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そんな魔法ならいらない  作者: door
Chapter 1:The Golden Fateful Encounter
22/65

#16 守るモノ×壊すモノ①

惨劇の幕間が終わりを告げる、その直前。


それは。仄暗い、いわば異常気象とも呼べる空気の塊が突如として上空に巻き上がっていくのを、當真が視界に捉えた瞬間でもあった。


「“アレ”って、まさか・・・」


陣内と別れた後、“とある場所”に向かって走り続けていた當真だったが、通り過ぎていく景色の中で、人々が何やら騒がしくなっているのは感じ取っていた。


徐々に近づく鳴り響く救急車のサイレン、そして目の前に広がっていくのは“非日常”な現象。


込み上げていく緊張感や不安、本来向かうべきだった場所からは離れてはいるものの、當真は自身の向かうべき進路を一旦変える事に迷いはなかった。


そして、辿り着く。


そこは、まるでゴーストタウンのように廃墟と化した大通りの一角、そんな印象を當真に抱かせた。


騒ぎに集まってくる群衆も一様に、悲壮感をその表情に見せていた。


その視線の先に在ったもの。


それは、割れたアスファルトの道路、弱い呻き声をあげながら倒れている四人の警察官。


さらに通り沿いに視線を向けると、割れたショーウインドウのガラス片をまき散らしながら壁に寄りかかり、まるでその店のマネキンであるかのようにピクリとも動かずに座り込む警察官がもう一人・・・


「ッ!?正蔵さん!!?」


募る不安が、一気に現実として當真に襲い掛かる。


つい先程まで一緒にいた人が、血だらけになってそこにいたのだ。


自身の肉体の痛みなど気にもとめず、群衆を割って當真は陣内の元へと駆け寄った。


「正蔵さん!!しっかりして!!」


体を支え、必死で声をかける當真。そして、僅かに、その閉じた目を開け、声を絞り出す陣内。


「・・・よ、夜、君?どうして、君が、ここに・・・?」


「正蔵さん!!よかった!!生きてるっ!!!!!」


「がはっ!!!!?」


喜びのあまり一切の加減をすることなく陣内を強く抱きしめる當真。その反動で、今度こそ完全に気を失う陣内。


そして、その瞬間、背後から一人の少女の怒号が飛ぶ。


「よくないバカ!!!!あんた、怪我人をそんな乱暴に扱うんじゃないわよ!!!!」


「嵐ガール!!?やっぱり“アレ”、お前のだったんだな!!」


「嵐ガールって言うなコラっ!!!」


スマホを片手に背後に現れた楓に対し、これまで散々“異常現象”を身近に体験してきた當真は、その少女の登場を予期しており、そして安堵を声に示した。


「でもこれってやっぱり・・・なあ、お前が正蔵さんのこと、助けてくれたのか?」


「助けただなんて・・・結局、私は何にもー」


「ーあっ!!女の子いなかったか?金髪の外国の女の子なんだけど?!」


「!!?」


これまでの経緯を説明しようとする楓に対し、思い出したように言葉を遮り、當真は両手で咄嗟に楓の華奢な両腕を掴み、一気に距離を縮め質問をぶつけた。


少しでもパレットの足取りの手掛かりが欲しい、その焦りと逸る気持ちが先行し、その一心で起こした當真のその行為には、それ以上の意味も意図もなかった、のだが。


ここまでの経緯を知ることなく、突如として自身の話を遮られたかと思うと、次の瞬間には腕を掴まれ、引き寄せられ、異性に距離を縮められた楓(一応、女子中学生で多感な時期でもある)は、混乱と恥じらいが入り混じり、これまで見せたことない程その表情を赤らめ、動揺をその声と態度で実直に當真に示す。


