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そんな魔法ならいらない  作者: door
Chapter 2 : PAST, PRESENT, and FUTURE
62/65

#25.5 Found You

“黒”。


意識が、一番最初に思い浮かべた言葉は、その色だった。


そして、同時に蘇る、それは“懐かしい”感覚。


閉じていた瞳をゆっくりと開ける、だが、“懐かしい”その感覚の状況とは違って、當真の視界には入り込む明るさなどほとんどない、まだ月光と星空の柔らかな夜光のみが、見える世界を包んでいく。


そして


「ナイト!!良かった!!目、覚めましたか?」


當真の視界に映るのは、“青”と“赤”の『オッドアイ』で見つめながら、心配そうな表情で覗き込むアルマの顔、そして同時に気がつく、アルマに膝枕してもらいながら、その場に仰向けになっているという現状に。


(・・・・・・なんか、つい最近も、“こういう状況”あったよな、)


フラッシュバックする光景がまるでデジャブするようで、思わず、その口角が僅かに上がってしまう當真。


「どうしたん、です?ナイト?」


結果、不思議そうに見つめてくるアルマと、この近い距離でバッチリと見つめ合う事になり、思わず気恥ずかしさが勝った當真は勢いよく自身の体を叩き起こそうとする、


と、同時に。全身に走る、呼び起こされる“蓄積された激痛”。


「いッッッッッ!!!!!????」


思わずよろめく當真の体を、驚きつつもしっかりとその“両腕”で支えるアルマ。


「ナイト!!無茶しちゃだめだよ!?安静にしてなきゃ!!」


心配そうに声を上げるアルマに対し、當真はすぐにその“違和感”に気がつく、


「アルマ、お前、その“右腕”、大丈夫なのか?!」


そう、當真の記憶の在るその瞬間まで、間違いなく目の前の少女の“右腕”は“折られていた”はずだった、あの『大怪盗』によって・・・・・・


「それに・・・あいつ、ルームズは・・・?!」


思考がようやく現実に追いつき、焦ったように周囲を見渡す當真。


だが、その目に映る景色、今この場所には當真とアルマの二人の姿しかいない。


「大丈夫、もう“いない”ですよ?・・・・・私が“見た”こと、今から話すね?」


自身の右腕を摩りながら、アルマはゆっくりと話し始める、


その“青”と“赤”の瞳で見てきた、當真が気を失っていた『過去じかん』の景色をー。



※※※


『本当に・・・『未来』、変えちゃった・・・凄い・・・』


アルマはこれまでも自身の“魔法ちから”を過大評価も過小評価もすることはない、そして、その“魔法ちから”を使えば、『未来』を変えられる事だって、実際にその身を持って体験してきた『過去』が在る。


