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そんな魔法ならいらない  作者: door
Chapter 2 : PAST, PRESENT, and FUTURE
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#5.5 First Order

「あの、よかったらどうぞ。お口に合えばいいんですけど」


事務所の戸棚にしまっておいたカステラを一切れ。小皿に移し、フォークと一緒にテーブルに差し出す當真。もちろん、コップ一杯のホットコーヒーも添えて。


“いつも通り”。“仕事”の話を父親が行う際、そういう所には気が一切回らない父親に代わって、手が空いている時はいつも、當真が“その役割”を担っていた。


テーブル越しのソファに、背筋を伸ばし綺麗な姿勢で座る“老執事”は、差し出されたカステラに視線を向けると


「これはこれは。夜分遅くに訪れたにも関わらず、このようなお気遣いまで。ありがとうございます」


しっかりと“當真”に目を合わせ、頭を下げる。ここまでの所作だけでも、目の前の“老執事”が、イメージに違わぬ“しっかりとした人格者”であることを、當真は感じ取っていた。


一方で


「ねえねえ。ないと!カステラ!!わたしも食べたいんだよ!!ねえねえ!!カステラ!!ぷりーず!!カステラ!!!」


當真の周りを纏わりつくように、自身の欲求に素直なままの金色の少女、パレット=セブンデイズ。


「ちょっと待ってろって!?後でちゃんとパレットの分もー」


「ぷりーず!!いますぐぷりーず!!かすてら!!ふぉーみー!!」


「なああああもう!まとわりつくな!?」


制止する當真の右腕にしがみつき、離さぬまま喚き始めるパレット。すると


「お嬢さん。良かったらこちらをどうぞ。私は、このコーヒーだけで大丈夫ですので」


見かねた“老執事”が、優しい微笑みと共にパレットにカステラの乗った小皿を差し向ける。


「いやいや!コイツのことは気にしないでください!!ちゃんとコイツの分もー」


「わーい!!ありがとうなんだよー!!いただきまーす!!」


當真の言葉が終わる前に、すでに“老執事”の向かいのソファに座り込み、勢いそのままにカステラを食べ始めるパレット。


當真は諦め半分、一呼吸。“老執事”に会釈をいれ、そのままパレットの隣に座り、話を切り出した。


「それで、“依頼”っていうのは?“探偵”の仕事、ですかね?あの、実は本当に申し訳ないんですけど、今、“当人”が“絶賛家出中”でして・・・」


當真の言葉に対し、“老執事”はコーヒーを一口。そして、落ち着いた口調で言葉を返す。


「いえいえ。内容自体は、“探偵”のお仕事にも近いのかもしれませんが、“依頼”したいのは“當真 夜”様、“あなた様に”、でございます」


それは、思いがけない言葉であった。


父親の仕事の手伝いの一環で、こうした事前の“依頼”内容の確認などを當真が行う事も、少なくはないのだが、その“依頼”自体が父親ではなく“自分自身”に向けられたという状況、そして何よりも気になったのはー


「あの、すみません、いろいろ気になるんですが、まず、なんで“俺”の名前を知ってるんです?」


そう。どういう状況であれ、“それ”が一番最初の疑問である。


“當真探偵事務所”は、インターネット上にもサイトを作っており、代表者の“父親”の名前などは検索すれば一発で判明するし、もちろん“父親”の人脈の広さも考慮すれば、多方様々な“ツテ”があってそこに辿り着くことは容易に想像できる。


ただし、“公”になるはずがない、“仕事”の“依頼”にあたって、父親ではなく當真自身の“名前”を知った上で訪ねてきたという、この目の前の現実は、どう考えても“異質”であり“非日常”に近い。


こういう場合は往々にして、その要因は“當真の父親”、もしくはー


「国立病院の“新待トネリ”先生は分かりますか?彼女とは昔からの知り合いでしてね、今回の“依頼”の話をしたところ、それであれば“當真探偵事務所”の“當真 夜”という少年が、つい『最近』、この“依頼”を解決するのに『ちょうどうってつけ”の“存在”になったから』、と薦められまして、ね」


“父親”と“繋がり”のある“変わり者”たちが要因であることが、ほとんどである。


(・・・あの先生、何考えてんだ?俺、今日あなたのいる病院を退院したばっかりなんですけど?)


