#3 プロローグ③
案内されるがままに、ファミレスの店内へと入り、隣り合わせで席に着く當真とパレット。
程なくして、先程の女性店員が二人の前に“とある”モノを持ち運んできた、
「お待たせしました。こちらが今、ウチの店の『魔法キャンペーン』で行っている、【巨大“激マズ”パフェを選ばずに喰い尽くせ!!挑め!!スーパービッグパフェ】で、ございます!!」
ドン!!!!ドドンッッッ!!!!!!
それは、2つの巨大なパフェだった。
従来の、グラスに生クリームやアイスクリーム、たくさんのスイーツやチョコレートなどがお洒落に着飾れたような、誰しもがイメージするパフェ・・・
『ではない』。
グラスでなく、平べったい割と大きめの“中華皿”のようなものに、分厚いホットケーキが三枚、その上に致死量と言わんばかりの生クリームの山、さらにチョコケーキとクッキーが乱雑に散りばめられ、フルーツも従来のイメージするパフェのおおよそ“三人前”はあろうかと言わんばかりの量が、剣山に大量に刺さる針のようにトッピングされ、そして中央に聳え立つ大盛りの虹のような色合いのアイスの塊が、まるで五重の塔のような存在感を神々しく放っている、
そんな、いまだかつて見たこともないような、果たしてパフェと言っていいのかも分からないスイーツが、【二つ】、當真とパレットの前に並べ置かれた。
「・・・・・あのう、これって・・・」
「わーーーーい!!!ないと!!!!パフェ!!この国のパフェって!!!こんなにおっきいの?え!!さいこうなんだよ!!!!食べていい?食べていい??」
「待て待て待て。パフェとは言わねえよ、こんなの糖分の化物だよ?というか、こんなバカデカスイーツ、間違って食べきったとしても、そんな代金支払えるわけないだろ?」
意気揚々と食欲全開で満面の笑みを見せるパレットに対し、その見える景色全てに“恐怖”と“混乱”と“疑問”の感情を露わにする當真は冷静に制止を促す。
しかし
「“無料”ですよ?ちゃんと“制限時間”内に食べきれたら?“5分”ですけど?逆に食べきれなかったら、参加費として千円頂きますが」
「ないと!!!タダだって!!!しかも“5分”なんて余裕なんだよ!!!」
「いや無理だろうがッ!?無限食欲なの、パレットさん!?」
「え?だってスイーツだよ?別次元なんだよ?」
「その格言やめてくんない!?恐怖なんだけど!!?というか、万が一お前が大丈夫でもな、俺は一般男子高校生なのでね!!無理です!!!お前の人間離れした食欲と一緒にしないでくれる?!“腹ペコモンスター”さん?!」
「にゃにおおおおおお!!!????」
ギャーギャーとお互いの譲れぬ想いをぶつけ合い(というか痴話喧嘩のようなもの)、騒ぎ立てる二人の会話に、女性店員がにこやかな笑顔で切り込む。
「ふふふ。大丈夫ですよ?食べきるのは“どちらかひとつ”で大丈夫ですし、ふたりで協力していただいても大丈夫ですから?」
女性店員はこのファミレスの『魔法キャンペーン』が載ったチラシを両手に持ち出し、微笑みながら二人に見せるように告げる。
思わず、取っ組み合いをしていた二人も、女性店員のその言葉に同時に視線を向け直す。
「ないと!!これはもう!!絶対大丈夫なんだよ!!わたしひとりでも大丈夫だけど!!ふたりで協力なんだよ?」
「待て待て待て。どう考えてもおかしい、きっと何かー」
女性店員の持つチラシを凝視し、そして、當真は“ある一点”と、巨大パフェを持ち出してきた際の女性店員の言葉を思い返す。
「あのー、この、【激マズ】ってのは、一体・・・?」
そう。それこそが、このキャンペーンの【鍵】であるのは、言うまでもなかった。
當真の言葉に、急にテンションを上げ、謳うように説明を始める女性店員。
「フッフッフッ。それでは説明しよーっ!!そこに記載している通り、今あなた達の前に並んでいる、美味しそうなビックバフェですがー」
(美味しそう、か?)(わくわく!!!!)
