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そんな魔法ならいらない  作者: door
Chapter 2 : PAST, PRESENT, and FUTURE
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#15 Re:ハイド アンド シーク③

病院を飛び出し、街中へと駆け出す當真。


呼吸のペースが早まるのは、走っていることももちろんだが、周囲が夜に染まりつつある空気、そしてアルマの言葉を思い返し、焦燥感と懸念が當真の中に生じていたからでもある。


「『夜』はもう“今”がそうだし、『海』の『近く』、『赤いタワー』ってのは、きっと港近くの“ポートタワー”の事、だよな?」


商店街を通り抜けた先に広がる港、そこには港のシンボルとなっている、“高層展望塔”と呼ばれる“赤色”の“ポートタワー”が建っており、その高さでは日本でも有数の高さを誇り、港周辺の夜景を眺められる人気のデートスポットにもなっていた。


信号待ちの間に、呼吸を整えつつ、思い出せる情報を陣内へと送るためにスマートフォンに打ち込みながら、思考を走らせる當真。


まず、気掛かりになったのは、アルマの“眼た”この『未来』の景色が、“果たしていつまで”なのか、という事だ。


「はぁ、はぁ・・・多分、アルマが見れる『未来』は、そこまで遠い『未来』じゃないはず・・・そうなると、時間がない。あの時、アルマが見た『未来』にルームズが辿り着いてたとしたら、その先の手掛かりが“もう”なくなっちまう・・・」


信号が“青”に変わる。呼吸をひとつ、そして當真は走り出す。向かうべきは“ポートタワー”のある“港”。


だが、その最中に當真の脳裏によぎる、もうひとつの“疑問”。


(『月が重なって見える、高くて、広い場所』ってのが、ちょっと引っ掛かるんだよな・・・ポートタワーの展望台は高いんだけど、そこまで“広い”ってイメージでもないし、それに『月が重なって“見える”』って事は・・・)



「あ!お兄さん!こんばんはー。“はっぴーはろうぃん”♪今日も“パフェ”挑戦して行きますかー?」


「しねえよ!!二度としねえよ!!?」


通り過ぎたにもかかわらず、思わずその“声”と“フレーズ”に反応し、足を止め振り向き様に魂の叫びをぶつける當真。


視界に入ったのは、“地獄のような『魔法キャンペーン』”を行っているファミレスの、あの時の女性店員・・・の“はずだった”が、


「・・・って、何ですか?“その恰好”?!」


そこにいたのは、オレンジのマントで身を包み、カボチャの形をした帽子を被り、誰がどう見ても“季節外れのハロウィン衣装”で着飾った、ファミレスの女性店員が立っていた。


「え?分かりませんか?“はっぴーはろうぃん”の“コスプレ衣装”ですよ??」


「いや?“分かってる”から聞いたんですが?今、“春”ですよ?季節、間違ってません?」


真っ当な正論で切り返す當真に対し、人差し指をリズミカルに振りながら、得意げに話し始める女性店員。


「ちっちっち!いいんですよ“今週”は?なぜなら、この街は今週いっぱい“コスプレお祭りウィーク”ですからね?」


「コスプレ・・・?」


鼻唄まじりに嬉しそうに一枚のチラシを當真に手渡す女性店員。


受け取ったチラシに目を向けると、どうやら町興しのイベントの一環で、今週いっぱい、この商店街の店では“コスプレ”をした店員がサービスを行い様々なキャンペーンを行う一方で、客側も何かしらの“分かりきったコスプレ衣装”で来店すれば、多種多様な“恩恵”を受けられるというものが、事細かにチラシには記載されていた。


