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そんな魔法ならいらない  作者: door
Chapter 1:The Golden Fateful Encounter
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#-1 プロローグ④

「その正義感を否定するつもりはないけど、いつも言ってるようにあくまでも楓ちゃんは“一般人”なんだからね?警察が来るまでー」


三人の男たちの身柄を確保して連れ添った部下たちに引き渡した後、見るからに“がたいのいい強靭な警官”という、ここ日本でなく海外の警官のような出で立ちの警部、陣内 正蔵(じんない しょうぞう)が少し溜息まじりに眼前の少女に声をかけるも、左手を腰に当て、右手を勢いよく突き出したまま、赤髪の少女はその言葉を遮った。


「警察待ってたら、あの子たちどうなってたと思う?陣内さん?それに光から連絡あった時点で私すぐに陣内さんにも連絡入れたよね?その私よりも早く彼女たちを見つけられなかった警察が来るのを?待ってろと?!」


大の大人、ましてや国家権力を持つような警察を目の前にしても、一歩も退くどころか物怖じすることなく詰め寄る赤髪の少女、緋色 楓に対し、むしろ陣内の方がその圧に一歩身を退きそうにもなっていた。


その言葉の言い回しやプレッシャーから、到底目の前の少女が中学生とは思えないでいる陣内。


「それに、これまでだって何回もこういう事あったじゃない?私の“魔法”なら、大丈夫だっー」


「楓ちゃん!いいかい!たとえ君が『セカンド』で!どんなに凄い“魔法”が使えようとも!!関係ない!!君はまだ未成年で、俺たち大人が守らなきゃいけない“未来こども”なんだよ!?いつも言ってるだろ!?君を危ない目に遭わせる訳にはいかないんだよ!!」


陣内は息を荒立てる楓に対し、それを抑え込むように大きな声で叫んだ。


それは揺らぐことのない、彼の信念。周囲の目も、その声に、視線を集める。だが、


「“大切な人が目の前で傷つくのを黙って見てられない”」


楓の言葉、それもまた、揺らぐことのない彼女の信念。


ぶつかりあう互いの信念と、視線。緊張が周囲にも徐々に伝播していく。



「・・・あのー、そろそろ巻き込まれてボロボロになってる俺の心配とかしませんかねえ?」



言葉尻からも、緊張感が解けていくのが分かった。張りつめた空気が、瞬間で緩む。


楓と陣内の視線は、すぐ側に座り込み、空気感にいたたまれず引きつった笑顔で、その言葉を切り出した一人の少年に向けられた。


「そ、そうだったね、夜くん。毎度のことながら、君もよく“巻き込まれる”ことが多いな。大丈夫だったかい?」


「ボロボロっすよ、正蔵さん。そこの風使ってどこにでも飛んで現れる“嵐ガール”は、手加減無用のいつでも全力投球しか出来ないので」


「だーれーが!!嵐ガールよッッッ!!!それに私はまだ全然本気じゃないんだから!!!!」



ブウォォォォォォ!!!ビュンッッッッ!!!!!!!!!



「いぎゃああああああああああああ」


楓は咆哮と同時に右手を振るうと、そこから放たれた小規模な風の圧によって、當真はさながらコントのような効果音と雄叫びをあげながら(周囲の印象)、吹っ飛ばされる。


「ちょ、ちょっと楓ちゃん!?」


「おいいい!!?何すんの!?何を追い打ちかけてんの!?助けに来といて、被害者増やすの!?バカなの!?」


「うるさいうるさいうるさい!!そもそも“魔法”も使えないのに、いつも“こういうとこ”に首つっこんじゃうアンタこそバカなんじゃないの!?怪我でもしたらどうすんの?!」


「いや、まさにいま怪我しそうなんですけどお?!お前の暴風に吹っ飛ばされてるんですけどお!?バカなのはお前の方じゃないんですかね、嵐ガールさん?」


「なあにおおおおおおおおおおおおおおお!?」


まるで小学生の子供の喧嘩のようにお互いにギャーギャー喚きあう當真と楓。


同じ怒号でも、いつのまにか年相応の“子どもらしい”表情で喚く楓の姿を目にしながら、陣内は心の中で呟く。


(こういうの見てると、楓ちゃんがちゃんと“その辺りにいる中学生の女の子”だって思えるんだよな・・・世界にも数少ない『セカンド』の魔法使役者、それを“そうとは思わず”見れる夜くんもまたー)


