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そんな魔法ならいらない  作者: door
Chapter 2 : PAST, PRESENT, and FUTURE
34/64

#1 プロローグ①

「そうねえ?今日の午後、退院してもいいわよ?“ナイトちゃん”?」


国内でも有数の大病院の、とある病室にて。


開けた窓からは、陽気な日差しと心地よい春風が吹き込んでくる、“とある闘い”から“二週間”経った、“日常”のある日の午前中。


腰元まで伸びたウェーブがかかった黄金色のロングヘア―と、端麗な顔立ちに丸眼鏡、そのスタイルの良さからは、とても大病院の優秀な女医とは思えない様子の白衣の女性、新待あらまち トネリは、自身の担当である、黒髪の少年、當真 夜(とうま よる)の問診を終えると、軽やかな口調で“それ”を告げた。


「退院!!しかも今日の午後!?本当ですか!?新待先生?!」


生まれてから記憶のある内で、公式の長期休みを除けば初めての“長期休暇”となってしまった“入院生活”の終わりを告げられて、當真のテンションはこれまでない程に上がっていた。


「あらあら?嬉しそうね、ナイトちゃん?そのテンションの勢いで、私の事も“トネリちゃん”先生って呼んでくれてもー」


「いや、呼びませんよ?息子の入院生活も放任して家出してるようなバカ親父とは違って、俺はちゃんと常識をわきまえてますので、ね?」


医者とは到底思えないほどに距離感が近すぎるトネリに対し、間髪入れずに切り返す當真。


「あらあら?残念、今のテンションならいけると思ったんだけど?」


「いやいや。というか、なんでそこまでして名前で呼んで欲しいんすか?一応、医者と患者でしょう?」


「あらあら?あなたたち“親子”は、いつも“イザコザ”に巻き込まれて、これまでも何度も治療してきてあげた仲でしょ?今さらそんな冷たい事、言っちゃうの?」


どちらかと言えば“綺麗”と形容できるトネリが、ふいに見せた“愛嬌ある”ウインクと共に、過去の確固たる“事実”を引き合いに出してきた事に対し、言いようもない恥ずかしさと同時に、ぐうの音も出ないままの當真。


「・・・・・それと、これとは、そのー、話は、別っすよ?」


「あらあら?照れちゃって、可愛いこと?(笑)」


(くっ、だめだ、やっぱりこの人のこと、苦手だ)


「でも、ナイトちゃん、やっぱり“魔法”が発現しちゃった“せい”で、旧医療しか出来なかったから、なかなか時間かかっちゃったわねえ?わたしの“患者”さんで、こんなに“長い”期間、入院した人なんて、“久しぶり”だったわよ?」


問診カルテを記入しながら、こちらに“不思議そうに”視線を向けるトネリ。


その言葉の真意を、當真自身もよく理解していた。


“魔法”がこの世界に生まれた“あの日”から、科学と医療の分野は一際、その恩恵を授かっており、医療現場においては、もはや“旧世界”の医療とは比べられない程の成果を、“魔法”は生み出していた。


それは。高レベルの医療“魔法”を有する、この大病院も然り。


よほどの“重症”でない限り、どんなに“重傷”であっても、“通院”に留まるケースがほとんどであり、當真のように“重傷”であって“二週間”近く入院するケースなどは、今の“魔法”の在る現代では、極めて“稀”なケースだったからだ。