「ほら?周りも見てください?結構いろんなコスプレしてる人、いるでしょ?」


女性店員に促されるように、當真が周囲を見渡すと、確かに、チラホラと各々の“好きなコスプレ衣装”を着飾った人達が行きかうのが目に入る。


そして。この少し“不可思議”な周囲の状況さえも、それを言われるまで意識する事がない程に、當真は焦っていたことに改めて気がついた。


「秋の“ハロウィン・パーティー”の前に、大手を振って大好きな“ハロウィン”を着飾れるなんて!!なんて素敵な一週間なんでしょう!!ねえ!!」


声高らかに、その場でヘンテコなダンスを踊り始める女性店員を眺めながら、當真は改めて周囲をもう一度見渡す。


意識して景色を見ていくと、“コスプレ衣装”の人たちが“馴染む”程には、映る景色のどこかにかならず“そうした”人たちがいる事に気がついた。


「街外れの高層ビル街の中心の広場では、出店があったりショーイベントも連日やってるみたいなので、良かったら行ってみてはどうですか?たっくさんのコスプレした人たちがいますよ?あ、ウチの店も『キャンペーン』も明日からはそちらでやる予定ですし、私もこの衣装で行きますので良かったらまた挑戦しに来てくださいね♪」


「いや、全力で遠慮させてもらいますよ?それに高層ビル街だと、港から“正反対”だし、そんな“祭り”に行ってる場合じゃ・・・」


小躍りしながら意気揚々と謳う女性店員。祭り事の最中に誰しもが経験する、その“ハイ”で“ハッピー”な空気感を目の当たりにして、思わず當真は“ひとりの少女”の姿を思い浮かべる。


「・・・でも。こんな“祭り”があったの、全然知らなかったな・・・これなら、アルマもきっと、『かくれんぼ』なんて気を張らずにこの街でも自由に“楽しめた”だろうな・・・」


そう。異国の生まれでも、ゴシックロリータファッションを着飾っていても、『オッドアイ』であっても。一般的には目を引くような、“目立つ”存在であっても。こういう状況であればきっと、『周りの目を気にすることなく』・・・・・


(あれ・・・今、何か・・・)


どこか、“デジャブ”のような感覚が、當真の中に甦ってくる。そして、繋がるように、目の前の女性店員の“言葉”がー



「あっ!!私の愛しの“かぼちゃ”ちゃんが!!」



と。跳びはねる様に小躍りする女性店員に、春の夜風が急に吹き上げたことで、その頭に被っていた“カボチャの形をした帽子”が、道路へと転げ落ちる。


そして。それを追うように、駆け出す女性店員。その目には最早“好きなモノ”しか映っていないようで、条件反射の様に道路に落ちる帽子へと手が伸び、


「あっ」


思わず“バランス”を崩し、その場に倒れる女性店員。


そして、まるでドラマや映画、物語のワンシーンのように、“タイミング”悪く、鳴り響くのは、僅か遠くから謳われる“車のクラクション”。


「っ!?おい!!危ないっ!!?」


當真の思考を遮る、その“目の前の景色”に。當真は“迷うことなく”、誰もが容易に予測できる『未来』など気にも留めず、その手を伸ばす。


「きゃっ!?」


手を掴み、當真は反転するように勢いそのままに女性店員を引き寄せ、一転、自身が道路の中央へと投げ出される形となった。


響くクラクション、そして急ブレーキ音。だが、“到底間に合うはずがない”距離感、視線を向けるともうすぐそこに車の“影”。


こうなる『未来』だって分かっていたとしても、當真は考えるよりも早く“その手”を伸ばしていたし、決して見過ごす事など出来なかった。それが、“本能”で起こした行動で在るのだから。


だが。その“瞬間”、自身に向かってくる車を鮮明に視界に捉える一方で、脳内の思考は“ゆっくり”と巡っていく。


まさに、走馬灯が駆け巡るかのような、スローモーションで目の前の景色が映り変わっていく。


女性店員の悲鳴に近い叫び声、周囲のざわつく声、それら全てが遅れる様に、當真の耳に届き始めていき


(あ・・・やば・・・)


何も成し遂げられない“後悔”を思考し叫ぶ間もないままに、當真の本能がその瞳を閉じさせた



その、邂逅の間際だった。



ガッッッッ!!ヴオォォォォォォォッッッッ!!!!!!!



