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そんな魔法ならいらない  作者: door
Chapter 1:The Golden Fateful Encounter
23/64

#17 守るモノ×壊すモノ②

「ここは?」


「あァ?お前の取引場所だよ。しッかし、指定する場所が“いかにも”ッて場所だな、オイ」


雲一つない星空の元に、満月がその顔を優雅に浮かべだす頃。


海岸通り。港付近のその場所に立ち並ぶ倉庫の一角。


その中でも、周りの倉庫に比べ、一際小さく、古く、工事中のコンテナが張り巡らされた倉庫内。


照明器具もほとんど稼働しておらず、大きく割れた天井の割れ目から、月明かりと星空の淡い自然照明が、銀髪の青年アイド=ゼクスブリックと金髪の少女パレット=セブンデイズの二人をライトアップしていた。


「明日取り壊すからッて、鍵も一切ナシとか、とんだ荒んだ管理状況だな。まァ、この国だと、こういう事が起きる事“自体”が稀なんだろうけどよ、平和すぎるッてのもどうかと思うぜ」


散々と無残に置かれた木箱に腰を掛けるアイド=ゼクスブリック。


右膝に手を掛け、一間、ポケットから銀の腕時計を徐に取り出し、時間を確認すると、


「取引時間まであと二十分・・・まァ、いまさら逃げ出すようなスマートじャねえことはしねえだろうがよ、そのままおとなしくしとけよ?」


「・・・・・」


アイド=ゼクスブリックの言葉に、何の反応を示すこともなく、ただただ単純にその場に座り込むパレット。


ここまでに至る道中でも、全くと言っていい程に逃げ出す隙などなく、そして何より決定打となったのは、先刻の商店街の大通りでの残酷な戦闘状況。


希望と言う概念が、最早彼女の感情に生まれることなどなかった。


(わたし、どうなっちゃうのかなあ。このまま知らない場所に連れて行かれて、ワケのわからない理由で“血”を引き抜かれて、結局そのままー)


人は。ある一定を超えると“そこ”に恐怖すら見出せなくなってしまう。


“死”へのカウントダウン。まさに今のパレットの心境がそれである。感情が、一様に抜け落ちていく感覚。


憔悴しきった表情のまま、ふと、目の前の木箱に腰を掛け佇むアイド=ゼクスブリックに視線を向けるパレット。


(あの時・・・一瞬でもこの人に感じたモノはなんだったんだろう?)


悲惨な惨劇の幕間の直前、少女が青年に見出した一縷の希望は、いまは跡形もなくその姿を消し去っている。


もちろん、今のパレットは過去の希望に縋っているわけではない、パレットが思い描いたのは、ただの過去の疑問。


そして。


パレットは自身の両耳を軽く塞ぐように、両手でおさえる。


“その時”くらいからだろうか、脳内を、何か靄がかかったような、何かこれまでとは違った、“聞こえる”感覚にも、ただただ単純に疑問を抱いていた。


(それに・・・この人に出会った後くらいから、ずっと“聞こえる”ような、この“感覚”・・・なんなんだろ)


そうした、少女の意思の見えない、虚ろな表情に、アイド=ゼクスブリックも気づき、まるで少女に現実を“掴ませる”ように、ゆっくりとその口を開く。


「希望なんてねェよ、お前には・・・・・恨むんなら【七つの鍵】なんて“特別”を持ッて生まれた、自分の人生を恨むんだな」


「・・・“特別”だなんて思ったこと、一度もないんだよ。だから、わたしはわたしの人生を恨む理由もないし。もう、どうだっていんだよ。」


「・・・そうかよ」


感情のない少女の、その一言。木箱に座り込むアイド=ゼクスブリックは、背後に用意されていたロープに伸びた手を収めた。


その必要性を、目の前の少女から一切感じられなかったからだ。


「まァ、確かに・・・何が“特別”かなんて、分かりャしねえよな」


「・・・?」


ふいに、告げられたその言葉。視線など一切合わせることなく、アイド=ゼクスブリックが告げたその言葉に、パレットの思考と、“耳”が、思わず惹きつけられる。その視線の先に何を思っているのか、心なしかその赤い眼光が揺らいだようなー



