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そんな魔法ならいらない  作者: door
Chapter 3 : Anti-Fake Strength
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#3 プロローグ(スカーレット)③

私立王凛女学院の最寄り駅から、二駅先。


国の教育機関施設や国立競技場に科学工場、少し離れた区域には大きめのショッピングモールもあるエリア。


その駅に今まさに降り立った楓だが、その表情を少しだけ曇らせていた。


「まさか電車が遅れるなんて・・・二駅だし、これなら学校から直接“飛んで”くればよかったかも・・・」


想定外の電車遅延、手にしたスマートフォンの時刻を再度確認すると、“開始時間”まで五分もないこの状況に、楓は改札を出るやいなや、すぐさまに駆け出す。“目的地”はそう遠くない。


人口集合密度で言えばこのエリアの密度はかなり高いのだが、平日の昼間のこの時間帯は、流石に人通りも少ない。


人けの無さを視認し、楓は自身の“右手”に力を込める、同時に、何処からともなく楓の周囲に“吹き集まる”風の流れ。


楓が軽く、その“右手”を振るった瞬間、集まって来た風が楓の全身を包み込み、そして、その華奢な肢体がみるみると、“不可思議”に空中へと“浮かび上がって”いく。



ブワッッッ!!!ビュウッッッッッッ!!!!



瞬間の“突風”の集合、そして飛散するかの如く、その“不可思議”な風を身に纏った楓は浮遊したまま。高速で移動を始める。


“空中浮遊”をする楓の通りすぎる道程を、吹き上げる“風”と共に、その高速移動に靡く楓の赤い髪の残滓が、まるで空中のキャンパスに“緋色”の光線を描き続けていくような現象が、“不可思議”にも日常の景色の中に映し出されていく。


“目的地”は駅から徒歩圏内とはいえ、本来であれば数分は要する距離だったが、楓の“浮遊移動”は、その時間を大幅に短縮する形で、楓を“目的地”まで僅か十数秒足らずで送り届けた。


“目的地”を正面に見据え、“降り立つ”楓。


その視界に映るのは、“巨大な黒の正方形”の建物。



「“国立魔法研究機関”・・・ここに来るのも二年ぶり、か」



スマートフォンを取り出し、再度時刻を確認する楓。“開始時刻”まで、残り時間は三分といったところ。


スマートフォンをしまい、一呼吸をつく楓に、ひとりの女性が声をかける。


「お待ちしていました。『緋色の暴風スカーレット・ストーム』様」


ふいに現れた黒スーツを身に纏った女性が、畏まった表情と定型文のような挨拶を楓に向けて届けてくる。


「・・・『魔法名(ソレ)』で呼ぶの、やめてくれます?私には、ちゃんと名前がー」


「この国でも数少ない『レベル・2(セカンド)』の“魔法使役者(マジックホルダー)”ですので。一般の人間に与えられたような“名前”ではなく、『特別』な意味合いを持って“魔法名”で呼ばせて頂いておりますのであしからず」


「・・・・・あっそ。いいわ、絶対“覚えて”もらうから」


「?」


楓の怪訝な表情と、真意の読めない“独り言”に少しだけ疑問を抱きつつも、黒スーツの女性は話を続ける。


「では、時間も迫っていますので検査会場までご案内しますね。あと、こちらをー」


黒スーツの女性は流れるようにアイマスクとヘッドフォンを楓に差し出す。


「検査会場までは私が案内いたします。こちらの建物は国家管理施設となりますので、内部機密の保護、情報漏洩の阻止の観点からも、『緋色の暴風』様もご理解とご協力をお願いします」


「・・・・・・・」


感情の見えない黒スーツの女性の表情を伺いながら、楓は差し出されたアイマスクとヘッドフォンを装着する。この過程は“二年前”に一度経験している為に、楓もそこには特に抵抗はなかった。


視界が黒に染まり、外界の音も完全に遮断される“無”の世界。


一呼吸置くと、楓の腕を誰かが掴み、その指針を誘導し始め、楓もそれに従い歩みを進める。


体感で“五分”程、だろうか。だが、視覚と聴覚を遮断された楓は、最初の十数歩の間に、自分のいる場所も方向さえも、そこに繋がる情報全てが奪われていた。


自身の右腕から、“制止”を促すような“力加減”が伝わってくる、刹那、楓の聴覚を遮断していたヘッドフォンが外され、空気が張りつめたような、“静寂”が楓の中にゆっくりと届いてくる。


