#14 魔法の名と、七つの鍵③
陣内 正蔵は、“熱い”男だった。
冷静な判断・分析力を持ち、しかしある種の破天荒さも持ち合わせた大胆な行動力、何よりも仲間想いの性格から人望も厚く、一部上層部の者から目をつけられているものの、この管轄区内だけでなく、この国の警察機関全般で見ても、“かなり出来る側”の警察官だった。
もちろん、所属する署内からの信頼も厚く、今回の不法入国者騒動に関しても、この街にその疑惑が上がった時点で、数十人もの部下をつけられて、その全指揮を一任されていた。
陣内は、その風貌から想像する以上に頭脳明晰、身体能力も常人のそれよりも遥かに高く、それだけでもハイスペックな警察官であったのだが、彼の持つ『悪意を嗅ぎ分ける“魔法”』の力が、この仕事においては圧倒的な力を示していた。
その効果範囲にはもちろん限りはあり、決して万能とは言えない代物でもあるが、彼の持つそれらのスペックの全てが相互作用的に相乗効果を発揮した結果、彼は確固たる地位を築くに至っているのである。
陣内は當真と別れた後、本隊と合流後、すぐに数十人の部下を五人ずつの小隊に分散、それぞれの担当エリアを限定し、不法入国者アイド=ゼクスブリックの捜索にあたった。
もちろん、陣内自身も自ら四人の部下を引き連れ、捜査の前線にたっていた。そして。
「・・・!!あれだ!!」
どの捜査班よりも、いち早く陣内はその存在を視界に捉えた、群衆の十数メートル先、そこに佇む銀髪の青年と金髪の少女の姿を。
別れる直前に、連れ去られたパレットの情報を當真の口から直接聞いていた事に加え、彼自身の持つ“魔法”の力もあり、彼がその確信を決断する事に時間が掛かる事はなかった。
しかし。
(・・・さて、ここからどうする?これだけの大人数の民間人がいる中で、相手は【S級魔法犯罪者】・・・包囲網を敷いてる時間などない・・・くそ、やはりこの国の警察の“やり方”では、大事を目の前にした時に全く応用が利かない・・・)
彼の後方に続く四人の部下を手で制し待機させながら、思考で憂いを巡らせる陣内。
“とある同期”の下につき、海外赴任の経験もある陣内は、帰国後この国の警察機関の在り方、悪く言えば“平和慣れ”した現状を問題視していた。
指揮系統の在り方、体制の変化、そうしたことを上層部にも幾度となく掛け合ってみたものの、だが、変革を踏み出すことを恐れる“彼ら”には、まるで相手にされてこなかった。
結果として、現状。
陣内の危惧していたことが、この“平和慣れ”した国で起ころうとしている、目の前の【S級魔法犯罪者】によって。
「・・・嘆いてもしょうがないな、強行突破しかないか・・・聞け!全員、銃を抜け、俺の発砲と同時に周囲は混乱するだろうが、目標の人物は恐らく銃声如きでは微動だにしないだろう。周囲の民間人が散り、“道”が開けば、その瞬間に一気に距離を詰める。奴が動けば、容赦なく急所を外して、“撃て”、いいな?容赦なくだぞ?」
語気を強める陣内。その言葉と、空気感に、四人の部下たちの緊張感が高まる。
「はっ!!!!・・・・・し、しかし陣内さん、この国では、たとえ相手が凶悪犯と言えど、民間人への発砲はー」
「この国の!!常識は!!今、捨てろっ!!自分の命と、仲間の命を守る為に容赦はするな、という事だ、目の前の敵はそういう“レベル”だ!!いいな?責任は全て俺が持つ!!いくぞ!!!」
四人ひとりひとりに目配せで合図を送り、陣内は自身の拳銃を抜き、上空へ向けて、始まりの一発を放った。その視線の先は、一瞬たりとも標的から離さずに。
「・・・・・五人、か。一人だけ“マシ”な奴がいるみてェだが・・・まァ、結局底辺の集まりに違いねェけど」
表情は変わらない、ただ、その口調、温度のない声が空気を変える、アイド=ゼクスブリックは気怠そうに呟きながら、ゆっくりと歩き出す。
