表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そんな魔法ならいらない  作者: door
Chapter 1:The Golden Fateful Encounter
5/65

#0 プロローグ⑤

路地裏の騒動が落ち着いた、帰り道。


最寄りのスーパーで値引きのかかった弁当を“二個”買う事にしたのは、父親との二人暮らしで、普段家事全般を担っている當真にとって、先程の“いざこざ”で流石に帰宅して食事を作る余裕などなくなっていたからだ。


「まぁ、たまにはいいよな。親父は食べられたら何でもいいって言うだろうし・・・というか、今日家にいんのかな?『仕事』でまたどっか行ってんのかな?」


自身のスマホからメッセージを送るもいまだに返信がない状況に、自身の父親の『仕事柄』、少しだけ不安になったりもした當真。


ふと。駅の方から歩いてきた、とある親子連れとすれ違う。


仕事帰りであろうサラリーマンの父親と、迎えに来たのだろうか、母親、そして両親に挟まれるように両手を繋ぎ歩く帽子を被った小さな男の子。


「あなた、この子があなたに見せたいものがあるらしいわよ?」


「ん?どうしたんだい?」


「へへへ。パパ、じゃあ見ててね」


そんな会話がなぜか耳に残り、どことなくすれ違った親子たちの方へと振り返る當真。


ほんの数歩先に離れた親子連れは立ち止まり、両親が嬉しそうな笑顔で見守る中、帽子を被った男の子が、両手を自身の顔近くまで持っていく。


「うーッ!!やッ!!!」


そして、勢いよくそのまま両手を頭上へと掲げる。その瞬間、『触れてもいない』帽子が、少年の頭からゆっくりと空中へ浮かび上がった。


「おお!“魔法”使えるようになったのか!?」


父親の感嘆の声。それと同時に、またすっぽりと男の子の頭に収まる帽子。男の子は嬉しそうにその場でジャンプしながら、その喜びを表現していた。


「パパとママと同じでね!僕もいろんなものを動かせるようになるんだーきっと!!それでね、いつかは悪い人たちがパパとママをさらいにきたときはね、僕が、こうやって、こう、いらんなものをいーっぱい動かしてぶつけて、やっつけてね、まもってあげるよ!!」


「おー!それはかっこいいな!!」「“魔法”でママとパパのこと助けてくれるヒーローになるんだよね、たっくんは!」


「うん!!!!」


そんな和やかな会話のあと、また両親と手を繋ぎ歩き出した男の子の背中は、なんだかとても幸せそうに當真には見えた。


(先生と、同じ“魔法”だ・・・“魔法”なぁ・・・)


ゆっくりと視線を街中の景色に動かす。


小さい頃から、何一つ大きく変わり映えすることのない景色。


ただその中のいたるところも、今は少なからず“魔法”があって成り立っている景色であることも、“日常”なのであって。


小さな家電量販店のウインドウ越しに展示されたテレビからは、今日のニュースが流れてくる。


その中のひとつに、この国への“魔法犯罪者の不法入国疑惑”みたいなものもあって。


“魔法”がこの世界に生まれてきたことで受けられた恩恵ももちろんだが、年々特に“魔法”を使った犯罪なども増えており、その犯罪レベルも近年では激化。その対応に各国がシビアに追われることも非常に多くなった。


ただ、“そうした事”さえも、もはや“当たり前”なのだ。


不便さはない、むしろ科学の進歩に加えて、かつて“非日常”であった想像すらも取り入れた“魔法”が在る今の世界は、かつてこの世界に生きてきた人類からすれば、恐ろしいほどの未来の世界になっているのだろう。


そんな世界だからこそ、どうあっても『ゼロ』な人たちから“は、羨望”の感情が無くなることはないのだ。


「・・・まあ、嵐ガールみたいなすごい“魔法”が使いたいとまでは言わないけどさ、あの子とか先生みたいに、誰かと同じでもいいから“魔法”使えたら、見える景色も少しは変わるのかなあとは思うよな、やっぱり」


恩師の言葉に胸を打たれたことも事実。そして、その言葉で自分の中で定まった想いがあるのも事実。


ただ、それでも。『ゼロ』にならない“もどかしさ”が在る事も、事実なのだ。


特に、“今日”みたいな異次元レベルのそれを目の当たりにしてしまうと、多感な時期である男子高校生からすればセンチメンタルな想いにふけってしまうのも無理はないだろう。



