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そんな魔法ならいらない  作者: door
Chapter 2 : PAST, PRESENT, and FUTURE
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#26 エンドロール【チャプター2】

“黒”。


意識が、一番最初に思い浮かべた言葉は、その色だった。


そして、すぐに“白”が、その景色に染まっていく。


きっとこれは、“光”、自然光でもあり蛍光でもある、そんな目覚めのような、一日の始まりのような



(・・・・・・いや、これ、“知ってるな”?最近、立て続けに“この感覚”に出会ってるような・・・)



ゆっくりと、閉じた瞼を開けていく當真。その目に映る景色は、見覚えのある“見慣れた天井”。


「あらあら?やっと目が覚めた?ナイトちゃん?」


腰元まで伸びたウェーブがかかった黄金色のロングヘア―の丸眼鏡の女医、新待トネリのその声、その表情さえ、最早“懐かしさ”を感じない程の既視感しかなかった。


「あー、おはようございます、新待先生・・・という事は、また“入院”してんすね、俺?」


寝ぼけ眼に周囲を軽く見渡しながら、思考を走らせる當真。


“あの夜”からの記憶は、言うまでもなく“曖昧”で、つまり、


「そうねえ?今回は“四日ぶり”のお目覚めだから、前回より少しは早起きかしらね?」


「よっ、か・・・・・まじか」


トネリの言葉に、思考がようやく現実に追いついてくる、そして全身を覆い尽くすような感覚も


「・・・痛っ!?えっ、何だこ、アガッ!!?やば、死ぬ、一ミリも動かしたくねえんだけどっ、がっ、イッタタタタタタ!!!!!???」


その“痛み”は、二週間前のそれとは比にならない程の“痛み”と“重み”、疲労感を纏い、少しでも体を動かそうものなら、瞬間で駆け巡る“裂ける”ような痛み。


「こんな短期間で重度の入院を繰り返してるの、君くらいよ?ナイトちゃん?」


少し呆れたような表情で當真の腕に繋がる点滴をチェックするトネリに視線だけを向ける當真。心配をかけてしまっている事への罪悪感ももちろんよぎったのだが、それよりも


「いや、まあそうなんですけど、元はと言えば、新待先生がワイダーさんに俺の事話したのが事の発端では・・・?」


冷静に切り返す當真の言葉に、トネリは背を向けたまま、一呼吸、そして


「こんな短期間で重度の入院を繰り返してるの、君くらいよ?ナイトちゃん?」


「史上最速の再放送!?・・・痛ッッ!!?くそ、ツッコミですら苦痛すぎるんだが!!?」


思わず叫んだ反動で全身に駆け巡る痛みに悶える當真。トネリは何事もなかったように振り返り、患者へと現状を伝え始める。


「ナイトちゃん、裂傷とかの外傷ももちろんだけど、“魔法”の反動かしらね?蓄積されたようなダメージ、体内への内部損傷も含めて“前回”よりも“ずっと”重傷よ?パレットちゃんやアルマちゃんから話は聞いたけど・・・」


「そうだ!!パレットにアルマ、先生、二人は!!?」


トネリの言葉尻に素早く思考と体が反応し、声を発すると同時に當真は再び全身を駆け巡る痛みに悶え(二回目)


「・・・“もうすぐ”かしら?」


「?」


痛みに悶える當真の言葉に、腕時計をチラリと確認しながらトネリは呟く。そして



ヴウウウウウウ!!!ヴウウウウウウ!!!