一方で、パレットは、取り巻く混乱の騒乱に、感情が乱され、まるで硬直したように体が動かすことが出来なかった。そして。
「おい。契約、忘れてねェよな?そこで【おとなしく】しとけよ?お前が契約を破れば、俺は必ず“あの男”の命を摘むからな?」
すれ違いざま、アイド=ゼクスブリックが不敵な笑みと赤い眼光と共にパレットに向けたその言葉は、まさに悪意の塊。
そして。パレットは、そこには揺るがないアイド=ゼクスブリックの“本音”を感じ取り、恐怖による束縛の鎖に繋がれたかのように、その場から半歩たりとも動く“意志”を持つことさえ出来なくなった。
あっという間に人の気配が消える。この道は、もはや七人の姿しかない。互いに、それぞれを視界に入れる。
気怠そうに歩き出す銀髪の青年、に銃口を向ける四人の警察官、を両後方に従えつつ、その中心で最大級の警戒心を放つ陣内。両者の距離が、徐々に縮まってー
「今だ!!撃ー」
ミシリッ。
パレットは、その瞬間、その軋む音を耳にした。そして。コンマ数秒遅れて響く、轟音。
「ーてーッッ!!!!?」
陣内が発砲の指示を出した瞬間、陣内を始めとして四人の警察官全ての視界から、一瞬、アイド=ゼクスブリックの姿が“消えた”。
と、ほぼ同時。
「おいおいおい、スマートじャねえな。そんな物騒なもん向けてんじャねえよ」
それは、まるで怪奇現象が目の前で突如として起きたような衝撃を五人の警察官に与えた。
陣内の右少し後方で銃を構えていた警察官の目の前。声の主、アイド=ゼクスブリックがそこに突如として“現れた”。
「ひっっっっっ!!?」
「まァ、俺にはガラクタみてェなもんだけど、な」
怯える警察官、不敵な笑みを浮かべるアイド=ゼクスブリック。
陣内、そして残り三人の警察官がその言葉を耳にし、その視線をアイド=ゼクスブリックの方に向ける、までのほんの僅かな時間。
アイド=ゼクスブリックは眼前の警察官が構えていた銃口を、右手の親指と人差し指で掴む、と。
べキリッッッ!!!!!
その不快な音は、銃口が造作もなく潰れていく音。そう、アイド=ゼクスブリックの二本の指によって、いとも容易く、ガラクタのように、潰される音。
「一応、全部潰しとくか」
ミシリッ。
その軋む音を耳にした瞬間、またもや五人の警察官の視界から、アイド=ゼクスブリックの姿が“消える”。
と、同時に連続して響く、何かが潰されていく音。
そして。陣内の数メートル先。その姿を視認した五人の警察官は、ようやくここで“一呼吸”が終わるのを感じた、それほどまでに一瞬での、ここまでの光景。
言葉の終わりと同時に、アイド=ゼクスブリックが、軽く握っていた右拳をゆっくりと開く。そこから零れ落ちるように、無数の鉄屑がー
「じ、陣内さん、こ、これ」「ぜ、全員の、」「銃が!?あの、一瞬で、」「し、信じられない」
恐怖が、四人の警察官の動きを支配するのに、時間はかからなかった。
全員が、自身の手に持つ拳銃の銃口を潰され、それを平然と一瞬でやり遂げた眼前の銀髪の青年に対し、かつて感じたことのないような恐怖を体感していた。
「チッ!うろたえるな!!」
潰された拳銃を投げ捨て、四人の部下を一喝する陣内。その視線、警戒心は一瞬たりともアイド=ゼクスブリックからは外さない。
携帯している警棒をその手に取り、戦闘態勢を維持、そして叫ぶように声を荒げる。
「アイド=ゼクスブリック!!国際指名手配【S級魔法犯罪者】!!お前こそ、そろそろスマートに監獄にぶち込まれたらどうなんだ!?」
「・・・へェ、臆さねェどころか挑発かよ。なかなかぶッ飛んでるな、お前?」
不敵な笑みを浮かべるアイド=ゼクスブリックは言葉と共に、右手の五指を不気味に鳴らす。
「まァ、簡単に折れねェのは、ある意味一番スマートじャねえけどな」
