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そんな魔法ならいらない  作者: door
Chapter 2 : PAST, PRESENT, and FUTURE
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#16 ルームズ=アルシャロック①

商店街の先のエリアのひとつに、オフィスビルが一画を占めるエリアがあり、そのほとんどが高層ビルとなっているのだが、そのエリアでも群を抜いて高いビルがある。


『グラン・ド・オフィスタワー』。


エリアの中心に聳え立つそのビルは、『タワー』の名称がつく程に隣接するビルと比較しても高く、数十社のオフィスをその中にかまえていた。もちろん、企業の大きさも大小様々であるが、このビルへの一日の人の出入りだけで言えばこの国でも一、二を争うほどの人が、このモンスターオフィスビルへと通いつめていた。


その『タワー』の目の前には、広大な範囲の、人工芝生が敷き詰められた広場がある。


平日のお昼時には、数多のキッチンカーがこの広場に集い、『タワー』で働く人たちはお昼休憩の時間にはこぞってこの広場に集まり、連日小さな“お祭り”を行っているかにょうな賑わいがある。


ただし、お昼のピークタイムを過ぎれば、この広場を占める人の数もまばらとなり、夕暮れ時にはそうした人たちのほとんどが退社し帰路につく為に、基本的にこの広場に長時間、多くの人が滞在する事はない。


だが。今日、正確には“今週”に関しては、夕方から夜のこの時間帯にかけても、この広場は多くの人で賑わっていた。


“コスプレお祭りウィーク”と題された、町興しのメイン会場となったこの広場には、オフィス街の企業も数多く協賛し自社のアピールにも力を入れる一方で、もちろん商店街のあらゆる店も出店し、各々の従業員が多種多様なコスプレ姿を披露、さらに訪れる人々も自身がコスプレをして参加すれば様々なサービスが受けられる為に、さながら秋のハロウィンの時期に近い風貌の人々で、会場はごった返しとなっていた。


広場にはステージも建てられ、連日、有名なコスプレイヤーによるファッションショーも行われる予定で、今宵もステージ横のDJブースからは、テンション高めのパーティーチューンを始め、EDMサウンドの重低音なども、来場した観客や会社帰りのサラリーマンたちの心を“アゲ”ていた。


広場を埋め尽くす人々の、肝心のコスプレの風体も様々で。


和装や洋装、ゴスロリな衣装はもちろん、コミックヒーローやヒロインを模したもの、有名な映画キャストに扮したもの、人種や異形も問わず、コスプレにおけるジャンルの選定が一切ない為に、まさに『統一感のない世界観』によって、この広場の景色は埋め尽くされていた。


音楽、空気感、そして見える景色のその全てが、まるで異世界の物語の舞台のような、歓楽とファンタジーの溢れるその場所、


“そこ”から、遠目に響き渡る喧騒の音楽によって、“少女”の意識はようやく、現実に“戻って来る”。



「ここは・・・・・・どこ?」



少女の“青”と“赤”の両の瞳に映った景色は、照明もない暗い部屋の天井だった。


そして、自身が両腕を背後で縛られ、その場に座らされている事に気がつく。


いまだ鮮明にならない意識の中で、視界を広げると、全面が透明なガラス越しで覆われた部屋だという事、そしてそこから見える景色が、この街の商店街の夜景が遠目に見える事から、ある程度の高層階の部屋の一室であることが分かった。


全面が透明なガラスによって囲われている為、部屋の照明が点いてないにもかかわらず、月明かりと街の夜景の光でも十分な程に、部屋の大きさ自体は把握する事は出来たが、どんなに思い返してもここが“見覚えない部屋”である事だけは間違いなかった。



「おや?ようやくお目覚めですか、“アルマ様”?」



軽妙な、気味が悪い程に薄っぺらな明るい声。


視線をその声のする方に向けると、ポツリと佇む椅子に腰をかけ、夜景を優雅に覗く、ひとりの青年がいた。


スタイルの良さが分かる程に細身でスラッとした体躯を黒スーツで纏い、肩まで伸びた漆黒の黒髪も、その出で立ちから“色気”のようにも感じてしまう。


だが、その声を聞いた瞬間。不鮮明だった意識が明確に、『オッドアイの少女』、アルマに最大限の警鐘を鳴らした。


「ここはどこです!?それにこんな事までして・・・あなたの目的は何なんですか!?『ルームズ=アルシャロック』!?」


アルマの叫びに、ゆっくりと振り返る青年。


その“碧”の瞳が、暗がりの部屋の中でも一際“妖しく”煌めく。


「アハハ。そんなに声を荒げなくても聞こえてるよ?ここがどこかって?んー、そうだなあ、アルマちゃんも“こっち来て”、見てみるかい?」


ルームズ=アルシャロックは、スッと左手をアルマに差し向ける。そして



「“部分再現(パート・リリース)”」



言葉の瞬間、ルームズ=アルシャロックの左手周辺が“淡白く”光り、その手が“黒褐色肌の左手”へと“変容する”。



ファァァァァァァァァァァ!