「ぐえっっ!!!?」


“不可思議”な程に足元から吹き上げる“暴風”の轟音と同時に、當真は自身の首元が“締まる”感覚に支配される。


そして、自身の体躯が“不可思議”に、急ブレーキを試みた車の数メートル上空に“浮かび上がっている”、いや、“引き上げられている”ことに気がついた。


首元が“締まった”のは、車との衝突から逃げる様に、當真の襟元を掴み、“風と共に”宙へと舞い上がったからだ、“とある赤髪の少女”の手によって。



「もう!!後先考えずに道路に飛び出すなんて、ほんっとに相変わらずバカなの、アンタは!?」



「お、お前ッ!!?」



當真が視線を上空の声の主に向けると、鬼気迫る表情で當真を睨みつけ、そしてその身に纏う“風”と共に、當真を掴んだまま空中浮遊しながら叫び、そのまま歩道へと降り立つ“赤髪の少女”。


着地の直前に、掴んでいた當真の襟元を離したため、當真は倒れ込むように歩道に無様に投げ捨てられるような形となったが、本来訪れるはずだった『未来』の景色、車との接触事故を起こしていれば、そんな風に倒れ込むどころの騒ぎではなかったであろう。


「あの!!お兄さん!!大丈夫ですか!!?」


ボロボロの風体で、その場に座り込む當真の元に、カボチャの帽子を握りしめたハロウィンコスプレの女性店員が心配そうに駆け寄ってくる。


「あ、うん、全然大丈夫、そこの“嵐ガール”のおかげで命拾いしたからさ、」


「だーれーがー!!嵐ガールよッッッ!!!?」


ビュッッッッッッッ!!!!!!!!


“赤髪の少女”が、その“右手”を振り上げると、どこからともなく現れた“不可思議”な“突風”が、“ピンポイント”で當真だけを軽く“吹き飛ばす”。


「ぎゃあああああああああ!!!」


「ええっ!?」


容赦ない“追撃”で再び無残にも地面を転げまわる當真を、心配そうに見つめる女性店員。


そして、自身の側にゆっくりと歩み寄って来た“赤髪の少女”に対し、視線を向ける。


そして、すぐに“気がつく”、その少女の“正体”に。


肩にかかるくらいの赤髪を風に靡かせ、その身に纏うのは白を基調として、朱のラインがポイントで入っている、私立王凛女学院の制服。


その端麗な顔立ちもさることながら、“オージョ”の制服に“赤髪”、そして“右手”で自在に“風”を操る少女ともなると、この国でもその名を知らぬ者も少ないであろう少女。


彼女の名前は、緋色 楓(ひいろ かえで)。この世界でも数少ないとされている【レベル・2(セカンド)】の魔法使役者(マジックホルダー)のひとりである。


「あなたって、もしかして・・・あの“有名”な『緋色の暴風スカーレット・ストーム』の、緋色 楓さん・・・?」


「うーん。そうなんだけど・・・その【魔法名】、あんまり好きじゃないのよね」


女性店員の零れ出した言葉に対し、溜息ひとつ。


少女を『特別』とラベリングする、その呼び名に対し、楓は少しだけ表情を曇らせる。


そんな楓のリアクションに対し、女性店員も慌てて反応する。


「あっ、ごめんなさい!そんな深い意味はなくって・・・でも、まさかこんな“有名”な人がいるとは思わなくて・・・」


「いやいや、別に問題ないっすよ?“嵐ガール”にぴったりの【魔法名】なんだしー」


ビュッッッッッ!!!!!!