「きゃ!?ちょ、ちょっ、あんた、いきなり何すんの!?近いわよっバカッッッ!!!!!」


「はうっっっ!!?」


一切の遠慮のない幼げな少女の拳が、豪快に少年の右頬を捉え、受け身を一切取れずに吹き飛ぶ當真。


そして、ようやく一呼吸を置き、全身包帯だらけの當真の姿をまじまじと見まわした後、胸の前で両腕を組み、仁王立つ楓。


「というかあんた、何でそんなボロボロなのよ?」


「それ、ボロボロの人間に会心の一撃を喰らわした奴が言うセリフですかッ!?」


右頬をさすりながら、半分涙目で叫ぶ當真の声など、楓は微塵も気にすることもなく、ただ、救急車から駆け寄ってきた救急隊員に陣内を引き渡した後、ようやく落ち着いてきたのか、楓は話を続け始めた。



「・・・私も、目の前の陣内さんの事だけで、必死で・・・アイツ、全部見透かした上であの余裕、殺気・・・あんな奴、初めて見たわ、全身が一瞬で凍りつく感じ・・・正直、あの子にまで手を伸ばせる余裕が、あの瞬間の私には一ミリもなかった・・・ごめん」


一瞬。言葉を話すと同時に、その恐怖を思い返したのか、楓は自身の左腕をぎゅっと掴み、いつになく緊張した、そして悔しさをその表情に浮かべた。


そしてそんな楓の表情と、“その言葉”を選んだ楓を見つめながら、當真は言葉を返す。


「そっか。でも、本当にありがとな」


「えっ?」


楓に対してまっすぐと向き合うと、深々と頭を下げる當真。


なんのためらいもなく、感謝を示す當真に対し、楓の緊張した表情が、戸惑いと同時にゆっくりと解ける。


「な、なんでお礼?私、あなたの探してる、あの子の事助けられなかったのにー」


「いや、そうじゃなくてさ。だってお前がいなきゃ、きっと正蔵さんは無事ではいられなかっただろうからさ。だから、ありがとう」


曇ることのない、まっすぐと見つめる視線。そして、上辺だけでない、そこには嘘偽りなど一切ないその言葉と姿勢。


“ソレ”は當真にとって特別ではない、深い意味だってない、ただの当たり前の“一連”。


だが。その“特別”によって、いつしか自分に言い寄り近づいてくる“大人”や“目上の人間”の“ソレ”には、本来あるべき距離や温度など一切感じる事の出来なくなっていた楓には、當真の“ソレ”は“特別”にも見えた。


“魔法”の有無や優劣、特異性、そんな外側のラベリングなど全部無視して、そして二人の関係性は多少無視したとしても、本来“年上でかつ目上の位置にいる”であろう立場の當真のとった、そうした“一連”の行動に、楓の胸の内はこれまで感じたことのないような、“むず痒さ”で満たされていく。


恥ずかしさと混乱の入り混じった、彼女にとっては初めて感じるような、“非日常”のような感覚。


(えっ、と、なに、この感じ?何で、お礼言われたくらいで、こんなに動悸が・・・これって・・・)


一応、曲がりなりにも現役の女子中学生であり、オトナへの階段を上ったり下ったりを繰り返す日々を過ごす楓にとって、それがどういう感情であるかという事を表現する術は、残念ながらまだ持ち合わせていなかった(生来の彼女の性格によるところも大きいが)。