「どうぞ。アイマスクも外して頂いて大丈夫ですよ」


言われるがままにアイマスクを外す楓、黒の視界に色が舞い戻るも、以前として視界は薄暗いままだ。



そこは、ただただ広いだけの“何もない空間”。



楓がこの建物に辿り着いた時に抱いた印象である“巨大な黒の正方形の建物”が、ゆうに二つ三つは入りきるような、ざっと四百メートル四方の空間といったところだろうか、とにかくだだっ広いだけの“何もない”だけの空間が、楓の目の前に広がっていた。


(・・・・・“二年前”とは違う場所、かしら?というかこんな広いスペース、どこに在ったのよ?ほんとに何から何まで、“不可思議”よね)


周囲を見渡し、その“右手”に伝わる“空気”、いや、“風”の流れから、自身がいる空間の広さを“感知”し思考を巡らせる楓。


「早速ですが『魔法規格検査』を始めます、と言いましても、『レベル・2(セカンド)』の方々が受けるのは、その“魔法”がその“レベル”として相応しいかどうかの“検査”のみなので、“一般”の方が受ける従来の五日間の検査とは異なり、この“一度きり”の検査で判断されますので」


「へえ。そうなんだ」


楓自身も、『レベル・2』に成ってから“初めて”迎える『魔法規格検査』であったために、その情報に思わず言葉と感情が素直に零れる。


「では・・・・・“スタンバイ”!」


黒スーツの女性が自身の耳元に手を添え、インカムを通して静かに呟くと、周囲の空間から蠢く“機械音”が鳴り響きだす。


そして、“何もなかった”空間のいたる場所の“地面”が、“無作為”に開き、突如としてその場所にカラーコーンが現れる。


数にして“五十”。それが距離、方向、全てがアトランダムに配備され、カラーコーンの先端には“もちろん”、色とりどりのリングが掛けられていた。


そして、目視だけでは言えば、楓が立つ場所から一番遠い場所。そこには、隔離されたように、小さく見える“黒のスーツ”の人だかりが。


「検査時間は“、三十秒”。各エリアに配置された“五十”のカラーコーンにかかったリングの“回収”と、このスタート地点より一番離れているエリアに“滞在”している、“怪我をして自身では一歩も動けないという設定”の検査員“十名”を、この場所まで“運んできて”ください。方法は“問いません”。回収したリングの総数、及び、検査員の人数、そして『総合的な観点』から判断し、『緋色の暴風』様の“魔法”の“レベル”と“CLASS”を決定いたします」


黒スーツの女性の説明を聞きながら、腰元に手をあて、楓はスタート地点に仁王立つ。


状況、距離感の把握。それらを踏まえた上で、楓が気にかかるのは“一点”・・・


「・・・ちなみに。この空間は“特殊合金”にて作られた空間ですし、検査員たちも“一般検査員”と異なり、“それなりの”訓練を受けている『レベル・2(セカンド)』仕様の者ばかりですので。どうぞ“ご遠慮”はなさらずに?」


楓の“気がかり”を見透かしたように説明をする黒スーツの女性の言葉に、楓は軽く視線だけを送りながら応える。


「あっ、そう・・・じゃあ、“お言葉”に甘えて」


黒スーツの女性が右手を掲げる、一間、そしてその手を勢いよく振り下ろ



「あっ、“あなた”も少し離れておいてね?流石に“本気”出すから、さ?」



「ッ!!・・・“スタート”!!」



掛け声と同時に、“察知”し、慌てて数歩後退する黒スーツの女性。



次の瞬間。楓が、その“右手”を軽く振るう、



「『十秒呼風テンセカンド・エアコール』」



空気を切るような動作、そこに生まれるのは“小さな風”。


だが、その“風”が楓の右手に纏いつき、回転、刻一刻と加速し、それによって生み出される“風”の波が、さらなる“加速”と“風の塊”を、楓の“右手”に纏い始め・・・



“十秒”。



微動だにすることなく、その時間で楓の“右手”に生み出されたのは、“巨大”な“風の渦”、さながらファンタジーの世界の“ハリケーン”を彷彿させるような、“不可思議”な“超常現象”。


吹き荒れる“暴風”に耐え切れず、急ぎ足で距離を取る黒スーツの女性に対し、“ソレ”を自身の“右手”に纏い悠然とその場に立つ楓は、正面に広がる“空間”に向け、一気にその“右手”を差し向ける。



ゴゴッッッオオオオオオオオ!!!!ヴォォォオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!