「!?」


次の瞬間、アルマの体が“不可思議”な空気の層で包まれ、そしてアルマの意志とは関係なく、その小柄な体躯はルームズ=アルシャロックのすぐ側まで、“勝手に引き寄せられた”。そう、まるで“魔法”のように。


「ほら?見てごらん?あの遠くに見える、『月と重なって』るように『見え』そうな『赤いタワー』、あれが港の近くのポートタワーで。そこから、この街の中心街を辿って、ここはいわゆるオフィス街、“らしい”よ?まぁ、詳しい街の名称とかは僕も“興味ない”から、正確に“どこか”って言われても、分かんないんだけどね?アハハ」


透明な窓ガラス越しに見える景色を順に指先で辿りながら、軽妙な口調で説明するルームズ=アルシャロックに対し、そこに映る景色が、学校での『未来視』した景色とゆっくりリンクしていく事に、焦燥感が込み上げてくるアルマ。


(・・・あの時、『た』景色・・・慌ててたから、全部、繋がりが“断片的”になってる・・・ナイト・・・ごめんなさい)


アルマのその表情が、次第に曇っていく最中。ルームズ=アルシャロックは、軽妙な口調で言葉を続ける。


「ちなみに、“下”の広場で“賑やか”なお祭りをしてくれてたから、ここに来るまでもスムーズだったんだ。おかげで僕や君みたいな目立つ人間も、景色に“馴染んでいた”し。君は、さながら“眠り姫”、僕はそれを介抱する“執事”、ってところかな?アハハ」


両手を広げ、微笑みながら視線を向けるルームズ=アルシャロックに対し、アルマは睨みを利かせ、言葉を返す。


「何が、“眠り姫”ですか!?ナイトやパレットのように、あなたの“魔法”で無理矢理、私も眠らせたのでしょ!?」


「ん?ああ、それは“違う”よ?あれは“僕の魔法”じゃないからね?」


「・・・?」


ルームズ=アルシャロックの言葉に理解が追いつかない、と同時に、思い返されていく“景色”に呼応するように、アルマの中での“疑念”と“混乱”が加速する。


(・・・でも、確かに、あの時も“他“の“魔法”も使ってたような・・・それに、今さっき、“私”をここまで“引き寄せた”のも・・・“魔法”?)


だが、そんなことが“ありえない”事を、アルマはおろか、この世界に生きる者であれば“誰もが”知っていた。


なぜなら、魔法の在る世界で、『“魔法”は“ひとりにひとつ”』なはずだから。


「そもそも“再現リリース”したから、もう“使えないし”?君を眠らせたのは、もっと“原始的”な手段だよ?」


「リリース・・・?もう、“使えない”・・・?」


そう言いながら、ポケットから一枚の白いハンカチを取り出すと、ヒラヒラと見せながら、自身の口元を抑える素振りを見せるルームズ=アルシャロック。


そして、その言葉に“理解”がまるで追い付かないアルマの胸中に、“下”の広場から鳴り響く重低音の響きが虚しくも五月蠅く、反響していく。


そんなアルマの様子を気にも留めず、ルームズ=アルシャロックはゆっくりと椅子から立ち上がると、再びアルマに向けて“左手”を差し向ける。


「さて。アルマちゃんもお目覚めになったし、“時間”もちょうど良さそうだから、“上”に向かおうかな?せっかくだから、この“再現”で君の事も“運んであげる”よ?」


言葉を告げながら、ゆっくりと部屋の入口まで歩き出すルームズ=アルシャロック。


そして、その“左手”から再び放たれた“不可思議”な空気に包まれ、自身の意志とは関係ないままに、アルマの体躯がルームズ=アルシャロックの“後を追うように引き寄せられていく”。


部屋を出ると、まるで人の気配がゼロの静けさ、空気の冷たさが、身動きも取れないまま引き寄せられるアルマにも感じ取れた。


そのままエレベーターに乗り込み、ルームズ=アルシャロックは最上階のボタンを押し、重力に逆らう上昇の最中、アルマの隣で楽しそうに鼻唄を謳っていた。


(どこに、向かってるの?・・・・・“手”を縛られてるから、“魔法”も使えないし・・・)


必死に後ろ手で縛られたロープを解こうと試みながら、この先の『未来』への手掛かりを探ろうと睨みつけるように隣人を見上げるアルマの視線に、まるで目を合わすことなく、軽妙な口調で口を開くルームズ=アルシャロック。


「アハハ。そんなに睨まないでくれよ?これでも、君が“目を覚ます少し前”までは、その手は縛ってなかったんだよ?“完全再現(フル・リリース)”してたからね、どっちにしたってアルマちゃんは“魔法”が“使えない”はずだったんだからさ?」


