#10 オッドアイの少女②
「『未来』だけじゃなくて、『過去』も“見れる”・・・?」
『オッドアイ』の少女、アルマの両の眼と視線が合う當真は、思わず感情が言葉になって零れる。
それは、疑問、よりも驚愕の感情の方が割合は大きかった。
『未来視』だけでも、その“魔法”の希少性は高く、ワイダーが情報統制を行っていなければすぐに世界中のトピックスに上がるほどの“魔法”なのだが、アルマの言葉が“事実”ならば・・・
いや、“もうすでに”當真とパレットは目の前で、その“事実”を体験したのだ。
『未来』だけでなく『過去』も“見れる”となると、『時間』という“不可侵の概念”を超える、言うまでもなくアルマの“魔法”は、『レベル・2』に値する“魔法”である。
「でも、ワイダーさんに聞いてたのは・・・」
「ん-ん。ないと、アルマちゃんが言ってることは、ほんとだよ。わたしも今、『識った』から。」
「!!」
未だに信じ難い状況であった當真に対し、一転、冷静にアルマを見つめ呟くパレット。その両手を、軽く自身の“両耳”に添えていた。
「わたしの“魔法”は『全ての“魔法”を“識る”』“魔法”。アルマちゃんが私に“触れて”、わたしの事を“眼た”ように、わたしもアルマちゃんの“魔力”の跡を辿って、“聞いてみた”んだ。だから、“間違いない”んだよ。」
パレットの言葉に、當真の疑念は確信へと様変わりする。もう一度、視線をアルマに向け直すと、愛らしく頬杖を突きながら、アールグレイティーを一口、アルマはニコリと當真に微笑み返し、
「あら?パレットちゃんも、なんだかすごい“魔法”が使えるのね?“魔力”というのは、ちょっと聞き慣れない言葉でしたけど・・・でも仰るとおり、“間違いない”ですよ?」
いたって落ち着いた様子で二人に話しかけるアルマに対し、當真はパレットに向き直し、行き場を見失った“焦り”を小声で叫ぶ。
「・・・というか、パレット、考えてみればもっと早く“魔法”使っておけば、アルマの“魔法”の事もちゃんと知れてたのでは?!そうすれば、もっと、こう、“なんとか”出来たかも・・・」
「“なんとか”ってなに、ないと?そんなこと言われたって、アルマちゃんの“魔法”は『未来』を見る“魔法”って聞いてたんだし、わざわざ改めて『識ろう』なんて、しないんだよ?それにもし『識って』たとしても、お店でアルマちゃんに“触れられた”時点で、どうしようもなかったんじゃない?」
「うぐっ!?」
“魔法”に関して言えば、魔法大国の英国出身で、つい最近まで『持たざる者』の『ゼロ』であった當真と比較しても、認識の度合いも深度も遥かにパレットの方が優れており、まさしくその正論パンチに、ぐうの音もでない當真。それゆえに
「・・・悠長にフレンチトースト食べた挙句、人のドーナツをかっさらおうしたくせに!!“食い意地モンスター”!!」
「にゃにおおおお!?今それぜんぜん関係ないでしょおおおお!!?」
“子どもみたいな”喧嘩を始める當真とパレット。あっというまに小声の会話状態が解除され、アルマそっちのけで賑やかに騒ぎ立てる二人を、楽しそうに眺めるアルマ。
そして、二人には聞こえないくらいの小さな声で、そっと呟く。
「・・・“いい”、なぁ」
その“声”は届かずとも、流石に當真もパレットと“取っ組み合い”をしている状況でない事に、ものの数秒で気がつき、視線を再びアルマに戻す。
アルマと目が合う間際、當真はその両の瞳が、どこか、“寂しそうな”気がして・・・
「・・・でも。ワイダーが知らないのも無理ないですよ?『パスト・アンド・フューチャー』なんて言ったけど、その“名前”も自分でつけましたし、そもそも私自身、つい“最近”まで“使えなかった”んですから」
アルマは、自身の“右手”で、その“右”の“青”の瞳を指さしながら応える。
「私自身、元々は“右手”で“触れた”人の『未来』を、『右目』で『見る』事が出来る“魔法”だと思ってました。いわゆる『未来視』の“魔法”、ですね」
そして、自身の“左手”で、その“左”の“赤”の瞳を指さしながら応えるアルマ。
「でも、ある“きっかけ”で・・・この国の“病院”に入院するくらいの頃かしら?『左目』の“違和感”に気づいて・・・そして、試しに“逆”の手順をしてみれば、“触れた”人の『過去』が見えたの」