楓の“右手”から放たれる“風塊”、“ハリケーン”は囂々と荒々しくも猛進していく。そして



ガッッッ!!ゴッッッブウォオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!



楓が、突き出した“右手”を、強く握り締めた瞬間、その“超常現象”が、一気に“爆ぜる”。


ひとつの大きな“風の塊”から、まるで古代神話の“ヤマタノオロチ”が如く、蠢く複数の大蛇の首のように、小さな“ハリケーン”が、まるで槍“の如く”発現し、四方八方全方位へと“暴風の猛威”が四散する。


何もなかったはずの空間が、一気に“荒天”の“嵐”の渦中が如く、一変する。


(・・・なに、“コレ”・・・まるで、“嵐”・・・この空間にだけ、“天変地異”でも、起きてるの・・・?)


国家検査員、なおかつ『レベル・2(セカンド)』の担当ともなれば、それなりに“特別”かつ“選ばれた”者でしか、その検査の担当には選ばれない、それゆえに、“相応”の訓練も“覚悟”もしてきたはずだった、


だが。この“レベル”の『魔法規格検査』、目の当たりする“不可思議な超常現象”の光景に。


黒スーツの女性は、表情を“変える”余裕すらない程に、ただただ“思考”することで精一杯となっていた。


(これを・・・たった一人の、中学生の・・・こんな“女の子”が引き起こしているなんて・・・)



ゾゾゾゾゾゾクッッッッッッッ!!!!!!!



身震いが、黒スーツの女性の全身を、駆け巡る。


許容を越えた“現実”は、簡単ではなく畏怖を与える。それは、常識も概念も、持ちうる全てを、他者の『世界』をいとも容易く『変える』、そんな“魔法(ちから)”。


その景色は、脳内の記憶に、心に、強い“記憶”として残るような“衝撃”を、黒スーツの女性に植え付けた。



「せえーーー!!のッ!!!!」



荒れ狂う“超常”を気にも留めず、高らかに声を上げ、楓が突き出した“右手”を、縦横無尽に振り出す。


それに呼応するように、“荒天”の母体から四散した何十もの“風の槍”が、まるで自ら意志を持ったかのように、それぞれの指針を定め、猛進を続ける。


向かうポイントは、この広いエリアに配置された“五十”のカラーコーン、そして、そのそれぞれに真っ直ぐと伸びていく“暴風の槍”。


“暴風”の塊はカラーコーンに着弾するや否や、その存在を丸ごと“巻き込み”、そして再び、自らの“意志”を持ったように囂々と蠢きながら、楓の立つ場所へと“舞い戻ってくる”。


楓が、その“右手”を下方へと振り下ろし、自身の僅か数メートル先へと、その手を差し向ける。


猛進し、舞い戻ってくる“五十”の“暴風の槍”が、まるで機械仕掛けのように、楓の指し示すポイントへと、次々と着弾していく。


“風の塊”が、届くたびに鳴り響く轟音、そして、“何かが重なっていく”音。



ヴォォォォ!!ガッッッッ!!!ガガガガッッッ!!!!ガガガガガンンンッッッッ!!!!!ビュォォォォッッッ!!!!!!



その音は。まるで意志を持っているように、“暴風の槍”に巻き込まれていたカラーコーンが、順番に“積み重なって”いく音。そして、カラーコーンを運び終えた“暴風”の槍が、静かに大気へと“消え去っていく”音。


“暴風”によって運び込まれたカラーコーンが、“十”重なる度に、“暴風”の降り立つ指針は少しずつずれていき、積み上げられたカラーコーンの隣へ整列するように次の“十”個は重なっていき・・・・


ものの“数秒”足らず、“十”ずつ重なったカラーコーンが“五列”が、その場所に並び立っていた。


そして、その隣には、人の手で準備したかのように、“綺麗”に“揃えて”、“置かれた”、“五十”のリングの束。



「・・・なんなの、これ、“ありえない”・・・・!?」



その“不可思議”な“超常現象”に、思わず零れ落ちる、黒スーツの女性の本音。そして、同時に、



「はいッッ!!ラスト!!『全員』“降ろす”から、そこも気をつけてよ!!」



楓が言葉と同時に半回転し、背負い投げの“素振り”かのように、“右手”を大きく振り切る、


その“右手”に連なる“暴風”の“母体”が、引っ張り上げられるように、轟轟と楓の的へと手繰り寄せられていく、



ゴッオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!ヴォォォォォォォ!!!!!!!!!