「・・・どういう、意味です?」


エレベーターが最上階へと辿り着き、扉が開く。引き寄せられるように後に続くアルマの疑問に対し、先を歩き続けるルームズ=アルシャロックは言葉を続ける。


「簡単な話さ。僕の“魔法”で『君を“盗んで”』、君の“代わり”を病院には“完全再現”していたからね?“再現”が消えるまでは、アルマちゃんは“魔法”を使えなかったんだよ?“だから、”その手を縛る必要もなかったんだ、」


言葉の先、歩み続けるとそこには、閉ざされた扉がひとつ。


ゆっくりと扉が開かれると、春の夜風が一気に吹き込んできた。広がる景色、そこは開かれた屋上のスペース。


「でも。『予定よりもずっと早く』、“再現”が解けたみたいだからさ。念のために、君が“魔法”を使えないように“両手”を封じさせてもらったわけ。だって、アルマちゃん、“隠さないとえないん”だろ?『未来』も『過去』も?」


(あの“一度きり”で、私の“魔法”の事も見抜いてる?)


視線を逸らし、無言を貫くアルマのリアクションを微笑みながら眺めると、ルームズ=アルシャロックはそのまま屋上スペースの中央にまで歩みを進め、アルマの体も必然的に引き寄せられていく。


高層ビルの屋上なだけあって、そこからはこの辺り一帯を全て見渡せるほどの高さもあり、ただ、開放されたこの場所には、言葉通り“何もない”。


その状況に、アルマの思考は再び理解から遠のいていく。


「アルマちゃんの、今の疑問に答えてあげようか?“なぜ、この場所に”、じゃないか?」


「・・・・・そこまでお見通しのようでしたら、“さっさと”答えてくださると嬉しいのですけど?」


「あはは。なかなか口調も悪くなってきたねえ。では、お答えしましょう」


苛立ちの感情が言葉に乗るアルマに対し、飄々と右腕を上空に掲げ指さし、高らかに答えるルームズ=アルシャロック。


「“逃げる”ためさ。もうすぐこの夜空に、僕の優秀な“助手”がヘリで駆け付けてくれるからね?そのまま“中継地”を踏んで、この国からもエスケープするのさ?もちろん、素敵な空の旅を約束するよ?」


「ヘリで・・・“逃げる”?ここから?!」


両手を広げて、さながらミュージカル俳優のような、“安っぽい”口調で謳うルームズ=アルシャロック。


ただ、その短いセンテンスの中の情報の“異質さ”に、驚きを隠せないアルマ。


「陸路や海路と違って、“空”は一番“邪魔されない”からね?物語の中の“怪盗”もみんな飛んでいるだろう?それと同じ理由さ。もちろん、想像フィクションみたく、マントでヒラリ飛べちゃうとか、グライダーみたいな装置はないから、現実的な“選択肢”としてのヘリだけどね」


「そんな!?ヘリだって十分現実的じゃないんじゃない?!こんな街中の、しかも“下”には大勢の人がいて、そんなの絶対誰かに気づかれるんじゃー」


アルマの言葉を遮るように、ルームズ=アルシャロクは左手の人差し指を立て、自身の口元に添え、口と閉じる様な素振りを促す。そして


「ご心配なさらなくても。今、このビル一体に“空間誤認識”の“魔法”を“再現”してるからね、この付近にいる“誰も”このビルを“認識”することはないんだよ?今回“持ってきた”中でも、とっておきの“魔法”なんだ」


「そんな・・・」


アルマの全身を、“悪寒”が支配していく。


それは、あまりにも“彼”にとって“予定調和”すぎる、ここまでの一連の流れの、その“不気味さ”によるものだった。


全ての展開、物事の流れが、まるで決められた物語の結末へと向かう様に、滞りなく説明していくルームズ=アルシャロック。


まるで、アルマが『未来』を“て”、事前に行動を決定するように、彼の行うその“全て”の行動には、一切の“淀み”や“無駄”もない。


この“不気味さ”は、“日常”では“絶対に起こりうる”ような“不確定要素”が、まるで生じない程に“完璧”に進んでいくことへの“畏怖”、さながら“拒絶感”に近いと言えるだろう。


そして、何よりも、それら全てを現実へと“実現させている”、目の前の青年のその“不可思議”な“魔法”こそが、アルマにその“感情”を抱かせる、最大の“理由”。


「あなたって・・一体、何者なんです?ひとりの人間が、こんなにたくさんの“魔法”を使えるなんて・・・」


アルマの見据える“青”と“赤”の瞳を捉え、月夜を背中に、その『大怪盗』は答えるのであった、


「んー。そんなに気になるのなら、教えてあげようか?僕の“魔法”のこと?」


彼の持つ、“魔法”の“名”を。軽妙で気味が悪い程に薄っぺらな明るい笑い声を添えて、謳う様に。



「『Not(ノット) Only World(オンリー・ワールド)』。“全て”を“盗み”、“再現”する僕は『唯一無二の世界を否定する者』なのさ。世界を盗む『大怪盗』に相応しい、最高の“魔法”だろ?アハハ」


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