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そんな魔法ならいらない  作者: door
Chapter 1:The Golden Fateful Encounter
24/65

#18 守るモノ×壊すモノ③

ミシリッ。



「で?ここまで来て、一発で終わらねェよなあ?」



轟く、不協和音。



覚悟をその拳に込めて、力強く握る當真の視界から、消える亡霊。


その冷酷な声が、瞬間、當真の背後から死の宣告を告げる。


「遅ッえんだよ、全部」


當真がその声に反応する暇も与えず、アイド=ゼクスブリックは右脚を振り切る。



ゴッッッッッッッッッ!!!!!



確実に、その肢体の中心へと叩き込まれたアイド=ゼクスブリックの一撃によって、當真は息吐く間もなく吹き飛ばされる。


宙を低く舞う當真、勢いそのままにその体は、パレットの近くまで飛ばされる。


「ないとっ!!!!」


寄り添うパレット。一縷の希望が、一瞬にして絶望へとその姿を変えてしまう、そんな残酷な目の前の景色・・・かと、思いきや、


「・・・あァ?なんだ、“今”のは?」


アイド=ゼクスブリックの不機嫌そうな声と同時、寄り添うパレットの手を優しく掴む當真の右手。


そして、視線を合わせる少年の顔には、蓄積された疲労や痛みはあっても、そこに絶望はなかった。


「ははっ、心配すんなよパレット。一撃豪快にもらったフリだよ、なかなかリアルな演技、だっただろ?」


パレットの不安を掻き消すように、笑顔を見せる當真。もちろん、それは演技ではない。


だが、全てが嘘ではない。


実際。アイド=ゼクスブリックが疑問を抱いたのは、捉えきれなかった自身の脚撃に対して、ではない。


アイド=ゼクスブリックの一連の攻撃の流れに対し、全身の力を抜き、一切抵抗することなく自身の身を引くことで、その威力をギリギリまで受け流すことに成功した當真の身体操作、における、不可思議なほどの“潔さ”に対して、だった。


常人には決して目にする事など出来ないはずのアイド=ゼクスブリックの、その一撃の全てを受け流す事など、格闘のその道を究めた者でさえ至難の業。


まして、當真はそんな闘争からは疎遠であるはずの小さい島国の、一般的な男子高校生なのだ。


當真が吹き飛ばされたことは変えようもない現実。


だが、アイド=ゼクスブリックが、この陳腐な闘争の終劇になるであろうと予期して放った一撃が、少年の行動原理を破壊するまでに至らなかったのも、また揺るがない現実。


“運”が味方したことも、もちろんあるであろう。だが、そんな不確定要素を抜きにしたとしても、まるで



「こうなる事を“予見”してたような動き、じャねえか?あァ?」



(・・・“予見”っつーか、俺もびっくりしてるんだけどな。“運”も良けりゃ、ここまでの“展開”が当たりすぎてー)



時は、少しだけ遡る。



※※※


『“止めない”のに、“待って”って・・・それを世界は矛盾と言うのでは?』


『う、うるさい!冷静に揚げ足取ってるんじゃないわよ!空気読めバカ!!』


『ごふっ!?ちょ、だから、そうやって安易に“魔法”を振りかざすんじゃねえよ!?お前にとったら“本気”じゃなくて“お遊び”程度でもな、一般人とか、ましてや『ゼロ』からすりゃ十分すぎるくらい脅威なワケでー』



