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そんな魔法ならいらない  作者: door
Chapter 3 : Anti-Fake Strength
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#2 プロローグ(スカーレット)②

午後一時。


本来であれば午後の授業の始まりに向けた予鈴が鳴り響く頃だが、私立王凛女学院の広大な運動場には、学年を問わず多くの体操着を身に纏った女生徒がゆっくりと集まりつつあった。


国内でも有数のお嬢様学校でもあり、中高一貫の女子校として名を馳せているこの学校は、その敷地面積も全国トップクラスであり、運動場ひとつをとっても、この街の他の学校の総敷地面積二つ分は在る程くらいだ。


体操着を身に纏った女生徒以外にも、校内の教師も多数、そして、初夏とはいえ暑苦しさを印象づけるような黒スーツの大人たちが、広大な運動場をいくつか細分化した“エリア”それぞれに、プラカードを手に持ち、待ち構えていた。


プラカードにはそれぞれ、おおまかな“魔法”の『ジャンル』と、該当する『レベル』の数字、そしてグループを示す『アルファベット』が大々的に記されており、運動場に集まった女生徒たちは事前に周知している“自身”の向かうべき場所へと、それぞれ足を運んでいた。


午後一時三十分。


運動所のそれぞれの“エリア”に人だかりは細分化されていき、そして定刻通り、『魔法規格検査(マジック・ジャッジ)』は開始された。



魔法規格検査(マジック・ジャッジ)』。



簡単に説明すると、この検査で行われるのは、様々な状況下における身体操作のレベル確認、そして学習能力検査といった幾重の項目を、延べ五日間に渡って行っていくものだ。


だが、もちろん言うまでもなく、その“過程”において、被検者は各々の“魔法”を行使して、検査は行われていく。


そして、五日間の様々な試技を多角的な観点から検査し、最終的な総合結果から各々の“魔法”レベル、そして本年より“CLASS”が、国家派遣員(つまり黒スーツの人達)によって判定され、認定されるのである。


運動場に集まって来た女生徒達は、主に『身体操作』や『身体行動分野』に関わる魔法使役者(マジックホルダー)で占められており、その一方で、『学習操作』や『精神行動分野』に関わる魔法使役者の女生徒たちは、この時間、体育館や各教室にそれぞれ集められ、各々に見合った“魔法検査”を実施している。


「懐かしいなあ、この景色。“一年”の時は、あまりの人の多さにびっくりしたのよね」


目の前の運動場いっぱいに広がる人の“壁”を、少し遠目に眺め呟くのは、朱のラインがポイントで入った白の制服を身に纏い、肩にかかるくらいの赤みがかった髪を初夏の風に靡かせる、ひとりの少女、緋色 楓(ひいろ かえで)だった。


「お?」


四方に移動する楓の視線の動きを止めたのは、そこは細分化されたエリアのひとつ。


そこは、広大な運動場の中心のエリアで、他のエリアに比べても人数が多く集まっており、ちょうど今、そこで『検査』を行っていたのが、楓も“よく知った”人物だったからだ。


「では、次の方は・・・『転移系』の“魔法”、ですね・・・なるほど。ではプランBの準備を・・・少しお待ちを」


黒髪三つ編みのおさげの眼鏡少女から“検査表”を手渡され、それを確認した黒スーツの検査員がインカムを通じて指示を送ると、エリアの四方八方から支持を受けた黒スーツの検査員が、要所要所に赤色のプラスチックコーンを設置し、その場に待機する。


よくよく見ると、プラスチックコーンの先端には、輪投げで使うようなリングも掛けられていた。数にして、コーンは全部で十か所、プラス検査員は十人。


「では。『転移系』“魔法”の検査を行います。スタートの合図と同時に“三十秒”、“どのような方法”でも構いません。コーンに掛けられたリング“十個”、及び、待機している検査員“十名”を、出来る限りこのスタート地点のエリアに“転移”させてください。その総数及び、所要時間を総合して、“魔法”の“レベル”並びに“CLASS”検査を行います。」