當真の脳内には、軽妙に笑いかけてくる丸眼鏡の美人女医の偶像が、鮮明に思い起こされる。


「當真様、こちらを」


當真が脳内回想をしている最中、“老執事”は黒の燕尾服の胸元の内ポケットから、丁寧に包まれたハンカチを取り出し、テーブルに置くと、ゆっくりと包まれたそのハンカチを開く。



そこには、“一枚の写真”が在った。



「當真 夜様にお願いしたいのは、“この方”を“見つけ”、“無事”にこちらの元まで“送り届けて”頂きたいのです」


写真に映っているのは、一人の少女だった。


“白”のお洒落なバケットハットを被り、帽子に入りきらない髪は、肩にかかるくらいの長さのウェーブがかかった銀色の髪、いや、どちらかと言えば白色に近いような淡い銀色の髪。


その色合いは、當真の隣ですでにカステラを食べ終え、物足りなさそうに写真を眺めている金色の少女と同じように、この国の生来のものではないような彩りを、當真に印象付けた。


そしてその端正な顔立ちも、パレットのそれとはまた違った、どちらかと言えば端麗な雰囲気で。


何よりも、その写真の中で當真の視線を最も奪ったのはー


「これ、《オッドアイ》って言うんでしたっけ?アニメとか漫画の世界じゃなくて、現実でちゃんと見たの初めてかも!」


水色にも近いようなクリアな“青”色の“右目”、それとは対照的に深紅に近い“赤”色の“左目”。


写真に映る少女の一番の特徴とも言えるその瞳は、當真のこれまでの“日常”では目にする事のなかった、まるでファンタジーのような現象。


両の目の色がそれぞれ違う、《オッドアイ》と呼ばれる瞳であった。


しかし、写真を一通り眺め終えると、當真は“疑問”の言葉を続ける。


「・・・でも、“人探し”なら探偵、ってのは分かるんですけど・・・まぁ、その“探偵”は家出中なんであまり強く言えない状況なんですけど・・・あの、探偵”よりも“警察”とかに相談した方が、いいんじゃないですかね?新待先生からどういう風に話を聞いたのかは分かんないですけど、それこそ、俺なんて、ただの“高校生”ですよ?もし“事件”とかに巻き込まれてるとかだったら・・・」


「“警察”には頼れないのですよ、なぜなら“事件性”などは一切ありませんので」


「・・・ん?」


「むしろ毎晩夕食時には“ちゃんと”戻って来られてますし、夜の時間帯などは、“このように”ベッドで健やかに就寝しております」


おもむろに燕尾服からスマートフォンを取り出し操作し、その画面を當真に見せてくる“老執事”。


見せられた画面には、“どこか見覚えのあるベッド”と“室内”、そして健やかに寝息をたてながら眠る、写真の少女の姿がビデオ通話によって『ライブ映像』として送られてきていた。


「・・・・・いや、もう、ますます混乱なんですけど?それに、このベッドに部屋って・・・もしかしなくても、『あの病院』なんじゃ・・・?」


つい数時間前まで滞在していた“景色”、そして“老執事”にここを紹介したのが“知り合い”でもある新待トネリという発言からも、當真がその結論を導き出すことに、そこまでの迷いはなかった。


「ご名答。さすが探偵事務所のご子息ですね、素晴らしい洞察力と推理力です」


「いや、全然そんな大袈裟なものじゃないです、タイムリーな景色だっただけですよ?」


決して冗談を言うようなタイプには見えない“老執事”が、少し微笑みを見せながら、そんな風に言葉を紡いだことで、ここまでの時間漂っていた少しばかりの“緊張感”も、多少解けていくような気がした。


