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そんな魔法ならいらない  作者: door
Chapter 1:The Golden Fateful Encounter
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#19 守るモノ×壊すモノ④

(とにかく“運”だろうが何だろうが、初撃はなんとか耐えたんだ。次はこっちからー)


「あァ?」


拳を握り、迷うことなくアイド=ゼクスブリックに向かって駆け出す當真。


(“距離を詰める”、あとは“右手”と“左脚”に注視しながら、こっちから仕掛け続ける!!)


「おおおおおおおおおっ!!」


叫び、駆ける當真。一瞬にして、両者の距離が縮まる。


「おおおおおらあっ!!」


ヒュン。


真っ直ぐに突き出した當真の右拳に対し、アイド=ゼクスブリックは右手をズボンのポケットにしまい込んだまま、造作もなく最小限の動きで、容易くかつ気怠そうな様子で躱す。


無残にも、空を切る音だけが響く。


勢いそのままに体勢を崩す當真を、冷たく見下ろすアイド=ゼクスブリック。


「遅ェんだよ」


(そんなのは百も承知だよ!!でも、どれだけ不格好でも手は緩めねえ!!)


歯を食いしばり、當真は崩れた体勢からも間髪入れず、無理矢理腰を捻り、振りぬいて伸び切った右拳の裏拳を、アイド=ゼクスブリックに向けて、放つ。


「らあああああっっ!!」


「だからァー」


當真の全力全速の拳に対し、アイド=ゼクスブリックは一ミリのズレもなく左手を添えると、いとも簡単にその勢いを受け流し、叩き落す。そして。


「そんなんじャ、いつまで経ッても俺には追いつかねェよ!!」



ザッッ!!ゴッッッッッッッッッッッッッ!!!



アイド=ゼクスブリックは、この零距離から當真の腹部に向けて“右脚”の脚撃を放つ。


今度こそ間違いなく、その衝撃が當真を捉える。


「がっっっあぁぁぁぁぁぁ?!!」


「ないと!!!!!」


アイド=ゼクスブリックの脚撃の勢いそのままに宙に浮かび上がった當真の体が、パレットの叫び声と同時に、地面に鞭打つように降り立つ。


たった一撃。


だが、それは當真の体に蓄積されていた痛みを、何十倍にもして呼び起こす一撃。


「っっっつ、ぐ、ぁぁぁぁぁ!!!」


言葉に為らない悲鳴を、當真は叫び出す。


だが、“痛み”を感じる“理性”を保てているだけ“マシ”だ。


口の中を巡る鉄の味を噛み締めながら、當真は思考を走らせる。


(クッソ、痛ぇ。吐きそうだし、でも、それでも“まだ”意識はある、まだ止まるわけにはいかねえ)


「ぁぁぁああっ・・・はあ、はぁ、効かねぇな、そんなんじゃ、いつまで経っても、俺には届かねえぜ?白銀の亡霊(スノー・ファントム)さんよ?」


再度、いや、意識がそこに在るなら何度だって、だ。


當真は拳を握る、何度だって立ち向かう。


もう二度と、目の前の少女を、その手が届かぬ場所に連れて行かれないように。


全身を支配する痛覚などに構っている暇などない。當真は声を荒げ自身を奮い立たせ、もう一度駆け出す。


距離は、ほとんど零に等しい。


躱されるなら、当たるまで。その拳を突き続けるだけだ。


「らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」


咆哮と共に、一方的な攻勢を仕掛け続ける當真。


だが、幾ら手数をかけようとも、その全てを寸前でアイド=ゼクスブリックは見抜き、躱し続ける。


當真の荒い呼吸音と、衝撃の伝わらない拳が空を切る音だけが、ただただひたすらに虚しく響き渡る時間。


「くっそおおおおおおお!!!!!」


「・・・・・スマートじャねえな」


一連の攻防を、ただ俯瞰に眺める事しか出来ないパレット。


繰り出すその連撃、その全てを無意味と託されながらも、勇ましくも儚く無残に攻め続ける當真と、ただただ単純に、無駄なく冷静に、その全てを躱し続けるアイド=ゼクスブリック。


その空間には、“魔法”の面影など一切もない、ゼロの空虚な空間で。



と。“それ”は、突然に、舞い降りた。



「!!?痛ッ!?」


ふいに、パレットは自身のこめかみを両手で抑え込む。


“それ”は、突如として訪れた、『痛み』。


同時に。パレットは、不可思議に流れ込む、“魔力”の流れを感じる。


そして、聞き取る、そこに在るはずのない“音”を、“言葉”を。『再び』。


(“右”・・・“左”・・・“終わらせる”?・・・“右手で”・・・“掴む”・・・この感じ・・・それに、この“声”って・・・“あの時”と、同じ?・・・・・もしかして!?)



「ないとっ!だめ!!“右手”がくるんだよっ!!!」


「!!?」



パレットの叫びの、直前。


それは、當真が連撃を仕掛け続ける最中、その左拳をアイド=ゼクスブリックに突き付ける寸前でもあった。


対して。


無残な當真の連撃に対して、容易に躱し続けながらも、気がつくとその右手をズボンのポケットから抜き出し、不気味にその五指を鳴らし、その両者の拳が完全にアジャストするタイミングを見計らっていたアイド=ゼクスブリック。


そして。


パレットの叫びと同時に、當真は突き出した左拳を咄嗟に引き、出来うる全力で身を引き距離を取った。


一方で、アイド=ゼクスブリックの右手は、本来そこに在るべきはずだった當真の左拳の残像に向けて突き出され、虚しくも空を切る形となった。


(あ、危なかった・・・頭に血が上って、まるで目に入ってなかった、あの“右手”)


「・・・また、アイツ・・・?それに、お前のその反応の良さ・・・あァ、どうやらもう知ッてるみてえだな、俺の“魔法”?」


距離の離れたパレットと、少し距離を取った當真を交互に見据え、アイド=ゼクスブリックは冷静に現状を分析し、呟く。


そして、不敵な笑みを浮かべ、當真に視線を向けると、


「あの警官か、風使いか、どっちの入れ知恵かは知らねェが、」


ふいに。


その場にしゃがみ込むアイド=ゼクスブリック。


そして、その右手が地面に触れた瞬間、


「少しくらい距離取ッたくらいで安心しきッてんじャねえぞ?!あァん!!!!?」



ビギッッ、ガガッッッ!!!!!!



アイド=ゼクスブリックの細い右の五指が、コンクリートの大地に容易く突き刺さる、地面が割れていく、そして。


「なっ!!!!!?」


割れた大地を“掴む”、アイド=ゼクスブリックの右手。


そして、そのままの体勢を維持したまま、その低い位置から勢いよく右手を當真に対して振り切ると、瞬間、割れたコンクリートの破片が、まるで散弾銃の如く勢いで當真に向かって放たれた。



(避け、切れー)



ゴッガガガガガガガガガガガガガガガガガガンッッッッッッッッッッ!!!!!



咄嗟に両腕を交叉させ身を守る當真に対し、コンクリート片の塊たちが、弾丸の如く容赦なく叩きつけられていく。


「ぐっ、あああああああああああっっっっっ」


一ミリたりともその場所に留まる事も出来ないままに、吹き飛ばされる當真に対し、鋭利に尖ったコンクリート片の弾丸たちは、無慈悲なままに衝撃と裂傷を同時に与え続けた。


當真の無残な連撃とは違い、意識を奪いかねない確実な連撃。


辛うじて体を起こす當真の見据える先で、歩みを進める白銀の亡霊。



月夜に照らされた白き死神の歩みが、絶望への舞踏曲の始まりを告げる。



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