「ーうるっさい!!!!!!!」


「ぎゃあああああああああああ」


女性店員を“ファロー”した結果、再び吹き飛ばされる當真を尻目に、楓は一呼吸、女性店員に向き合うと、


「でも、あなたも。あのバカがいなきゃ、あなたが事故に遭ってたかもしれないんだから!“好きなモノ”が在るんなら、自分の事をまず大事にしなきゃだめよ!?」


「!!」


きっと。年齢だけで言えば楓よりも女性店員の方が少しばかり上なのであろうが、その毅然とした態度や言葉に、女性店員は深く感銘を受ける。


そして、側で転げまわる少年へと視線を向けると、危険を省みず、その手を伸ばした黒髪の少年に対し、少しだけ頬を赤らめながら、感情を言葉にして届ける。


「あの・・・助けてくれてありがとう!!この恩は必ず返しますっっっ!!!!」


そして當真も、クシャクシャになった黒髪を恥ずかしそうに掻きながら、笑顔で向き合う。


「恩だなんて・・・でも、じゃあ、今度“甘い”パフェでもおごってくださいね?」


「!!ふふふ、きっとです!!」


そうして。なにやら“ホワホワ”したやり取りを見せつけ、ファミレスの店内に戻る女性店員を見送った後、どうにも心中穏やかでない感情に疑問を抱きながら、楓は當真の元へ歩み寄る。


「で。アンタにはちょっと話したいことが山程あるんだけど!?二週間前のあの“事件”の事だって、まだ私、詳しく聞かせてー」


「いや、でも助かったよ。マジで死ぬかと思ったからさ、ありがとな」


まっすぐと向き合い頭を下げる當真に対し、好戦的な姿勢が思わず和らぐ楓。


たまたま近くを通りかかってたとはいえ、その危険を察知し動き出した楓であったが、自身よりも一瞬早く女性店員を助け出す行動を取った目の前の少年が、自分とは違って“特別”な“魔法ちから”を“持っていない”はずなのに、そうした“行動”を“迷わず”行う事に、いつも“何か心が引っ掛かる感じ”がしていた。


「・・・・ふ、ふん。別に、た、たまたま見かけたからだし?私の“魔法”みたいに、“空”への“選択肢”がなかったら、アンタ今頃ほんとに死んでたかもなんだから!!き、気をつけなさいよね!!」


「悪い・・・でも、お前ってほんと凄いな?俺さ、“空”を飛ぶ体験なんて初めてだったからさ!!いっつもあんな感じで、こう、ば~って、“風”使って飛び回ってたり、いろんな場所にもそのまま飛んでいけるのか?」


「・・・なんか、そのバカっぽい言い回し、子どもっぽいからやめてくんない?」


その語彙力の無さに、年上の男子高校生に呆れる女子中学生は溜息ひとつ。そして。


「私だってずっと飛べるわけじゃないわよ?・・・“下”よりは“上”の方が障害物もないし、『人目にもつきにくい』から、あくまで“選択”してるだけ。別に、私が飛びたくて、飛び回ってるワケじゃないんだからね?」


“空”を軽く指さしながら、當真の疑問に応える楓。


と、その“言葉”を聞いた瞬間、當真の中で、いくつかの“点”が、ゆっくりと“線”のように、繋がっていった。


(『夜』・・・『赤い塔』と『月が重なって』・・・『広い場所』・・・『周りの目を気にすることなく』・・・そして)


楓が指さす、黒に染まりつつある“夜空”を眺め、思い立ったように當真はスマートフォンを取り出し、“地図アプリ”を立ち上げる。


「もしかして・・・」


GPSによって示される自身の居場所。そして、画面を操作し、その範囲を広げると、商店街の先には港が広がり、シンボルである『赤』のポートタワーの位置を確認する。そして、“指先”を“動かす”、


「・・・・・“ここ”か!!?」


當真はスマートフォンをしまうと、勢いよく走り出す。


「ちょっ、アンタ!?何よ、急に!?まだ話はー」


「ありがとな!!“おかげ“で、分かったかもしれねえ!!急ぐからまたな、“嵐ガール”!!!」


「ちょっ!!誰が“嵐ガー・・・」


その叫びも虚しく、届く間もなく駆け出した當真の背中を、楓はただただ眺める事しか出来なかった、


「・・・ほんともう、なんなの?アイツ?」


當真の向かう先、商店街の先の『港』、



の“正反対”の場所へと続く道の先を。



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