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そんな魔法ならいらない  作者: door
Chapter 1:The Golden Fateful Encounter
27/64

#21 守るモノ×壊すモノ⑥

目の前に、拡がっていく、黒の中の廃れた、ナニカ。


それが。


廃墟と化した倉庫の天井だと認識する為に要した時間は、ごく僅か。


そして。


自身が地面に倒れているのだと、ようやく思考が追い付いたのも、時間にすれば一瞬。


だが。


駆け巡るのは、言葉では理解できない、感情。



「・・・どういう事、だ、」



痛み、と共に、掠れたような声が、静寂を切り裂く。



「なんで、“俺”が、倒されてんだァ?“クソ野郎(ヒーロー)”によォォォォォォォッ?!」



言葉が、声が、叫びに変わる。それは、ありえないはずだった“結末”。


亡霊の、アイド=ゼクスブリックの不可思議な咆哮。


懐かしささえ感じるほどの、その“痛み”は自身の顔の中心から来ており、右手をそこに持っていくと、赤い血がー



「はぁ、はぁ・・・当たった・・・」



対称的に。


右の拳を突き出したまま、肩で息をしながら立ち竦む少年、當真にとっても、自身の目の前の景色に対しては驚きを隠せなかった。


亡霊、怪物、化物。


そうした安易な言葉でしか形容できなかった、そんな“非日常”な相手、アイド=ゼクスブリックに対して、本来であれば當真に勝機などは一縷も存在していなかった。


それは変えようもない、ただの現実で事実。


実際に、つい直前の攻防に至るまでに、當真の拳がアイド=ゼクスブリックに届く可能性は、限りなく“ゼロ”に近かった。


ただし。


それは、當真が“一人”で、アイド=ゼクスブリックに対峙した場合、だ。



「・・・チッ、クソ、が、」


ゆっくりと体を起こし、自身に巻き付くような鉄臭い赤の塊を払い、舌打ちをするアイド=ゼクスブリック。


これまで以上の明確な殺気を、目の前の『ゼロ』に対し向けつつも、直前の邂逅を振り返る。


いや、正確には秒速の世界の中で起こった事象を振り返る。


数回の偽装の過程を織り込んだ白銀の亡霊は、その過程に対し追いつくどころか、むしろ視界すらも閉ざしていたヒーローの姿を、確かにその眼で捉えていた。予想していた“躱す”という防御姿勢の片鱗すら、そこには皆無だった。


だからこそ、決まったはずだった、終わったはずだった。亡霊の、伸ばした“右手”が、ヒーローの首元へと伸びた、その瞬間ー。



「・・・マグレは、何度も起きねェぞ?ああァンン!!?」



ミシリッッッ。



怒号と共に、再び一歩を踏み出し、“消える”アイド=ゼクスブリック。に対し、真正面を見据え、その拳を握る當真。


もはや、偽装の過程を織り込むことさえしない、単純な速さの暴力が、當真に向けられる。


秒速の世界、伸びる亡霊の“右手”。それは、當真の左側面からー



「ないと!!左!!!」



「おおおおおおおおおおっ!!!」



「ッ!!!?」



ゴッ、ガガンッッッッッッッ!!!!!



パレットの声、それとほぼ同時に、當真の叫びを乗せた右拳が振り切られる。


両雄の激突の最中、その一手が届いたのは、迎え撃つ當真の拳だった。


減り込むような、鈍い音、衝撃がアイド=ゼクスブリックの右の二の腕に、響く。


それは、繰り返された事象。


直前の攻防と、まるで同じ展開、


アイド=ゼクスブリックの手が伸び切る手前、パレットの“叫び”に呼応して、當真が拳を振り切る。


そして、ここまで微塵も届かなかった當真の拳が、この短時間で二度も亡霊を捉える展開。


一歩を一瞬にして、當真から距離を取るアイド=ゼクスブリック。


その腕に受けた衝撃、それ以上に彼を困惑させたのは、ひとつの“疑念”。


見据えるのは、誰が見ても満身創痍ながらも自身に立ち向かってくる少年と、そして、その奥で自身の蟀谷に手を添えながらも、こちらに睨みを利かせる金色の少女。


(あのガキ、俺の“動き”を読んでやがるのかッ?!いや、それ以上に・・・)