「はぁ・・・着いた」


商店街の外れの小さなビル。一階が喫茶店になっているのだが、その横の狭い階段を上がった二階部分。


扉に描かれているのは『當真探偵事務所』の文字。ここが當真の自宅である。


日常生活空間である三階部分に行くには、このまま外階段を上がってももちろん行けるのだが、事務所の扉から電気の光が見えたので、當真はひとまず事務所に立ち寄ることにした。


「親父、ただい・・・」


すぐに。違和感を感じる。


扉をあけ、窓際近くの“指定席”はおろか、お客に対応する応接の為の正面のテーブルの側のソファも含め、どこを見ても人のいる気配がない。電気はついているのに、だ。


「・・・」


ひとまず正面のテーブルの上に買ってきた弁当を置きながらも、視線を奥のトイレの方に向ける當真。


「トイレにでも行って・・・ん?」


と。弁当を置いたテーブルの上に、分かりやすく見つけてくださいと主張する、一枚のメモ用紙がある事に気がつく。


「なんだ、これ?」


そこには、見慣れた人物の筆跡で、こう書かれていた。



『ハロー。愛しの我が息子ナイトちゃん(手書きハート) ちょっとお父さん!家出してきまーす!あ、心配しなくても生活費はいつも通り振り込むから“オールオーケー”ってことで(手書きグッドポーズ)』



・・・・・。



思い浮かぶ、ヘラついた笑顔の父の表情と、陽気な声で文字が脳内で再生される。


當真はおもむろに自身のスマートフォンを取り出し、電話をかける。


振動音。窓際近くの事務机の上から、静寂を切り裂く。近寄ってみると、もちろんそこには父親の使い古したスマートフォンが、ひとり机の上で小刻みにダンスしていた。



・・・・・。



「ぬぁあああにがハローじゃああああああオールオーケーじゃあああああああ!!!!あんのおおおクソ親父があああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」



叫ばずにはいられない當真は自身のスマートフォンをソファに投げつける。


「何をポップに家出宣言しとんじゃああああああああああ!!!!!!」


頭を抱える當真。その悲痛な叫びだけが、事務所内に無残に木霊していく。


「というか、電気つっけぱなしだし、スマホは置いていくし、そもそも鍵も開けっ放しってどういう事!?近くのコンビニ行く感覚なの!?いや、それでもおかしいだろうがああああ!!!?」


自身との会話で冷静に分析しながらもツッコミをせざるを得ない當真。まるでそこは一人舞台のミュージカルさながらの熱量があった。


「とにかく、もしかしたらまだ近くにー」



ドンドンドンドンドンドンドンッ!!!!!!!



「!?」


外へ駆け出そうとした瞬間、その乱雑なノック音によって當真の心臓の鼓動は一気に早まった。


扉に目をやる。摺りガラスから、そこに人影があるのを目にした瞬間、當真の思考が一気に加速する。


(はっはーん!!ドッキリですか!!そうですか!!あんのクソ親父のやりそうなことですね!!俺を驚かせたくてわざわざこんな手の込んだことしてた訳ですね!!上等だよ!!!)


熱を帯びてく自問自答、自身の父親が“どういう人間”かを知り尽くしてるからこそ、當真の怒りのボルテージも加速していく。


ドアノブに手をかけ、勢いよく扉を開け放ち、當真は叫んだ。


「クソ親父!!!!!なんのつもりか知らねえけど、今日はーッ!!?」



一瞬で。當真は熱が冷めるのを感じた、というよりも言葉を失った。



そこにいたのは自身の父親・・・“ではなかった”。それどころではなかった。



「・・・・・え?いや、金髪、、、?!」



感情が混乱する中でも、當真の目は情報を集め、思考は進んでいく。


當真よりも一回り以上小さいにも関わらず、腰元まで伸びた金色のロングヘア―、全身を身に纏った白いローブ以上に雪肌のような透明感もある白い肌、小さい体つき以上に小さく思える顔、その割に大きくぱっちりと開かれた二重の瞳は、まるで宝石のように光り輝くブルーで。



総じて、誰がどう見ても“美少女”としか形容できない少女が、そこに立っていたのだ。そしてー


「ールプ」


「!?え、何て、」



「ヘルプ!!!!!!!ミー!!!!!!!」



叫び、それと同時に飛び跳ねるような勢いで當真の胸に抱きつく、というより弾丸のようにヘッドバッドしてきたのは、見ず知らずの金髪の“異国”の美少女。



“魔法の在る世界”で、“魔法の使えない”少年の“日常”に訪れた、“非日常”の“始まり”。



物語は、全てここから始まる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