#19 VS『未来』②
“想像”の世界。まるで、すっと見てきた“映画”のシーンが連続するような、“非日常”だと思っていた景色。
アルマの“青”と“赤”の瞳に映るのは、そんな非現実的な景色の連続だった。
“焔”が流々と焼き払い、“水流”の塊は鋭く衝撃と威力を与え続ける。その後も“変容”し続ける“不可思議な”現象、“風圧”、“裂傷”、“砂塵”・・・・目につき“言葉”で表現出来うるそれらの“現象”に加えて、代わる代わる“変容”していく“非日常”。
時折、軽妙で薄っぺらい笑い声を混ぜながら、ただただその状況を楽しんでいる様子のルームズ=アルシャロックに対し、一度たりとも届くことのない、むしろ“躱しきれず”に時間と共に蓄積されていくダメージに徐々に足取りが鈍くなる當真。
だが、どんなにボロボロになっても傷だらけになっても、決して止まる事の無い黒髪の少年の姿をその瞳に捉え、
アルマはもう、“耐えられなかった”、目を背けたくなった、その一方的で残酷な景色から。
「もう、いいよ・・・ナイト、これ以上は・・・」
零れる感情が言葉になるアルマの目の前で、両腕を払うルームズ=アルシャロックも続く。
「だよねえ。流石にもう、飽きてきちゃったんだよなあ。ほい!!」
“変容”した両腕から放たれた“ナニカ”が、同時に、走り寄る當真へと直撃し吹き飛ばす。
その場に倒れ込む當真を見下しながら、ルームズ=アルシャロックは退屈そうに言葉を続ける。
「その変わった“魔法”のおかげで致命傷までは避けてるみたいだけどさ、流石にもう限界なんじゃない?どんなにやっても君は“届かない”と思うんだけど?」
言葉の通りだ。この数分足らずの間、ルームズ=アルシャロックの“魔法”は一方的に當真に届くも、當真とルームズ=アルシャロックの距離がゼロになる瞬間は、一度たりともなかった。
その光景は、ただただ見る事しか出来ないアルマにとって、自分自身が傷つけられる以上に、刻一刻と重く圧し掛かるものであった。
だが、當真はゆっくりと膝をたて、立ち上がる姿勢を見せる。
誰がどう見ても、ギリギリの限界などは、“とっくに”超えていた。
だが、その目は、その視線は。決して揺らぐことはない。
「・・・ねえ。ちょっと聞きたいんだけどさ、君が“そこまで”する“理由”って、何?」
突如、両腕を下げながら、言葉を切り出すルームズ=アルシャロック。空気が、変わる。
「・・・・はぁ、はぁ・・・理由・・・?」
膝に手を当て、呼吸を落ち着かせながら、當真も言葉で応じる。“今”はそれが“すべき事”だと、本能で理解して。
「うん。ここまでの“結果”みてさ、誰がどう考えたって“君”には勝ち目なんてないじゃん?それに、君、別にアルマちゃんとそこまで長い付き合いでもないよね?なのに“そこまでする”理由って、何なのかなあと思って」
自身の伸びた黒髪を指先でクルクル巻きながら、ルームズ=アルシャロックは感情の薄い声で、當真に疑問を投げかける。
「そんなもん、理由なんてー」
「あー、待って待って。“友達だから”とか“助けたいから”とか、そういう“物語”の主人公だったり、ヒーローみたいな“薄っぺらな”理由だったら、話さなくていいからね?」
當真の言葉を遮るルームズ=アルシャロック。
ゆっくりと視線を當真に合わせ、薄っぺらな笑顔を見せながら、言葉を続ける。
「どう考えても君って“そう”じゃないじゃん?この世界はどこまでも不平等だし、世界の中心なんて誰もいない。だからこそね、僕は世界の“全部”が“欲しい”し、全てを手にして、この世界の物語の“主人公”になりたいのさ?」
両腕を広げ、一歩、二歩と當真の元へと歩み寄るルームズ=アルシャロック。