『そうよ。私の“コレ”なんて、所詮“お遊び”程度なのよ』



『・・・は?仰ってる意味が分からないんですが?』


『つまりー』


少女が、右手をスッと眼前に突き出す。少年の周辺の空気が、不自然に冷たくなる。


目の前の事象は、まさに“不自然”な自然現象。


淀む空気の“塊”が、少女の右手の掌の上に留まり、風切り音を鳴らし続ける。


次の瞬間。


少女は勢いよく駆け出す、少年に向かって真正面から特攻するかの如く。その右手に漂う風の“塊”を、少年に向けて全て放つかのような形相で。


『えっ!?・・・ちょ、まさか?!』


咄嗟にその両腕を交叉させ、本能のままに少女と自身の間に壁を作る少年。果たして、そんな華奢な腕で防ぎきれるかどうかはまた別の話として。


が、途端、少女は少年に届く一歩手前で、その右手を大きく振り下ろす。


大地に叩きつけられる、風の“塊”。吹き荒れる風切り音が、一種の爆発音へと挿げ替わる。


それは“塊”となった風が、一気に大気へと舞い戻る歌。


そして、その瞬間に生じるのは、小規模な爆風、いや、舞い上がり“人の目に映る上昇気流”。


『なっ?!』


身構えていた少年の眼前で、少女は力強く大地を蹴り、小さな跳躍を見せる。


と、同時に。


少女はその上昇気流に身を委ね、風に“乗る”。小さな跳躍は、瞬く間に大きな跳躍へ、いや、もはやそれは“浮遊”へと映り変わる。


そして、煌びやかに宙を舞い、そのまま少年の背後に流れる様に少女は華麗な着地を決めた。


『分かる?相手へ反撃する“瞬間”すら与えない為には、まずこうやって背後を取るのよ。そして、そのまま“一撃”で終わらせるの』


少女は背後から、少年の首へと人差し指を突き付ける、優しくも冷酷な手際の良さで。


そして、そのまま冷静に言葉を続ける。


『オーソドックスな意見だけどね、優秀な殺し屋って言われてるヤツほど“敵”に対しては微塵も油断なんてしないし、驕りもない。そして、“そういう過程”において、何よりも“無駄”な行動を避けるのよ。“背後から一撃”。たったそれだけで“終わり”なのよ』


これが。少女の言う“そういう過程”であるとすれば、少年はいとも簡単に少女に背後を取られ、こうして自身の首筋に右手人差し指を突き付けられている時点で、“終わっていた”事になる。


この一瞬の出来事、何一つ無駄のない過程において、だ。


(・・・まぁ、偉そうに言ってても、そのまんま“受け売り”なんだけどね、これ)


少女は脳裏に、自身の過去に体感した“常人ならざる変人母親の行き過ぎた実践教育”を思い返し、溜息交じりに少年を背中越しに見据えていた。


と、心なしか、少年が震えているようなー


『何よ?この程度で怖気付くんなら、ほんとにやめた方がー』


少女は、少年の目の前に回り込む。


そして、その表情が、緊張や恐怖で強張ったものではなく、なぜか赤らんでいることに、気がついた。


そして、少年は恐る恐る、その“理由”を口にする。


『お、お前、そ、そんな短いスカートで、人の目の前を悠々と、その、飛び越すんじゃねえよ、い、言っとくけど“見えた”のは不可抗力なワケでー』


『ーッ!!?・・・・・!!!!!?ちょっ、なっ、何見てんのよ!!!変態ッ!!!!!!!』


『だから不可抗力つーかお前それは理不尽すぎるぐはッッッッッッッッ!!!!!!』


顔を真っ赤にして、鬼のような形相で放たれた少女の渾身のボディブローは、少年の揺るがない意志をも半ば強制的に折りかねない威力であったが、思春期の女子中学生が持つ恥じらいが、無意識の内に、少女の会心の一撃だけは不発に終わらせた事で、その最悪の展開だけは間一髪避けられた。


無論、少年のダメージはゼロではないが。



『とにかく!アイツが“消えた”ように感じた瞬間、あんたは全神経を背後にまわすのね。特に“初撃”に関してはね。後はとにかく“運”次第。“なんとか”躱すのよ』


『“運”とか“なんとか”って、そんなアバウトなー』


『いい?勘違いしないで?私が教えられるのはあくまでも“そういう奴ら”の出方だけ、あんたがアイツに対峙して生き延びる事なんて“運”次第、神様頼りもいいとこなんだから』


強張る表情、厳しい口調、そして小さくも確かに震える少女の肩。


直接対峙したからこそ、その手に“力”があるからこそ、より鮮明に痛感し想像できた“恐怖”が、時間を追うごとに、言葉にするごとに、少女の心と体を支配していた。


だからこそ。本当なら止めなければいけないし、ただ、止められない現実が目の前の少年には在る。


そうした中で、少女に出来る事、それは自身の中に在る複雑な思いを悟られないように、なおかつ、いつも通りの気丈なままで少年に対し注意をする事、それしかなかった。


『あと、陣内さんの話だと、アイツの“右手”に掴まれても終わりだし、“左脚”の一撃も同じね。距離を離すよりも、むしろ自分から詰めた方が・・・』



『ありがとな、心配してくれて。もう大丈夫。だからそんな怖い顔すんなって』



ふいに。少年は自身の右手を伸ばし、少女の頭をポンポンと、まるで飼い猫を撫でるように優しく触れる。


それは、自身の体験から制止を促すも、それを振り切ろうとする少年の身勝手な考えを受けた上で、それでも少年の身を案じ助言を謳う少女に対し、無意識に感じた故の少年の行動だった。そこには邪念も他意も一切ない。


