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そんな魔法ならいらない  作者: door
Chapter 1:The Golden Fateful Encounter
28/64

#21.5 the Origin of “Phantom” 

※※※


『はァ・・・ッ、ここ、か?』


息が、切れる。その言葉の意味を、初めてその身に体感した少年。


焦りが脈打つ鼓動を早め、上手く呼吸が出来ない。


常日頃から“スマート”が口癖であった少年にとって、今の自分の姿、行動は、まさに“そこ”から一番遠い場所に在った。


だが。


最早“そんな事”は、今の少年にとってはどうでもよかった。


汗で額にまとわりつく銀の髪を、不格好に掻き分ける少年。


一呼吸、手を伸ばした先。


そこは、とある病室への扉、そして


『・・・ッ!!?おいッ!?大丈夫ー』



『じゃないわヨ?あなたが“私達に従わない”のならねエ?』



“契約”という名において始まる、“地獄”への扉。



目の前の病室のベッドに静かに横たわる、銀色の髪の少女の姿を、少年の赤い眼が捉えた瞬間に、その“声”が張りつめていた緊張感や空気を一瞬で覆した。


それは、“甘ったるい猫撫で声”。


いや、違う、その全身に纏わりつくような女の声は、まさに“狂気”そのものだった。


少年は、自身の背後にその異常な気配を感じ取った瞬間、これまでの“日常”が一瞬にして“非日常”へと映り変わるのを感じた。


そこに、誰がいるかは最早関係ない。目の前の現実、そこに訪れた“狂気”。


それに対して、少年は本能の赴くままに防衛本能を叩き起こす。


そう、その“右手”に、己の力の全てを懸けて。



が。しかし。



『あらあラ?怖いわねエ?でも、ねえ?“動けル”?』



少年が振り向く間もなく、纏わりつくような猫撫で声が響き、次の瞬間



パチン。ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギッッッッッ!!!!!



不気味に鳴らされた指音。


そして、そこに続くように謳われたのは、少年がこれまでに耳にしてきた中で圧倒的に不快な“異音”。


まるで、周辺の物質、いや、大気全てを圧し潰すかのような軋み音。


と、そうした異音の一端を少年の耳が掴んだ瞬間、不可思議な程に少年はその場に“跪かされた”。


『ッ!!?がッ!?なッ、んだ、これッ?!!』


這いつくばるように、頭を床に垂れさせられる少年。


全身に一切の力が入らない、まるで目に見えない“ナニカ”に全身を圧し潰されるような、“非日常”な感覚。


『あらあラ?まだ話せるのネ?それだけでも十分立派だけどネ?』


心のない賞賛を、その猫撫で声に添えつつ、女は跪く少年の側を、コツコツとヒールの音を鳴らしながら通り過ぎる。


少年は、全神経を注ぎ、声の主の正体を掴もうとするも、どれだけ力を注いでも顔を上げる事すら出来ない。


かろうじて、その視界の先に見えるのは、モデルのように細く長い女の両脚の先に、スラッと伸びる赤いヒールだけだった。


『でもネ、あなたはいらないのヨ?私達の“本命”ハ、そこで眠るあなたの妹さんだかラ、ねエ?』


『は、あッ?!て、めェ、何、言ッてー』


『そうねエ?確かにいきなりこんな状況に追い込まれテ、あなたも困惑してるわよネ?でもネ、話したところデ、結局理解できないと思うのだけドー』


女の言葉の意味がまるで理解できない、が、少年は必死に喰らいつく。


明らかに、今自身が置かれているこの状況が“非日常”で在ることを理解しているからだ。


だが。続け様に謳われた女の言葉が、そうした“理解”さえも、いとも容易く掻き消していく。



『“七つの鍵”。あなたの妹さんはネ、“特別”な存在、なのヨ?』



(“七つの鍵”、だァ?!何をワケのわかんねェ事を言ッてんだ!?そもそもー)


少年は必死に“口撃こうげき”を仕掛ける。


絶対的に信頼していた自身の“魔法”を、いとも簡単に抑え込まれた現状に置いて、それしか抵抗の手段はない。


『おいッ!!てめェ、妹は、俺と“違ッて”、なんの“魔法”も使えねェ、ただの『ゼロ』だぞッッ!!?』


そう。『持たざる者』であるという、その『事実』こそが、女の主張を覆す絶対の証言であった。


『妹は『ゼロ』である』。血の繋がった兄妹だからこそ、共に過ごしてきた時間が在るからこそ、少年にとってはそれが偽りのない絶対的な『事実』で、“特別”なんてものからは程遠い事を証明する全てであった。