“だけではない”、迫り舞い戻る“暴風”の塊に乗って、届いてくるのは“絶叫”。



「あああああああああああああああ」「きゃあああああああああああああ」「うおおおおおおおおおおおおおお」「ひいいいいいいいいいいいいいいいい」



黒スーツの女性の目に映ったそれは、巨大な“暴風”の塊に巻き上げられ“宙”を無慈悲に舞い戻ってくる、“十”人の同僚の姿と、その“絶叫”だった。


“動けない設定”などもはやそこには存在しないかのように、両手両足をばたつかせながら叫び、慌てふためく同僚たち。並びたてられた“五十”のカラーコーンのように着弾したとして、だが、この勢いのままだと、どう考えても甚大な被害を被ってしまう未来しか、想像できない。


黒スーツの女性も自身ではどうしようも出来ない状況であるにも関わらず、思わず叫ぶ。



「あぶなっー」



「大丈夫だって。私の前で“誰一人だって”傷つけさせやしないわよ?」



ビュッッッ!!!ヒュンッッッッ!!!!!!



その“右手”を振るった瞬間、“暴風”の塊が、突如として“消える”。


投げ出されるように、空中に無情に浮き出る“十”人の検査員、そして



フワッッッッッッッッッッ



先程までの“暴風”とは様変わりするように、優しい“風”の層が、空中に投げ出された“十”人の検査員の肢体それぞれを、包み込んでいく。


そして、ゆっくりと“浮遊”しながら、“十人”の検査員を楓のすぐ側、左隣へと順次“着地”させていき、ものの数秒足らず、全員が検査開始時から何も変わらない、『ゼロ』の状態のままこの場へと運ばれきた。



(これが『セカンド』・・・“緋色の暴風”・・・いや、緋色 楓という少女の持つ、魔法(とくべつ)”・・・)



“風”が、なくなる。ここまでの喧騒が、超常現象が、その全てがまるで夢物語、“嘘”のように、



周辺の空気が、静寂に包まれていく、ただただ“十”の呼吸音だけが鳴り響く時間と空間。



肩書や筋書きなどでは形容できない、“魔法”の在る世界での“日常”の中の『特別』に、黒スーツの女性は、目の前の少女の“名”を自身の記憶の中に強烈に刻み付けた。



「ねえ?」



その声に。ゆっくりと視線を向ける、黒スーツの女性。目に映るのは、何事もなかったような表情で、こちらを眺めてくる“赤髪”の少女。


「これで、“終わり”でいいのかしら?」


投げかけられた、少女のその言葉に。焦ったように手にしたストップウォッチのスイッチを押す、黒スーツの女性。


視線をストップウォッチに向ける、示された数字は“二十五秒”ジャスト。


届けられた“結末”は、“五十”のリングとカラーコーン、そして“無傷”の“十人”の検査員。


息を、溜め込んだ唾液を、ゆっくりと飲み込む黒スーツの女性。


一呼吸。表情を“必死”に作り上げ、少女に告げるのは、『魔法規格検査』の“答え合わせ”。


「・・・・・検査は終了です。結果は言うまでなく、“魔法”レベルは『(セカンド)』、“CLASS”は『S』にて認定です・・・・・・お疲れさまでした、『緋色 楓』様」


少女は“右手”を少し振るい、“そよ風”に自身の“赤髪”を靡かせながら、颯爽と笑顔のままゆっくりと出口まで歩みを進めー



「あっ、お帰りの際はアイマスクとヘッドフォン、お願いします」



「・・・・・・あ、はい」



巻き戻るように歩みを戻し、赤面しながらアイマスクとヘッドフォンを受け取る、この国でも数少ない『レベル・2』の“魔法使役者”である、ひとりの少女。


その赤髪の少女の熱を冷ますように、ゆるやかな“そよ風”と“いたたまれない空気感”が、無情にも空間を包み込んでいくのであった。



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