信じ難い言葉の羅列。だが、“事実”として証明する“事象”を、當真は目の前の“二人”によって見せられているのだ。
こうなってしまうと、アルマにパレットが“触れられた”時点で、従来の目的は果たせなくなる。
つまり
「パレット、残念だけど、アルバイト初日にして・・・“クビ”だ、これ」
「え!?・・・待って、ないと?という事は、もしかして・・・?」
「今日の晩ご飯から、“ナシ”です」
「ぎゃあああああああ!!!!!!?」
項垂れる當真に対し、アルバイトの失敗どうこうでなく自身の今後(直近一週間)の“食生活”の未曽有の危機に対して泣き叫び、當真をポコポコと殴打するパレット。
遠目にはじゃれ合っているようにも見えなくもないが、二人の心中は地獄絵図のように穏やかさの欠片もない。
だが、そこに一つの希望の光が訪れる。もちろん、その光はアルマだ。
「ねえ。私もここまでお話したのだから、二人の話も聞かせてくれない?ワイダーから“何を頼まれたか”、その“内容”によっては、私、“お手伝い”出来ると思うのだけど?」
當真とパレットは互いに目を合わせ、そして意を決し、ここまでの経緯を全て話し始めた。
数分後。
「なるほど。ほんとにワイダーは心配性ね。でも、そういう“事情”なら、二人の“アルバイト”、別に辞めなくても大丈夫だと思いますけど?」
「え!?そうなの!?」
話を聞き終えたアルマが告げたその言葉に、パレットの表情が一気に明るくなる。
一方で、當真は驚きを隠せないまま、神妙な面持ちで言葉を返す。
「・・・どういう事だ、アルマ?」
「そうですね。二人の仕事って、私の事を『見つけて』、『無事に送り届ける事』ですよね?あと、病院にいない間に『何をしてるか』を知りたいって事で、いいんですよね?」
「ああ、うん。まとめると、そんな感じだな」
「“だったら”あなた達も一緒に、私の『かくれんぼ』に付き合ってくれたらいいんですよ?私が病院を抜け出してる理由なんて、『自由に遊びたい』だけだから。特に『特別な理由』なんて他にはないのだし」
「え!?そうなのか?」
それは、思いがけない“答”だった。
當間はワイダーから話を聞かされた時点で、自身の“魔法”を使ってまで“わざわざ”病院を抜け出し、しかし夜間には“ちゃんと”戻ってくるという、その“不可思議”なアルマの行動には、それに“値”するような、『特別』な理由が在るものだと思っていた。
「だって、『入院』している理由も“たいした理由”じゃなくて。その為に、わざわざこの国の病院まで来て、しかも一週間も『入院』させられるなんて・・・ちっとも楽しくないんですもの。私としては、せっかくこの国まで来たんだから、どうせなら思いっきり“楽しみたい”ですし?だから、強いて理由があるとすれば、それくらいのこと、ですよ?」
それはまるで、“子ども”のような“純粋な我儘”。當真が感じ取った印象は、それに尽きるものだった。隣人の金色の少女の“食欲”のような、ただただ純粋に“楽しい”ことをしたいと願うだけの、『かくれんぼ』。
「いや、でも、それならワイダーさんにもその事情をちゃんと話せば、きっと一緒に“外出”してくれるんじゃ・・・?」
「ナイトさんは、遊びに行くときに、“ご両親がご一緒する”となったら、純粋に楽しめますか?」
「え?・・・いや、それは・・・」
當間の疑念をすぐさま打ち返すアルマの言葉に、一瞬、“自由奔放絶賛家出中”の人物を脳内に思い浮かべ、すぐさま心がズシリと重くなる當真。
「・・・・・ぜんっぜん、楽しくない」
「ふふふ。ですよね。私は家族を失って、元気なのに入退院も繰り返される生活の中で、学校にもそんなに行けなくて、お友達もそんなに多く作れなくて。そんな私とずっと一緒にいてくれたのが、ワイダーなんです。それはとっても感謝してるし、でも、何と言いますか・・・ワイダーって、“家族”以上に“過保護”すぎるというか・・・」
アルマの表情が、何かを思い出したように、少し“諦め”のような“憂い”を帯びた表情に変わり、當真もすぐさま、その理由を察した。
(確かに、あんな“ジイヤ”が四六時中近くにいたら、心から“楽しむだけ”ではいられないよな・・・うん)