アイド=ゼクスブリックは、久しく感じる事のなかった“熱量”が、自身の内側から込み上げてくるのを感じた。


それは、決して“畏れ”ではない、“焦燥”に近い感情。



ミシリッッッ。



自身の“疑念”を払拭するかのように、アイド=ゼクスブリックは踏み出す。


最早、常人の目には映らないその姿を、言うまでもなく當真の視界も捉える事など出来てはいない、


のだが、



「ないと!右!正面!!後ろ!!!」



ガッ、ミシリッ、ガキッ、ミシリッッ、ガガガッ、ミシリッッッ。



パレットの“声”、瞬時に呼応する當真の身体、そして繰り出される拳。


その“全て”が、アイド=ゼクスブリックの行き着く居場所、その“一歩前”には、そこに在った。


同じ轍は二度は踏まない、瞬時にその拳を直前で躱し、二手三手先まで消え続ける亡霊。


そして、その姿を完全に先読みする少女と少年。


アイド=ゼクスブリックは、一切のダメージを負うことなく、ただただその“焦燥”に圧迫されていく。



(動きを読まれてる“のは”問題じャねえ、)



ミシリッッッ。



最速を求め、亡霊は自身の右脚に力を注ぐ。向かうは、少年の背後。


その“右手”が、當真の首元に音もなく届く間際ー



「後ろっ!首元なんだよ!!」



パレットの“声”、瞬間、アイド=ゼクスブリックの“右手”が空を切る。


當真が、全身の力を瞬時に抜き、自身の上体を沈め、その手を躱したのだ。



(このガキ・・・見えもしねェ“声”に、なんで“迷いなく”反応出来てんだァ!?クソ野郎!!)



當真は、振り返る反動に加え、一気に上体を起こし、自身の右拳に全体重を乗せて振り上げる。


拳の行き着く先、そこは一切の抵抗なく広がる亡霊の的。



「おおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!」



ゴッッ!!ゴフッッッッッッッ!!!!!



アイド=ゼクスブリックの表情が、完全に“歪む”。腹部に受けた當真の一撃に、呼吸を乱す。



(ここを!!“逃す”訳にはいかねえっ!!!)



ガガッ、ガギンンンンンッッ!!!



「カッ、グガッッ!!!?」



當真は間髪入れずに左拳を勢いそのままに、アイド=ゼクスブリックの顎に目掛けて振り切る。


これまで掠りもしなかった連撃が、まるで画に描いたように見事に決まり続ける。


思わず、跪くアイド=ゼクスブリック。


握り締める、右手。守る為に、止める為に、當真が放つべき拳。



「これで終わー」



「調子にィィィ乗ッッッてんじャァねェェよクソがァァァァァァァァァァッッッ!!!!!!!」



當真の言葉を、声を、拳を、掻き消すように怒りに満ちた咆哮が重なる、アイド=ゼクスブリックの“右手”が触れているのは、コンクリートの大地。


だが、それさえも、彼の手に掛かれば“弾丸”と成る。



「ないと!?避けー」



“声”が間に合う、筈がない。當真とアイド=ゼクスブリックの距離は“近すぎる”。



バギリッ、ゴッッッッッッッッッ!!!!!



アイド=ゼクスブリックが無造作に“掴んだ”大地の塊が、瞬間にして當真の腹部へと叩き込まれる。



「ゴっ、ハっっっっ?!!!!!!」



吹き飛ぶ、當真。


製錬された鉛玉よりも、よっぽど乱雑で粗末なただの“塊”。その衝撃たるや、當真は自身の胴に“穴”が開く感覚に陥る程で。


悶えるようにその場に平伏す當真。圧倒的な衝撃の後に彼を襲うのは、恐怖に近い“痛覚”。



「あ、があああああああああああああああああああああっっっっっっっ」



苦痛の叫びが在るだけまだ“マシ”。そういった認識さえも、最早當真にはない。


ひたすらに、全身を巡る痛み、吐き気、嫌気の刺す重圧を吐き出すように、叫び悶える。


一方で。


アイド=ゼクスブリックも、これまでにない程の苦悶の表情を浮かべながら、悶え苦しむ當真に視線を向けていた。


疑念、焦燥、苛立ち、そして怒り。立ち込める、“負”の感情の連鎖。その全てを集約した、“殺意”。


「その程度で、終わりだと思ッてんじャねえよなァ、ヒーロー!?ああァん!?」


右の五指を、これまで以上に不気味に鳴らし続け、赤い眼光を持って、敵意と殺意を存分に當真へと向け、叫ぶアイド=ゼクスブリック。


「・・・れが、おも・・・」


必死に、屈した上体を、両腕に全神経を注ぎ、突き上げるように叩き起こす當真。


言葉一つさえ、まともに交わせないほどのダメージを堪え、視線を上げ・・・・・



ミシリッッッ。



「ナニ言ッてんだァ!?聞ッこえねェェェェェェんだよォォォ!?クソがァァァァァァッ!!!!!」



當真の視界にいち早く侵入してきたのは、細く、黒い“弾丸”、としか、意識が追いつかない。


當真の目の前に、叫びと同時に飛び込んできた“ソレ”は、アイド=ゼクスブリックの左脚だった。



ズザァァァァァァァァァァァァァンンンンンンンン!!!!!!!!