視線の先、本人が望まないとしても周囲から“特別視”されてしまう存在である楓に対する、當真の“当たり前”の言葉や行動を見ながら、思わず感情が緩む陣内。


「だいたいね!アンタ!!私が間に合わなきゃどうするつもりだったのよ!?あの状況で!?高校生にもなって警察待つとかそういう判断も出来ない訳!?」


「・・・いや、それを楓ちゃんが言うの?」


両手を腰に当て頬を膨らませ、陣内が呟いた正論ブーメランなど気にも留めず、その場に座り込んでいる當真を見下ろす楓。


一呼吸。當真はゆっくりと顔を上げ、楓に言葉を声にした。



「もしお前が来なかったとしても、俺のやることは変わんねえよ。お前と一緒さ。見過ごしたりしない。そこは“迷わない”」



當真の落ち着きつつもブレないその言葉、その表情に、思わず口をつぐむ楓。


「それにさ、おまえならきっと来るって“分かってた”しな、なんとなく」


そう、満面の笑みで、本人としては楽観的な意味で軽くそう告げる當真の言葉に、急に頬を少し赤らめ、体温が上昇するのを楓の心は感じ取っていた。


咄嗟に當真に背を向け、聞こえないような小声で呟く楓。


「・・・ッ、ほんとコイツは・・・・」


「?・・・まっ、とにかく、陣内さん。俺は大丈夫ですし、結果としてみんな無事だったんだからさ、ほら?“オールオーケー”ってことで今日のところはさ?」


「ったく、簡単に言ってくれるよ。“お父さん”にそっくりだな、その言い回し。それにー」


ヘラヘラとしている當真から、視線を楓に戻す陣内。


「君の猪突猛進なところや正義感は“お母さん”にそっくりだよ。はぁ、もう、なんで俺の『同期』はこういう奴らしかいないのかねえ」


髪をぐしゃぐしゃに搔きながら、眼前の少年少女を見て大きなため息をつく陣内。


その脳内に浮かびあがる『同期』たちを思い、そしてどこか諦めたような、でも受け入れたような哀愁ある表情を見せたあと、言葉を続ける。


「・・・とにかく君たちも。日も暮れるし、週末のこんな時間だ、早く家に帰るんだ。あと、何度も言うが、今後こういった時は必ず、警察・・・いや、ちゃんと俺や、大人の力をまず頼るように!!いいね?」


これまでも幾度となく繰り返して来た注意喚起を告げ、陣内と警察はその場を後にし、周辺の騒めくギャラリーたちも徐々に解散していった。



「・・・そういえば嵐ガール」


「誰が嵐ガールよ!?私には緋色 楓っていうちゃんとした名前がー」


「あの子たちの姿が見当たらないんだけど、大丈夫なのか?」


ひとり地団太を踏む楓をよそに、當真は散り散りとなっていく周辺の群衆を見渡しながら、疑問を投げかける。


「・・・あの子たちなら無事よ。今、ひとりずつ家まで光が送り・・・」


ヒュンッッッ。と、突如として、説明を続ける楓の側、何もなかったその空間に突然に一人の少女が現れる。


黒髪三つ編みの眼鏡少女、光と呼ばれていた子である。


「うわっ!?びびった!!」


「え?光?なんで“戻って”きたの?」


「うううう。頭がクラクラしますぅぅぅぅ」


ドサッ。不意に現れ、目を回しながら楓に寄りかかるように倒れ込む光を、楓はしっかりと抱きかかえるように支える。


「・・・え、その子、“転移魔法者テレポーター”、なのか?もしかして、『セカンド』!?」


「厳密には“まだ”違うわ。光はまだ、そこまで上手く魔法を“使いこなせない”から。一度に跳ばせるのも“自分含めて2人”だし、条件もあったり・・・」


「楓、さまぁぁぁぁ、うぅぅぅ目が回りますぅぅぅぅぅ」


まるでコタツにうずくまる子猫のように、楓の胸の中で弱弱しく言葉を発する光。


「あと。タイムラグ空けずに連続で跳ぶと、こうやって目を回しちゃうというか・・・てか、なんであなたわざわざ戻ってきたのよ?“こうなる”って分かってたのに?」


「楓さまぁにぃ、お会いしたくて、うぅぅ、目が、、、」


(ああ。だから、あの場では“魔法”使って逃げなかったのか・・・いろいろと大変なんだな、“魔法”が使えても)


