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そんな魔法ならいらない  作者: door
Chapter 2 : PAST, PRESENT, and FUTURE
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#5 プロローグ⑤

春の日差しがまだ明るい、夕暮れ時よりも一歩手前の商店街の通り。


ファミレスでの地獄絵図から無事(?)に生還を果たし、だが、いまだにその余波で無気力状態な當真と、その隣を食後の“デザート”のち“お昼寝”を終えて元気溌剌なパレットが意気揚々と歩いていた。


「はー。でもあの人の“魔法”も凄かったよね?あんなに美味しくないパフェを、あんなに甘くしちゃうなんて!!料理系の“魔法”っていいよねえ!!」


「ご機嫌ですか?こちとら思い返すのも悍ましいくらいで・・・ヴッ?!」


思考するだけで、リフレインしようとしてくる味覚。當真は、思いっきり頭をブンブンと振りまわし、『過去』の“地獄”のような記憶そのものも吹き飛ばそうとする。そして


「・・・というか、まじで今後も気をつけなきゃだな。医療も、味覚も、下手したら、ありとあらゆる“魔法”の現象に“嫌われる”って事、だろ?・・・・・え、これ・・・・“魔法”使えるようになったのに・・・むしろ『ゼロ』の時よりも、俺、マイナスになってるんじゃ・・・?」


呟きながら、とある恐ろしい真実に導かれた自身の思考に対し、表情が曇っていく當真。


一方で、そんな當真の事など気にも留めず、通りに漂う商店街のお総菜屋さんの“良い匂い”に釣られ、吸い込まれるようにその歩みをお総菜屋さんに向けていくパレット。


「ねえねえ。ないと、今日の晩ご飯、コロッケにしようよ!揚げたて!美味しそうなんだよ?あ、こっちのメンチカツも、わ!こっちの甘辛肉団子もおいしそ・・・グヘェ!?」


「そんな!!余裕は!!我が家にございません!!!!!!!」


お総菜屋さんのショーウィンドウのラインナップに釘付けになるパレットのローブの首元を掴むと、そのまま引き摺るように帰路へと歩みを進める當真。


「パレットさん!!イイですか?さっきのファミレスで!!我が家の全財産は!!すでにゼロになってることを理解してますか?!」


「ええ!?あんなに美味しかったのに!?」


「美味しさは関係ねえし、むしろ俺にとっては一刻も早く消し去りたい『過去』の負の遺産でしかないんですが?!」


「ええ!?あんなに美味しかったのに!?」


「最速リピート配信するんじゃないよ?!」


「・・・・・はて?りぴいと?」


「ツッコミを!!深掘りするなよ!!恥ずかしいでしょうが!!!」


周囲の目など気にする余裕もない程にショータイムを道すがら繰り広げる當真とパレット。


そんな他愛もない時間、そして、ふと、この歩む道も“久しぶり”に感じてしまうような、どこか“哀愁”にも近い空気感を感じ、當真はようやく“入院生活”からの“日常”への帰還をその身にしみじみと実感していた。


と、同時に。待ち受ける直近の大問題にも、思考は再び辿り着く。


「とにかく!残り一週間の生活費というか主に食費がゼロになったんだ!一旦、家に帰って今後の作戦会議をー」


當真の会話の終わりを待たずして、二人は目的地に辿り着いていた。


商店街の外れの小さなビル。


一階は喫茶店になっており、その横の狭い階段を上がった二階部分。その扉に描かれているのは『當真探偵事務所』の文字。ここが當真の、そして今はパレットが居候している住居となる。


絶賛家出中の父親の仕事場が二階部分であるために、そこを素通りしてそのまま階段を上がる二人。


三階部分が住居スペースとなっており、その玄関前に辿り着くと、ようやく當真の慌ただしい心持も、少しだけ落ち着きを取り戻す。


(はぁ、とりあえず久しぶりの我が家だし、今日と明日はゆっくり休んで・・・いや、まあ、生活費問題もあるし、来週からは学校も復帰か・・・・・だめだ、ゆっくりしてる場合じゃ・・・・)