「ここは“閑話”だよ?聞いたところで“結末”は何も変わらないけどね?でもさ、脇役の君にも“それなりの理由”が在れば、僕のこの“物語”にも花を添えるくらいにはなるだろ?後悔のないように言葉にして、後は現実しっかり見てさ、さっさと“心折れて”もらった方がいいかなあと思ってね?アハハ」
連なる言葉の終わりと同時。
當真は歯を喰いしばる、握る拳に“一層と”力が入る。
そんな當真を突き動かす感情も、理由も。その“全部”が、単純なものでしかなかった。
「・・・ってんじゃねえか、」
「ん?何だい?」
當真は立ち上がる。夜空を見上げ、深呼吸。そして、まっすぐとルームズ=アルシャロックを見据える。
「“理由”なら、ちゃんと分かってんじゃねえか、ルームズ?お前の言う通りだよ、俺がここにいるのは、その“薄っぺらな理由”しかねえよ、」
全身を駆け巡る痛みなど気にもならない。湧きだつ感情を言葉に乗せる當真。
「知り合った時間も、長さも関係ない。一緒に過ごして、笑って、もう“友達”になったんだ。助けたいって思ったんだ、“それだけ”だ」
「ナイト・・・」
その言葉は、自分自身にも、そして目の前のアルマに届けるための、想いの言葉。
「・・・ほんとにそんな“薄っぺら”なこと言う人がいるんだ?この“状況”でそれが言えるって、すごいなあ?ドラマとか映画とかと勘違いしてるのかな?アハハ」
當真の言葉に自身の腹を抱える素振りを見せながら、薄っぺらな笑い声で高らかに謳うルームズ=アルシャロック。
だが、當真の“言葉”も“想い”も、止まる事はない。
「お前にとって“薄っぺら”な理由でもな、俺が“そう在りたい自分”でいる為に、俺は今ここにいるんだよ。そこはもう、“迷わない”」
當真のまっすぐな言葉と、その揺るがない視線に、ルームズ=アルシャロックの薄っぺらな笑い声も、止まる、そして
「・・・それに。アルマだって、お前みたいな“自分に酔ったヤツ”なんかと一緒じゃ、絶対に笑い合えないからな」
「・・・“酔った”?」
ルームズ=アルシャロックの、その“碧”の瞳と當真の視線が合う。感情が、そこに明確に灯りだしていた。
「だって、そうだろ?『大怪盗』だかなんだが知らねえけどさ、実際に話してみれば、“世界”の“全部”が欲しいとか、“物語”とか“主人公”とか・・・言ってることに、何の信念もない、薄っぺらな“言葉”ばっかり。想像の何倍も、現実のお前は“ただの小物”だったぜ?ルームズ=アルシャロックさんよ?」
當真は精一杯の不敵な笑みを作り、ルームズ=アルシャロックへ右腕を差し向ける。
強がりでもある、嫌味をぶつけただけでもある、まるでそれは子供の口喧嘩のようなものでもある。
でも、これは。明確な“宣戦布告”だ。
「お互い“薄っぺらな”理由しかないんだ。だったら俺が、“お前なんか”に“心折れてやる理由”なんかないだろ?」
「・・・とことん“ヒーロー”気取りじゃないか?じゃあ、もういいや。退屈な話は終わりにしよう」
ルームズ=アルシャロックは両腕を突き出す。“変容する”両腕、明確に歪む“空気”。
當真も右の“拳”を握る、切り開く“可能性”はそこにしかないのだから。
だが、その時だった。
ザッッッッ、ダダダダダダ
張りつめた空気を変える足音。その行動は予期していなかったのか、ルームズ=アルシャロックは思わず“見送る”しか出来なかった、
駆け出す『オッドアイの少女』の、その後ろ姿を。
當真とルームズ=アルシャロックの間、すぐに立ち止まるアルマ。
「もう、やめてっ!!私、あなたと一緒に行きますから!!」
「アルマ!?何言ってんだ!!?」
必死で手を伸ばす當真、だが、アルマは“振り向きもせず”に叫ぶ。