「見た目に相反して、【一切の甘味】のない、むしろ味覚だけで判断すれば【不快感マックスの激マズ】パフェとなっています!!はい、試しに良かったら、一口だけ!!」
慣れた手つきで、小さなスプーンを取り出し、當真とパレットに差し出す女性店員。
「あ、本当に、【一口】だけにしといてくださいね?これ、フリとかではないですからね?」
不気味な程、冷静に告げられ、當真は半ば“恐怖”を、パレットは満面の“笑顔”で、お互いに手にしたスプーンで目の前のパフェの、生クリームを一口すくい上げ、ペロリ・・・・・・
「!!!!!!!!!???????????????」
當真は、言葉を失いつつ絶叫した。
見た目がパフェの、その生クリームを口にしたはずなのに、舌に触れた瞬間、かつて経験したことのないような【とてつもない苦み】と【不快感】が一気に爆発するような、感覚、どんなに食レポが上手い人でもきっと、【不味い】としか表現できない味が、そこにはあった。
どれだけの【不味さ】の破壊力かと言うと、この短い付き合いの中で、食に関するありとあらゆる好き嫌いを超越した存在、“食欲の王妃”(當間が今思いついた)であるパレットでさえ、あまりのその“苦さ”に、見たこともないような“蒼白さ”を、その表情に見せている程だった(もちろん當真と違い、それでもその味を堪能しようと“もぐもぐ”と吟味していたが)。
差し出されたグラス一杯の水を流し込み、當真は女性店員に切り出す。
「こんなの無理だろ!?どこに『魔法キャンペーン』の要素が!?地獄しかないんだが?!」
「いえいえ。ここからですよ?今から、私が、この二つの巨大激マズパフェに、“魔法”をかけますので!!」
そういうと、おもむろに両手を机の上の二つの巨大【激マズ】パフェに差し出す、女性店員。
両手をそれぞれ、二つのパフェの上にかざすと、女性店員は謳うように言葉を紡ぎ出す。
「『とっりく・おあ・とりーと』♪」
女性店員の言葉と同時に、両手の周辺が柔らかい光で包まれていき、その光がゆっくりと二つのパフェを丸ごと包んでいく。
「はい!これで準備万端です!私の“魔法”は、『スイーツに“甘さ”を付加する“魔法”』。これでこの【激マズ】パフェにも、極上の“甘さ”が付加されました!」
「ほうほう。ところで、なんで急に“ハロウィン”?」
「私が“ハロウィン大好き”だからです!特にそれ以外の意味はないです♪」
(この人、変な子だ)
目の前で起きた、日常に在る不可思議な“魔法”よりも、女性店員の方が気になってしまう當真。
対して、パレットは、目の前のスイーツが“ちゃんと”スイーツに成った事に、すでに満面の笑みでワクワクを抑えられないでいる、というよりもすでに食べ始めようとさえしていて、
「あ、待って待って!説明は最後まで聞いてね?・・・コホン。私の“魔法”で無事、【激マズ】パフェは【めちゃうま】パフェになりましたが、ただし、『どちらかひとつだけ』にしか“魔法”はかけてません!」
(あぁ、“そういうこと”か)
チラシの文言に目を向け、そして女性店員の言葉に、その先を推測する當真。
「これからお客様には、【どちらか】を選んでいただいて、選んだパフェを制限時間5分以内に完食できれば挑戦クリアとなります!成功すれば無料、失敗した場合は挑戦料として千円、そしてー」
女性店員が、スッと、自身の後方の店内の席の一角を右腕で指し示す。
そこには、五人ほどの男女が、各々【顔面蒼白】で苦しみ悶えテーブルに項垂れている、まさに地獄絵図の景色が広がっていた。
「“ああ”なります♪」
「地獄の結末っ!!?」
一度、その【不味さ】を体感したからこそ、それを口にする“恐怖”も“結末”も容易に想像出来た為に、當真の背筋に悪寒が走る。
(とても食べれる【不味さ】じゃない巨大パフェのインパクトに、“魔法”を使ったゲーム性を取り入れて・・・確かにインパクトもあるし、口コミとかでも広がりそう。でも、冷静に考えて・・・)
テンションが上がりっぱなしの隣人の耳元に寄り添い、當真は小声で呟く。
「・・・おい、パレット、二分の一で“ハズレ”だし、そもそも“アタリ”を選んだとしても、この量を5分って、やっぱり流石に厳しくないか?それに失敗したら、俺たちの場合は全財産なくなるっていう地獄の【未来】しか待ってないんだぞ?」
「ないと。心配しないで?そんな【未来】、こないんだから!」
「!?」
「わたしに任せて大丈夫なんだよ!ふふふん!」
「??」
當真の心配を他所に、鼻唄まじりに、すでに手にしていたフォークとスプーン(両手持ちスタイル)を一旦テーブルに置くパレット。
「それじゃあ、どちらにしますか?」
「うん。あ、お姉さん。挑戦の前にちょっと、お願いがあるんだけど?」
「はい?」
ストップウォッチを片手に構える女性店員に、パレットは“両手”を差し出し、上体を僅かに傾けて、聞き“耳”をたてるような姿勢を見せる。そして、
「“握手”。してもらっても、いい?」