ただし。それでも、単純に疑問は残り続ける。


「・・・それで、今この病院にいる、その“女の子”を?“見つけて”、“送り届ける”ってのは・・・えーと、つまり、どういう事?」


當真の言葉通り、“依頼”と現状、そして、“なぜ”當真がその“依頼”に“うってつけ”の存在であるのか。


そこが全く繋がらない事に、當真は疑問を投げかける。


ちなみにパレットはすでにこの二人のやり取りにも飽きて、ソファで大きな欠伸をしながらゴロゴロし始めていた。


一呼吸、“老執事”は、その経緯を話し始めた。


「はい。當真様の考えている通り、こちらの写真の“お嬢様”は、今、一時的に日本でも有数のあの国立病院に“入院”している、いわば“病人”ではあるのですが。如何せん、なかなか“お転婆な性格”の“お嬢様”でして・・・・・・日中、よく“病室”から“お逃げ”になるのです」


「・・・・・・」


耳にする言葉全てが、これまでの當真の“日常”には聞き覚えのない、どこか、“ありがち”な空想の物語の“設定”の様に聞こえてしまって。


そんな“非日常”な言葉の始まりに、當真の胸の内には、すでに“イヤ”な予感が僅かながらに先走りだしていた。


「“育ち”は決して悪くはないので、夜にはきちんと病室には戻っては来るのですが、とにかく“ジッと”していられない性格の“お嬢様”でして。ここ日本に来たのも初めてなので、日中は“隙”を見つけては病室から抜け出して、外の世界へと“お出かけ”をなさるのです。もちろん医者の“許可”など、一切出ておりません」


「あー、えっと・・・なんか話聞いてる感じ、ほんとにこの子、“病人”?なんですか?めちゃくちゃ“元気”そうな印象しかないんですけど?」


當真の意見は、誰しもが抱くような、“素直”なアンサーであった。


“老執事”の話を聞く限り、もちろん“医者”の“許可”なく外出する事は良くはないのだろうが、夜には“病室”には戻って来ているのであり、現時点では特に“大事”には至っていないようにも思えるのだが・・・


「詳しくはお話し出来ないので申し訳ないのですが。基本的に“問題”なくとも、“いつ”、それが“問題”となってもおかしくない、とだけお伝えしておきましょうか。とにかく、出来る事なら、絶対的にその“行動”を“把握”しておきたいのです」


“老執事”の言葉の端々から、内容の深度はともかく、写真の“女の子”に対する“本気度”は當真にもヒシヒシと伝わって来た。


それゆえに。“余計に”、抱いた疑問は深まるばかりだが。


「あのー・・・それなら、えっと、」


當真は視線を“老執事”に向ける。と、言葉尻から素早く察した“老執事”は、


「失礼しました。わたくし、“お嬢様”の“執事”をしております、『ワイダー=フロイント』と申します。ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ございません」


またもや燕尾服の内ポケットから、銀の名刺ケースを取り出すと、そこから一枚の名刺を取り出し、當真に手渡す“老執事”こと、ワイダー=フロイント。


名刺自体は、名前と、メールアドレスに電話番号と、本当に必要最低限の情報のみが記載されていた。


なお、告げられた名前から、目の前の“老執事”もこの国の人間ではないという事は容易く察したが、なぜまたもや“日本語”をここまで上手く話せるのか?、といった疑念に関しては、當真はパレットの出会いを通じて最早“考える”のは諦めるようになっていた。


この世界は!そう!!“グローバル社会”が!!!進んでいるのだ!!!!(思考を放棄した上で、當真の中では“それ”で納得している模様)