「もう!!見てられないんです!!だって“あなた”に勝ち目なんて、ゼロじゃない!!!!」
一切見向きもせず、少女は声を震わせながら、叫ぶ。
それは、揺るぎない、ただの現実。
「それに・・・そこの『大怪盗』さんの言う通り、そもそも私たちの付き合いなんて、立った数日の・・・“友達ごっこ”でしょ?たまたま“知り合った”のが“あなた達”だっただけで、特別でも何でもない、時間が経てば側にもいられない・・・そんな“薄っぺらな関係”でしかないんですから・・・だから、“もういい”から・・・」
「アルマ・・・」
一度も振り向かず、言葉の終わりと同時にルームズ=アルシャロックの元へと再び歩みだすアルマ。
その言葉や想い、感情の“意味”を、當真に悟られぬように、決して顔を合わせることなく歩み進める。
一歩、二歩。それは、諦めの先の『未来』に進むだけの、空虚な時間。
ガシッッッッ
瞬間。アルマは全身を背後から“熱”で包み込まれる、そして、小さな体躯に伝わるのは、“重み”。
「ちょっ、え!?離しー」
「離すわけ!!ねえだろうが!!ふざけんな!!こんな手の届くとこにいて!!体裁なんかもう関係ねえ!!“逃げるぞ”!!!!」
背後からアルマを抱きしめる當真、同時にその両腕でアルマを抱え上げる、所謂“お姫様抱っこ”というやつだ。
その叫び、その状況、その展開に。相対するルームズは思わず口角を上げる。
「ッ!?“逃げる”!!?アハハ!!“ヒーロー”気取りで登場しておいて?!恰好悪いなあ?アハハ」
ルームズ=アルシャロックの薄っぺらな高笑いなど気にも留めず、荒ぶる呼吸の中、バタバタと駆け出す當真。
それは、誰がどう見ても、不格好で、なんの“映える”要素も皆無で、ただただ懸命に“逃げ出す”だけの敗走者たち。
「な、ナイト!?こんなことしたって無駄、に、逃げられるわけー」
「うるっせんだよ!!俺だけじゃ、ずっと届かなかった“距離”!!でも!!アルマが来てくれて“やっと”届いたんだ!!!形振りなんか関係ねえんだよ!!!!」
慌ただしさを加速させ、一歩、また一歩と駆け出す最中、叫ぶ声は止まらない。
「はぁ、はぁ、俺は・・・ヒーローなんかじゃない!でもな、俺は俺の在りたい自分でいたいし、そこは“迷わねえ”!!目の前で助けられそうなら、絶対に見過ごさない!!」
「ナイト・・・」
息も絶え絶え、だが飾る事の無いその言葉、その行動は、當真に出来る“全部”だ。
「それにな、俺にとって“友達”ってのは“薄っぺら”でもなんでもねえんだよ!!自分の中の大事なもん大事に出来ねえ方が、そんなもん、よっぽど“薄っぺら”な人間じゃねえか!!!」
抱きかかえられた状態だと、否が応でも視線を合わさざるを得ない。つまり、アルマの目と當真の目が、ようやく“合う”。
「だから!!アルマ!!お前はただ!!“助けられろッ”!!!!!」
「ナイト・・・!!」
たった数歩の敗走路。ただ、確かにその想いは、その瞬間に、少女にようやく届く。
だが
「いやいや。このまま“逃がすわけ”ないよねえ?当たり前だけど?・・・“部分再現”、“爆弾魔”」
ルームズ=アルシャロックの“左腕”から放たれるのは、“爆炎”。空気を感染していくように、連なる炎の鎖が真っ直ぐと逃げ去る當真の背中へと突き刺さり、そして“衝撃”を“爆発させる”。
ドッッッッッッバァァァァァァァンンンンン
「がはっ!!!!!?」
「きゃあああああああ!!」
爆炎の破裂、その衝撃全部をその背に受け、當真は吹き飛び、アルマも放り出される形で倒れる。
炎の焦げた黒煙が、春風によって當真とアルマの周囲を舞う。
痛みを叫ぶ体の声を無視して、自身の体を盾にするようにアルマの前に立つ當真。