だが、しかし。



『あらあラ?“魔法”の発現するタイミングなんて人によって違うシ、そもそも“それ”は“今はそこまで”重要じゃないのヨ?』



『は・・・ッ?!』



冷静に、淡々と返された女の言葉の真意を、今度こそ少年は一ミリも理解出来なかった。


“魔法”が生まれた日からここまで、今の世界において、“魔法”を使える者ならされど、“持たざる者”が“特別”に至るその“意味”を、到底理解する事など出来なかったからだ。


少年は、自身に覆いかぶさる不可思議な重力にも似た圧迫感以上に、女の言葉に“重さ”を感じた。そして



『大切なのハ、妹さんの“血”だかラ、ネ?』



いとも簡単に。それは、まるで世界の常識であるかのように、軽々と流暢に、女が告げた悪の宣告。



『・・・?おいッ、なんだそれ、どういう意味ー』


『もウ、うるさいなア?だから話しても理解できないって言ったじゃなイ?』



パチン。



困惑する少年の問答に対し、苛立ちを呟くと同時に、またしても病室に響き渡る指音。


次の瞬間、少年を覆いつくす不可思議な大気の圧が、軽く倍以上に膨れ上がり襲い掛かってきた。


『ッッ!!!?ガァァァァァァァァァァァァッッッ?!!!』


『あらあらあラ?五月蠅いわねエ、底辺の子の叫び声ほド、醜いものはないわねエ?』


苛立ちの先に、少年の苦悶の叫びを聞きながら、少しだけの微笑みを重ねて、女は淡々と告げる。


そして。


『とにかく“私達”に必要なのは妹さんだけなのヨ?あなたみたいな“普通”の“魔法使役者”はいらなイ。だかラ、黙ってそこで沈んでてネ?』


女の“甘ったるい猫撫で声”。


圧し潰される空気、いや、重力。平伏す少年の側を一歩ずつ離れていく赤のヒールの鳴らす音が、少年に絶望を警鐘する、



その、束の間。フラッシュバックするように、少年の脳裏を巡る、感情。



少年にとっての“日常”は、少年の周りの人間にとっては、いささか“非日常”に近かった。


同世代の子たちよりも、そして少年を取り巻く環境に置いて、誰よりもいち早く発現した“魔法”。


それだけではない。その“魔法”を使う中で、少年は現実を自覚した。『ゼロ』である妹とはもちろん違う、周りの人たちとも違う、自分に与えられた“魔法”は、“特別”なモノで在ると。


生意気な視線が気に喰わないと喧嘩を吹っかけてきた複数人を、いとも簡単に“掴み”潰せた。


どんな窮地でも一瞬にして抜け出せるほどの圧倒的な脚力を、大地を“掴む”その脚は生み出せていた。


少年の“手”は、“脚”は、同じ“血”が流れる妹のそれとは違い、いとも容易く“掴む”事が出来たのだ、『ゼロ』には決して届かない、自身が望む“全て”を。


だが。


その“魔法とくべつ”に対して、自覚はすれど、少年の考えはいたって冷静で、スマートで、むしろそこまでの関心もなく、その存在意義を見出す事なども特になかった。



しかし。“それ”は、唐突に、一方的に舞い降りる。



両親の、突然の事故死。



何の前触れもなく、“唐突”に訪れた“それ”は、少年が“魔法”を発現した日から、しばらくの月日が経った、ありきたりな日常の夜に訪れた、“ただの”悲劇。



そして。少年が自分の“魔法”の存在意義を、初めて“理解”した瞬間でもあった。



両親の死を目の前にして、無力にも泣きじゃくる妹の姿を目にした時、少年は理解した。


どんな時でも屈託のない笑顔を届けていた、何の“魔法”も使えない、『ゼロ』でしかないこの妹を、今は亡き両親に代わって、世界で二人きりの家族をこの先の未来で一番側で守れるのは、この世界で唯一自分しかいないのだ、と。