心配そうに光の頭をなでる楓を見ながら、當真は冷静に思考に結論を見出していた。


「楓さまぁ、そちらの方はもしかして・・・?」


視線だけを當真に向けて弱弱しく呟く光。


「そ。あの時、私が来る前に“時間を繋いで”くれた人でー」


「やっぱり!!あの時はありがとうございました!!」


楓の言葉を遮るように、少し体を起こして當真に深々と頭を下げる光。とても丁寧かつ誠実な行動に、當真も思わず心打たれ、姿勢を正し、


「いやいや!そんな!!ぜんぜん俺は何も!!お礼を言われるようなことはー」


「・・・がと」


慌てふためく當真に対し、ふいに、視線を下げたまま何かを呟く楓。


「・・・ん、何て?」


「・・・お礼!!ちゃんと言ってなかったから!!!一応アンタのおかげでこの子達助けられたとこもあるから!!だから、その・・・ありがとッ!!!!!!」


頬を赤らめ、恥ずかしそうに叫ぶ楓。つい先程までいがみあっっていたにも関わらず、伝えるべき感情をしっかりと言葉にして届ける、そのギャップというか、ツンデレと言いますか、まぁ、客観的に見ても『黙っていれば』その整った容姿、表情で素直な言葉を言われると、思わず、


(え、なに。ちょっと、かわ・・・



「ッッッッッッッ!!!チェストオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」



當真の感情が思考に追いつくよりも早く、瞬間、楓の胸の内から奇声を放ち向かってくる少女。


「グエエエエエエエエ!!!!!??????」


その華奢な跳び蹴りという弾丸を無抵抗のままモロに受け、悶えながらその場に蹲る當真。


「光ッ!?」


「良からぬ波動を!!決して良からぬ波動を!!!なにか!!こう!!淡い!!ピンク色の!!良からぬ波動を!!ワタクシ感じました!!!!」


「ちょ、ピンク色って何!?光アンタ何言ってー」


「良くない良くない!!私の楓さまセンサーが全力でアラートを知らせてきてますわ!!!」


ふたりの間に壁となるように仁王立ちし、声高らかに告げる光。そして眼鏡の奥から確かな“殺気”のような圧を、蹲りながらも感じ取る當真。


「おま、何を、え、というか、すげえ元気じゃねえか!?」


「!!・・・ああーん!楓さまぁ!また立ち眩みがああ!!!」


わざとらしく声高々によろめきながら、再び楓の腕の中へと吸い込まていく光。


「え、光?ちょっとなにもう?」


後輩の突然の不可思議行動に困惑しつつも、しっかりと光を抱きとめる楓。の腕の中から、視線だけを當真に向け、そしてニヤリと笑う光。


(何だコイツ!??“ヤベえ”やつなのか!?)


これが女子校ならではの、と言うよりも、私立王凛女学院でもトップクラスの人気を誇る楓を(裏で非公式として)“お守りする(野郎から)親衛隊”、『緋色組』の総帥、神宮路じんぐうじひかりの真の姿だという事を、この時の當真は(もちろん楓も)知る由もなかった。


「さ!お礼もしましたし!楓さま!帰りましょう!!寮までひとっ“跳び”です!!」


「ちょっと、待って!?ひか・・・」


慌てる楓を気にすることもなく、“右手”で楓の手を取り、そしてすぐさま當真の方を振り返ると、楓には見られないように“あっかんべー”と“捨て表情”を見せ、次の瞬間、



ヒュンッッッ!!!



瞬く間に光と楓の姿が、この空間から、消え“跳んだ”。



ぽつんとひとり残される當真。まだまだ明るい春の夕暮れ時だが、吹く春風は、どうしようもない感情の置き場を探す當真にとっては、少しだけ肌寒いものとなった。


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