「俺も、自分がこんな入院生活送るなんて、“夢”にも思ってなかったっすよ・・・“あの日”までは」


トネリの言葉を受け、この二週間の療養生活で“幾分か”和らいだ全身の“痛み”と同時に、二週間前の出来事がゆっくりと當真の中で思い返されていく。


「やっと、『ゼロ』じゃなくなったと思ったら、“結果”としてこうなってるし・・・でも、まあ、それでも、その“おかげ”で手にしたものもありますからね、」


無意識で、握っていた右の拳を見つめる當真。


『ゼロ』でなくなった“あの日”。その手にしたものは“魔法”、そしてもうひとつ。


當真が思い浮かべたのはー



ガラガラガラガラ。



ふいに。病室の扉が、勢いよく開かれる。


當真とトネリの視線が、その音に反応するように、同時に視線を病室の入り口と向ける。



そこには、ひとりの少女がいた。



當真よりも一回り以上小さい体つきに、腰元まで伸びた金色のロングヘア―。修道院で見かけるような白いローブを身に纏い、首元にはチェーンを通した鍵をぶら下げている。


春の日差しさえも透き通るような雪肌のような透明感もある白い肌、そして体格以上に小さく思える顔の半分近くも満たしそうな程大きくぱっちりと開かれた瞳は、宝石のように光り輝く青色で。


そんな、一言で形容するならば、まさに“美少女”ー



「ないと!!“わたし”の“今日”のお昼ごはんは!!なに?!!」


「まだ午前中だし、そもそも入院食は俺のだし?第一声、おかしくない?パレットさん?」



いや、“常時絶賛空腹少女”こと、パレット=セブンデイズである。



そして彼女こそが、『持たざる者』である『ゼロ』であった當真が、その手に“魔法”を手にする“きっかけ”となった、“金色の少女”。



「あらあら?パレットちゃん、今日も“相変わらず”元気そうね?」


「あっ。トネリちゃんだ。こんにちはー。」


「いや、なんでもう“名前”呼びしてんの?なかよしなの??」


自分自身には到底出来ないような、パレットの圧倒的な距離感の縮め方に、感嘆にも似た疑念をぶつける當真。の事など、気にも留めず、當真のベッドの側までスキップで近寄ってくるパレット、そして


「トネリちゃん。今日のお昼ご飯は、なんですか?」


「お前、ほんとそればっかり!?俺の見舞いに来てくれたんじゃー?」


「ないと!!だって!!もう!!“家”の“冷蔵庫”!!からっぽなんだよ!!!!!!!」


「ッ!?なんで?!この間、二週間分の“なけなしの食費”、渡しましたよね!?あれだけ節約しろって忠告して渡しましたよね俺!?パレットさん!?ねえ!!?」


鬼のような形相で即レスポンスを見せるパレットに負けぬ程の早さで、ツッコミを返す當真。


「ちゃんと!節約したもん!!すーぱーでも半額のお弁当買ったりしてたし!!ちゃんと一日“四食”にしたもん!!!!」


「節約の概念、迷子なのっ?!!!!」


威風堂々と“言い訳”をしない金髪の少女、パレットに対し、寝ぐせのようなクシャクシャの黒髪を両手で掻きながら、心からの叫びをしっかりと声にする當真。


静かな病室が一瞬にして賑わうような、そんな二人のやり取りを眺めながら、クスっと微笑み、トネリは二人の会話に介入する。


「ほんと仲良しねえ?でもパレットちゃん?ナイトちゃん、今日の午後一番での退院が決まったから、お昼の入院食、多分もう出ないと思うけど?」


「えっ!!?それは!!困るんだよ!!!お腹空いちゃうのに!!?」


「困るなよ?!ねえ!!ようやくの退院をまず祝うべきでは!!?」


「そっか。うん。そうだね、」


少しだけ、神妙な面持ちで俯くパレット。そして、顔を上げ



「ないと!!退院祝いで!!今日はご馳走だね!!わーい!!!」



何よりも幸せそうな、少女の、その“笑顔”を見て。



諦めたように溜息ひとつ、でも、心が優しい気持ちで満たされていくのを、當真は同時に感じ取っていた。微笑み、優しく言葉を少女に返す。


「・・・金ねえから、ファミレスでドリンクバーとフライドポテト、な?」


「ないと!!!!?????ご馳走はっっっっっっっ!!!!!????」


金色の少女の悲痛な(食への)叫びと、少年の笑顔。


そんな二人の、他愛のない“日常”。



“魔法”の在る世界で、今日もそうした“日常”が、ゆっくりと進んでいく。



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