病室に鳴り響く重低音と振動音。それは、すぐ側のテーブルに置かれた、當真のスマートフォンが謳う音だった。


「“今日”はナイトちゃんが“出て”ね?それじゃ、お大事にね?」


「・・・“今日”は?」


鳴り響くスマートフォンに視線誘導しながら、トネリは微笑みを浮かべ、そのまま病室を後にする。


その後ろ姿を不思議そうに見送り、當真は鳴り響くスマートフォンに手を伸ばす。


“見慣れぬ”番号、恐る恐る謳い続けるコールに応える當真。


「・・・もしもし?」


「え!?ないとっ!!?ないとなの?え!!目、覚めたの!!?」


ざわつく電話先の空気、だが声の主の正体を、當真はすぐに理解出来た。


「パレットか!?え、お前、なんでスマホ持ってんだ!?つーか、お前、今どこにー」


「ないと!!ビデオ?ビデオ通話にして!!わかる?スマホ使える?使い方分かる?」


「いや、分かるわ!?現役男子高校生を舐めるでないよ!?」


電話先の、金髪少女の“いつも通り”の空気感に、ツッコミを入れつつも、心がどこか安心していく當真は、思わず口角を少し上げながら、自身のスマートフォンを操作する。


繋がる景色。スマートフォンの小さな世界に映し出されたのは、どこか視線の合わない金髪少女、パレット=セブンデイズのキョトンとした表情であった。


一瞬の間、そして、ようやく画面越しに視線が合う二人。


「わ!!ないと!!ほんとに映ったんだよ!!びっくりした!!?」


「なんで言い出したお前がびっくりしてんだよ?つーか、どこにいるんだ?外、か?」


目をパチパチさせながらスマートフォンの画面を食い入るように覗き込むパレットに対し、冷静にその背後に映る景色から推察する當真。


「あ、うん。外にいるんだよ?“今日”で“最後”だからね?」


「“最後”?」


「うん。あ、待ってて?“代わる”んだよ?」


當真の疑問に答える間もない程に、慌ただしく画面から消えるパレット。おそらくテーブルにスマートフォンだけ置き、“誰か”を呼びに行ったのだろうか。


當真のスマートフォンに映し出されるのは、どことも言えない空間の“見知らぬ”景色、そして周囲の街中の喧騒の音が静かにBGMのように流れている時間だった。


「パレット・・・何してんだ、アイツ?」


そして。近寄る足音、ガタッと、スマートフォンを“誰か”が“掴む”音、景色がゆっくりと“変容”していく、そこには


「ナイト!!!!!!良かった!!目が覚めたんですね!!ほんっとに!!良かった!!!」


“青”と“赤”の『オッドアイ』を持つ、白に近い銀髪の少女。當真の顔を見るやいなや、今にも泣きだしそうな表情で心配を声にする、アルマの姿がそこには在った。


思わず。當真の体に力が入る、走る全身への痛覚、だが、それ以上に無意識に気掛かりで“重さ”になっていた感覚が、解けていく感覚を、画面越しに映るアルマの表情は當真に与えてくれた。


「アルマ!!良かった!!無事、だったんだな!!」


「はい!!私は全然・・・ナイトが“あの後”、ビルの下で気を失ってから病院でもずっと目を覚まさないから、私、ほんっとうに心配で・・・」


思わず、その“青”と“赤”の瞳がキラリと滲むのを、當真は画面越しでも“見る”事ができ、


「ごめん、心配かけたな。でももう大丈夫だよ、というか、アルマもパレットと一緒に外にいるのか?」


「あっ、それはー」


「あー!アルマ!!泣いてる?!ちょっと!!ないと!!何言ったんだよ?」


またしても、當真の疑問にアルマが答える暇も与えずに、画面に映り込んできたパレットによって、空気が“いつも通り”の空気感に“変容”していく。


「何も言ってねえわ!?つーか話が進まねえし状況も分かんねえからさ、うるさいパレットさんは、ちょっとどこかに行っててもらえますかね?」


「ぬわぁにおおおお?!!!!!」


「あっ、じゃあ!パレット!!あそこのクレープ買ってきてください!!一緒に食べましょう?ね?トッピングもパレットの好きなモノ、何でもつけて大丈夫だから?ね?」


慌てふためきながら財布らしきものをパレットに差し出すアルマ、対するパレットはというと、當真への怒りの感情が一瞬で消え去ったように満面の笑顔で財布を受け取ると


「わーい!!クレープ!!アルマだーいすき!!すぐに買ってくるんだよ!!!!!!!」


ニコニコで画面から消えていく金髪少女を見送り、當真とアルマは同時に零れ出る溜息、そして画面越しに視線を合わせ、笑い合う。


「なんか、パレットが面倒かけててごめんな、アルマ?」


「いえいえ。むしろ、ありがたいです。パレットのおかげで、ナイトが目を覚ますまでの毎日を、ほんとに救ってもらいましたから」


アルマは優しく微笑み、駆け出したパレットの後ろ姿に視線を向ける。そして、言葉を続ける。


「ナイトが入院して、ずっと病室に居座っていた私に、パレットが言ってくれたんです、『ないとはきっと大丈夫なんだよ。だからアルマも、したいことも“楽しいこと”も、一緒にしよ?ないとが起きた時に“楽しく”話せるようにさ?アルマが笑顔でいられなきゃ、きっとないとも自分を責めちゃうんだよ?』って」


(パレット・・・)


思いがけないパレットの言葉と行動に、心がすこしだけあったかく熱を帯びていく當真。


「パレットと一緒に、またナイトの学校にも連れてって貰いましたし、二之宮先生やクラスのみんなも優しくて、一緒にたくさん遊んでくれましたわ。カラオケに連れて行ってくれたり、街外れの遊園地?にも一緒に行ったり、あっ、これ、見てください」