「ワイダーや、ワイダーが雇ってる“お手伝いさん”たちは、みんなとても優しいんですけど。私の“魔法”の事もあってか、どこに行くにしても何をするにしても、すごく“過保護”に接してくるんですよね。だから、そんなみんなの前から“隠れて”、そしてみんなの“びっくりする”顔が見たいから、私、『かくれんぼ』してるんです。だって、それが“楽しいから”。」
「そうなの、か・・・」
(でも、最終的に心配自体はかけたくないから、夜にはちゃんと“病室”に戻ってて・・・“お転婆”というか、結局は“いい子”なんだろうな、この子。でも、使える“魔法”とその“行動力”のせいで、“余計に”そういう印象持たれてるだけなのかな・・・)
思考を巡らせる中で、當真のなかで、徐々に目の前の少女の存在が明確に“形”になっていく。
“日常”に訪れた“非日常”な仕事の“依頼”。そして少女の持つ、『特別』な“魔法”。そうした状況から、どうしたってそこに『特別』な“理由”が在ると見てしまっていたが、実際、目の前の少女を、その行動に突き動かす理由なんて、“ありふれた”些細な“理由”でしかなかった。
「ねえねえ。それで、つまり、どうすればわたしたちは“クビ”にならずにご飯を食べれるの?」
考え込む當真にしびれを切らしたのか、パレットが会話にフェードインしてくる。
「うん。だからね、私がこの国にいる間、“一緒”に“かくれんぼ”をしてくれればいいの。そうすれば、私に“何が”あってもワイダーも心配ないだろうし、あなた達も私の側にいれば、私が“何をしてたか”も報告出来るでしょ?そして毎日病院まで送り届ければ、“アルバイト”も完了、無事にパレットちゃんも“大好きなご飯”を毎日食べられるし、私も“楽しくかくれんぼ”出来る。これって、お互いにとって、いい事だらけよね?」
アルマはウインクをしながらパレットに微笑む。さながらその様子、その言葉、その全てが“この世に舞い降りた天使”のような印象を、當真とパレットの二人に与えた。
「わーい!!アルマちゃん!!ありがとう!!」
「でもさ、なんでそこまで“良く”してくれるんだ?俺たちなんて、その、アルマにとっては今日会ったばかりの人間でしかないのに?」
當間の問いかけに、アルマは少し俯き、そしてゆっくりと話し始める、
「さっき少しだけ話したけど。私、今まであまりお友達というものも作れなかったの。もちろん、ひとりも嫌いじゃなかったのよ?ワイダーやお手伝いさん達はみんな優しいし。好きなモノがあれば、それだけでも全然幸せだった!!・・・でも、今日、あなたたち二人の“仲良し”な所を見てたら、やっぱり羨ましいなぁって思えて。だからね、」
そして。両手を當真とパレットの前にスッと差し出す、アルマ。
「私と、“お友達”になって一緒に“遊んで”欲しいの。一緒に“楽しい事”たくさんしたいの。だめ、ですか?」
少し不安そうな表情、だが、青と赤の瞳をまっすぐと見つめながら、言葉と想いを伝えるアルマ。
當間とパレットはお互いに顔を見合わせると、笑顔で、二人同時にアルマの“両手”を握る。
「“魔法”使わなくても、この『未来』は見えてただろ?なあ、パレット?」
「うん。たっくさん“楽しいかくれんぼ”しようね!『アルマ』!!」
「ありがとう!!『ナイト』、『パレット』!!嬉しい!!」
二人の手を強く握り返すアルマ。その笑顔はこれまでにない程、朗らかで優しい笑顔であった。
こうして『かくれんぼ』の“継続”が“無事”に決まり、當真の心持もようやく軽くなる。
(アルバイトの主旨はちょっと変わっちゃうかもだけど、でもこれでなんとか、當真家の食費ゼロ問題は乗り切れそうだな)
そして、落ち着いた矢先、當真は何気ない一言をアルマに向ける。
「それでさ。具体的にアルマは『かくれんぼ』で、どこに行きたいとかあるのか?今日みたいなお店、とか?あ、ちなみに明日から、俺は“学校”行かなきゃだからさ、パレット“ひとり”でも一緒に行けるような場所だと助かー」
「ー大丈夫ですよ、ナイト?私、“ちゃんと眼えてますから”!」
気がつくと。アルマは“右手”で“左”の“赤”の瞳を隠し、パレットの方を“眼ていた”。
「パレットの『未来』に、私も、“ナイト”も“ちゃんと一緒にいます”から、ね?」
「・・・え?」
優しい微笑み、いや、これまで以上に“楽しそうな”笑顔で、パレットの『未来』を見通すアルマ。
その言葉の意味を、當真は翌日、“すぐに”理解する事になるのだが、この時はまだ知る由もなかった。