「えっと。じゃあワイダーさん。そこまで“この子”の事が心配なら、その、変な話、四六時中、ワイダーさんが“見張ってたら”いいのでは?」


當真の意見は、至極“真っ当”な提案でもあり、むしろ、単純に“解決”に繋がるであろう“当たり前”のような提案だと思われた。


ただし


「・・・・・んです」


急に。俯き、言葉を濁す、ワイダー。


ここまでの軽快なやり取りと打って変わり、あまりの声の小ささに、當真も思わず不思議そうに聞き返す。


「えー、っと。何と?」


瞬間。


俯いていた顔を上げるや否や、急に体を乗り出してきて、當真の両腕をぎゅっと掴むワイダー。


そしてこれまでの、“出来た人間”像を一気に崩すような面持ちで、言葉を叫ぶ。



「だって!!こんな“カワイイ”“お嬢様”に“お願い”されたら!!私!!断れないんです!!!」



「おやおやおやおや?なんですか!なんなんですか!?この展開??!!!!」



それはまるで、“愛する孫娘”を“溺愛する”あまりに“暴走”するような、“おじいちゃん”のような表情で。ワイダーはテーブルに置いた写真を片手に“熱く”語り始める。


もちろん、當真の困惑の感情も、その隣で寝息をたて始めたパレットの事など、まるで気に留める様子もない。


「私が“お嬢様”の家にお仕えして、早十年。ご家族を“失い”、“ひとり”になられてから、この私、ワイダー=フロイントが、一番側で“お嬢様”のお世話をしてまいりました!!もはや血は繋がらずとも我が“孫娘”といっても過言ではないのです!!!!」


勢い留まることなく早口で話し続けるワイダーに対し、自身が抱いた感情がまるで間違っていなかったという正解感と同時に、心の中の“イヤな”感覚も、ますます加速していく當真。


「その“お嬢様”に!!面と向かって!!“見逃して?”と言われれば!!!“ジイヤ”がどうして“否定”など出来ますでしょうか?!いいや!!出来ませぬ!!!!」


「一人称、“ジイヤ”になってるんですけど!?というか突然のキャラ変についてけないんですけど!?」


その“豹変ぶり”に、思わず相手が“老執事”ワイダーとはいえ、ツッコミを入れざるを得ない當真。


當真の言葉の後、一呼吸の後、ソファに“姿勢正しく”座り直し、ワイダーが口を開く。


「すみません。つい、取り乱してしまいました。」


「感情の温度差よ?・・・・はぁ。なんとなく、状況は分かりましたけど。でも、ワイダーさんが無理なら、病院の人にでも事情を話して、見ててもらうとか?してもらったらいいのでは?」


「病院の方々にももちろん協力はお願いしたのですが。やはりあちらも“本業”のお仕事が在る中で、四六時中“お嬢様”に付きっきりという事は難しいのです。そして、それ以上に問題なのがー」


ワイダーは言葉を止め、一呼吸、當真と視線を合わせ、


「“お嬢様”の前では、いかなる“予防対策の行動”をしようとしても、全て“無駄”になってしまうのです、そして“お出かけ”した先でも、我々の捜索の手から逃げられてしまう、そう、“お嬢様”の“魔法”によって」


「“魔法”?」


ワイダーは再び写真を當真に差し出し、そして改めて告げる、



「はい。“お嬢様”の“魔法”は、『“未来”を見る“魔法”』。“だからこそ”、當真様、お願いします。どうか“お嬢様”の“魔法”に“嫌われて”、『お出かけをする“お嬢様”を見つけて、無事に我々の元まで送り届けて』頂きたいのです!!」


「・・・『未来を“見る”』、“魔法”?」



それは。“魔法”の在る世界の少年の“日常”に届いた、写真に映る“ひとりの少女”に纏わる“依頼”。


白に近い銀髪。青”と“赤”の《オッドアイ》をその瞳に持つ少女。その“老執事”からの、“非日常”な“依頼”。


そして。


これが後に。當真にとって、その人生を懸けて果たすべき“命題オーダー”の、その“始まり”となるのであった。



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