「・・・一旦、家の中入ってから、ちょっと休憩してから考えよ・・・おい、パレット、“鍵”持ってるんだろ?開けてくれよ?」


「あぁ・・・うん。うん、はい、」


「?」


當真の声に、少し目を泳がせながら、首に掛けたチェーンを取り出し、家の鍵を手にするパレット。


「・・・あのね。ないと、」


ガチャリ。


「・・・・・・・・・・“怒らない”で、ね?」


「・・・は?何言ってんー」


開かれた、扉。懐かしく思える、我が家の“匂い”、そして歩みを進めると、そこに拡がるのは、



荒れ果てた大地(散らかり放題のリビング)、だった。



・・・・・開いた口が塞がらないまま、目の前のリビングを見渡す當真。


出しっぱなしのパジャマらしき服、使いっぱなしのバスタオル、テーブルの上の食後の容器及びペットボトルの山、読みかけの漫画(當間の私物)が四散し、


そう、まさに、イメージそのまんまの、“片づけが圧倒的に出来ない人間の部屋の末路”が、當真の視界にあっという間に拡がっていった。


「・・・・・パレットサン?」


「・・・・・ハイ」


「コレハ、ドウイウコトデスカ?」


「・・・・・あのう。ああ、きっとこれはあ、誰かが“魔法”を、使ってえ、部屋の掃除が出来なくなってしまった・・・とか?」


ゴンンンッッッッ!!!!!!!


「アイタッッッッ!!!!?」


「そんな“魔法”ならいらない」


後ろから摺り足で當真の隣に寄り添って“言い訳”にもならない言い逃れをしようとする金色の少女の頭を、冷静な一言と同時に左手で勢いよくチョップする當真。


「ひ、ひどい、ないと!?可憐な幼子レディの頭をぶつなんて!?」


「男女平等チョップです!!あと!!悪い事した自覚が在るのに言い訳しちゃうヤツは幼子でもレディでもねえし、というか幼子レディなんて言葉聞いた事ねえ!!」


「こ、コンプラ違反、だ!!ハ、ハラスメント、だ!?」


「何がだ!?いらん言葉とか知識ばっかりウロ覚えして使うんじゃありませんっ!!というかどうやったらこの期間でこれだけ部屋を汚く出来るんだよ!!?ほら!!早く掃除機とゴミ袋持ってこい!!大掃除するぞ!!」


「ええ!?ないと、晩ご飯はー」


ゴンンンッッッッッ!!!!!!!


二度目の男女平等チョップを合図に、退院早々に自宅の大掃除を課せられる當真と、空腹に泣きながら渋々掃除を手伝うパレット(元凶)であった。



二時間後。



春風が夜風に変わり始めたころ、ようやく、當真は二週間前の我が家の全貌に再開する目途がたち、満足そうに額の汗をぬぐう。


「はー。だいぶ片付いたな。一度掃除始めると、細かいところも気になりだしてくるけど、ここまでやれば気持ちもだいぶスッキリだな」


ひとまずタオルや衣服を洗濯機にぶち込み、捨てきれていなかったゴミを片付け、部屋中を掃除機で掃除する。出しっぱなしであった書物類も全て元の位置に戻したし、これで



ドシッッッ。



「なっ!!?」


「なーいーとー。おーなーかーすーいーたー。」


一息つくために、リビングに腰をつけた當真の背中越しに、パレットが全体重をかけながらおぶさって、うなだれ始めた。


というよりも、それはほぼ“バックハグ”している状態である。


パレットには他意はないし、生まれ育った文化の違いもあるのだろう。その行為に、なんの恥じらいもないし、そこに何か感情が在るとすれば、“言葉の通り”、“食欲”だけであろう。


ただし。


不意打ちであることを差し引いても、客観的に(黙って)見ている限り、“美少女”に該当する異国の“女の子”に、背中越しに距離をゼロにさせられることに対して、一応華の思春期謳歌中の男子高校生、當真 夜からすると、意識しなくとも心臓の鼓動が早まってしまう理由でしかない。


