女”を抱きかかえたまま、その場に座り込む楓。その“声”に、“表情”に、そしてその“呼び名”に、楓も“確信”する。
「えっ?その呼び方・・・もしかして、“くれは”?」
楓の言葉に、目を合わせ嬉しそうに再び強くハグをする“、くれは”と呼ばれた“美少女”。
“ふたり”の少女の“邂逅”に、“非日常”の物語が、ゆっくりと動き出す
・・・・・・なんて、『モノローグ』が映し出されるような景色を、“嵐ガール”に吹き飛ばされたまま放置され、その場に横たわりながら眺める、黒髪の“少年”、當真 夜は、脳裏に浮かんだその“疑問”をゆっくりと言葉にして零れ落す。
「いや、“お前”・・・・・“日本語”、話せたのかよ?」
零れ落ちた當真の“言葉”の、その“真意”を知る為に、『緋色の序章』から、“時間”は少しだけ遡っていく。