目の前で起こる事象に、パレットは声を発することさえ追いつかなかった。


亡霊の早すぎる左の脚撃が、一切の抵抗もなく當真の顔面を捉え、この星の重力をまるで無視しているかのように、當真は“軽く”吹き飛ばされた。



「はァ・・・クソがッ・・・スマートに堕ちてろよ、」



アイド=ゼクスブリックが、息を少し切らした様子を見せる。


それは、単純な体力の消耗からくるものではない。激昂した自身への憤りに対して、思わず本能が身体に臨んだ呼吸の一つだ。


自身の右膝に手をやるアイド=ゼクスブリック。


束の間、乱れていた呼吸も、最早冷静さを取り戻していた。


その理由は、明白。


アイド=ゼクスブリックとは対照的に、数メートルも先で微動だにすることなく屈服し平伏す當真の姿が、この小さな闘いの終わりを物語っていたからだ。


「チッ・・・無駄な時間を使ッちまッたぜ、全然スマートじャねえ・・・つーか、取引の時間、とっくに過ぎてんじャー」


パレットの方へと振り返り、銀の腕時計をポケットから取り出し時間を確認しようとするアイド=ゼクスブリック。


の、眼に映ったのは、絶望に満ちたパレットの虚ろな表情



“ではなかった”。



気配。そして、いつ途切れてもおかしくない程の、小さな呼吸音。


それを自身の背後から察する事に、アイド=ゼクスブリックはここに来て初めて、言葉に出来ない“重圧”を感じ取った。



「・・・いい加減、」



振り返るアイド=ゼクスブリック。


その視線の先に立つ、少年。


全身ボロボロ、裂傷、零れ落ちる血流、定まらない視線、項垂れた姿勢。


その全てが語るのは、まさに“敗者”の姿そのもの。


だが。


それを“敗者”だと誰しもが認識しようとも、その拳は、強く握られていた。その足は、強く大地を踏みしめていた。



「死ん、どけやァァァァァァァァァァァァァァクッソ野郎ォォォォォォォォォッッッッ」



アイド=ゼクスブリックの咆哮。瞬間、いまだかつてない程の、“異音”。


亡霊が姿を消した瞬間、その場が大きく割れる。


間違いなく、一瞬すら目に映らない、“迅さ”。



ミシリッッッッッッッッッッッ!!!!!ガガガガガガガンンンンンンン!!!!!!!!!!



(!!!!“声”が、まったく“聞こえない”!!!?)


戸惑いの連鎖の中、パレットに襲い掛かった最大級の“恐怖”。


それは、當真とパレットにとって、唯一の“防衛線の喪失”。



「ないとっ!!!!!逃げー」



その瞬間。



アイド=ゼクスブリックの右手は、“すでに”當真の目の前に在った。


ありとあらゆる全ての過程を取り除いた、ただただ純粋に真正面から放たれた、最速最強の亡霊の一撃。


パレットの“声”、いや、“音”の伝わる間もない、一瞬、



その、邂逅の狭間。



アイド=ゼクスブリックは感じた、自身を突き動かした“重圧”が、“恐怖”という名の感情に削ぎ変わる瞬間を。



項垂れていた當真の視線が上がり、刹那の衝突の直前、両雄の目が合ったのだ。



ヒュッッッッッッッッ、ザッッッッパァァァァァァァァァァァァァァンッッッッッッッ!!!!!



それは、“空気が切れる音”。


アイド=ゼクスブリックの“右手”が、當真の顔面を握り潰す音ではない。


圧倒的な“迅さ”で突き出された亡霊の“右手”が、空気を断裂し生み出す、まるで“魔法”のような非日常の風切り音。



つまり。それが意味するのは、



“躱された亡霊の一撃”。



「!!!!?あ、りえッー!?」



「ォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!」



ザッッッッ。強く踏み込む左脚。そして、振り切る右の拳。



當真の声が、拳に“乗る”。捉えるのは、白銀の亡霊。



ゴッッッッッ、ギンンンンンンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!



一撃。それは、反撃の狼煙。



そして、ようやく、



一方通行ではない、“闘い”という名を冠した両雄の激突が、月夜照らす静寂の中に始まりを告げた。



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