淡々と説明する黒スーツの検査員を前に、周囲の女生徒がざわつき始める。


スタート地点から一番遠いコーンの設置場所までは約200メートルほど。そして四方八方に不規則に散在するコーンに掛けられたリングを全て回収し、なおかつ検査員も転移させるとなると、”三十秒”という検査時間はあまりにも“短すぎる”。


だが。黒髪三つ編みおさげの眼鏡少女は、検査員の説明を聞きながらも、その場で柔軟体操で“アップ”を行い始めると同時に、十か所の位置をそれぞれ“把握”しだしていた。そして


「・・・リングは“十秒”、いや“五秒”・・・残り時間で“十往復”・・・正直、“無理して”ギリギリですわね・・・」


想像(イメージ)”し、呟き、そして意を決し大きく一呼吸。


緊張から表情を少し硬く強張せながらも、黒髪三つ編みおさげを左右に小さく揺らし、スタート地点に立つ。


「・・・では、準備はいいですか?“神宮路じんぐうじ ひかり”さん?」


黒髪三つ編みおさげの眼鏡少女、神宮路 光は、その小柄な体格通りの小さな両の手の拳を握る自身の力が、自然と強まっていくのを感じ取った。普段気にも留めない心臓の鼓動が、鮮明に五月蠅く聞こえてくる。


光にとって、今回“CLASS制度”が導入される魔法規格検査は、自身の“レベル”が“次”に至るかどうかを計る上で、重要な意味を持つと考えていた。


そもそも大前提として。物体や人を、環境や状況、その人の意志と関係なく動かせる『転移系』の“魔法”は、それだけでも非常に希少価値が高く、数多ある“魔法”の中でも『レベル・2』に近い“ジャンル”の“魔法”として、この世界の人々に認知されていた。


実際に。この魔法が在る世界を見渡せば、『転移魔法者(テレポーター)』の多くが、その『レベル』に属している。


ゆえに。このタイミングで、自身の『レベル』がそこに至る事を証明したいと、光はこの一年の始まりの時からずっと心構えもしてきたし、今日という日まで準備もしっかりと行ってきた。そして


(今回の検査で・・・必ず・・・“あの人”と同じ・・・)



「ひーかーり!!ファイトー!!!」



それは。緊張の糸が、一瞬にして溶け切るような、その“声”。


周囲の女生徒の視線を集めるだけでなく、誰よりもいち早く、光はその“声”の“答”を知っていた。


運がいいのか悪いのか、“風”に乗って、想定していた以上に自身の“声”が届いてしまったことで、多くの視線を自身に集めてしまった楓は、少し気恥ずかしそうに、すぐ側の校舎の柱の影に身を潜める。


「・・・えーっと、改めて。準備はいいですか?神宮路さん?」


周囲の反応と同様に、少し動揺を見せつつも、声をかける検査員に対し、光は自身の握る両の拳をゆっくりと解き、柔らかな表情で応える。


「大丈夫、“になりましたわ”、“今”。なので、いつでもどうぞですわ」



黒スーツの検査員が右手を掲げる、一間、そして



「では。よーい・・・“スタート”!!」



ヒュンッッッ!!!


検査員が右手を振り下ろした瞬間、空気が切れるような音と同時に、その空間から忽然と、光の姿が“消える”。


周囲の人間が、その現象に視線を奪われる頃には、光は一番近くのプラスチックコーンの元へと“転移”していた。


突如として目の前に現れた光の姿に、一瞬、コーンの側で待機する検査員がビクッと身震いを見せるも、その反応を見届ける間もなく、光はその手にコーンの先端に掛かるリングを掴み、


ヒュンッッッ!!!