「戯言はいい!!俺たちはお前を捕らえるだけだ!!」
「・・・じャあ、そのくだらねェ正義感、折らしてもらうかー」
ミシリッ。
轟音と共に、またもやアイド=ゼクスブリックの姿が消えた、かと思った瞬間。
「ー“コイツら”から、な」
その姿が現れたのは、陣内から一番離れた場所、一人の警官の前。残像が、ようやく声と共に陣内に情報を届けた矢先、
「“5”」
囁くように言葉を告げ、アイド=ゼクスブリックは眼前の警察官の硬直した左腕を、軽く右手で掴む、と同時に、何か、不快な、裂けるような、割れるようなー
バギリッ。
「ガッ!?」
アイド=ゼクスブリックの右手の指先が、警察官の左腕を、まるで枯れ木の枝を折るかの如く、いとも簡単に、無造作に、人体の構造上では“ありえない”角度に“曲げていた”。
「“4”、“3”」
ミシリッ。
その軋む音と、空気がうねる様な轟音と共に、アイド=ゼクスブリックの姿が再び消える、と思う暇さえなかった。
正反対の場所で立ち竦む二人の警察官の背後、そのちょうど中央へと回り込むアイド=ゼクスブリック。
現れる死神の気配に二人の警察官が気付くころに、アイド=ゼクスブリックの右手は片側の警察官の左肩に添える様に置かれていた。そして。
バギリッッ。
「ギャッッ!!?」
続け様に、隣で恐怖に感情を支配されている警察官の右脇腹周辺に、その右手を持っていくアイド=ゼクスブリック。そして。
バギリッッッ。
「グッッッ?!!!」
ミシリッ。轟音と共に、アイド=ゼクスブリックの姿がー
同時に。陣内は、自身の視界を銀色の残像が通り過ぎていくのを、一瞬、捉えた。
と、脳内で認識した瞬間、
「“2”」
アイド=ゼクスブリックは、そう、まるで当たり前のように、順序通り、残されていた最後の一人である陣内の部下の警察官の口元を、右手で握り抑え込んでいた。
そして、そのまま軽々しく警察官を持ち上げる。
「あァあァあァ、うるせェ、底辺の奴らの叫び声ほど醜いものはねェな・・・だから、もう、叫ばせねェわ」
バギリッッ、ベギリッッ。
それは、砕け散る、異音。
「ッッッッ?!!!!」
ここまでの、数秒足らずの時間。
それは、言葉にならない叫びと共に、悍ましい程の恐怖が空間を埋め尽くしていく、数秒間の情景。
その右手に握り潰されたのは。一人の人間の右腕と、一人の人間の左肩と、一人の人間の右脇腹肋骨全般、そして一人の人間の顎先以下顔面下半分の骨格全て。
それは、数秒足らずでおきた、一連の破壊活動であり、一瞬で現実に巻き起こった、“魔法”のような悪夢。
「・・・・さて。まだ続けるッていう、スマートじャねえ考えなら、俺もこれ以上“手加減”はしねェけど?」
四人の警察官の、声にならない絶叫の中で佇む陣内に対し、アイド=ゼクスブリックは視線を陣内に向けると、ブラブラと右の五指を揺らしながら、さも面倒くさそうに提言する。
「・・・・手加減、だと?ふざけたことをー」
「あァ、やめろやめろ、そういう無駄な会話とかしてる時間すら、もッたいねえからよ。スマートに選べよ、ここで退くか、お前も“潰される”か、な?」
揺らしていた右の五指を不気味に鳴らしながら、左手では気怠そうに自身の銀髪を掻き分けるアイド=ゼクスブリック。
距離は、僅かに二メートル弱。陣内は言葉を口にする事さえ出来ない程の緊張感を感じ取っていた。
だが、その思考を止めることはない。警戒は一瞬たりとも緩めたりしない。どんなに悲惨な現状を目の前にしても、陣内の中に“その”選択肢はなかった。
「間違うなよ、アイド=ゼクスブリック」
「あァ?!」
「一択だ!!ここで退くなんて愚かな選択肢など存在しない!!ここで俺が退けば、これまでのあいつらの痛みも、想いも、全て無駄になってしまうからな!!」
握りしめた警棒を、まっすぐに標的に差し向け、意志を叫ぶ陣内。