その為に、この“魔法とくべつ”を使おう。少年が自身に誓ったのは、単純なその想いだけだった。


そして。その“誓い”こそが、“魔法とくべつ”の存在意義だと。少年は悲劇の夜に理解したのだった。



現実。



目の前に拡がったのは、その“全て”を破壊する、現状だった。


単純に現状、だけではない。少年が見出した自身の“魔法”の存在意義も、少年の心も、その全てが破壊されていくかのようで。


力なく、屈服する少年。どんなに力を入れても、まるで身動きが取れない状況。


そして、それが意味するのは、まさに奪われゆく“誓い”・・・



『ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッ!!!!!!』



咆哮。


自身を覆いつくす不可思議な重力を、叫び、そして自身の身体の“悲鳴”を、少年は無視する。



ゴギリッッッ、ミシミシミシミシミシミシッッッッ。



骨が、異音を叫ぶ。激痛を超えた感覚が少年を襲う。


だがしかし、“最早”関係ない。


少年は、地につく自身の“右手”に全霊を込め、必死に“掴み”、屈服する体躯を支える。


上半身が、かろうじて起き上がった瞬間、“右脚”に力を注ぐ。


圧倒的で不可思議な“力”に対し、少年はようやく上体を起こし、眼前の敵に立ち向か


『あらあラ?すごい頑張るじゃなイ?まあでモ、』



パチン。



『“特別”には辿り着かない底辺の割にハ、だけどネ?』



問答無用、一発逆転や奇跡などまるで存在しない、一瞬の出来事。


いとも簡単に鳴らされた指音によって、少年の力は完全に削がれる。


数秒前の状態へと容易く巻き戻る現実。


『あがッッッッッ!?グォォォォォォォォォ!!!!!!』


重力が、身体の自由を奪う、だけではなかった。


圧し潰されているのは、少年の骨格や内臓そのもの。少年の内側から、破壊の音が木霊する。


身動きも取れず、ただただ叫ぶ少年。に対して、一歩、二歩と、ヒールを鳴らしながら歩みよる女。


その声に、妙な甘ったるさが消える。


『まあでモ、一瞬でも抗えるだケ、あなた本当に凄いのヨ?底辺なんて言っちゃったけド、“本命”がいなきゃ是非“私達”のモノにしてもいいくらいー』


圧倒的な力の差。それは驕りでも油断でもなく、ただの現実。


だからこそ、女が歩み寄ったのは、すでに勝敗が決している現実が在ったからだ。



が、その瞬間。



ガッ、シッッッッッッ!!!



『!?』



少年の右腕がふいに伸び、勢いよく女の足首を“掴んだ”のだ。


瞬間、防衛本能が、女の身体に警鐘を打ち鳴らす、


『チッ!?・・・・・あラ?』


だが。


少年にとっての、一発逆転でもあった、その“右手”には、最早まるで力はない。


それはまるで、殺意を込めた“掴み”ではなく、むしろ助けを乞い願うかのような、弱弱しく添えられただけの“普通”の右手だった。


『お・・・俺、は、どうだッで、も、いいッ、妹、だげッ・・・・あァァァァ、がはッ・・・・』


力なく平伏す少年は、血反吐と共に言葉を吐き出す。


『んーン?何かしラ?』


『・・・頼む、よッ、俺は、何だッで、する、がらッッ・・・』


敵に乞う、“願い”を。


そして、少年は顔を上げる。全身を覆いつくす圧倒的な重力に潰されて、最早視界さえも赤く染まってほとんど見えてないに等しい。


それでも、ぼんやりと見える眼前の女の、顔の中心に向かって、少年は“覚悟”を声にする。



『俺の、命、“魔法”、何で、も、お前らにくれてやる、がらッ・・・妹だけ、は、助けでぐッ、れ!!!!!』



傷だらけの咆哮の先、束の間の静寂。病室には、少年の荒い息吹だけが謳い続ける。そして。


『・・・いいわねエ?そういウ、馬鹿丸出しに熱いのハ、個人的には嫌いじゃないわヨ?そこまで言うのなラー』



女は、少年の右手を払い、再びその場に聳え立ち、“甘ったるい猫撫で声”で、告げる、



『“契約”、しましょうカ?』



※※※


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