#6 ハイド アンド シーク①
翌日。
當真の目の前に拡がるのは、一日ぶりの国立病院、
の、裏門の近く。
大きく開かれた玄関口となっている正門とは違って、人通りも少なく、どちらかと言えば病院内の職員などの通用口などに直結するような閑静な場所。
国内でも有数のこの国立病院は、敷地面積だけでも全国二番目の広さを有する大病院であり、當真自身もこの病院には“よく”お世話になっている方なのだが、裏門近くのこのエリアに足を運ぶことはなかった為、周りの人けの無さも相まってか、どことなく“肌寒い”ような、モノ哀しい感覚に全身包まれていた。
の、だが
「ねえねえ。ないと。今日の“ばいと代”の“お昼ごはん”は、何だと思う?わたしね、きのう、この“一週間”分のラインナップを考えたんだけどね。発表していい?ねえ?」
「しーッ!!パレット、声がでかいっ!!あと発表しなくていい!!と言うか、さっき“一食目”の今日の“バイト代”で“ホットケーキ”食べたばっかりだろ?!ほんとお前の頭の中はそればっかりだな!?」
そんな静寂を吹き飛ばすように、當真の隣からウキウキで“本日のバイト代”ならぬ“三食”の続き、及び“一週間分の食事のラインナップ”を発表しようとするパレット。
その会話も然り、當真とパレットも“普段していない”眼鏡(度は入っていない)をしていたり、服装も見慣れた服装ではなく、どこか落ち着いた色合いの“用意された”服をそれぞれ身に纏っている。
そして、二人とも“なるべく人目につかないように”、今は病院の裏門近くの休憩スペース、そこにいくつか置かれたベンチの内のひとつに腰を掛けて、視線を裏門周辺に光らせていた。
二人の会話、そしてここまでに至る“それらの経緯”の真相は、数時間前に遡る事で判明する。
※※※
『・・・『未来を“見る”』、“魔法”?』
少年の言葉に乗る感情は、“疑問”半分、“驚愕”半分と言ったところであった。
実際、“それ”が事実なので在れば、空想や創造の世界に近いような、まさに『奇跡』のような印象を抱かせるものだったからだ。
“魔法”が生まれる前の世界から、数多の『奇跡』と称される現象の中でも特に、『時間』という目に見えない、ただし全人類に共通する『概念』に関わるものは、当たり前だが、人類が生来そこに干渉出来うるものとしては捉えられていなかったからだ。
“魔法”が世界に生まれてからも、“それ”に該当する“魔法”というのは“稀”であり、“見つかり方”によっては、世界の話題の中心になってもおかしくないような“魔法”なのである。
『はい。“お嬢様”の“魔法”は、『“一度でもその手で触れた人間”であれば、“お嬢様”が意識するだけで、その人物の近い“未来”を見ることが出来る“魔法”』なのです。それゆえに、私や病院の方々も含めて、“お嬢様”に近しい人間は、すでにその“魔法”によって、どのような行動を起こそうとしても、“お嬢様”にはその『未来』の行動が“見えて”しまっているのです』
『いや、めちゃくちゃファンタジーの世界じゃないですか!?『未来視』が出来る“魔法”なんて、それこそ、『レベル・2』の“魔法”だし、世界中の“話題”になってもおかしくないはず・・・でも、そんな凄い話、ここ最近じゃ“聞いた事もない”んですけど・・・!?』
そう。“魔法”が在るこの世界において、これだけの“稀”なケースであれば、あっという間に世界中の注目を集める話題になってもおかしくないのが、現実である。
だが、実際のところ。少年は“老執事”の話を聞くまで、そのようなニュースや話題に関して、耳にも目にもしたことはなかった。
ただし、その“理由”は、“老執事”の言葉によって、すぐに明白となる。
『それは、“お嬢様”に“魔法”が発現したのは、つい最近の事だからです。“魔法”自体も“個々によっての振れ幅”があったり、“使いこなせていない”ところも見られますし・・・それに何よりも“お嬢様”の“安全”を考慮して、私が“お嬢様”に関する“情報”に関しては、“全力”で“秘匿”にあたっておりますので』
神妙な面持ち、丁寧でも力強いその“老執事”の言葉に、少年も思わず身が引き締まるような感覚になる。
(すごいな。この人、本当に“この子”を守る為にー)
『だって!!この“魔法”のせいで!!世界に“お嬢様”の“可愛さ”が見つかってしまうと!!きっと“お嬢様”は世界中に“チヤホヤ”されてると勘違いしてまうし!!そうなったら“ジイヤ”の事なんか!!きっと相手にしなくなっちゃうから!!!!』
『・・・何を大声で言ってんだ、この人?』
豹変する“老執事”に対し、思わず冷たい視線を向ける少年。
その冷たい眼差しに気づいたのか、“老執事”も咳ばらいをひとつ、
『コホン。失礼しました。“少し”また、取り乱してしまったみたいで、』
(“少し”ではないし、うん、それにもう分かった。この人も“ちょっとおかしな”人だ)