再び、“消える”。そして、同じ現象が“九連”繰り返されていく。


それぞれの場所に光が滞在する時間は、僅か“一秒”にも届かない程の、刹那。


そして、その旅路の終着点は、スタートしたエリアから一番遠いポイント。ここまでかかった時間は、僅か“五秒”にも足らず。


光は、その場所に辿り着いた瞬間、ここまで回収してきた九つのリングと一緒に最後のリングを“左手”で掴むと、“右手”で目の前の検査員の腕に触れる。


「では!!“跳びます”ので!よろしくお願いしますわ!!」


ヒュンッッッ!!!


光の言葉が検査員に届くと同時に、その場から“二人”の姿が“消える”、


次の瞬間、どよめく周囲の観衆。


理由は明白。スタート地点のエリアへ突如として、光と検査員の“二人”が、『ゼロ』の空間から“現れた”からだ。


「まずは、“十”と、“ひとり”・・・」


その“不可思議”な現象の連続を目の前にして、沸き立つ周囲の反応に対し、回収した十のリングをその場に置き捨てた光の表情が、僅かに曇る。


視点が右往左往するかのような感覚が、今、包み込むように光の全身を駆け巡っているという事を、果たして周囲の人間の何パーセントが気がついただろうか。


視線を、一瞬、光はスタート地点にてこの検査の主体となっている検査員に向ける。その表情、圧、少なくともこの検査員には、“気づかれている”。


(・・・大丈夫、このまま・・・いきますわ!!!)


ヒュンッッッ!!!


一呼吸、そして再び光の姿が“消える”、“跳んだ”先は一番近くのコーンポイント。


そして、“跳び下りる”と同時に、滞在する検査員の腕に“右手”で触れ、同時に再び“消え”、“戻ってくる”。


「“ふたりめ”・・・次ッ!!!!」


ヒュンッッッ!!!


再び“消える”・・・・・・・そして繰り返される、“不可思議”の“連続”。


光が“消え”、“戻る”度に、その“右手”に連れて来られ、増えていく検査員。


スタート地点のエリアには、ここまでに九人の検査員が“転移”させられていた。


そして、周囲の期待が“完遂”へと向けられる、その瞬間、



ドッ、サ



光は、片膝をつくように、その場に座り込む。いや、“それ”は、光の防衛本能が起こした無意識の身体反応。


(・・・うぅ、気持ち、わるい・・・目が、廻る・・・・・)


光の“転移魔法”には、発現にいくつかの“条件”が在る。そして同時に、大きな“反動”も存在する。


そのひとつが、“短時間で連続して跳ぶ”と“視界が廻る”というものだ。


ふらつく光の姿を心配する声や感情、空気が空間を侵食していく中で。それでも検査の“時間”は、無情にも平等に、刻一刻と進んでいく。


「残り、“五秒”・・・・・」


検査員のその“コール”は、その場に蹲る光にとっては、“終曲”を促すような言葉に近かった。


リングのコンプリートに検査員九人の“転移”。その“結果”だけを踏まえれば、“充分すぎる結果”ではある、


だが


光の脳裏に過るのは、とある少女の“顔”と、届いた“声”。


拳を握り、廻る視点を“振り切る”ように、光は再び、“跳び立つ”。



(このまま!!!終われるわけ!!!ないですわ!!!!)



ヒュュュンンンッッッ!!!!!!



空気を“切り裂く”音。ほぼ同時に、一番遠いコーンポイントに“跳び降り立つ”光の姿を、最後の検査員の視界が捉える。


自身の腕に淀みなく触れる目の前の黒髪眼鏡少女を見据え、最後の検査員はその“変化”に気がつく。


(この子・・・“目”を、閉じてる・・・?)