人は、想いを言葉にすることで、そこに力を宿すのだ・・・ただし
「・・・不正解だ。その選択はスマートじャねえ」
それは、陣内“だけ”とは限らない。
これまでにない程の悍ましい殺気、眼光、冷たい声、そして告げられた一言。
空気が、冷える。
恐怖と脅威、悪寒が陣内の全身を一瞬で駆け巡り、防衛本能と生存本能が最大級の警戒を陣内の全神経に号令する。
(なんて“殺気”と“悪”の匂いを放つんだ・・・少しでも気を抜けば、一瞬で“落ちる”・・・だが、まず警戒するべきはー)
逸る思考の中で、正面に聳え立つ銀髪の青年の右手に視線を向ける陣内。
(何よりもまず、あの“右手”だ。どう考えても普通じゃないアレは“魔法”だろう・・・目に見えない程の超人的な早さも異常だが、そもそもその動きの全てを捉えようとする事自体が、この“レベル”だと無意味・・・今、一番重要なのは、奴がその“右手を使う瞬間”、だ。短時間とはいえ、こう何度も目の前で見てきたんだ、流石にもうー)
息を、呑む。呼吸を、無理矢理に、抑え込む。
眼前の敵の、脅威となる“右手”を中心としたその右半身に対し、陣内は視線と警戒心の全てを注ぐことで、これまでにない程の集中力を手にしていた。
「・・・・“1”」
ミシリッ。それは言葉もなく、始まりを告げる不協和音。
陣内の視界から、アイド=ゼクスブリックの姿が消えー
「いい加減慣れてきたぞ!その早さにはッ!!」
ーない、陣内は確実にアイド=ゼクスブリックの姿を視界に捉えていた。
コンマ数秒、陣内は自身の右手親指に力を込め、勢いよく標的に向かって警棒を振り下ろす。
「へェ。けど。関係ねェな、」
自身に振り下ろされる迎撃に対して、一切の躊躇なく真っ直ぐに右手を差し向けるアイド=ゼクスブリック。
常人には高速にも見えるこの攻防の中でも、その撃鉄を止めることなどは、彼にとっては呼吸するに等しい程の、何の造作もないことであった、
「言ッただろ?俺にはガラクタと一緒だッて、よ?」
その“右手”で掴みさえすれば、一瞬で無力化出来る・・・はずだった、が、しかし。
「?!」
その、両者衝突までの刹那の狭間。
アイド=ゼクスブリックは咄嗟に、突き出した自身の右手を差し引く、それと同時に迷うことなく自身の体を素早く捻り、そして一歩後退し陣内から距離を取った。
それは、強者が弱者に見せた、思いがけない回避行動。
だが、それが“正解”。
陣内の持つ警棒が、本来アイド=ゼクスブリックがいたであろう、その空間を勢いそのままに空を切り、地面へと振り下ろされた瞬間、
ガッッッ!!バヂヂヂヂリッ!!!
「・・・あァ?物騒極まりねェな、スタンガンでも仕込んでのかよ?」
「正解。まぁ俺のコレは、正規品ではなく“特別製”だがな」
体勢を立て直し、陣内がアイド=ゼクスブリックに警棒を向け、柄元のスイッチを親指に力を入れ押し込むと、警棒の周辺に青白く小さな雷光が靡き、そしてそれは弾けるような電気音を鳴かせていた。
「ざっと五十万ボルト、まぁ、軽く当たっても動きを麻痺させる“程度”にしかならない代物さ、だから遠慮なく受け止めてくれ」
「はッ。お前、ほんと警官かよ?イかれてんなァ、全然スマートじャねえ」
距離を保ちつつ、右の五指を鳴らしながら不敵に笑うアイド=ゼクスブリック。
対する陣内は、焦りと緊張が全身を駆け巡るのを感じ取った、自身の得物に対して強者が距離を取ったにも関わらず、だ。
(なんだ、この違和感・・・いや、考えている場合じゃないな、相手がどうであれ、俺に出来る選択は限られている、躊躇している場合ではない)
陣内は警棒を強く握りしめる、眼光を研ぎ澄ます、仕掛けるは類なき猛攻。
(少なくとも、距離を取った、つまりだ、アイド=ゼクスブリックと言えど、コレの直撃は避けたい筈。勝機は“ゼロ”じゃない!!!)