だが、そうした少年の行動と言葉は、どうにかしなければいけないという少女の潜在意識と、現実に在る恐怖が入り混じった不安定な感情を、一瞬にして打ち消した。


体の奥底から込み上げてくる、火照りに似た熱量に一気に頬を赤らめる少女。


『・・・き、気安く!女の子の頭に、ふ、触れてるんじゃないわよ!!・・・ばか』


『え?あぁ、わりい』


『そ、それに、別にあんたの心配なんかしてないし!止めてるのにわたしの言う事聞かないやつの事なんか知らないんだから!これは、ただの、その、“ひとりごと”なんだから!!』


『ははは。じゃあ、その“ひとりごと”聞いちゃったからには、肝に銘じておかなきゃだな・・・じゃあ、俺、行くな』


恥ずかしそうに背を向けて、子どもじみた優しい言い訳をする少女の言葉を笑顔で受け取ると、少年はそのまま駆け出そうとした。


背中越しでも分かる、少年の気配が遠ざかっていく、その狭間。



(やっぱり・・・このまま一人で、行かせられるわけないじゃない!!)



それが抗いようのない、大きな恐怖に直面したとして、たとえ一度そこに向き合う事が出来なくなったとして、それでも、それでも、少女の“心”と“信念”が、“消えてなくなるわけじゃない”。


『待って!!やっぱりわたしも一緒にー』



その声に。言葉に。少年は、足を止める。



心のどこかで、“きっとこうなる”と“わかっていた”。


どんなに強い言葉を示しても、自分と同じく、決めたら退くことのない固い意志を持つであろうこの少女が、こうした選択を選ぶであろうという事を。


だからこそ、振り返り、少年は告げた。


“こういう状況”を予期し、予め用意していた、少女に対する“答”を。まるで、今思いついたかのように、言葉を選びながら。


『・・・分かった。じゃあ、“頼む”。お前は警察の人と一緒に“コッチ”を見つけて止めてくれ。アイド=ゼクスブリックの“取引相手”が滞在しているであろう場所のリストだ』


少年は手早く自身のスマホを操作し、つられる様に少女が取り出したスマホに、とあるリストのデータを送る。


それは、“表面上”は少女に共闘を望むかのようで、実際は少女を巻き込まない為の少年の策。


『“取引相手”って・・・これって、さっきあんたが言っていた“アテ”ってやつ?』


『ああ。アイド=ゼクスブリックの方とは別件だけどな、“アイツ”が一緒に送って来たんだ』


『“アイツ”?』


『まぁ、詳しくは話せないんだけど。とにかく手伝ってくれるにしたって、お前も警察も一度アイド=ゼクスブリックと直接対峙して警戒されているだろうからさ、下手にアイツの周りでは動かない方がいいと思うんだ。それにさ、“取引相手”の方を潰しといてくれると、“万が一”の時には助かるだろうし』


『“万が一”って、あんたー』


『分かってるって。俺だって死ぬつもりはないよ、“ひとりごと”だって聞いたわけだし。だからこそ、そこまでアイツにまだ警戒されてない俺が、アイド=ゼクスブリックに対峙して時間を稼ぐよ。もちろん、隙さえあればパレットを連れ出して逃げ出すさ』


(まぁ、そんな“隙”があればの話だけど。でも、これで、コイツが直接巻き込まれる心配はなくなるはず)


データを受け取り自身のスマホの画面を真剣に眺める少女は、そうした少年の杞憂や本意を察する余裕などなかった。


自身に出来る事、それが廻り回って少年と金髪の少女を救う事に繋がる事を、本能で理解し、なおかつ自分自身が“今”出来る最大限であると信じているからだ。


『“万が一”、俺が間に合わなくても、お前と警察がアイド=ゼクスブリックじゃなく“取引相手”の方を潰しといてくれれば、結果としてパレットが助かる可能性が増えるからな、だからさ、“頼むよ”?』


『・・・分かったわ。すぐ見つけるから。だから、いい?絶対あんたは無茶や無理なことはしないで?』


『ああ。お互いにな』


そして、少年と少女は互いに背を向けたまま、走り出す。



お互いが守るべき、いや、守りたい未来モノの為に。



※※※



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