おもむろに、何かを取り出すアルマ。そして、画面越しに當真に見せたのは


「プリントシール?あはは!何人で撮ってんだよこれ?ぎゅうぎゅうじゃねえか?」


それは、アルマとパレットを中心に、画面いっぱいに見知ったクラスメイトが詰め込まれ、全員がシャッターチャンスに慌てふためき笑いあった情景が記憶されたプリントシールの一枚だった。


「ふふふ。パレットと私以外、みんなカメラ見てないんですよ?ほんとに可笑しくて、ふふふ、あんなに笑ったのも久しぶりでしたわ」


思い返し、思わず微笑むアルマ。その笑顔に、當真の心が優しい気落ちで満たされていく。


「明日で私のこの国での入院生活も終わりですから、今日は最後にパレットの行きたいとこに一緒に行ってて・・・正直、朝からずっと食べてばっかりなので、私はお腹いっぱいなんですけど、パレットは全然みたいで・・・」


「いや、ほんと、それはなんかごめん、俺が言うのもなんだけど、うん、ごめん」


アルマの“苦悶”の表情から察した當真は、パレット(の無限食欲)に代わって、真摯に深々と頭を下げる。


「このスマホは、今回のお礼も兼ねて、私、というかワイダーがパレットに差し上げてて。それで毎日この時間に、トネリ先生にナイトの経過報告の確認の電話をしてたんです。そしたら、今日はナイトが電話に出て・・・と言った感じですね、」


「お礼にスマホって、いや、流石に・・・つーか、パレットはアルバイト代以上にすでに“食ってる”だろ?貰いすぎになるんじゃー」


見てもないのに容易に想像できる金色の少女の“食欲ちから”の痕跡を思い、むしろ申し訳なさが込み上げてくる當真。だが、


「そんなことないです!!パレットはもちろん、ナイトには、本当に感謝してもしきれないくらい・・・たくさん迷惑かけて、巻き込んじゃって・・・」


アルマの表情が、曇っていく。憂いに染まっていくその表情、言葉。


だからこそ、當真は“迷わず”、言葉を紡ぐ。


「なあ、アルマ?俺やパレット、学校のみんなと過ごした時間は、楽しかったか?」


「それは!!もちろん!!すっごく楽しかったし、でもー」


「俺も、だよ?パレットもきっと一緒さ、アルマに出会ってから今日までの時間、“全部”さ、ちゃんと忘れられない思い出に、“記憶”になってるよ」


「ナイト・・・・・・」



「『過去かこ』を過ごして、『現在いま』こうやって一緒に笑い合えて、この『未来さき』もきっとそうだよ、だって“友達”なんだからさ?“それだけ”でいいんじゃね?」



當真の言葉は、その笑顔は、想いは。アルマの心に迷わず、まっすぐと届く。



「・・・ありがとう。ナイト、ほんとに・・・」



アルマの“青”と“赤”の瞳から零れ落ちる涙、そして、映し出される笑顔。



「あー(もぐもぐ)あにゅま(もぐもぐ)ないて(もぐもぐ)る!!(もぐもぐ)にゃいと(もぐもぐ)またにゃかせ(もぐもぐ)たの!!?(もぐもぐ)」



口いっぱいにクレープを頬張りながら、なおかつ両手に自身の顔よりも大きいクレープを装備した金色の(食欲モンスター)少女、パレット=セブンデイズが、“非日常”を乗り越えた先に訪れた、あたたかな空気と景色を再び“日常”へと“変容”させるように、登場してくる。


「はぁ・・・お前、ほんと空気読めないっていうか・・・食べながら喋るんじゃねえですよ、パレットさん?というかその両手のデカクレープ、なんだよ?どんだけ食うんだよ?」


ツッコミ疲れすら生まれつつある、呆れた當真の言葉に対し、アルマは笑顔を見せ、そっと呟く、


「ふふふ。ナイト、安心してください。『こんなものじゃ』ないですよ?」


「・・・・・・えっ、」


當真の目に映るのは、ウインクするように“左”の“赤”の瞳を閉じ、パレットを“右”の“青”の瞳で、“楽しそう”に笑顔で見つめるアルマ。


「今夜、ナイトの家の食料、ぜーんぶ『なくなっちゃいます』、パレットのお腹の中に、ね?ふふふ」


「(もぐもぐもぐもぐもぐもぐ)」


アルマが“”た『未来』の景色を確信させるように、無邪気にクレープを頬張り始めるパレット。


「はぁぁぁぁぁ・・・・・・アルマさん、今から退院後に待ち受ける絶望の『未来けつまつ』を“見せる”くらいならさ、」



深いため息ひとつ、苦笑いと同時に、『オッドアイの少女』、アルマに向かって當真は続きを軽妙な調子で謳う



「そんな“魔法”ならいらねえ」



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