踏み出し距離を詰めつつ、勢いそのままに警棒を振り下ろす陣内。
大振りだが、高速、そして的確にアイド=ゼクスブリックを捉える陣内の連撃。
しかし。一撃一撃が電気音を靡かせながら、ただただ空を切るという無残な結果しか生み出さなかった、その全てが直前紙一重で、アイド=ゼクスブリックに躱されていたからだ。そう、まるで曲芸師の演劇の如く。
「くそっ!!なんで当たらないっ!?」
「全然スマートじゃねえな。考えてみろよ?」
「?!」
連撃の最中、嘆きにも似た陣内の声に、返す刀で向けられた銀色の囁きは告げる、
「さッきまで、俺が一瞬たりとでも“本気”だッたとでも?」
圧倒的な手数がまるで無意味。
連撃を仕掛け続ける陣内は、冷酷にあざ笑うかのようなアイド=ゼクスブリックのその一言で、自身が感じた違和感の正体にようやく理性と現実が追い付いた。
(【S級】相手に・・・俺なんかが1パーセントの勝機すら見出すこと“自体”が、そもそもの間違いだった、とでも言うのか!?)
ミシリッッッ。
その異音の正体を。陣内はこの瞬間、この距離で、ようやく“目”に捉えた。
それは、邂逅の瞬間、目に映るは異形そのもの。
それは。アイド=ゼクスブリックの踏み込む右足、その踏み込みが、アスファルトの道路に、言葉そのままに“減り込む”音。
アイド=ゼクスブリックの右足を中心に、アスファルトの道路が葉脈の如く罅割れていく。
と、次の瞬間。
轟音と衝撃と共に、陣内の視界からアイド=ゼクスブリックの姿が、“完全に消える”。
「それと、言ッたよな?これ以上は“手加減”しねえッて?」
背後。陣内に死神の囁きが、冷たさを届ける。
早さが、単純に体感できない程の一瞬。その刹那の瞬間に、その声に、その空気に、その殺気に、反応できること自体、陣内自身も常人の域をすでに超えていることの証明になるのだが。
それでも陣内が取れ得る行動は一つしかなかった。
(奴の、“右手”だけは避ける!!反転しつつ、そのまま攻撃をー)
陣内の視界に、アイド=ゼクスブリックを捉える余裕も猶予もない。
背後の、そこにいるであろうアイド=ゼクスブリックの、大まかな右半身に向けて、電撃を纏う警棒を振り放つ。陣内は、自身の防衛本能の赴くままに、攻勢を仕掛けー
「違う!!“逆”っ!!!」
叫び声。それは、数メートル先で佇む金色の少女が、届けたかった“答”。
(ぎゃ、逆?!何がー)
思考が、一瞬だけ、陣内の頭の中を走る。だがその一瞬で、陣内がその言葉の意味に辿り着くことはなかった。
そして。同時に、背後から伝わる、不可思議な、不穏な、“空気”の流れ。
思考の狭間、一瞬の硬直も勢いそのままんに反転しつつ警棒を振り切ろうとした陣内が、その視界に捉えたのは、アイド=ゼクスブリックが脅威となるその右手を差し向ける、そんなこれまでの戦闘から陣内の防衛本能が想定し生み出した姿、
『ではなかった』。
ミシリッッッッッ。
上体を少し傾け、その右手を自身の右膝に添え、これまでにない程、強く右足を踏み込むアイド=ゼクスブリック。その踏み込みは、大地を完全に減り潰す、そして
ズザァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!
それは、大地を割る轟音に続くように放たれた、空気が“切れる”衝撃音。
生み出したモノ、それはアイド=ゼクスブリックが繰り出した、目にも止まらぬ、いや、まさに一瞬すらも“目に映らない早さ”で放たれた、“左脚”による一撃。
その脅威的な破壊力をもつ“右手”、を中心とした右半身にしか警戒を向けていなかった陣内にとって、それはまさに、死角から訪れた予期せぬ死神の迫撃だった。
そして。
アイド=ゼクスブリックの脚撃が、一切の抵抗を受けることなく陣内の右腹部を捉えた瞬間、陣内の意識が、“飛ぶ”。
と、同時に、その一撃、衝撃によって、陣内の体は数メートル先まで、まるで重力を無視した巨大な鉛玉の如く吹き“跳ぶ”。
陣内の巨躯が、飛ばされた勢いそのままに、すぐ側のカフェテラスのガラスの壁面を突き破り、まるで銃弾が突き刺さったかのうような破壊音に似た、ガラスが木端微塵に無残に砕け散る音が、周辺一帯に響き渡る。
ガラス片を全身に被り、その場で完全に意識を絶たれ、無残に倒れ込む陣内。
まさに、そこは現実に描かれたまさに地獄絵図、悍ましい惨劇そのもの。
「“0”・・・これでようやく、スマートになッたな」