(くそ・・・どうする?どうすれば、この状況を・・・)
膝が笑い出す、全身を駆け巡る蓄積された痛みは、少しでも体を動かかすことさえ“鈍りそうになる”程だった。
ただただ思考を加速させる事しか出来ない當真、精神論でどうにかできる状況ではない事も、確実に追い込まれていることも頭では“理解している”、それゆえに焦燥感も同時に加速していく、
「一応、“直す魔法”もストックしてるからさ、少しくらいアルマちゃんが傷ついても僕としては問題ないんだよ?最悪、“魔法”さえ生きてればいいんだし?」
狙いを定めるように、“変容”したその左腕を差し向け、ルームズ=アルシャロックは二人の元へと一歩ずつ歩み寄る、
その時だった。
背後から、アルマが“小さな声”を届ける。
「・・・ナイト、そのまま“振り向かずに”聞いて、」
「・・・?」
コツコツと歩み寄るルームズ=アルシャロックの足音。當真とアルマを包み込むような黒煙も、そのほとんどが夜空に消えゆく最中、
「『 』」
「・・・アルマ」
「・・・あんな“酷い事”言った私の事なんか、信じられないかもしれないけど、」
「はっ、馬鹿な事言ってんじゃねえよ、アルマ、」
「!!」
ルームズ=アルシャロックが立ち止まる。黒煙の影が消え失せていく中、その“碧”の瞳は明確に、當真とアルマの姿を捉え始める。
「それじゃあ、これでー」
ルームズ=アルシャロックの左腕に、揺らめく爆炎の影。“不可思議”な“脅威”が届く間際、
當真の声が、アルマへと届く。
「“友達”のこと、信じないわけないだろ?」
「ナイト・・・!!」
當真は自身の右手を左肩へかけ、制服の上着を強く“握りしめる”、そして
「・・・“勝つぞ”!!アルマ!!」
ルームズ=アルシャロックが左腕を振るう、薄っぺらな笑い声と共に謳う様に。
「ー“終劇”だね?アハハ」
放たれる爆炎の鎖、いくつもの紅蓮の塊が一斉に當真たちの元へと放たれる。
ドドドドドドッッッッッッ!!!ババババババァァァァァァンンンンンン!!!!!!
爆撃の連鎖、破壊の轟音と共に周囲を包む紅蓮の炎、そして再び広がる黒煙の嵐。
吹き荒れる春風の波に、黒煙が揺らぎ、當真たちのいた場所が、徐々に結末の景色を現していく。
それは、物語の“終劇”の名に相応しい惨状でしかなかった。
「さてさて。“ヒーローもどき”はどうでもいいけど、流石に“アルマちゃん”は無事かなあ?アハハ」
流れる黒煙を掻き分けるように、ゆっくりと歩みを進めるルームズ=アルシャロック。
黒煙の奥、その“碧”の瞳にアルマの姿が映る、そして、ようやく“気がつく”、
アルマの手前に投げ捨てられたボロボロの制服の上着の残骸と、
“いつの間にか解けたロープの残骸”がそこに在る事も、
そして、
『オッドアイの少女』が、その“右手”で、自身の“赤”の“瞳”を隠している姿にも。
「なっ!!!?」
ザザッッッ!!ブファァァァァァ!!!!
その音は
駆ける足音、跳び込む為の助走、
そして、黒煙を切り裂くように、ルームズ=アルシャロックの左方の視界に映り込む“影”、
その“人影”が鳴らす、反撃の反響音。
「おおおおおおおおおおおおおらあああああっっっっ!!!!!!!」
ゴギギギッッッッッッンンンンンン!!!!!!
ようやく、届く。
ルームズ=アルシャロックが左腕を払うよりも早く、黒煙の中から飛び込んだ當真の右拳が、感情も想いも全てを乗せたその一撃が、まっすぐと『大怪盗』の左頬へと突き刺さるように。
抵抗なく吹き飛ぶルームズ=アルシャロック、荒ぶる呼吸と共に立ち竦む當真、そして、その瞳でその景色を、『未来』を見据えるアルマ。
『未来』への物語は、決してまだ、“終劇”を紡いではいない。