だが、そのどれもが、小さく些細な、幾重にもある『未来』の選択肢のひとつを選んでいたに過ぎず、どうしても“抗えない”『未来』が在るという事も知っていた。


その『未来けしき』も、その“ひとつ”だと、決して抗えない絶対的で絶望的な『未来げんじつ』だと、“”た瞬間に直感的に理解していた。


だからこそ。目の前の少年の言葉と想い、そして、『未来ぜつぼう』を“否定”し、実際に“変えて”しまった目の前の結末に対し、安堵よりも驚きの感情が一番に在った。


アルマの言葉に反応するように、當真はゆっくりと振り返り、二人の視線が合う。


と、言葉を発することなく少しだけ微笑んだのも束の間、



ドサッ



當真はそのまま抵抗することなく全身の力が抜け切ったように、その場に倒れ込んだ。


『ナイトッッ!!??』


すぐに側に駆け寄るアルマ。自身の動かせない右腕の痛みなど気にも留めず、倒れ込んだ當真の頭を自身の膝枕の上に乗せ、その身を案じ、その手を少年の頬に優しく添える。


熱と、そして、呼吸音がゆっくりとアルマの左手を通じ伝わってくる。


『良かった・・・生きてる・・・ほんとに、良かったぁ・・・』


ようやく。緊張も焦燥も驚愕も乗り越えた先の安堵の感情が、アルマの全身を巡っていく。


見えない『未来』への絶望に張りつめていた緊張感も、大切な“友達”を巻き込んでしまった“罪悪感”も、アルマに重く圧し掛かっていた全ての“負”の感情がようやく



『アハハ!!!いやー、まいったまいった、まさかこんな『未来けつまつ』になるなんて!!びっくりだよ、アハハ!!!』



その“軽妙で薄っぺらな笑い声”に、アルマの背筋が凍りつく。


“青”と“赤”の瞳を、声のする方へと向けると、片膝を立てたまま座り込み、空に向かって高笑うルームズ=アルシャロックの姿がそこには在った。


『ルームズ・・・!?』


咄嗟に左手で當真の頭を庇う様に抱え込み、何が出来る訳でもないが“それでも”アルマは、ルームズ=アルシャロックに“意志”を姿勢に示す。


しかし


『そんな“怖い”顔しなくていいよ、アルマちゃん?“君”には手を出さない・・・というか、もう僕は“興味ない”よ、“君”にはね?』


『・・・どういう、意味?』


ゆっくりとよろめき立つルームズ=アルシャロック、その言葉の“不穏さ”に、アルマの警戒は続くも、それを気に留める様子もない。


『“そのまんま”の意味だよ?それに、ほら、どっちにしてももう“時間”だからさ?』


不意に、右腕を空に向かって高く差し向けるルームズ=アルシャロック。その先に在るのは



ババババババババババババッッッッッッッ



アルマが視線を向けるよりも早く、その音が、空を切る回転音が、その正体をアルマに知らせる。


アルマたちの上空に滞在する“漆黒の鉄の塊”、ヘリコプターは紛れもなく“正規”のモノでない事だけは確かだった。


そして、上空にホバリングするヘリコプターから、ルームズ=アルシャロックのすぐ側へと、黒の救命梯子が投げ出される。



と、同時に、それをつたって、“ひとりの人物”がこの場に降り立ってきた。



小柄な体躯を黒のスーツで纏い、目をひくのは“右目”を“黒の眼帯”で隠した、“ひとり”の、“女”。



『さっきので“使い果たした”からさ、もうこのビルを覆っている“魔法ちから”も切れちゃうし、こうやって“お迎え”もー』



ゴンッッッ!!!



両腕を広げ、軽妙な調子で言葉を続けるルームズ=アルシャロックの隣に立った“小柄な女”が、豪快にその脳天へと拳を叩きつける。


『えっ!??』


『痛ったいなもう!?何するんだい?!怒ってるの!!?』


混乱するアルマ、目の前の景色はもちろんだが、何よりも、ルームズ=アルシャロックの“空気”が、ここまで感じたものとは“一変”したのを、肌で感じ取ったからだ。その“小柄な女”が“現れたこと”によって、だ。


『怒ってないわよ?ただ、約束した時間も“守れない”し、挙句の果てに“標的”も“変える”、そんな“自分より頭の悪い”アナタに付き合ってあげてる私が、怒ってるわけないじゃない?』


『いや?怒ってるよねえ?アハハ?』


『・・・五月蠅いですよ?ほら、さっさと“逃げる”準備してください!』


冷静に淡々と、そして口早に“空気”を圧倒すると、その“小柄な女”は再び黒の救命梯子に手をかけ、抵抗なくスムーズに宙に舞う黒のヘリコプターへと戻っていく。


その途中、上空から声だけが届く、


『“ひとつ”しか持って来てない、その“魔法ちから”、“わざわざ残した”んだから、ちゃんと“その子”の腕、直してから来なさいよ?』


『・・・え?』


“小柄な女”の、その言葉の意味をアルマが理解するよりも早く、アルマが気がつく頃には、すぐ側にルームズ=アルシャロックが立っていた。


『言われなくても、分かっているさ?』


最大級の警戒心が逸るアルマの心情とは裏腹に、ルームズ=アルシャロックの“変容”した左腕が、アルマの折れた“右腕”に“触れる”、


と、次の瞬間、“淡い白光”がアルマの折れた“右腕”を包み込み、暖かい熱が伝播していくと、その“右腕”は“元通り”の折れる前の状態へと“直って”いった。


混乱の最中、ふと、アルマの脳裏に蘇るのは“小柄な女”の言葉と、『過去』の景色。


(“ひとつしか”・・・“わざわざ残した”・・・あれ、でも、確か“あの時”、この人“直す魔法”を“使った”って・・・)


思い起こされる、『過去』の景色。そしてゆっくりと、その“両目”で、目の前の『大怪盗』を見渡すアルマ。


『ゼロ』に近いこの距離で、ようやく気がつく程に、その青年の全身には、それまでの蓄積されていた“疲労”や“衝撃”、ダメージの“痕跡”が“見える”ようで・・・


(・・・もしかして、“あの時”、ナイトから受けたダメージも、一切“直して”なかったってこと・・・?ずっと、ダメージを蓄積したままで、“何事もなかった”ように平然を装って・・・)