ガガガガガガガガガガガガガガガガガガ、ガシャャャャャャャャャャャン。



暗がりの、その先。


それは錆びついた倉庫の入口の扉が、ゆっくりと開く音。


静かな倉庫内に、ただ無残に鳴り響いた重音。


そして、続けざまに響いてくる足音。そのリズムは近づくにつれ、心なしか早まっているようで。


木箱からスッと飛び降りるアイド=ゼクスブリック。


視線を、近づく足音の方へ向ける。同様に、パレットもゆっくりと視線を暗がりの先へと向ける。


「予定時間より早いな。なかなかスマートじャねえ、か・・・?」


と。そこで、アイド=ゼクスブリックの言葉が行き場を見失ったように不意に途絶える。


そして。


赤い眼光が、闇を切り裂いてその先を見据えていることを、パレットも見逃さなかった。


そして。


少女もゆっくりと、近づく足音に視線を向ける。



「・・・これはどういう展開だ、あァ?」



アイド=ゼクスブリックの怪訝な一言に、足音が止まる、と同時に、ちょうど月明かりが、徐々に暗闇を照らしていき、そこに立ち止まった人影の輪郭を、足元から順に照らし出していく。


それはまるで、闇夜のキャンバスに色彩を映し出していくように。



「『完璧な情報(フローレス・レポート)』」



「・・・あァ?!・・・おい、ソレ・・・!?」


暗闇の中の人影が、その手に取りだしたのは、どこにでもあるようなスマートフォン。


だが、そのディスプレイが人工的な光で暗闇に映しだされると、その液晶画面にはアイド=ゼクスブリックも見覚えのある内容“そのもの”が映し出されていた。


【港・倉庫・20時】。


メールの受信画面の“ソレ”は、他の誰しもが知るはずもない、“消し去ったはずの情報”。


「本人曰く、『この世で起こる全ての情報を“口”にする男』らしいけど」


「・・・あァ?」


「正直。どんな“繋がり”があるとか、あの“口先”でどう言いくるめて情報を手にしてるとか、俺にも全く見当つかねえけど・・・でも、“アイツ”の情報が、間違ってたことはないからな、“これまで一度も”」


「・・・」


「実際に。こうやって表世界に出てくるはずのない“そっち側”の人間の、“消えたはず”のメールでのやり取りですら“アイツ”は情報として手に入れた・・・あとは俺が手当たり次第に走り回って探してたワケ。まぁ、“いかにも”って感じの場所が正解で、思ってた以上に見つけやすかったけどな」


発せられた言葉の意味。


それが本来、こんな平和慣れした小さな島国だと、想像する事さえ困難な事象を意味していたとしても、アイド=ゼクスブリックは疑う事はなかった。


むしろ。


ある意味、一線を通り越して、高まる高揚感に思わず不敵な笑みを浮かべ、感情を露わに声を出す。


「はッ、ははははははッ。そうかい、そうかよ、こりャ思ッてた以上に退屈しねェ展開だな?こんな小せェ国に、ブッ飛んだ警官に、風使いのセカンドの魔法使役者、闇社会のハッカー。そしてー」


星空と月明かりが、暗闇に佇むその輪郭を、鮮明に、完全に、映し出した。



「『ゼロ』のヒーロー様の登場ッてか?!あァん?!」



そこにいたのは、ひとりの少年。全身の至る所を包帯で覆い、ボロボロなままの、どこにでもいそうな黒髪の少年。



「・・・・・ヒーローなんかじゃねえよ、俺は。でもなー」



だが。


もう二度と目にする事はないと思っていたその姿、もう二度と耳にする事はないと思っていたその声に。


金色の少女は“熱量”をその身に再び取り戻す、抜け落ちていたはずの“感情”という名の“熱量”を。


そして。少年の声に、言葉に、少女も応える。溢れる感情を、自分の声に変えて。



「“それでも”お前を助けにきたぞ!パレット!!」



「ないとぉぉぉ!!」



涙ぐむパレットの声。それは決して希望の叫びではない、実際勝ち目なんて“ゼロ”に等しい。


それでも。それでも、失った光が再びこの闇を照らしだせたのは、間違いなく少年の存在のおかげだった。



「・・・で?ヒーロー、俺の聞き間違いじャなけりャ、遠路はるばる“何”しに来たッて?」


「パレットを助けに来た」


「“助ける”・・・ねェ」


即座に返された當真の答に、アイド=ゼクスブリックは、その右手を先程まで腰掛けていた木箱にそっと置く。そして。



バギリッッッッッッ。



「もう一度、聞こうか?“誰”が、“誰”を、“どうする”ッて?」


一瞬にして、その形を失い、崩れ落ちる木片。


赤い眼光が、静かな殺気と共に當真に向けられる。


だが。


「何度も言わせるなよ!“俺”が“パレット”を“助ける”!!アイド=ゼクスブリック、お前のその手からな!!」


(・・・コイツもスマートじャねえな、あのブッ飛んだ警官と一緒で、“言葉”じャ折れねェ馬鹿か)