混乱と予期せぬ感情、状況に、紅潮する楓の頬。に、気がつき、


「ん?お前、なんか顔、赤くー?」


無意識デリカシーゼロに、その顔を覗き込もうと、一歩近寄る當真。


「ッッッ!!!!!?べ、べ、別にそんなんじゃないんだから!!?バカ!!!!!」


「!?そんなんて何?!ゴフッッッ!!!?」


荒立つ呼吸の中で理不尽に放たれた楓のボディーブロウに、為す術なく沈む當真。


「おいい!?お前、昨日今日でどんだけ俺にダメージ蓄積してんの!?見て、この俺の怪我っぷりを!?少しは労わってくださらねえですか!!?」


「ウルサイウルサイウルサイ!!そんなの知らないんだから!!ふん!!」


まるで子どものように不貞腐れながら、そして自身の表情を見られないように當真に背を向け、そっぽ向く楓。そんな様子を眺めながら、當真は思わず微笑んでしまった。


理不尽に思えるようなそんな楓とのやり取りだったが、これまでずっと張りつめていた當真の緊張が、少しだけ和らいだのも事実。



そして。當真はもう一度気を引き締めなおす。改めて、強い意志を覚悟に乗せて。



「じゃあ、俺、行くな」


「えっ?行くって、どこに?・・・まさかアイツを、追うの?!」


「ああ。一応、“アテ”はあるし」


「“アテ”?」


自身のスマホを取り出し、そのディスプレイに視線を落とす當真。


楓は、そんな當真の佇まいから、その情報源が何であれ、そこに確信が在ることを悟る。


だからこそ、楓の取るべき選択肢はひとつしかなかった。


「まあ一応って言っても、多分“間違いない”けどな、だから急がないとー」


「ーちょっと待って!!やめなさいよ!!アイツの居場所が分かったとして、アイツを追いかけて、あんたに何が出来るって言うの!?」


歩み出そうとする當真の前に立ちふさがり、両腕を広げて制止する楓。


一度、目の前でその“恐怖”と“脅威”を体感したからこそ、その先の“結末”が楓には手に取るように分かり切っていた。


だからこそ、目の前の少年をみすみす危険な目に遭わせるわけにはいかなかった。


「あんたがあの子の事を心配する気持ちはもちろん分かる!でも、見て分かるでしょ?この悲惨な状況!?なんの武器も持たないで道路もめちゃくちゃ、警察官の人達も、陣内さんも一蹴、私だって・・・結局、なんにも出来なかった」


「緋色・・・」


それは“特別”を持つ少女が、“持たざる”少年に見せた、弱音にも似た叫び。


そして、一度落とした視線を踵を返したように力強く上げ、まっすぐと少年と目を合わせ、少女は声を続ける。


「はっきり言うけど、アイツはあんたなんかにどうこうできる“レベル”の奴じゃないのよ!!可能性なんて“0%”!!あんた、冗談抜きで死ぬわよ!?」


強い語気と“意志”で、制止を促す少女の言葉、視線、行動。見える景色全部が、冗談どころか嘘偽りのない“ただの事実”であるということを、當真もすぐに理解する。


そして。


「死ぬ、のは・・・確かに嫌だな、」


「だったらー」


思わず、その一言に安堵する楓。


だが、しかし。


當真は、その歩みを決して止めなかった。


二人がすれ違う直前、楓の腕を優しく掴み、ゆっくりとその手をおろさせる當真。



「でも、“ゼロ”じゃない」



「!?」


「“可能性”の話じゃねえよ、“選択肢”の話。ただ何も出来なくて、諦めるしかない選択肢“だけ”じゃないんだ。目の前に、助けられる“かもしれない”選択肢があるんだ。だから、それを俺の心が選んだんだよ」


「あんたッ!?」


「分かってるよ、お前がそこまで言うんだ、実際俺なんかじゃ一ミリだって敵わないんだろうし、無様に返り討ちにあって、それこそ死ぬかもしれない・・・でもな、ここで行かなきゃ、俺、きっと後悔する。選ばなきゃ、俺の“心”が死ぬんだよ」



甦るのは、少女の二つの笑顔。楽しそうな始まりの笑顔、そして、哀しい別れの笑顔。



揺るがない意志、掴めそうで、届かなかったその手を、當真は強く握りしめる。



「出来る出来ないの話じゃなくてさ、俺が助けたいんだよ、アイツを。これは、ただの俺の“意志”で、“わがまま”。でも、だからこそ、“迷わない”」



制止を優しく振り払う少年の言葉、視線、行動。見える景色全部が、冗談どころか嘘偽りのない“ただの信念”であるということを、楓もすぐに理解した。


だからこそ、脳内から制止を促す命令が全身を駆け巡っても、少女の心はその命令を受け止められない。


そして、走り出す當真の背に、脳からの命令に従って無意識に伸びた右手が、力なく頭を垂れる。



“意志”や“わがまま”と謳われ、それでも目の前の少年を止めたい“理由”が、“今はまだ”少女には言葉にする事が出来なかったから。



でも。



「ちょっと!!待って!!もう“止めない”から!!」


「?!」


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