少年の中での“認識”が無事に定まるころ、“老執事”は本題の続きを切り出す。
『“お嬢様”は昔から“かくれんぼ”がとても大好きで得意な方で、と言いますか、この“魔法”が発現したことによって、より“好き”が加速しておりまして。病院を抜け出しても、我々の行き着く先をことごとく避けるように逃げられ・・・いや、“お出かけ”をされますので、私どもも“お嬢様”が日中、“どこ”で“何をしている”かを、まるで掴めていない状況なのです』
『んー。あの、例えばですけど、ほら?小さい子どもの為のGPS機能付きのスマホとかを持たせるみたいな、“何してるか”は分かんないにしても、居場所くらいは把握しようとすれば出来るんじゃ・・・?』
少年の提案は、“魔法”の在るこの世界であるという事を抜きにしたとしても、とても建設的かつ理に適った提案であった。
現状で、その“魔法”を使って“お出かけ”するという行動はしつつも、夜間には“ちゃんと”病院に戻っては来ているのだ。“何をしているか”は分からずとも、居場所さえ把握しておけば、そこまでの大きな問題にもならないはず。
その思考の先の、少年の提案であった。科学や時代の進歩の先、現代では一般の人間でも、容易にそうした“追跡手段”をとることはー
『なりませぬ!!“お嬢様”のプライバシーの尊厳を守るのも!!この“ジイヤ”の務めゆえ!!!!』
『いや、まじでもう、何言ってんの?“お嬢様愛”が強すぎて、いろいろと支離滅裂してません?!』
『“ジイヤ”は!あんなに可愛い“お嬢様”に“そんなもの持つわけないでしょ?”と言われた暁には!GPS機能付きのスマホなど!!すぐに捨ててしまうのですよ!!』
(あ、もう実践済みなのね。ほんとダメだな、この人)
少年は思わず溜息ひとつ、そして息巻くように“お嬢様愛”を語る“老執事”を眺め、その“愛の重さ”に似た景色を、少し遠い『過去』の自身の景色へと、照らし合わせていた。
(・・・・・でも、まぁ、それだけ“大切”に想ってるんだろうな)
『ここまでお話しした通り、私どもは、現状手詰まりの状況なのです。“お嬢様”の事を絶対的に信頼しておりますが、あの方の“お転婆さ”に関して、決して“何をしでかすか”に関しては絶対的に信用は置けません。もし、我々の目の届かない“瞬間”に“何か”起きてしまってはと思うと、気が気でないのです、』
“老執事”は、至って真剣な表情で、まっすぐと少年に向き合い、言葉を紡ぐ。
『そんな状況の中で、病院で新待先生からお話を聞き、ぜひともお力添え頂けないかと思い、ここまで参った次第であります。どうかこの“願い”、聞き入れて頂けませんでしょうか?』
どんな状況であれ、その姿勢、その言葉を見せられて。
少年には、“黙って見過ごす”という選択肢はなかった。
『・・・あの、分かりました。引き受けますよ』
『っ!!本当でございますか!?』
『でも“依頼”なんて、ちゃんとした形ではなくて。俺、個人の“想い”で動くだけですよ?出来る事は全力でやりますけど、『當間事務所』として動くわけではないので、その、もし上手くいかなかったとしても、ウチの悪評とかにしちゃうとかは、ナシでお願いします、ね?』
少年は“一線”を引く、その“看板”に万が一にも“傷”をつけぬように。
“当人”が“絶賛家出中”という破天荒な事をしているにも関わらず、そうした“気遣い”が出来るあたり、少年の“ソレ”を育んだ者の功績は、かなり大きいと言えるだろう。
『ありがとうございます。もちろん!何がっても、こちらの事務所にとってマイナスになるようなことは一切いたしませんし!“対価”に関しても、しっかりとお支払いさせて頂きます。新待先生からご紹介いただいた際に、少しお話を聞いたのですが、何やら“金銭的”にも少し“お困り”のようでしたので、“アルバイト”としてお願いすれば?とのお言葉を頂いておりまして、』
『!!!!』
“老執事”の言葉に、一瞬にして思い返されたのは、少年と、その隣で眠る金色の少女にとっての“現実的な問題”(一週間分の生活費ゼロ問題)。
その絶望を救う光が、今、少年の目の前の“老執事”によって神々しく差し出されていた。
(今の今まで!変な人紹介してきたと思ってたけど!グッジョブだよ新待先生いいいいいいい!!!)
思わず、“老執事”の目に映らないように少し背を向け、両手ガッツポーズを小さく行う少年。
『あのう、どうかされましたか?』
“老執事”の、言葉に。勢いよく振り返り、少年は“迷うことなく”、言葉を告げる。
“老執事”の想い、願い。それはもちろん、しっかりと受け取った。
そして、(何よりも)、少年には譲れぬ想いが、(当面の生活費)、あったから!!!!!!!
『その“依頼”!!!ぜひお任せください!!!!』
※※※
これが、當真とパレットが、『“お嬢様”との“七日間のかくれんぼ”』という“アルバイト”を引き受けるにまでに至った、経緯の一端である。