そう。“目”が“廻る”なら、“見なければいい”。


それは、光の本能が導き出した“答”。


(でも・・・見知った場所への“転移”ならともかく、この無作為な試験方式の中で、情報源たる景色を“見ず”に“跳ぶ”なんて・・・この子、もしかして、このまま・・・)


最後の検査員の、脳内で思考が走る中、瞬時にその景色は“映り変わる”。そして



「はい。『検査』終了です。結果は・・・時間内での“オールコンプリート”、ですね。神宮路さん」



最後の検査員がその言葉を耳にした場所は、スタート地点のエリア内だった。そして、自身の腕に右手を伸ばしながら、その隣にぐったりと座り込む光が、微笑み返す姿を見届ける。


検査員の言葉に一瞬遅れ、そして沸き立つ周囲からの歓声と驚嘆の声。



少し離れた場所から、その様子を覗き見ていた楓も、その周囲の沸き立つ状況から、光の検査の結末を容易に想像する事ができ、ひとまず、一呼吸をいれる。


「どうやら上手く、いったみたいね・・・さて、じゃあ私もー」



ヒュンッッッ!!!



歩み出そうとした楓の目の前に、突如として現れたのは、“満身創痍”で“跳び”込んできた光の姿だった。


「楓、さまぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


「ぎゃあっっっ!!!!!?光ッ!!!???」


思わず仰け反りかける楓に対し、空間に“跳び”出して来た光は、勢いそのままに楓の胸元へと“わざとらしく”ダイブする。


「目がぁぁぁ、廻りますぅぅぅぅ、でも楓さまの華やかな香りに包まれてェェェ、ぐへへ、しーあーわーせ・・・」


「コラッ!?光、顔を押しつけないで!?あと嗅ぐなッ!!!!」


打って変わったように本能(醜態)を曝け出す黒髪三つ編みおさげの眼鏡少女を無理矢理引き離す楓に対し、その“余韻”に浸りながら恍惚な表情を浮かべる光。


“いつも通り”の景色、だが、その表情に相反するように、くたびれた装いも見て取れる光に対し、楓はそっと右手を差し出し、後輩の小さな頭をポンポンと優しく撫でる。


「まあでも、光、ひとまず検査初日はお疲れさま。上手く出来たみたいね?」


楓の何気ない、その優しい言葉や笑顔、心遣いと所作は、恋する乙女・神宮路 光の心を鷲掴んで砕くほどの破壊力しかなかった。


「はい!!!!私が!!次回検査で『セカンド』認定検査に挑戦できる『A⁺』の評価を頂けたのもおおおおお!!ひとえにいいい!!!楓さまの!!!愛の!!!ラブのおおお!!!激励のおかげですわあああ!!!!!お返しにワタクシからも愛の抱擁を!!!!!!!!!」


両手を大きく広げ、唇を尖らせたまま、本能剝き出しで迫りくる眼鏡少女に対し、


「いらんっ!!!!!!!」


楓は、その“右手”を、軽く振るう、



ブゥォォォォ!!ビュンッッッッ!!!!!



楓の“右手”から“不可思議”に吹き荒れる“風”の塊が、迫りくる光を容赦なく吹き飛ばす。


「きゃああああああああああああああ」


つい先程までの検査での真剣な様子が、まるで“嘘”のように、コミックのワンシーンの如くその場で転げまわる黒髪眼鏡少女。


「・・・ったく。今日がその“評価”でも、検査はあと四日続くんだから、最後まで気を抜かないようにしなさいよ、光?」


転げ回る光を、呆れたように見つめる楓に対し、光はふと、その場に座り込み楓を見上げながら“ある疑問”を言葉にする。


「あれ?そう言えば、楓さまは『検査』は“もう”終わったんですか?制服姿で帰り支度をしてるようですが・・・お早くないですか?」


そう。運動場に集まった生徒だけでなく、体育館や教室でも今まさに『検査』は行われているのだが、“魔法”の行使が含まれている性質上、その検査内容に関わらず、基本的に学生の場合は“体操着”での『検査』が通達されている。


だが、光の目の前の楓は制服姿のままであり、その事に対し、光は疑問を投げかけたのだ。


そして。光の疑問に対し、楓は淀みなく流れるように、“右手”の人差し指を立て、“どこか”を指し示すような素振りを見せながら、その“答”を届ける。


「んーん。“これから”、検査しに“行く”のよ?」


「???」


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