#18 VS『未来』①
「君とはバイバイしたはずなんだけどなあ?よくここまで来れたね?あ、“お掃除”されなかったかい?アハハ」
「ナイト!!!!」
アルマの叫びとは対照的に、突き出した“左手”はそのままに、“右手”で口元を抑えながらも軽妙で薄っぺらな笑い声と共に謳うルームズ=アルシャロック。
ここまでの“過程”を思い返す間もない程に、走る呼吸を一度落ち着かせ、當真は言葉を返す。
「“おかげさまで”、掃除はされずにすんだよ、なんとかな?」
その手で全身の埃を払い落すような素振りを見せながらも、その目で見据えるのは、アルマとルームズ=アルシャロックとの、“自身との距離”。
(アルマ、ひとまず無事でよかった・・・問題はこっから・・・)
この屋上スペースの出入り口は、今、當真が背にしている扉だけ。
それぞれの立ち位置だけで判断すれば、ルームズ=アルシャロックが一番遠い位置にいるこの状況は、“最悪”という事ではない。
だが。
(ルームズの“魔法”が、“どんなもの”なのかが正確に分からない以上、逃げ出すのはきっと難しい・・・アルマの側にいて、時間を引き延ばして、“助け”を待つ。多分、これが“出来うる最善”。)
拳を、握る。まずは、その手の届くところにアルマをー
「この『未来』は想定してなかたからさあ、一旦、“場”を整えようかな?」
ルームズ=アルシャロックは“左手”を再び、アルマに差し向ける。
「“部分再現”。“過剰引力”。」
“淡い白光”がルームズ=アルシャロックの左手を包み込む。
変容する“左腕”。空気が、変わる。
途端、アルマの体が“不可思議”な引力がかかったように、ルームズ=アルシャロックの元へと引き寄せられる。
「きゃあ!!!」
「アルマッッ!!!」
届く距離ではないにしても、咄嗟に手を伸ばす當真。だが、もちろん届くことはない。
ドサッッッッッッ
その“左手”に不格好に着地するアルマの体、ルームズ=アルシャロックは“何事もなかった”ように平然と話を続ける。
「一応、聞いてみるんだけど?僕の物語には、君はもう出てこない登場人物だったんだよね?このまま僕とアルマちゃんの二人は“愛の逃避行”の予定だからさ?君、帰ってくれな・・・」
感情の乗らない笑顔を取り繕い、“碧”の瞳でゆっくりと當真へと視線を向けるルームズ=アルシャロック、に対して、その言葉を遮るように、すでに當真は走り出していた。“迷うことなく”。
「帰るわけ!!!ねえだろッッッ!!!!!」
「だよねえ?アハハ」
距離を詰める當真に対し、ルームズ=アルシャロックは再び左手を差し向ける。
「そうだなぁ。アルマちゃんに使う予定だったヤツにしようかな?“部分再現”・・・“催眠誘導”」
言葉と同時に、再びルームズ=アルシャロックの“変容した左腕”から放たれるのは、白い光。それは、躱す間もないままに、當真の顔面に直撃する。
ポワァァンンンンン
「!?」
衝撃などはない、だが瞬間で“意識が閉じそうになる”感覚が、當真の脳内に襲いかかり、思わず足を止める當真。
(この感覚、学校での“感覚に”・・・近い・・・)
朦朧としていく意識、だが、“経験”したことが、當真の防衛本能をすぐさま呼び起こす。
迷うことない“その一手”。自身の頭部周辺に“ある”、見えない“靄”に向かって、自身の“右手”を振るう當真。
キィィィィィィィィンンンン
瞬間、霧が晴れたように當真の意識と視界が、鮮明に“元に戻る”。
「アルマを!!返してもらうぞ!!ルームズ!!!」
踏み出す一歩、當真の握る拳は、ルームズに“十分”に届く距離まで・・・
「そっかそっか。君、“魔法”に“嫌われる”んだった。“物理的”に落とさないと、だったね?アハハ」
ルームズ=アルシャロックの左腕が、“淡い白光”で包まれる。掌を當真に向けると、周辺に青白い“光”が喚きだす。
「“部分再現”。“紫電光”」
「!!?」
バヂヂヂヂヂヂヂヂッッッッッッ!!!!!!!!
青白い光は、瞬く間に“紫電の波”となり、向かい来る當真へと放たれる。
空気の割れる音と共に放たれる、それはまさに小さな稲光の波動。
伸ばした拳が届くよりも早く、當真の胴体へと辿り着く紫の稲光。
その雷光が触れた瞬間、當真の視界が一瞬にして“白”で埋る、そして一ミリの遅れを取る事もなく、全身を駆け巡る電撃の“痛み”。
「がああああああああああ!!!???」
衝撃、痛み、全身の感覚が壊されるような衝撃に、當真は叫び、その場に倒れる。
見える景色がグルグルと回転し、夜空の下に仰向けになっている状況であることを思考が理解するまでの“一瞬”、間違いなく當真の“意識は飛んでいた”。
(くっそ、痛ええええ、けど!!ここで“落ちてる”場合じゃねえんだよ!!!!)