『・・・どういう、こと?何の、為に・・・』


アルマが“気づいた”であろうことに“気づいた”ように、ルームズ=アルシャロックは“感情の見えない”作り笑顔を浮かべながら、軽妙な調子で答える。


『アルマちゃん?君が“何”を“”れるとしても、ひとつだけ覚えておくといいよ?』


両腕を広げ、薄っぺら声色で、目の前の『大怪盗』は謳う。



『怪盗ってのはさ、“嘘つき”が始めるんだよ?』



そのまま、黒の救命梯子に手をかけ、この場を去ろうとしているルームズ=アルシャロックのその姿を眺め、アルマの心情は混乱の一路を辿るしかなかった。



ただ、去り際の、“最後の一連”が、アルマの“記憶”に深く刻まれた。


『そうだそうだ!アルマちゃん、君が知りたがっている“答”、最後に教えてあげようか?』


『“答”?』



『君のもそうだけど、僕が一番驚いたのはその“少年”・・・“當真 夜”の“覚醒”・・・あれは『“魔法”に“嫌われる”』なんてレベルじゃないよ・・・・謂わば、“魔法”の『拒絶』・・・・・・・ほんとにさ、“欲しく”なっちゃうよね、あんなの目の当りにしたらさあ?』



ゾゾゾゾゾゾゾクククククククッッッッッッッ!!!!!!!



迸る悪寒と、凍るような“空気”。


ルームズ=アルシャロックの瞳、意識、感情、その全てが、アルマの抱える當真に“だけ”向けられていた。


そして、これまで見せたことのない程の、あからさまな“感情”を笑顔に“変えて”、ルームズ=アルシャロックは告げる、


『だからね?その右腕を“直した”のも“お礼”だと思ってくれればいいよ?僕に、かつてない程の“興味”を、僕の物語に“見つけさせてくれた”、君への“お礼”だからさ!!』


プロペラの回転する音が加速し、救命梯子に手を掛けたルームズ=アルシャロクの姿が徐々に空へと浮かび上がっていく、『大怪盗』は最後に、高らかに、“軽妙”な調子で、謳った。



『當真 夜の目が醒めたら伝えておいてくれるかい?『僕は必ず君の“魔法ちから”も“盗んで”、“唯一無二”になってみせる』ってね!それじゃあバイバイ、アルマちゃん。もう二度と、君とは会う事はないだろうけどね?アハハ!!!!!!』



『オッドアイの少女』の瞳に映るのは、春の夜闇、月光の先へと消えていく『大怪盗』。


こうして“物語”は“終劇”へ、『過去』から『現在いま』に、繋がっていく。



※※※


「これが、私が“見た”全部・・・・・・ナイト、ごめんなさい・・・私のせいで、今度はあなたがルームズに目を付けられる形にー」



コツン。



「!?」



話を終え、その“結末”に対して、憂い、申し訳なさそうに俯くアルマの頭を、當真は優しく触れるように“右手”で打つ。


驚き、ゆっくりとその視線を隣の當真へと向けるアルマ。


その“青”と“赤”の瞳に映ったのは、優しく微笑む當真の表情だった。


「勝手に俺の『未来』を悲観してんじゃねえよ、アルマ?大丈夫さ、最初から最後まで“よく分かんないヤツ”だったけど、アイツがあんな薄っぺらな、自分だけしか見えてない怪盗のままならさ、この先の『未来』何度来たって、俺は負けないし返り討ちにしてやるさ?こう、なんか、ドカーン!!って感じでさ?」


當真は拳を“わざとらしく”大袈裟に振り切る素振りを見せ、そして笑顔のままアルマと“目”を合わせる。


全身ボロボロ、その痛みの反動で体を動かすたびに僅かに震えながらも、その笑顔と言葉には、決して気遣いや心配をかける要素をアルマに“見せない”。


そんな當真の“優しさ”に、アルマの心は熱を取り戻していく。


一瞬だけ、俯き、“青”と“赤”の瞳が“滲む”その景色を振り払い、顔を上げたアルマは満面の笑みを當真に向ける。


「ふふふ。ドカーンって、ナイトのその表現も、なんだか薄っぺらですけどね?ふふふ」


「おい?急に辛辣な事を言うでないよ、アルマさん?」


お互いに“目”を合わせ、笑い合う當真とアルマ。


張りつめた空気も緊張感も、春の夜風と共にゆっくりとほどけていき、耳を澄ませるとビルの下の方からも“人の喧騒”や賑わう音、そして遠く彼方から近寄って来るサイレンの音も、そうした全ての“日常”に溢れるような音が、まるで“魔法”が解けたように二人の元へとゆっくりと届き始めていた。


ゆっくりと立ち上がる當真、支えるように小さな肩を貸し、並び立つアルマ。


「あっ、そうだ。改めてだけどさ、」


「?」


呼吸ひとつ。當真はアルマに向けて『宣言』する、



「“かくれんぼ”は、俺の勝ちでいいよな?アルマ、“見ーつけた”!」



「!!」



黒髪の少年のその悪戯な笑顔と言葉に、『オッドアイの少女』もつられて悪戯な微笑みを見せ、言葉を返す。



「ふふふ。はい!私の負けです!“見ーつかった”!!」



見つめ合い、互いの瞳に映るのは、笑顔溢れる『景色』。



こうして『オッドアイの少女』を巡る“かくれんぼ”にも、ようやく『未来エンディング』は訪れたのであった。



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