「ないと。もうお掃除も頑張ったし、晩ご飯にしようよ?ねえ?」


耳元で囁くように(全く意図せず)、パレットがその顔を當真の顔の近くまで寄せてくる、パレットの金色の髪が靡くように當真の頬に触れー


「ーん?ないと、なんか、かお、あかく・・・」


「なあああああああいいいいいいいっっっっっっっっ!!おいしょおおおおおおお!!!!!!!」


“堪らず”、豪快な背負い投げ(モドキ)を発動し、リビングに置いてあるクッションにパレットを投げ放つ當真。


「グヘェ!!!!」


「“ない”!!!!あ、ば、晩ご飯の、話な?その、すっかり忘れてたけど、ウチの冷蔵庫、“空っぽ”って言ってた、よな?パレット?」


“”照れ隠し”をしたと同時に、一気に現実を思い出し、焦りながら声を上げる當真。


一方のパレットの方もその現実に直面し、勢いよく跳びはねる。


「そ!そうだった!!」


勢いよく台所の冷蔵庫に駆け出すパレット。一呼吸、冷静さを取り戻し、その後を追う當真。


二人が並んで冷蔵庫の前に立ち、パレットがおそるおそる、その手を冷蔵庫に伸ばし


「・・・ないと。なにも、ないんだよ・・・?」


「いや、何を今さら?というかパレットは知ってたはずだろ?なんだその初見のリアクションは?」


冷静にツッコミを続けるも、実際のところ當真自身も、自分の家の冷蔵庫の中身が“ものの見事に空っぽ”な状況は、記憶の在る内では初体験で在った為、自分の視界に映る景色に驚きを隠せない。


「ほんと“魔法”がかかったみたいに、見事に“空っぽ”だな・・・」


「ねえ?ないと?もしかして、今日の晩ご飯は・・・ナシとか言わない、よね?」


「・・・・・少なくとも、お前が朝の時点で、全部ごはんを食べきったり、昼間のファミレスのパフェ騒動がなけりゃ、今日は乗り切れたんだけどな・・・・・つまり、“ナシ”だ」


「※▽×〇?!#%&!!!!!!!」


言葉に成らない絶叫と共に泣き喚きながら、ポコポコと當真を殴打しだす、この事態の元凶少女、パレット=セブンデイズ。



と。當真の脳内に、“救い”の閃きが辿り着いた、



「・・・・あれ?そう言えば、“事務所”の方に、お客様用の菓子とかあった気が・・・・・」



それは、自宅兼職場だからこそ、起こり得た“奇跡”のようなものだった。


父親の仕事柄、依頼人との契約の際に出している、茶菓子などのストックを、それこそ“そっち側の管理”も何もしない父親に代わって當真が一任されており、ゆえに、當真の思考が“そこ”に辿り着いたのだ。


「・・・カステラと、饅頭が確かあったような・・・」


「カステラアアアアアアアマンジュウウウウウウウ!!!!!!!」


「いやいや待て待て待て!!!!?お前、事務所のどこにあるかも知らねえだろ!?というか事務所の“鍵”もー」


奇声を発するように叫び声を上げながら、駆け出す金色の猛獣、パレット=セブンデイズに、最早當真の声は届いておらず。


食に関わった瞬間に発揮する、この瞬発力、ある意味“魔法”のように思えて仕方ない程の迫力を目の当たりにした當真。


居住スペースを飛び出し、ドタバタと階段を駆け下りるパレットの足音を辿るように、玄関先の鍵置きに置いてあった“事務所の鍵”を持ち出し、當真も外に出て階段を下りていく。


春先とはいえ、まだ少し肌寒い夜風が、階段下から吹き込んできて。


ここ二週間近くを、限定された空間で過ごしていた當真にとっては、慣れ親しんだ風景の中での季節を感じられるそうした瞬間が、どこか、とても居心地のいいもので。


階段を下りながらも、“日常”への帰還を、當真の心が喜々と感じ取っていた、


「パレット、そんな慌てなくても、カステラと饅頭も逃げないって・・・え?」



階段を降りきる、探偵事務所の入り口の扉の、その一歩手前。


當真の目に映ったのは、事務所の前で待ちぼうけするパレット



『だけ』ではなかった。



不思議そうに眺めるパレットの側に。



一人の“老人”。



“黒”の燕尾服を着た、小柄な、ただし醸し出すのは、“落ち着き在る空気感”を纏った“執事”のような、一人の老男性が、そこに佇んでいた。


そして。當真とパレットに目を合わせ、その“老執事”は、ゆっくりと言葉を紡ぎ始める。



「夜分遅くに失礼いたします。當真様、とある“仕事”の依頼を、お願いしたいのですが?」



春の夜風が吹く、帰還した“日常”の先で“老執事”に告げられた、それは“始まり”の詩。



こうして、“魔法”の在る世界で、少年の“日常”は、再び“非日常”の物語の続きを、紡ぎ始めた。



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