痺れるような痛みが、全身を駆け巡る。だが、すぐに体を起こし、當真は正面を見据える。
もう二度と、見失って、“見つけられなくなる”わけにはいかないのだ。
「はぁ、はぁ・・・ちょうど、大量のロボットと遊んだ後で全身疲れてたからさ、いいマッサージになった、ぜ?物足りないくらいだよ?」
當真は精一杯の笑顔を取り繕う。どんなにボロボロの状態だと見られようとも、嫌味だろうと何だろうと、言葉を使ってでも時間を稼ぐ。
この“膠着”の時間を長引かせる事が、最終的に當真にとっての“勝ち筋”に繋がると信じているから。
當真は視線を自身の“右手”に向け、ルームズ=アルシャロックから警戒を外さず、ただ冷静に思考を進める。
(とにかく!!どんな“魔法”かはまだ分かんねえけど、あの“左手”に注視して、発現のタイミングさえ掴めば、最悪“致命傷”は避けれる!!“右手”を常に“そこ”に向けるイメージで・・・)
自身の“魔法”の使い方を、少しずつだが“理解”し始めた當真は、“それ”を自身の選択肢の“ひとつ”として考えていた。だが
「なるほど。じゃあご希望通り、“追加してあげよう”かな?」
「は!?」
ルームズ=アルシャロックは、雷光靡く“左腕”と並べる様に、“右腕”も當真に向かって差し向ける。そして
「“部分再現”。“空気弾性”。」
その言葉と同時に、ルームズ=アルシャロックの“右腕”が変容する、もちろん、ルームズ=アルシャロック本来のモノでも、“左腕”のモノとも違う、現れたのは“異人の右腕”。
「“部分再現“だと威力は半減なんだけどさ、“二つ”使えば“総合的”に君に届く“魔法”の威力は、“100%”みたいなものだよね?アハハ」
変容したその“右腕”の周辺の、空気、景色が“歪んでいく”のを當真は見逃さなかった。ゆえに、一刻も早く動き出す。
バヂリリリリリリリリリッッッッッ
距離を詰める當真に向かって、振り切られるルームズ=アルシャロックの“左腕”の雷光。
だが、放たれた紫電の波動に対し、當真は咄嗟に“右手”を振り上げる。
戦慄く紫電の波動の行き先は、當真を“嫌う”ように、當真の“右手”に沿って四散する。
雷光が触れた“右手”に、一瞬の“痛み”と“衝撃”が走るも、先程の全身を駆け巡る衝撃や威力はなく、當真の足を止めるにも至らない。
(痺れるし痛いけど!!これ、なら・・・)
だが、當真の一歩と同時。
ルームズ=アルシャロックは“右腕”を振るう。まるで、何かをその“右手”で“弾くような”素振り。途端、
ドゴフッッッッッッッッッッ
「がっ、は!!!?」
當真の左脇腹に“衝撃”が走る。重い物体、“目には見えない”が確実に“在るナニカ”が、叩き込まれる。
當真の視界は突如として右にズレる、その衝撃はこの世界の重力の法則を無視するように、その体躯をいとも簡単に右方へと“吹き飛ばす”。
左脇腹を摩りながら倒れ込む當真を、“右手”をブラブラと振りながら、見下すように不敵な笑顔を向けるルームズ=アルシャロック。
「“空気弾性”はねえ、空気を“弾いたり”、空気そのものに“弾力”を加えられる“魔法”なんだ。“半減”してるから範囲が限られちゃうけど、君一人分くらいなら“弾くにも十分”みたいだね?アハハ」
(くそっ・・・・・“電撃”や、さっきの“ロボ”と違って、“見えねえし”、“来る方向”も分かんねえとか・・・どう“対応”すれば・・・)
思考の混乱、取るべき“選択”を模索する當真の、視界に映るのは“絶望”に近い『未来』。
だが。ルームズ=アルシャロックは、軽妙な笑い声と共に、その“絶望”を“さらに先へと進める”。
「さてさて。では問題です、」
「え・・・」
ルームズ=アルシャロックは両腕を広げる、そしてその両腕を包み込む、“淡い白光”。
「“次”は“どんな魔法”が“再現”されるでしょうか、ってね?アハハ」
再び、“変容”する“両腕”。そして“不可思議”に纏わりつくように、“焔”と“水流”が、『大怪盗』の両の手の周辺に突如として“現れる”。
何もない空間に生み出された、それは“非日常”の景色。
「・・・デタラメ、かよ?その“魔法”?」
息を呑む、當真。拳を握る、来るべき“絶望”の『未来』へと“抗う”為に。