そのやり取り、そして一瞬にして無残に破壊された木箱を目にした時、パレットは再び自身の全身が、得体のしれない冷たさで覆われていく感覚に陥った。


それはまるで、絶対に抗うことの出来ない“氷”。


甦るのは“恐怖”と“絶望”。


繰り返されるであろう残酷な“未来”を想像した瞬間、パレットは声を上げ當真を制止する。


「な、ないと!!やっぱりだめなんだよ!!逃げて!!わたしのことはいいから!!じゃないとー」



「うるっ、せぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



「!!?」


パレットの声を掻き消す程の、大きな咆哮。


當真は、その視線をアイド=ゼクスブリックの側に佇むパレットに向ける。


そして、大きく深呼吸して、叫ぶ。



「ずーーーーーーーっと言いたかったんだけどな!お前!出会ったばかりの人にいきなり食事を要求するか普通!!?」



「なっ!?い、いきなり何言ってるんだよ、ないと!?今はそれどころじゃー」


それは誰も予期せぬ展開。パレットを勢いよく指さし、告げるのは少年の悲痛な叫び。


「それに!!追われている立場のくせに奏姉ちゃんの所で人目につくような事はするし!!ファミレスでも勝手にオーダーしようとしてたよな?!朝、ホットケーキも作ってやったのに!!平凡な男子高校生の財布事情がどんだけ切羽詰まってるか、お前、分かってんの!!?」


「・・・あァ?さッきから何言ッてんだ、お前?」


「な、な、ないと!?何バカな事言ってるんだよ!?今はそんな場合じゃないんだよ?!」


當真の口から怒号のように繰り出されたのは、まるで日常の痴話喧嘩の一端のようなものだった。


アイド=ゼクスブリックは思わずその表情を曇らせ、一方でパレットもあまりにも奇怪なこの状況に慌てふためく。


だが。


「ほんっとお前は自由奔放だし、わがままだし、常識とか全然分かってねえし・・・でもな、お前が一番分かってないのはそんな事じゃねえ」


拳を握る力が、込み上げる感情によって軋みを生み出す。



「本当に分かってないといけないのは、お前自身の“心”なんだよ!!」



「ないと・・・」


當真は強く腕を振り払う、これまでの浮ついた空気を切り裂くように。


そして、揺るがないその瞳で、少女を見据える。



「出会った瞬間から、散々自分のペースに俺を巻き込んでおいて、でも、ここぞっていう大事な場面では自分の事なんかなんも省みず、自分自身が犠牲になろうとする」



それは、當真が一番強く感じた憤り。


思い返すだけで、胸が締め付けられるのは、少女の見せる哀しい笑顔、そして、それに届かなかった自分自身の手を、不甲斐無さを、當真は強く噛み締め、声を上げる。



「違うだろ?記憶を失って、見ず知らずの場所で目が覚めて、追われている状況の記憶だけがあって、実際に連れ去られて何をされるかも分からない、明るい未来なんて想像も出来ない、そんな状況で、一番怖い思いしてんのは、他の誰でもない、“お前自身”のはずだろ?」



その叫びは、決して“怒り”ではない。



「周りの状況なんか関係あるか!出来る、出来ないの可能性の話でもねえ!俺がここにいるのは、俺の意志だ!俺が、俺自身の“心”で、お前を助けたいって思ったからここにいるんだ!!」



揺るがない“意志”。


パレットは、込み上げてくる感情が、自身の瞳を霞ませる結晶を生み出すことを、止めることなど出来なかった。



「パレット!まだ一度も!俺は聞いてないぞ!お前の、本当の“心”を!本当の“声”を!!」



その叫びは、“願い”。



そして、その“想い”は、少女を覆う“氷”を溶かすに値する、“灼熱”。



「・・・けて。」



拳を握る當真。見据えるのは、目の前の“白銀の亡霊”。



「助けて。わたしを、助けてッ!!!」



涙ながらに叫ぶ、少女の“声”、そして“心”。



「っし。任せろ」



ようやく届いた少年の“願い”、そして受け取った少女の“願い”。



星空の下、月夜に照らされ、金色の少女の涙が終劇の始まりを告げた。



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